お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
友達の祈りと願い
 「りょうくん、もう大丈夫…ありがとう…」
 「わかった。じゃあ、離れるね」
 うん。とゆいちゃんが返事をしたのを聞いて僕はゆいちゃんの頭を撫でるのをやめて少しゆいちゃんから離れる。するとゆいちゃんは、僕に離れないで…と言うように反射的に僕に抱きついた。僕が困ったような表情をするとゆいちゃんはごめんなさい。と言い僕から離れた。
 「迷惑かけてごめんね…」
 「全然大丈夫だよ。ありがとう。僕のことを好きになってくれて…」
 「うん……」
 少しの間、静寂が訪れた。ゆいちゃんの儚い表情を見て罪悪感を感じるが…僕の気持ちは変わらない。
 「私なんかじゃ…敵わないよね……」
 思ったことをそのまま口に出した。そう思えるほどに軽く…だが、重く…ゆいちゃんは呟いた。
 「春香先輩もまゆ先輩も私なんかよりずっと可愛くて…私なんかよりずっとずっと優しくて……私なんかよりずっとずっとずっとりょうくんに想ってもらえて……きっと……私なんかよりたくさん、りょうくんのこと想ってて……私なんかより、りょうくんといっぱいいろんな思い出があるんだろうね……羨ましいなぁ……」
 「………………」
 「あ…ごめんね。りょうくんを責めたりしてるわけじゃないの…ただ…自分を納得させたいの…負けた理由を考えて…仕方ないんだって…言い聞かせたいの……そうしないと私、諦められないから……」
 「ゆいちゃん…僕がこんなこと言うのは変だと思うけど……いろいろと考えるのはいいことだと思う。自分に言い聞かせることもそれがゆいちゃんのやり方ならば否定しない。でも……自分の想いが誰かに敵わなかったなんて言うのはやめて…ゆいちゃんが大切にしてくれていた想いを……誰かの想いと比べて劣ってるなんて認めないで……ゆいちゃんが本気で僕のことを想ってくれていたことはわかってる。だから…その想いに優劣をつけないで…ゆいちゃんの本気の想いはちゃんと受け取った。僕はその想いを誰かの想いと比べるなんてことは絶対にしない。そんな失礼なことはできない。本気の想いを天秤にかけて比べるなんて…僕にはできない。だから…自分の想いが劣っているなんて言わないで…ゆいちゃんの本気の想いはちゃんと届いてる。嬉しかったよ。ありがとう…」
 「本気の想いが届いてても叶わないんじゃ…どうやってこの想いを叶えればいいのかわかんないじゃん…無理ゲーじゃん…ありがとう……私の想いを受け取ってくれて……」
 「うん」
 「これからはさ…友達として、りょうくんが幸せになれるように祈るよ。春香先輩とまゆ先輩を幸せにして…りょうくんもちゃんと幸せになってね」
 無理をして言っている…ようには聞こえなかった。本気で…僕たち3人の幸せを祈ってくれていた。
 「ゆいちゃんも幸せになりなよ。ありがとう。僕のことを本気で想ってくれて……人のことをさ、これだけ必死に想うことができるゆいちゃんには本当に幸せになってほしい……」
 「ありがとう。私も…私が幸せになれる道を探すよ……」
 「うん。応援してる…」
 「うん。りょうくんが友達として応援してくれるなら本当に嬉しいや。頑張れる」
 笑顔で…泣きながら言うゆいちゃんを見て…罪悪感を感じ…同時にゆいちゃんを凄いと思った。ゆいちゃんは強い子だなぁ…と思った。きっと…ゆいちゃんなら幸せになれる道を見つけることができるだろう。と思った。いや…ゆいちゃんには本当に幸せになってほしかった…友達として…僕は友達の幸せを願う。
 「そろそろ戻らないとね…」
 「うん…」
 「来てくれてありがとう」
 「うん…」
 「じゃあ、戻って楽しもう!」
 「うん…」
 戻ろう。と言うゆいちゃんの顔からは涙は完全に消えていて…ゆいちゃんはいつものように明るく僕に言う。辛いはず…なのに…笑顔で僕の手を引っ張って席に戻ろうとしているゆいちゃんをとても眩しく感じた。
 
 新歓コンパの席に戻ってからも、ゆいちゃんはずっと明るく振る舞っていた。まるで、先程の涙が嘘だったように…明るく振る舞い…ゆいちゃんの笑顔に釣られて周りも笑顔になって新歓コンパを楽しんでいた。強い…ゆいちゃんの心の強さをすごいと感じながら…僕は横に座るゆいちゃんを見ていた。罪悪感からか少し暗くなっている僕にもゆいちゃんは明るく、友達として関わってくれた。
 眩しい…すごく眩しい……
 「眩しいね…」
 「え…」
 僕の気持ちを代弁するかのように、僕の隣に座っていたフルートパートの1年生、咲ちゃんがボソッと呟いた。僕にしか聴こえていなかったが、たしかに咲ちゃんは眩しい。と言った。咲ちゃんは大人しい性格で、あまり自分から話そうとしないタイプだ。僕は眩しい。と咲ちゃんが呟いた理由を聞くことはできなかった。
 そんな出来事があったが、その後新歓コンパはとても楽しく過ごすことができた。ゆいちゃんのおかげだ。僕にいろいろと気遣ってくれたゆいちゃんに感謝をしながら、新歓コンパは終わりの時間を迎えるのだった。
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