お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活
叶わない想い
 「りょうくん、今日だけ…今日だけでいいから甘えていい?」
 ゆいちゃんの下宿先に向かう途中、僕の手を握ってゆいちゃんは言うのだった。
 断るべきなのだろうか…ゆいちゃんに何を言われ、何をされても、自分の気持ちは春香とまゆ先輩以外に向くことはない…だろう。ならば、ここで甘えさせて変な期待を抱かれることは避けた方がゆいちゃんのためなのではないか…
 「今日だけ…今日だけ…りょうくんを独り占めしたいの…わがままなのはわかってる。迷惑なのもわかってる。でも、お願い。今日だけ…だから…」
 「今日、何があっても僕はゆいちゃんのことを好きになれないと思う…今は春香とまゆ先輩のことで精一杯だから…もし、それでゆいちゃんが辛い思いをしないなら好きにしてくれていいよ」
 「………ありがとう。やっぱり、りょうくんは優しいや…じゃあ、今日だけ…甘えさせてもらおうかな…」
 「うん。わかった」
 僕はゆいちゃんの意思を尊重してゆいちゃんと手を繋いだまま歩き続けた。
 ゆいちゃんに好き。という感情を持たせてしまったのだから最低限の責任は取りたかった。今日一日こうしているだけでゆいちゃんが満足するのならそれでいい。
 「りょうくん…今日は一緒のお布団で寝てくれる?」
 「うん。わかった。今日だけだよ」
 ゆいちゃんの部屋に戻って、僕はゆいちゃんのベッドに横になる。そして、ゆいちゃんが僕の隣で横になり、部屋の電気を消した。
 「ねえ、抱きしめながら寝ていい?」
 「え…それはさすがに…」
 「そう…だよね…ごめんね…」
 普段、春香やまゆ先輩と一緒に寝るときはいつも抱き枕のように扱われているが、ここでゆいちゃんに春香やまゆ先輩みたいなことをさせても未練が残るだけなのではないか…と思っていたが、悲しそうな声で謝られると罪悪感を感じてしまう。
 「抱きしめるのはできないからこれで我慢して…」
 僕はそう言いながらゆいちゃんの頭をそっと撫でてあげる。
 「ありがとう。私、今、すごく幸せ」
 「そっか…ごめんね…」
 「謝らないで、りょうくんは悪くないんだから…」
 僕はゆいちゃんが眠るまでゆいちゃんの頭を優しく撫でてあげていた。しばらくしてゆいちゃんが眠ってしまったので僕はゆいちゃんの頭から手を離して眠りについた。
 「ん……」
 僕が目を覚ますと外は既に明るくなっていた。そして、予想はしていたが、ゆいちゃんが僕に抱きつきながら眠っていた。こうなるだろうとは思っていたが、実際に抱きつかれているとドキドキするし、ゆいちゃんの気持ちに応えられないことに罪悪感を感じてしまう。
 「りょう…くん……好き………」
 寝言なのか、起きているのかわからないが、こうやって好きと言われて嬉しい気持ちもあるがやはり喜べない。今は、ゆいちゃんと長い時間2人きりでいるべきではないのかもしれない…ゆいちゃんが僕を諦めてくれるまでは少し距離を置いた方がゆいちゃんのためになるのではないか…と感じてしまう。ゆいちゃんとは仲良くなれるだろうな。と思っていたから少しショックだが、ゆいちゃんのことを考えるとやはり距離を置いた方がいいのだろう。
 「ゆいちゃん、僕、そろそろ帰るね。春香も心配してるだろうからさ…」
 寝ているゆいちゃんにそう声をかけてゆいちゃんの腕を僕から離そうとしてもゆいちゃんは僕から離れてくれなかった。
 「ゆいちゃん……」
 困るよ…そんなに好き。って想ってもらえても僕はゆいちゃんを好きになれないかもしれないのに……このまま想い続けてもゆいちゃんが辛いだけなのに………
 「ごめんね」
 僕はそう言ってゆいちゃんの腕を離してゆいちゃんから離れた。
 「りょうくん…昨日はありがとう。ごめんね。我慢できなくて…抱きしめちゃって……離れないとってわかっていたのに…幸せすぎて離れられなかった」
 やっぱり起きていたのか……たぶん、昨日は寝れていないのだろう。僕が寝てからずっと僕を抱きしめてくれていたのだろう…そんなにも僕のことを想っても辛いだけなのに……
 「ゆいちゃん、ごめんね…」
 「謝らないで…りょうくん、まだ春香先輩ともまゆ先輩とも付き合ってないんだよね?なら、私はまだ諦めない。がんばってりょうくんに好きって言わせるから…春香先輩やまゆ先輩みたいに私に夢中になってもらえるようにがんばるから…少しでいいから…私のことも見てて…」
 ゆいちゃんは涙を流しぐちゃぐちゃな顔で僕に言う。それを見た僕はそっとゆいちゃんの涙を指で拭き取って頭を撫でてあげた。
 「泣かないで、僕は笑ってるゆいちゃんの方が好きだよ」
 僕にそう言われてゆいちゃんは泣くのをやめて笑顔を作り僕を見つめる。
 「うん。やっぱりゆいちゃんは笑顔の方が似合ってる」
 「ありがとう…」
 「うん。じゃあ、僕は帰るね。昨日と今日はありがとう」
 「こちらこそありがとう。私のわがままを聞いてくれてありがとう。また今度会おうね。またご飯とか行こうね。仲良く…してね」
 「うん。またね。約束はちゃんと守るよ。安心して」
 「ありがとう」
 僕はゆいちゃんに駅まで見送ってもらって電車に乗り、春香が待つアパートに帰るのだった。
「お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
3万
-
4.9万
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
14
-
8
-
-
2,534
-
6,825
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
2,860
-
4,949
-
-
614
-
1,144
-
-
62
-
89
-
-
2,629
-
7,284
-
-
89
-
139
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
65
-
390
-
-
450
-
727
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
62
-
89
-
-
3,653
-
9,436
-
-
1,000
-
1,512
-
-
86
-
288
-
-
33
-
48
-
-
71
-
63
-
-
4
-
1
-
-
23
-
3
-
-
218
-
165
-
-
3,548
-
5,228
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
398
-
3,087
-
-
183
-
157
-
-
6
-
45
-
-
47
-
515
-
-
614
-
221
-
-
4
-
4
-
-
27
-
2
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
1,301
-
8,782
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
408
-
439
-
-
29
-
52
-
-
116
-
17
-
-
104
-
158
-
-
164
-
253
-
-
34
-
83
-
-
51
-
163
-
-
42
-
14
-
-
1,391
-
1,159
-
-
215
-
969
-
-
265
-
1,847
-
-
213
-
937
-
-
220
-
516
-
-
83
-
2,915
コメント