お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

再開の言葉





 「やっと見つけた……」
 ゆいちゃんを探すために20分ほどゆいちゃんに電話をかけたりしながらゆいちゃんの下宿先の周りを走り回っていた。たまたま見つけた小さな公園のブランコに座るゆいちゃんを発見した僕はゆいちゃんに近づいて後ろから声をかけた。もうどこにも行かないように僕はそっとゆいちゃんの手を握る。
 「なんで…私を探してくれたの?」
 「心配だから…あんな顔して部屋を飛び出してったんだから心配するよ…ゆいちゃんの部屋、今誰もいなくて無用心だから早く帰ろう…」
 「心配だから…か……」
 ゆいちゃんは真っ暗な空を見上げてから僕の顔を見る。そして、泣きそうな表情を必死に掻き消して笑顔を作った。
 「ありがとう。優しいんだね」
 まるで、何かを伝えようとするようにゆいちゃんは必死に作った笑顔で僕に言う。
 「あ…」
 その言葉を聞いて、ようやく僕は思い出した。僕がゆいちゃんと始めて会った時のことを…
 「ようやく思い出してくれた?」
 「うん。忘れててごめん」
 去年、たしかに僕はゆいちゃんと会っていた。はっきりと思い出した今、何故ゆいちゃんだと気づかなかったのかわからないくらいだった。
 「また、会えたね」
 「うん…」
 複雑な気持ちだ。ゆいちゃんと再開出来たことはたしかに嬉しい。だが、ゆいちゃんが僕のことを半年近く意識していたなんて……






 半年前…
 僕は大学受験のために大学を訪れていた。朝、かなり早い時間から電車で大学に向かい、入試が始まるギリギリよりも2つほど前の電車で大学に向かっていた。大学の最寄駅に着いて、僕は電車から降りる。僕以外の受験生もたくさん電車から降りてきていた。人が多かったので、人の流れが落ち着くまで僕は駅のホームで人が少なくなるのを待っていた。
 駅のホームに人が少なくなり、僕は改札口へ向かうために階段を降り始めた。
 「おっ…と……大丈夫?」
 僕は僕の前を歩いていた女の子が階段で躓いて階段から落ちそうになったのを見て女の子の腕を慌てて掴んだ。
 「….…はい。大丈夫です」
 階段から落ちそうになって怖い思いをしたせいか、ちょっと息を荒げて女の子が僕に答える。
 「そっか…なら、よかった。入試前に転んだり落ちたりしたら縁起悪いしね。君も入試で来たんだよね?一緒に頑張ろう」
 「ありがとう。優しいんだね」
 僕が助けた女の子は満面の笑みを浮かべて僕に言った。それが、僕とゆいちゃんの出会いだった。
 「当然のことをしただけだよ。じゃあね。入試頑張ろう」
 「あの、もし…よかったら入試会場まで一緒に行きませんか?ちょっと緊張してて、落ち着くために誰かと一緒にいたいな…って思ってて…あ、ご迷惑なら全然断っていただいて大丈夫です…」
 「いいよ。僕も入試会場の場所よくわからなかったから誰かと一緒だと安心できるし」
 僕はゆいちゃんと一緒に大学内の入試会場に向かった。入試会場についてお互い頑張ろうね。とお互いを励ましあって、僕とゆいちゃんはそれぞれ入試会場の教室に入って別れた。
 「あ…」
 入試会場の教室の席について少しすると僕の横の席にゆいちゃんが座った。ちょっと運命的なものを感じて、入試の昼食の時間や帰り道はゆいちゃんと一緒にいた。
 ゆいちゃんと電車に乗ってしばらくするとゆいちゃんは次の駅で乗り換えだから…と電車から降りる準備を始めた。
 「えっと、りょうくん。今日はありがとう。助けてくれたこと、一人で不安だったけどお昼に話してくれたり、一緒に帰ってくれたこと、ほんとうに嬉しかった」
 「こちらこそありがとう。楽しかったし、僕も知り合いいなくてちょっと不安だったから助かったよ」
 帰りの電車でいろいろな話をしてすっかりゆいちゃんと意気投合した僕は少し寂しい気持ちもあったが、ゆいちゃんに別れの言葉を口にした。
 「また…会えるかな……」
 「お互い、受かってたら会えるかもね…」
 「もし、再開できたら仲良くしてくれる?」
 「もちろんだよ」
 「そっか、じゃあ、再開できるように祈ってるね」
 「うん。僕も祈っておくよ」
 そんなやり取りをしていたらもうすぐ駅に着くというアナウンスが流れ始めた。
 「りょうくん……またね。」
 ゆいちゃんはその日一番の笑顔で僕に言った。ゆいちゃんのまたね。には絶対に再開したいという想いを感じた。
 「うん。またね。」
 僕も笑顔でゆいちゃんに答える。寂しい気持ちもあるが、ゆいちゃんが笑顔で言うのだから僕も笑顔で答えるべきだと思った。
 僕がまたね。と言った後はお互い何も言わなかった。話の続きは再開した時に…と、僕もゆいちゃんも思っていたのだろう。
 僕は電車から降りるゆいちゃんを見送った。電車から降りたゆいちゃんは僕の方を振り向いて僕に手を振ってくれた。僕も笑顔でゆいちゃんに手を振ってゆいちゃんと別れた。





 「ずっと会いたかったんだから…あの日、りょうくんに恋をしてから…ずっと……」
 ゆいちゃんは複雑そうな表情で僕に言う。
 「約束通り、また会えたね。りょうくん。」
 複雑そうな表情を掻き消してゆいちゃんは満面の笑みを作って僕に再開の言葉を投げかけるのだった。






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