お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

パート練習の時間







 「じゃあ、そろそろ練習始まるし行こうか」
 りっちゃんさんにそう言われて僕たちは控え室を出て舞台に向かう。毎回、練習が始まる前に舞台で出欠確認と軽いミーティングが行われるみたいだ。
 パート毎に出欠確認を団長が行い、軽いミーティングが始まった。連絡事項等の確認が終わり、団長のあーちゃん先輩が、1年生に向けて、みんな仲良く音楽を楽しみましょう。パートの人だけでなく、同じ学年の人とコミュニケーション取ったりしてみてほしいです。と言いミーティングは終わった。
 「りょうちゃん、春香ちゃん、まだ部活慣れてないだろうし今日は一緒に基礎練やろうか」
 恐らく、噂のことを気遣って及川さんは僕と春香に提案してくれた。チューバパートで集まって練習していれば1年生から冷たい目で見られることはないはずだから…僕は及川さんにお願いします。と返事をし、春香も了承した。楽器を用意してすぐにホールの舞台下手でパート練習を始めた。ブレストレーニングを大目に行い、マウスピースでのロングトーン練習をした後、チューバにマウスピースを付けて基礎練習開始、音階、ロングトーン、リップスラー、スケール練習に教本に載っている練習を行なっているとあっという間に時間は過ぎていった。
 「10分休憩しようか、その後、軽くチューニングして曲練しよう」
 「「はい」」
 僕と春香は揃って返事をした。休憩に入って、僕と春香と及川さんは椅子の横に置いてあるお茶をそれぞれ手に取り水分補給をする。そして及川さんが軽く雑談を始めた。
 「まさか、春香ちゃんにさっきみたいにはい。って言ってもらえるとは思わなかった」
 少し感激している様子で及川さんはしみじみと呟く。
 「あー、やっぱり、去年は上手くコミュニケーション取れてませんでした?」
 「そうなんだよ。私がね。春香ちゃん、元気?って練習前に聞いても首を縦に振るか横に振るかしかしてくれなくて…何か聞いても首を振る以外にコミュニケーションとってくれなかったから…もうショックで…今年、後輩が出来たら大丈夫かな…って本当に心配だったんだよ」
 まじですか…春香、去年どれだけコミュニケーション取ってなかったんだよ。
 「ごめんなさい…」
 「まあ、気にしなくていいよ。いざって時はちゃんと言ってくれるからコミュニケーション取るのが苦手なだけでできない子だとは思ってなかったから意地でもコミュニケーション取ってやる。って意地になってたから」
 及川さんは笑いながら言う。いざって時…おそらく、去年あった春香のトラウマだろう。及川さんに電話して助けてもらったって言っていたし…
 「なんか、うちの春香がすみません」
 「ちょ、りょうちゃん…」
 冗談を交えながら僕が及川さんに謝ると春香は顔を真っ赤にして言う。かわいい。そんな僕と春香のやり取りを見て及川さんは安心した表情をしていた。
 「私、ちょっとお手洗い行ってきます」
 その後、少し雑談をして休憩も残り5分ほどとなったタイミングで春香が立ち上がってお手洗いに向かった。
 「及川さん、去年、春香のこと助けてくださったみたいでありがとうございます…」
 「いえいえ、後輩を助けるのは先輩として当然だから。りょうちゃんも何か困ったら相談とかしてくれていいからね」
 何も考えず、自然と当たり前のように及川さんは僕にそう返してくれた。及川さんは本当にいい先輩だな。と僕は感じた。
 「そういえば、昨日また何かあったみたいだけど春香ちゃんは大丈夫だった?去年、しばらく相当病んでたから少し心配で…」
 「あ、はい。昨日、2限の時間に春香が倒れちゃって…まゆ…先輩にアパートまで送ってもらって、しばらくずっと震えてたんですけど、しばらくして落ち着いて、心配して授業終わってから来てくださったまゆ先輩と3人で部屋にいたらアパートまで押しかけてきて僕とまゆ先輩が追い返そうとしていたんですけど、まゆ先輩が突き飛ばされて僕も何回か殴られたりして…それを見て、春香が止めに入ってくれたんです。昨日は、春香に助けられましたよ」
 「そっか…それで昨日、上手くいかなかった腹いせにあることないこと1年生に広めた。と…迷惑なやつだな…とりあえず、りっちゃんから大体のことは聞いたから、しばらくは私も様子を見ながら噂を否定しておくけど、もし何もあったら相談してね」
 「はい。ありがとうございます」
 そんなやり取りを及川さんとした後、お茶を全て飲み干してしまった僕はホールを出てすぐ近くにある売店にお茶を買いに行くことにした。財布を持ってホールを出て、僕はすぐ近くにある売店に入る。
 「あっ……」
 売店に入って、一人の女の子と目があった。黒髪のショートヘアーでちょっと丸っこい顔、鼻の下にある黒子がちょっと特徴的なちっちゃい女の子…本当に幼く見える顔と身長の女の子だが、胸の大きさが子どもじゃないことを証明していた。僕と目があった瞬間にどうしよう…とでも言うような声を出した女の子が僕に近づいてきた。
 「えっと…チューバの子だよね?私は、石川柚衣、トランペットパートの1年生だよ。よろしくね」
 明るい表情を浮かべて女の子は僕に話しかけてくるのだった。






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