お互いに好きだけど好きと言えない幼馴染の同居生活

りゅう

2人がいてくれるのなら…






 「春香ちゃんの気持ちはわかるけど今は何もしない方がいいと思う…下手に騒いで余計疑われるのは避けたいしほっとけば噂は消えるはずだから….」
 りっちゃんさんが春香に言うがやはり春香は納得できていない様子だった。
 「でも、なんでこんなことしたんでしょう…はっきり言って、無駄と言うか将来的に自分の信用を下げるだけですよね…」
 「あいつ、短期でバカだからとりあえずりょうちゃんとまゆちゃんが気に入らなかったんだろうね…りょうちゃんとまゆちゃんが春香ちゃんに後ろめたいことしてるって噂流れたら春香ちゃんがりょうちゃんと一緒に居にくくなるとか考えてんじゃない…」
 「あーたしかに、あいつならそう考えそう…バカだよね…こんな噂流されてますます春香ちゃんからの好感度下がってるのに…」
 「いや、もともとこれ以上下がらないくらい地の底だったから…私の怒りが増しただけ」
 りっちゃんさんとまゆ先輩のやり取りを聞いた春香が怒りのこもった声で呟く。少しだけど怖い…
 「りょうちゃん、春香ちゃんは同じパートだし一緒に暮らしてるから仕方ないとして、りょうちゃんとまゆちゃんは噂が落ち着くまであまり関わらない方がいいかもね…さっきだって感じたでしょ、1年生の中に噂を信じて3人が一緒に入って来た時に煙たい眼で見てた子たちいたししばらくはまゆちゃんはりょうちゃんと関わらない方がいいかも…」
 「そんな…ダメだよ。まゆちゃんが辛いじゃん…まゆちゃん、りょうちゃんのこと本当に好きだよ。それなのに噂のせいでりょうちゃんと関われないなんて…酷いよ……そんなの辛すぎる……」
 春香が悲しみのこもった声で言う。きっと、自分がまゆ先輩の立場だったら耐えられない…と感じたんだろう。だから、まゆ先輩も辛いに決まってると思えたのだろう。そして何より…
 「噂なんて気にする必要ないじゃん…まゆちゃんはりょうちゃんのこと大好きなんだよ。それなのに関われないなんて嫌…私のせいでまゆちゃんが辛い思いをするのは嫌…」
 春香は責任を感じているのだろう。春香は悪くないのにこうなってしまったのは自分のせいだと自分を責めてしまっている。そんな春香を見て、僕は何もしてあげられなかった。
 「私、あの人に文句言ってくる。もう許せない…文句言ってみんなに誤解だって説明するように言ってくる」
 怒りを露わにした春香はそう言って控え室を出て行こうとするが、春香の腕を掴んで春香が控え室を出るのを強引に止めた。
 「行っちゃダメ。ああいう人間は関わったら調子乗ってエスカレートするかもしれないから春香が行くのはリスクが高い。それに、居場所わかんないでしょ…」
 「この際私はどうなってもいいの。私のせいでりょうちゃんとまゆちゃんに迷惑をかけるのは嫌なの。それに、私が連絡すればあの人は喜んで会ってくれるよ。だから、待っててすぐにデマカセだってみんなの前で言わせるから」
 「春香に何かあったら嫌だから絶対にあの人のところには行かせない。絶対に止める」
 「まゆも…春香ちゃんがあいつのところに行くって言うなら絶対に止めるから…」
 まゆ先輩も春香の腕を掴んで春香に控え室から出ないで、とアピールをする。
 「まゆ、僕は噂は気にしない。だからさ、今まで通り関わってよ。今、ここで僕とまゆが普通に関わらなくなったら僕とまゆの関係があの人の言う通りだったから関わらなくなった。とか言われそうだし…他の1年生は直接まゆのこと悪く言えないと思うし、僕がしばらく1年生から冷たい目で見られるだけだからさ、大丈夫。しばらくしたら落ち着くだろうしそれまで辛抱するよ。だからさ、僕が辛くて耐えられなくなったら支えてほしい」
 これが一番だと僕は思った。まゆ先輩も多少は冷たい目で見られるかもしれないが、たぶん大半の冷たい目は僕に向けられる。噂がデマカセだとなるまで僕が耐えればいい。
 「りょうちゃん…そんなのダメ…りょうちゃんが辛いじゃん…」
 「春香ちゃんの言う通りだよ…」
 「大丈夫。たしかに、同級生から冷たい目で見られたら辛いかもしれないけどさ、春香とまゆがいるから大丈夫。頼りにしてるからさ、僕が辛くなったら支えてほしいな…」
 僕の言葉を聞いて春香とまゆ先輩は何も言えなかった。しばらく、誰も何も言わずに沈黙が続いたが僕に腕を掴まれていた春香が動いた。僕とまゆ先輩の手をそっと払って春香は僕と向き合った。そして思いっきり僕を抱きしめた。
 「りょうちゃんはもう自分の意見を変えようとしないだろうから…りょうちゃんが辛くなったらいつでもこうやって抱きしめてあげるから辛くなったら言ってね。りょうちゃんには私がついてるから」
 「ありがとう」
 僕が春香にお礼を言うとまゆ先輩も僕に抱きついてきた。
 「まゆも、いつでも抱きしめてあげる。まゆは絶対にりょうちゃんの味方だから辛かったら言ってよ」
 「うん。ありがとう」
 僕は春香とまゆ先輩を抱きしめた。春香とまゆ先輩がいてくれるのなら、しばらくの間1年生の間で孤立しても耐えられる。そう思った。
 しばらく、春香とまゆ先輩を僕が抱きしめているのを見て、りっちゃんさんは恋する息子を見るような表情でニヤニヤと僕たちを見つめるのだった。(その日の夜、僕と春香とまゆ先輩にりっちゃんさんからこの時の写真が送られてきて3人ともこの時の写真を少しの間だけスマホの待ち受けにすることになるのだった…)






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