魔王と歩む世界

太津川緑郎

二話 はじめの一歩



何度死んだだろう。
 血はもう所々固まっており、魔王の持つ鎌大量の血がついている。
 
どちらももう戦意などはもうなかった。

「あの⋯⋯ まだやります?」

このまま延々と茶番劇のように殺されていても、俺は痛いし、あいつは面倒だしもう終わりにするほか選択肢はないだろう。

「貴様はどこから入ってきた? 門衛が居ただろ?」

「えっと⋯⋯ 長くなりますよ?」

日岡實ひおかみのるは、その日は暑い日だった。
 そういうが、実際冷房の効いた部屋にいたので暑さは感じなかった。
 平日の昼間、学生なら学業に励む時間だが俺は例外だ。
 不登校、特に理由などはないが、学校に行っていない。

親にも心配を掛けているのは、俺が一番わかっていた、だが自分でも、それが正しいことだとは思っていない。
 学生なら学校に行くのが普通で、大多数がそうしている。
 実際そうした方が後に安定した職につけるからだ。

その日は、今の状況を打破すべく、はじめの一歩として、外に出ることから始めようとしていた。

そこで、家の近所の神社で売られているお守りが巷で話題になっているらしく、それを買いに行くことにした。
 それで何か劇的に変わるわけではない。そう思い気晴らし程度に神社に行くことにした。

田舎なのと、平日の昼間が相まってほとんど人がいない。誰にも会わずして神社に到着した。案の定人はいない。

巫女さんからお守りを買う時少し変な目で見られたが、しょうがないと割り切ってその場をしのぐ。
 これから帰るだけだ、誰にどう思われてももうゴールはすぐそこだからだ。

 暑いが心を全て埋め尽くす、それ以外の考えが停止するかのような暑さだった。
 公民館に設置されている温度計は三十二度を示していた。

「そりゃ暑いわけだ」

 早く帰ろうと走り出した時、ポケットにしまっておいた、お守りの入った袋が落ちるのがわかった。
 後ろを振り向き取ろうすると、グシャっという音が聞こえる。

「ん? 冗談だよな?」

 ゆっくり足を上げると、案の定靴の下で袋がくしゃくしゃになっていた。
 一応袋に入っているので、中身に被害はないだろうが、確認はしておかないといけない。

「やっべっ」

 見てはいけないと言われている、お守りの中身が露出していた。
 何も見なかったように、さっと袋に戻すと同時に眩い光が見え、目を開けるとここにいた。

この文章を一言一句漏らさずに魔王に伝えた、その間二度ほど鎌が降ってきたが、気にせず続けた。

「それでここに来たんですよ」

「そっ、そうか」

魔王も何か気まずそうにしていた。少し考える素振りをした後――

「わかった、特別に城から出ることを許そう」

恐らく、数十回死んだが魔王の城を後にできた。

「これからどうしよう⋯⋯ 」

目に映った景色は火山地帯だった。

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