飯田三一(いいだみい)

私は幼馴染の母親の葬儀に行った。
その心持は不思議なもので、悲しさはとても感じているとは言えない程度のものであった。
葬儀場へ来た。友人を乗せていったものの会話の一つもしなかった。お互いのそれなりの気まずさがあったのだろう。

葬儀が始まり、焼香が始まった。なぜだか焼香は緊張するもので、作法などを一生懸命に脳内シュミレーションをしていた。
自分の番だ。
私は最初に手を合わせ、三回焼香をして、また手を合わせた。
顔合わせ。ここで私は、闘病していて最近顔さえ見れていなかったから、生の顔は久々だなぁと棺桶を覗いた。
その次に私の目に映ったのは、もうそれが誰かもわからないおばあちゃんだった。享年は40代の筈なのに、その遺体は変わり果てた皮と骨だけの何かであった。何であるかさえ曖昧なその顔を、私は一秒と見ることができなかった。
なにか見てはいけないもののような気がしてならなかった。
しかし、先程細かく述べたのでわかるように、一瞬で、目に焼き付いてしまった。
この怖さに怖気付いた。

人の大抵は病気で死ぬ。
その病気がここまでのなにかなのかと、これが将来自分に降りかかるかもしれないものなのかと思うと…恐怖する?そうじゃなかった。
私は喪失感を覚えた。
ああ、存外あっけないんだなって。そう思った。自分が期待していた「人」はそうじゃなかったから。
人っていうのは、もっともっと強い何かだと思っていたが、それは違った。大きな間違いだったんだと。
そして同時に肩の力が抜ける心地がした。死の重さと同時に、人の軽さが分かったから。
死の重さは物語を見たり知った時に、重々理解しているが、人の軽さは今日知ったからよりだ。
自分に対するプレッシャーみたいなのが抜けた。きっと気のせいなんだけれど。
そんなことを思いながら、もうその人の顔を二度と拝む事なく、少し焦るかのように帰った。別にこの後に予定があるからではない。
私には、この人に怖いと思ったから。そんな思いを抱いた自分は部外者だと言われた気がしたからだった。

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