転生バーテンは生き残る

海夏季コエル

56話 くま

 人の様に2本足で佇み、灰色の毛が全身を覆い、あの顔のつくり…。形状はまさに立ち上がった熊。しかし、動物園で見る熊より1回りも2回りじゃ効かないくらい大きい。4足で高さ3m体長5〜6mはあるだろうか。手だけ見てもその木の幹の様な太さは巨体を支える筋肉量を感じさせる。

「…す、ストライクベアー…だと!?…。」

ガイツのうめく様な声が辺りに響く。

なんだなんだなんだなんだあれは!腕の一振りで交通事故じゃねえか!アレと今から戦えってのか ︎人が走る速度に追いついて攻撃できるスピードがあんねやぞ?イノシシの直線の動きならまだしも攻撃と移動速度を合わせられるだけの知能もある。ふざけんな。俺はまだ死にたない………、死にたくない死にたくない死にたくない!

腕に抱いた細腕の女の子の弱々しく少し冷たい手が青ざめた顔にひたっと吸いつくとともにハッとした。

脳裏にガツンと衝撃を受けたような気分だった。

深手のこの子に何心配されてんだ!この子とアリスだけは絶対逃さないと…。お前何重症の女の子に何も言ってやらないんだ!バーテンだろ?気の利いた一言やハッタリくらい言えてなんぼの仕事してたじゃねぇか!気合い入れろ!

さっきまで凍える様に冷めた体温がフツフツと煮える様に熱くなっていく。

カイトはストライクベアーに目線を合わせたままゆっくりと女の子を抱え後ずさりながらガンツ達の所へ戻り女の子を渡しストライクベアーに1歩あゆみ寄った。

「みんな、ストライクベアーっつったか?特徴を教えてくれ。」

「はあ?おまえこんな時に何を「…前足による強烈な一撃と噛み付き、そしてあなどっちゃダメなのが後ろ足の攻撃よ。前足の攻撃にはタメがあるわ。でも後ろ足の攻撃は土や石ごと飛んでくるから注意が必要よ。後は滅多にお目にかかれるモンスターじゃないここと、…私達じゃまず間違いなく敵わない。」

「サンキュ、アリス。じゃあちょっと行ってくるからその子連れて応援呼びに行ってくれる?そう遠くない場所に冒険者組合の小屋あったし緊急連絡手段か馬1頭くらいはいるかもしれない。」

「…お、おいおまえ何言って…。」

「さすがにガイツでもアレは受け止められないだろうしルドルフもキツイっしょ?それに2人で女性2人をエスコートせな。俺なら足止めか時間稼ぎくらいなら可能性がある。行ってくれ。」

「だがしかし…。」

「ガイツ!カイトの言う通りだ。ここで僕たちは無力だ。それなら出来ることをしないと。」

「くそっ。カイト!死ぬなよ?」

「せっかくサバイバルから生き残ったんにここで死ぬわけないやろ?はよ行けや。」

「すぐ連れてくるから!それまで待っててね!」

「了解!」

「行ってくるよカイト。また後で。」

「おう!またうまい飯たべよな?」

…さて行ったか…。ずっとこっち伺ってて集団より残った俺に目線釘付けて、イヤんおっちゃん照れるやん?おまえ雌なん?それともそっちの趣味!?と、冗談はさておいて…来ないならいつまでも我慢比べしよか。

考えつつも右手に鉈、左手にナイフを握りしめ構える。

目線を交わらせたままどのくらいが過ぎただろうか。ゆらりとストライクベアーが動いた。

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