転生バーテンは生き残る

海夏季コエル

プロローグ

「あ゛ーっ今日も飲んだなあ 外眩しいな」

アットホームな夜の飲み屋さんで働くと少なからずお客さんからお酒を頂く

早朝の電車には人は少なく それだけが今の俺の救いになっている
帰ったらなるべく水飲んで多少なりともご飯食べて明日に備えよう

働き始めて早数年 なかなか思うようには稼げない

でもお客さんが喜んでくれるからとなんとか生活できる賃金でも辞めずに働いてる

本当はいつまでもこんな仕事続かないことは分かってる

いずれは内臓壊して病気して 病気と付き合いながらの生活になるだろう

でも今の俺ができる仕事といえばこういう夜の仕事しかない

大した学歴があるわけでもなく 何で昼間の職にありつけようか 現代社会は特殊技能と履歴重視 自分の働ける環境は限られてくる

何よりこの世界には人が多すぎて この国にはフリーターや空白期間が長いほど再就職の道が狭くなる

今の職場に不満がないとは言い難いが ある程度満足のいく給料と生活環境、そして同僚に恵まれた職場には満足している
  

それでも不安は消えない

「俺いつまでやれるかな…」

口に出しても周囲に座っている人々は無反応

周りを気にする必要なんてない


接客業 特にお酒を伴い お客さんとの距離も近い職業というのは話し上手で聞き上手でないとやっていけない

それには色々なジャンルを網羅した知識が必要になることがある

しっかりした職の高給取りのお客さんに見下されることもしばしばある

忍耐力も必要になる
 
そういう人は下手に出て知っていることも知らないかのように教えてくださいと身を引いて話させ 気分良く飲んでもらう必要もある

そういう人に限ってたくさん話をして楽しく飲んでもらうとその分お金を落としてくれる

話のきっかけは大切だ

みんな寂しいのだ

この世の中に誰かに話を聞いてもらいたくない人なんてどれだけいることか

誰もが不満や要望、夢や理想を抱いていながら一人一人繋がりの薄い世界で話せる人がほとんどいない

だからお酒を飲んだりバカなことしたり自暴自棄になりがちな人が増え  他人をどうとも思わない人が多い

現代社会の負の感情の根底にあるものは一人一人の繋がりじゃないかと考えながらも結局利便性という要因でつながりの強い田舎に行く人は少ない

結局刺激が欲しいのだ


「もういっそ異世界転生とかされないかなあ…あ 降りなきゃ」

そんな言葉を口にしたからか

最寄駅で電車を降りたはずの俺は白い光に包まれた

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