炎の騎士伝

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学院へ

 帝歴403年 7月18日

 港町に到着し、俺達は西側の都市であるオキデンスに向かう為に列車に乗り込み移動していた。
 「これが列車か……。ねえシラフ、振動とかが全く感じないけどどうしてなの?」
 リンは俺の頭の上に座りながら質問してくる。
 「確か、列車を浮かせて走らせているからじゃ無いのか?」
 「そんな事出来るの?」
 「そうらしい。仕組みはさすがにわからないけどさ。」
 「そう……。なら仕方ないか……。」
 街の景色はサリアの王都以上に発達していた。いや、それは当然の事である。学院は世界最先端の技術が集まっている都市でもあるからだ。帝国が世界統一記念として世界中の技術を結集させて造られた都市国家でもある。今年で創立348年となったらしいが、世界中の技術が集まった都市としても機能しているだけでも無く、ある意味世界の縮図とも化していると言われるまでになっていた。
 「シラフ、なんか気になる事でもあるの?」
 「別に……。暇なだけだよ、あと2時間程で向こうに着くからそれまで何もすることが無い。船の上なら剣の素振り程度ならしてたけどさ、ここじゃ何もできないだろ?」
 「確かに、シファ姉も寝ているし。」
 俺の向かい側の席で、姉さんは安らかに静かな寝息を立てながら眠っている。
 「全く……この人は……。」
 「ねえシラフ、あの海賊達はどうなったの?」
 「賊の身柄は預けたから、後は向こうで何とかしてくれるはずだよ。賊の取り調べまで俺達の仕事では無いだろ。」
 「そうだね。」
 俺達の船を襲撃した賊の身柄は、学院側に預けて後ほど細かい事情聴取に移り後ほど相応の裁きが下されるだろう。
 「ねえシラフ?これからどうするんだっけ?」
 「オキデンスに着いたら、まず最初に俺達の入る学院の手続きをしないといけない。その後に校長への挨拶もある。明日は明日で色々と忙しいだろうよ。ほら覚えているだろ、第二王女のあいつだよ。」
 「あの王女様か……。姉と妹はしっかり者なのに、あの人は少し怒りっぽいから苦手かな。ねえシラフ、私はどうしていればいいのかなとりあえず着いて来てからあれなんだけど……。」
 「騒がない程度なら好きにしていればいいよ。授業を聞いてもお前は寝ているだろ?」
 「そうだね……。」
 「とにかく、やることは沢山あるんだ。気を引き締め無いといけないとな……。」
 「はーい。」
 適当な返事をリンは返した。

 列車は進み、目的地であるオキデンスに到着する。改札を出ていくと、俺達を迎えに一人の青髪の青年が待っていた。
 「あなた様方が、ラーニル家の者ですか?」
 青年の腰には剣があり、相当の業物だと鞘から抜かずともその実力が分かる。
 「はい、私がラーニル家当主のシファ・ラーニルです。この子が弟のシラフ、そしてこの小さな妖精がリンです。」
 珍しく姉さんの丁寧な言葉遣いを見た気がする。一応は令嬢みたいな物だから出来るだろうとは思っていたが、
 「はい、確認しました。私は学院の八席を務めるラノワ・ブルーム。本日は案内役を務めさせて頂きます。」
 「よろしくお願いします、ラノワさん。」
 「噂で聞いておりましたが、確かに類を見ない程の美女ですね。確かに数多の殿方から婚約を迫られた事のある方だ。」
 「そうですか………。」
 「ここで話すのも彼ですので移動しながらにしましょう。そこに車を呼んでおりますのでどうぞお乗り下さい。」
 ラノワに案内され、俺達はその車に乗り込んだ。車内にてラノワは薄い黒い板のような物を俺達に見せこの学院の説明をしていた。
 「これは学院の生徒全員に配布される端末と呼ばれる物です。これには授業でのメモや学院からのお知らせ、または買い物等に必要なので無くさないようにお願い致します。もし紛失等があった際には手続きを踏まえた上で新しい物をお渡しする事になりますのでご了承下さい。」
 「なるほど。」
 「それと、今端末に表示されている画面に手のひらを置いて下さい。」
 ラノワに言われた通りに姉さんは端末の上に手を置く。数秒後、電子音が鳴り姉さんは手を離した。
 「大丈夫ですよ、今生徒登録の手続きをしただけですから。こちらをご覧下さい。これが現在のシファ様の生徒情報です。」
 端末には姉さんの顔写真と、いくつかの情報があった。
 
 氏名 シファ・ラーニル  性別 女性
 種族 不明  年齢 17  出身地 サリア王国 
 編入日 403年7月18日 4年5期生
 魔力等級 一等級
 学位序列 申請無し

 「これがあなた様の登録情報となっています。ん?種族が不明になっているな……。」
 それに対し姉さんは
 「あの、学位序列って何です?あと魔力等級って一体?」
 「魔力等級はあなた様の魔力保有量を階級付けにした物です。魔力等級が高い場合、より高度な魔術を学ぶ事が出来る特権が付きます。そして学位序列は、この学院で開かれる闘武祭の格付けとなっています。」
 「闘武祭?」
 「はい。闘武祭とは毎年十月に開かれるその年の学院最強を決める戦いの祭典です。大会の成績によって学院から様々な特典がありますし、腕に覚えがある場合登録をすれば良いかと。私はその中で最強の八人の一人を務めさせてもらっている身です。」
 「最強の八人……。」
 「最強の八人は通称八席と呼ばれており、私はその第五位です。闘武祭に出場するのは総勢百万人、9月の始めから予選は始まっており十月には巨大な闘技場での戦いになります。去年の優勝者は入学2年目にして優勝しました。」
 「なるほど……。シラフは登録する?」
 「俺は……まだ考えるよ。面白そうだけどさ……。」
 「そう、私も今はいいかな……。途中から申請は出来るの?」
 「はい、闘武祭期間中は申請出来ませんがそれ以外ならいつでも問題ありません。」
 「分かりました。」

 車内にて姉さんと同じく生徒登録を済ませ、リンも一応登録しておく。
 氏名 シラフ・ラーニル 性別 男性
 種族 人間  年齢 16 出身地 サリア王国
 編入日 403年7月18日 3年5期生
 魔力等級 三等級 
 学位序列 申請無し

 氏名 リーン・サイリス 性別 女性
 種族 妖精  年齢 不明 出身地 サリア王国
 編入日 403年7月18日 特殊区分
 魔力等級 ーーー
 学位序列 申請無し

 その頃、俺達と同じくラウ達も生徒登録を済ませていた。シラフ達とは別の担当者がそれを受け持っていた。
 「ええと……それじゃあこれに手をかざして下さい。」
 眼鏡を掛けた女性が、緊張しながらも二人の手続き進めている。
 氏名 ラウ・クローリア 性別 男性
 種族 人間 年齢 17 出身地 サリア王国
 編入日 403年7月18日 4年5期生
 魔力等級 2等級 
 学位序列 申請無し
 
 氏名 シン・レクサス 性別 女性
 種族 人間 年齢 16 出身地 サリア王国
 編入日 403年7月18日 3年5期生
 魔力等級 2等級
 学位序列 申請無し
 
 登録内容を女性は確認する。
 「その……学位序列に申請はされますか?」
 「何だ、それは?」
 「はい……ええとですね……。」
 女性は学位序列についての説明を一通りする。
 「ですから、腕に覚えがあれば是非とも……。」
 「シン、どうする?」
 「ラウ様が参加したいのであれば好きにして構いません。」
 「了解した。それでは、申請するとしよう。」
 「畏まりました、それではこちらの誓約書をご確認の上で氏名をお書き下さい。」
 ラウは手渡された端末に表示されている項目を見通す。内容は主に命の絶対的な保障は出来ない事。闘武祭期間中の申請取り消しは不可能な事などといった注意書きだった。
 一通り確認すると、ラウは躊躇する事無くそれに氏名を書いた。 
 「はい、確認しました。ええと、従者の方はどうですか?」
 「ラウ様が登録したのであれば私も登録します。」
 「了解しました。それでは……こちらの誓約書をご確認の上で氏名をお書き下さい。」
 シンは注意書きを一通り確認すると、ラウと同じく躊躇は毛頭無いのか氏名を書いた。
 「はい……確認しました。申請は完了ですね……。あの出来れば戦力を確認したいので翌日に伺ってもよろしいでしょうか?」
 「了解した。」
 「はい。それではもう少しで学生寮の確認をしますので少々お待ち下さい。」
 それぞれの車は目的地を目指して進んでいく。

 ラノワに案内されたシラフ達は学院に赴き校長への挨拶に来ていた。学院の校舎は巨大な城のようであり、黒い外壁と青い屋根が特徴的なサリアと同じく西洋式の建物だった。
 「失礼します。ラーニル家の者をお連れ致しました。」
 「そうか、入って構わんよ。」
 ラノワがその巨大な扉を開ける。校長室と言われるそのまま部屋は豪華な装飾品が目につくが至って普通の部屋だった。
 「案内ご苦労、ラノワ。」
 「恐縮です。」
 校長と呼ばれるその人が俺達に優しく話し掛ける。外見から七十代後半辺りの男性と思われる。やはり校長と呼ばれるだけあって貫禄があった。
 「これはお久しいですな、シファ殿。本日は学院への編入を希望して頂きありがとう御座います。」
 「いえ、とんでもないですよ。学費の大半を免除して下さった学院に感謝します。」
 「そうですか、それはもったいないお言葉。サリア王国から我々は多大な支援を受けている身ですので。」
 「校長、シファ様を知っているのですか?」
 「勿論だよ、彼女はサリアでも随一の剣の使い手。かの十剣より強いと噂されるお方だ。」
 「あの十剣よりですか?」
 「そうだな、そして彼。シラフ殿は、昨年で十剣となったお方だ。実力もかなりのお方だよ。」
 「まさか、そんな方だとは知らずに……。」
 「シファ殿、よろしければ今度、彼ラノワと試合をしてくれないかな?」
 「試合ですか?」
 「今回、案内役をしてくれたい彼への褒美としてですよ。彼も剣を使う身だ、よろしければどうかお願い出来ないか?」
 「そうですね……。ラノワ様はどうします?」
 「出来れば是非ともお相手をして欲しいです。」
 姉さんは少し考え込むと、 
 「分かりました。その試合、お引き受けします。」
 「そうですか。では明日の昼、第六闘技場で行いましょう。いや、あなた様の剣を再び見る事が出来るとは若い時の血がみなぎるようなものですよ。」
 校長は盛大に笑っていた。よほど姉さんの試合に感激しているのだろう。
 「シラフ……シファ姉の試合どう思う?」
 「いいんじゃ無いの。騒ぎにならなければさ……それに、」
 俺はラノワに視線を向ける。
 「彼の実力が気になっていたんだ、学院最強と呼ばれる実力をこの目で見たいよ。」

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