炎の騎士伝
対立、そして
帝歴403年7月13日 午後8時半頃
船の甲板の上で俺は人を待っていた。今日の朝、俺の部屋を訪ねた彼女が俺に話があるという事だからだ。
「既に来ていたようですね。待たせてしまいましたか?」
俺を訪ねた彼女が話し掛けて来た。俺はふり向き彼女に話し掛ける。
「いえ、俺が早く来ただけですよ。」
俺の目の前にいる藍色の髪が特徴的な美しい顔立ちを持つ彼女の名はシン・レクサス。俺達と同じく学院に編入するラウの従者である。彼女も学院に編入するが、その挨拶に今回俺を呼び出したのでは無い。
昨日、俺達は海賊達の襲撃を受けたが事件はその日の内に片付き死者を出す事無く人質も無事に解放された。事件を解決に導いたのは、俺と彼女の主であるラウだ。俺は賊の一人を捕らえた程度の事をしたが、ラウは賊のほとんどをたった一人で片付けた。
驚くのは、彼の異常な強さである。ラウはエントランスにおいて賊九人から一斉射撃を食らったがそれを剣で全て弾くだけで無く弾いた玉で賊九人を迎撃して見せた。彼の力を目の当たりにした賊の長は為す術無く膝から崩れ落ちた。
「そうですか。」
「俺に話があるんですよね?」
「はい、特別に部屋を取ってありますのでそこで行いましょう。あまり話の内容を聞かれたく無いので。」
「聞かれたく無いとは?」
「そのままの意味です。内容は部屋に着いたらお話致します。ラウ様もおりますので」
「分かった。案内してくれ」
そしてシンが歩き出すと俺もその後に着いて行き、船内に戻り廊下を進む。
「どうして、姉さんを呼ばないんです?」
「ラウ様の判断で、あの方は呼ばないようにと。」
「俺が話すかもしれないだろ?」
「それは、無いと判断します。あなた様が人との約束を破る人だとは思えませんので。」
「何の基準があって言えるんだ?あなたとはそこまで親しい間柄では無かったと思うが?」
「分かりやすく言うならば、勘というものでしょうか?」
「勘って……。」
「正直に申すのであれば、昨夜私の話をしている時に気遣いをしようとしていた事ですね。人に対しそこまでの気遣いをする方が簡単に約束を破る事はしないと判断した事です。」
彼女の案内のもと、俺は用意された部屋に入る。部屋の内部は豪華な装飾に彩られており、三人分の食器が並んでいた。既に一人席についている者がいた。
「……どこからそんな金が出るんだよ……。」
「昨晩の活躍ぶりから特別にこの部屋での食事を勧められただけです。」
「活躍ぶりね……。」
「その際にあなたと話がしたいというラウ様の意向がありましたのでそのために使用しました。」
「なるほど……、それであなたの主は何をしているんです。」
目の前の席に既に座っている人物。間違いない、ラウだ。しかし彼はテーブルに置かれた食器類に手を付けそれを眺めている。ナイフとフォークがそんなに珍しいのか、まじまじとそれを見ている。
「…………ラウ様……何をしているのですか?」
あまりの行動にシンが動揺していた。彼女の声に気づいたのか、ラウは……。
「シン。これはどのように使う物だ?」
…………。間違いない……奴は相当田舎育ちなんだな……。
俺がそんな思考をしていると、シンは
「ラウ様、それは食事をする道具でございます。あと、食事をする前に食器に手を付ける事は行儀がよろしくありませんので控えて下さい。」
「了解した、次回から気を付けよう。」
そしてラウは持っていた食器を元あった場所に置いた。
相当おかしい奴かもしれない……。まあ道中の宿ではナイフとフォークを使う事が無かったから気付かない訳だよな……うん……そうに違いない……。
「来ていたようだな、シラフ。」
「お前達が俺を呼んだんだろ?」
「とにかく、まずは座れ。話はそれからにさせて貰おうか。」
そして俺はラウに指定させた奴の目の前の席に座った。シンも同様に俺達の間の席に座る。テーブルの形は四角であった為かシンの目の前に空席が空く。
妙な違和感を感じながらもラウは話を始めた。
「それでは、始めようか。」
そしてラウは話を切り出す。
「率直に言おうか、私達に協力して欲しい。」
「協力だと?何の為に?」
「それをこれから話す。私達もその全容を把握していないのでな。」
「それで、何なんだ?全容って?」
「我々は人間では無い。帝国の科学者であるノエルによって造られた存在だ。」
「造られたって……まさかホムンクルスか?」
ホムンクルス。人間を科学によって生み出した存在。200年前に帝国がその製造を禁止した。理由としては倫理的な問題もあるし兵器としての問題もあったからである。
「いや、それとも少し違う。シンはホムンクルスを基盤に機械によって強化された世で言う人造人間だが私はそれと全く違う存在だ。」
「シンが人造人間って、やはりホムンクルスだって言うのか?」
「落ち着けシラフ。それは後で追々話す。」
「ああ、分かったよ……。」
「話を戻す。私は彼女とは違う存在だと言う事は話したよな。」
「だが人間では無いんだろ?」
「正確にはな……。俺の元となった肉体はある人間を模倣して造られたんだ。つまり世間ではクローンと言われる者だ。」
「なるほど、言っている事が大体理解できた。つまりその人間では無いお前達がある目的の為を果たす為にここにいるそれでいいのか?」
「そうだな。まあ私も彼女と同じく改造は施されているが。」
「改造ね……。そんな事をしていた帝国は今はもう無いんだ、そんなお前達が何の目的があるんだ?」
「昨日の時点ではお前の姉であるシファについての事だったが現状は少し変わったな。」
「姉さんの事から、別に変わっただと?姉さんの事だとは少し驚いたが、他は何なんだよ?」
「ある人物の殺す事だ。」
「ある人物?」
「カオスの契約者だ。」
「カオスの契約者?契約者って何なんだよ?」
「神器使いの事だ。」
「なるほど……。って神器使いを殺すってふざけているのか?」
「いや、ふざけているのでは無い。真面目な話だ。」
「それで、そのカオスの契約者は何処にいるんだよ?」
「不明だ。更に現時点ではお前を含めて三人しか契約者が分かっていないんだ。情報が少ないんだよ」
「なるほど、それでどうしてカオスの契約者を殺す事が目的何だ?」
「それが帝国の悲願らしい。情報源は、過去にノエルの助手を務めていた昨夜私が倒した賊の長、名はサバンと言っていた。」
「賊の長か……信用出来るのかその情報は?」
「あの日の翌年に帝国に訪れたらしい。奴はその影響で指数本と肌にアザがあった。」
「魔力中毒の典型的な症状か……。何の為に奴は帝国に?」
「友の遺体を探す為だ。その名は、ラウ・レクサス。」
「ラウ・クローリア……。お前と同じ名前の者か……待てよ何処かで聞いた覚えが……。帝国……帝国……。」
「彼は帝国の英雄だったらしい。八英傑と呼ばれる者達の長でもあったと聞いている。」
「八英傑……。まさか………いやあり得ない賊の長が謀った可能性がある。」
「まあ、そこは否定しがたいがな。しかし奴はある人物を訪ねろと言っていた。その人物の名前は、アルス・ローラン。現在は学院の方に住んでいるらしい。」
「アルス・ローラン。八英傑……だった人だよな……。」
「そういう訳で、カオスの契約者とかいう人物を見つけださなければならない。」
「なるほど大体理解した。それで姉さんについての事は何なんだよ?」
「一つ質問をする。」
「何だ?」
「彼女はいつから生きている?」
「…………何が言いたいんだ?」
「答え無いのなら、私が言おうか。」
「何をだよ?」
「彼女は人間では無い、そうだろ。」
●
帝歴395年
この屋敷に住み始めて、一週間が経ったある日。シファさんは僕にこんな事を言った。
「いい、私の部屋には絶対入らないでね。」
「どうしてです?」
「いやー、ちょっと散らかっているし。あんまり見られたく無いんだよね……。」
「分かりました。あなたが言うなら従います。」
それからしばらく経ったある日、リンは勝手にシファさんの部屋に入って行った。俺は彼女を引き戻す為につられてその部屋へと足を踏み入れる。
「こら、駄目だろリン。」
「何だよ……シラフの癖に。いいじゃん別に面白そうだしさ?」
「シファさんに言われただろ、この部屋には入るなって。」
「でもさ……。」
「全く……早く出るよ……。」
「はーい。」
リンを連れて部屋を出ようとするが、俺はその部屋の光景に足を止めた。一つ、大きな本棚がそこにあった。それにはたくさんの本があるかに思えたがよく見ると、その背表紙はどれも同じような物ばかりである。
しかし同じような本達に俺は興味を抱きそれを手に取る。本の中身は彼女の日記であった。一日の出来事がそれにまとめられている。
「人の日記を見るなんていい趣味しているね?」
「そんな気は無いよ。」
さすがに悪いと思い日記を閉じようとするが、
「あれ……この日付。」
「どうかしたのシラフ?」
「いや、日記の日付がおかしいんだよ。」
「ん?どれどれ?」
その日記の日付はサリア歴542年8月。現在は帝歴395年。サリア歴が用いられていたのは今から400年近く前だったはずである。少なくとも今から700年は経っているだろう。
「……ねえ……シラフ。これ誰の日記かな?」
「多分、シファさんのだと思う……。」
「でもこれって、かなり昔だよ……。よく見るとけっこう古い物だし。」
「確かに古い物だけど……。」
「もしかしてあの人、幽霊か何かかな?」
「いやだったら触れるのはおかしいよ。」
「それじゃあ一体何かな?」
「…………。」
少なくとも深く関わってはいけない。僕は日記を元の場所に戻すとリンと共に部屋を出た。
●
古い記憶が脳裏をよぎる。奴の言葉に俺は少なからず心当たりがあった。
「その様子では心当たりがあるようだな。」
「何が言いたいんだ、お前達は?」
「シファ・ラーニル。彼女は危険な存在だと、私達は見ている。」
「人間では無いからですか?」
「それともう一つ、彼女の神器だ。」
「姉さんが神器使いだと言うんですか?」
「無論だとも。お前も知っていると思っていたんだが?」
「知っていますよ。姉さんが俺に神器の扱い方を教えてくれましたから。」
「話は簡単だ、彼女を危険と判断した場合我々は彼女を殺す。」
「……どうゆう事です?」
「ある人物からの依頼だ。雇い主は言えないがそれなりの身分の人物だと言っておこう。」
「どうしてそれを俺に言う?」
「雇い主からは彼だけには口外する事を許された。」
「…………雇い主の名前は?俺の知っている人か?」
「二度も言わせるな、雇い主の名は言えん。しかし強いて言うとすればお前は既にその人物を知っている。それだけは言えるだろう。」
「っ!」
奴の一言に俺は凄まじい衝撃を受ける。知っている……つまり何らかの形で既に関わっているという事だ。姉さんを殺そうとしている存在に、俺は既に関わっている……。
「これ以上の事は言えない。」
「俺に何をさせるつもりだったんだ?」
「彼女の力は私でも無視は出来ない……いや脅威的な物だ。協力が得られればそれでいいが、敵に回れば殺すだけだ。」
「貴様っ!」
俺は立ち上げり奴に近づくとその胸ぐらを掴み上げる。
「何をそこまで感情的になる?」
「お前の目的は何だ!はっきり言え!!」
「そこまでです。手を降ろしなさい。」
気付けば俺の喉元に短刀が突き付けられていた。短刀を構えているのは先程まで無言でいたシンその人である。彼女の動きに全く俺は気づかなかった。怒りに任せたとは言えそれなりの警戒はしていた、しかしそれでも気づけなかった。
「っ!!」
自分の弱さと愚かさに苛つきを覚えながらも渋々俺は手を降ろした。
狩られる、そんな感覚が全身に突き刺さっていた。ラウの実力でさえ姉さんは一目置いていたんだ、その従者であるシンもラウと同等あるいはそれ以上であってもおかしく無い。
抵抗する余地が無い。それが今の状況であった。
「協力に感謝します、シラフ様。」
冷静さを取り戻し、俺は奴等に言い放つ
「これではっきりとした。……俺はお前達とは決して分かり合えない。」
「…………。」
「お前達がサリアを裏切った場合、容赦はしない。必ずこの手でお前達の野望を止めて見せる。」
「好きにすればいい。」
「今日は失礼させてもらう。お前達と話す事はもう無い。」
そして俺は部屋を出た。この日以降、船内で二人と交わす事無く気付けば五日が過ぎていた。そして
帝歴403年 7月18日
船の甲板で姉さん達と外を見れば、巨大な港町が見えていた。
「あれが、学院なのシラフ?」
「そうとも言えるけど、少し違う。あれが学院じゃなくてあの島国が学院だ。」
「あの島全部学校って事なの?」
「そうだよ、まあ大き過ぎて四つに分けてるらしいけどさ。」
「四つも……。」
「そうだよ、その中で俺達は西側の土地で名前はオキデンス。東区のオリエント、北区セプテント、そして南区メルディ。それら四つ地区の総称が学院国家ラークなんだよ。」
「へえ……。ねえあの島ってどれくらいの人がいるの?」
「学生だけで4000万だったはずだよ、総人口は4200万人。国民のほとんどは学生で占めている国なんだよ。」
「そうだって、シファ姉。」
俺の話を聞いて姉さんは。
「そうなんだ、まあ何とかなると思うよ。」
話を聞いていたのかよくわからないが、とにかく俺達の新たな生活が始まろうとしていた。
船の甲板の上で俺は人を待っていた。今日の朝、俺の部屋を訪ねた彼女が俺に話があるという事だからだ。
「既に来ていたようですね。待たせてしまいましたか?」
俺を訪ねた彼女が話し掛けて来た。俺はふり向き彼女に話し掛ける。
「いえ、俺が早く来ただけですよ。」
俺の目の前にいる藍色の髪が特徴的な美しい顔立ちを持つ彼女の名はシン・レクサス。俺達と同じく学院に編入するラウの従者である。彼女も学院に編入するが、その挨拶に今回俺を呼び出したのでは無い。
昨日、俺達は海賊達の襲撃を受けたが事件はその日の内に片付き死者を出す事無く人質も無事に解放された。事件を解決に導いたのは、俺と彼女の主であるラウだ。俺は賊の一人を捕らえた程度の事をしたが、ラウは賊のほとんどをたった一人で片付けた。
驚くのは、彼の異常な強さである。ラウはエントランスにおいて賊九人から一斉射撃を食らったがそれを剣で全て弾くだけで無く弾いた玉で賊九人を迎撃して見せた。彼の力を目の当たりにした賊の長は為す術無く膝から崩れ落ちた。
「そうですか。」
「俺に話があるんですよね?」
「はい、特別に部屋を取ってありますのでそこで行いましょう。あまり話の内容を聞かれたく無いので。」
「聞かれたく無いとは?」
「そのままの意味です。内容は部屋に着いたらお話致します。ラウ様もおりますので」
「分かった。案内してくれ」
そしてシンが歩き出すと俺もその後に着いて行き、船内に戻り廊下を進む。
「どうして、姉さんを呼ばないんです?」
「ラウ様の判断で、あの方は呼ばないようにと。」
「俺が話すかもしれないだろ?」
「それは、無いと判断します。あなた様が人との約束を破る人だとは思えませんので。」
「何の基準があって言えるんだ?あなたとはそこまで親しい間柄では無かったと思うが?」
「分かりやすく言うならば、勘というものでしょうか?」
「勘って……。」
「正直に申すのであれば、昨夜私の話をしている時に気遣いをしようとしていた事ですね。人に対しそこまでの気遣いをする方が簡単に約束を破る事はしないと判断した事です。」
彼女の案内のもと、俺は用意された部屋に入る。部屋の内部は豪華な装飾に彩られており、三人分の食器が並んでいた。既に一人席についている者がいた。
「……どこからそんな金が出るんだよ……。」
「昨晩の活躍ぶりから特別にこの部屋での食事を勧められただけです。」
「活躍ぶりね……。」
「その際にあなたと話がしたいというラウ様の意向がありましたのでそのために使用しました。」
「なるほど……、それであなたの主は何をしているんです。」
目の前の席に既に座っている人物。間違いない、ラウだ。しかし彼はテーブルに置かれた食器類に手を付けそれを眺めている。ナイフとフォークがそんなに珍しいのか、まじまじとそれを見ている。
「…………ラウ様……何をしているのですか?」
あまりの行動にシンが動揺していた。彼女の声に気づいたのか、ラウは……。
「シン。これはどのように使う物だ?」
…………。間違いない……奴は相当田舎育ちなんだな……。
俺がそんな思考をしていると、シンは
「ラウ様、それは食事をする道具でございます。あと、食事をする前に食器に手を付ける事は行儀がよろしくありませんので控えて下さい。」
「了解した、次回から気を付けよう。」
そしてラウは持っていた食器を元あった場所に置いた。
相当おかしい奴かもしれない……。まあ道中の宿ではナイフとフォークを使う事が無かったから気付かない訳だよな……うん……そうに違いない……。
「来ていたようだな、シラフ。」
「お前達が俺を呼んだんだろ?」
「とにかく、まずは座れ。話はそれからにさせて貰おうか。」
そして俺はラウに指定させた奴の目の前の席に座った。シンも同様に俺達の間の席に座る。テーブルの形は四角であった為かシンの目の前に空席が空く。
妙な違和感を感じながらもラウは話を始めた。
「それでは、始めようか。」
そしてラウは話を切り出す。
「率直に言おうか、私達に協力して欲しい。」
「協力だと?何の為に?」
「それをこれから話す。私達もその全容を把握していないのでな。」
「それで、何なんだ?全容って?」
「我々は人間では無い。帝国の科学者であるノエルによって造られた存在だ。」
「造られたって……まさかホムンクルスか?」
ホムンクルス。人間を科学によって生み出した存在。200年前に帝国がその製造を禁止した。理由としては倫理的な問題もあるし兵器としての問題もあったからである。
「いや、それとも少し違う。シンはホムンクルスを基盤に機械によって強化された世で言う人造人間だが私はそれと全く違う存在だ。」
「シンが人造人間って、やはりホムンクルスだって言うのか?」
「落ち着けシラフ。それは後で追々話す。」
「ああ、分かったよ……。」
「話を戻す。私は彼女とは違う存在だと言う事は話したよな。」
「だが人間では無いんだろ?」
「正確にはな……。俺の元となった肉体はある人間を模倣して造られたんだ。つまり世間ではクローンと言われる者だ。」
「なるほど、言っている事が大体理解できた。つまりその人間では無いお前達がある目的の為を果たす為にここにいるそれでいいのか?」
「そうだな。まあ私も彼女と同じく改造は施されているが。」
「改造ね……。そんな事をしていた帝国は今はもう無いんだ、そんなお前達が何の目的があるんだ?」
「昨日の時点ではお前の姉であるシファについての事だったが現状は少し変わったな。」
「姉さんの事から、別に変わっただと?姉さんの事だとは少し驚いたが、他は何なんだよ?」
「ある人物の殺す事だ。」
「ある人物?」
「カオスの契約者だ。」
「カオスの契約者?契約者って何なんだよ?」
「神器使いの事だ。」
「なるほど……。って神器使いを殺すってふざけているのか?」
「いや、ふざけているのでは無い。真面目な話だ。」
「それで、そのカオスの契約者は何処にいるんだよ?」
「不明だ。更に現時点ではお前を含めて三人しか契約者が分かっていないんだ。情報が少ないんだよ」
「なるほど、それでどうしてカオスの契約者を殺す事が目的何だ?」
「それが帝国の悲願らしい。情報源は、過去にノエルの助手を務めていた昨夜私が倒した賊の長、名はサバンと言っていた。」
「賊の長か……信用出来るのかその情報は?」
「あの日の翌年に帝国に訪れたらしい。奴はその影響で指数本と肌にアザがあった。」
「魔力中毒の典型的な症状か……。何の為に奴は帝国に?」
「友の遺体を探す為だ。その名は、ラウ・レクサス。」
「ラウ・クローリア……。お前と同じ名前の者か……待てよ何処かで聞いた覚えが……。帝国……帝国……。」
「彼は帝国の英雄だったらしい。八英傑と呼ばれる者達の長でもあったと聞いている。」
「八英傑……。まさか………いやあり得ない賊の長が謀った可能性がある。」
「まあ、そこは否定しがたいがな。しかし奴はある人物を訪ねろと言っていた。その人物の名前は、アルス・ローラン。現在は学院の方に住んでいるらしい。」
「アルス・ローラン。八英傑……だった人だよな……。」
「そういう訳で、カオスの契約者とかいう人物を見つけださなければならない。」
「なるほど大体理解した。それで姉さんについての事は何なんだよ?」
「一つ質問をする。」
「何だ?」
「彼女はいつから生きている?」
「…………何が言いたいんだ?」
「答え無いのなら、私が言おうか。」
「何をだよ?」
「彼女は人間では無い、そうだろ。」
●
帝歴395年
この屋敷に住み始めて、一週間が経ったある日。シファさんは僕にこんな事を言った。
「いい、私の部屋には絶対入らないでね。」
「どうしてです?」
「いやー、ちょっと散らかっているし。あんまり見られたく無いんだよね……。」
「分かりました。あなたが言うなら従います。」
それからしばらく経ったある日、リンは勝手にシファさんの部屋に入って行った。俺は彼女を引き戻す為につられてその部屋へと足を踏み入れる。
「こら、駄目だろリン。」
「何だよ……シラフの癖に。いいじゃん別に面白そうだしさ?」
「シファさんに言われただろ、この部屋には入るなって。」
「でもさ……。」
「全く……早く出るよ……。」
「はーい。」
リンを連れて部屋を出ようとするが、俺はその部屋の光景に足を止めた。一つ、大きな本棚がそこにあった。それにはたくさんの本があるかに思えたがよく見ると、その背表紙はどれも同じような物ばかりである。
しかし同じような本達に俺は興味を抱きそれを手に取る。本の中身は彼女の日記であった。一日の出来事がそれにまとめられている。
「人の日記を見るなんていい趣味しているね?」
「そんな気は無いよ。」
さすがに悪いと思い日記を閉じようとするが、
「あれ……この日付。」
「どうかしたのシラフ?」
「いや、日記の日付がおかしいんだよ。」
「ん?どれどれ?」
その日記の日付はサリア歴542年8月。現在は帝歴395年。サリア歴が用いられていたのは今から400年近く前だったはずである。少なくとも今から700年は経っているだろう。
「……ねえ……シラフ。これ誰の日記かな?」
「多分、シファさんのだと思う……。」
「でもこれって、かなり昔だよ……。よく見るとけっこう古い物だし。」
「確かに古い物だけど……。」
「もしかしてあの人、幽霊か何かかな?」
「いやだったら触れるのはおかしいよ。」
「それじゃあ一体何かな?」
「…………。」
少なくとも深く関わってはいけない。僕は日記を元の場所に戻すとリンと共に部屋を出た。
●
古い記憶が脳裏をよぎる。奴の言葉に俺は少なからず心当たりがあった。
「その様子では心当たりがあるようだな。」
「何が言いたいんだ、お前達は?」
「シファ・ラーニル。彼女は危険な存在だと、私達は見ている。」
「人間では無いからですか?」
「それともう一つ、彼女の神器だ。」
「姉さんが神器使いだと言うんですか?」
「無論だとも。お前も知っていると思っていたんだが?」
「知っていますよ。姉さんが俺に神器の扱い方を教えてくれましたから。」
「話は簡単だ、彼女を危険と判断した場合我々は彼女を殺す。」
「……どうゆう事です?」
「ある人物からの依頼だ。雇い主は言えないがそれなりの身分の人物だと言っておこう。」
「どうしてそれを俺に言う?」
「雇い主からは彼だけには口外する事を許された。」
「…………雇い主の名前は?俺の知っている人か?」
「二度も言わせるな、雇い主の名は言えん。しかし強いて言うとすればお前は既にその人物を知っている。それだけは言えるだろう。」
「っ!」
奴の一言に俺は凄まじい衝撃を受ける。知っている……つまり何らかの形で既に関わっているという事だ。姉さんを殺そうとしている存在に、俺は既に関わっている……。
「これ以上の事は言えない。」
「俺に何をさせるつもりだったんだ?」
「彼女の力は私でも無視は出来ない……いや脅威的な物だ。協力が得られればそれでいいが、敵に回れば殺すだけだ。」
「貴様っ!」
俺は立ち上げり奴に近づくとその胸ぐらを掴み上げる。
「何をそこまで感情的になる?」
「お前の目的は何だ!はっきり言え!!」
「そこまでです。手を降ろしなさい。」
気付けば俺の喉元に短刀が突き付けられていた。短刀を構えているのは先程まで無言でいたシンその人である。彼女の動きに全く俺は気づかなかった。怒りに任せたとは言えそれなりの警戒はしていた、しかしそれでも気づけなかった。
「っ!!」
自分の弱さと愚かさに苛つきを覚えながらも渋々俺は手を降ろした。
狩られる、そんな感覚が全身に突き刺さっていた。ラウの実力でさえ姉さんは一目置いていたんだ、その従者であるシンもラウと同等あるいはそれ以上であってもおかしく無い。
抵抗する余地が無い。それが今の状況であった。
「協力に感謝します、シラフ様。」
冷静さを取り戻し、俺は奴等に言い放つ
「これではっきりとした。……俺はお前達とは決して分かり合えない。」
「…………。」
「お前達がサリアを裏切った場合、容赦はしない。必ずこの手でお前達の野望を止めて見せる。」
「好きにすればいい。」
「今日は失礼させてもらう。お前達と話す事はもう無い。」
そして俺は部屋を出た。この日以降、船内で二人と交わす事無く気付けば五日が過ぎていた。そして
帝歴403年 7月18日
船の甲板で姉さん達と外を見れば、巨大な港町が見えていた。
「あれが、学院なのシラフ?」
「そうとも言えるけど、少し違う。あれが学院じゃなくてあの島国が学院だ。」
「あの島全部学校って事なの?」
「そうだよ、まあ大き過ぎて四つに分けてるらしいけどさ。」
「四つも……。」
「そうだよ、その中で俺達は西側の土地で名前はオキデンス。東区のオリエント、北区セプテント、そして南区メルディ。それら四つ地区の総称が学院国家ラークなんだよ。」
「へえ……。ねえあの島ってどれくらいの人がいるの?」
「学生だけで4000万だったはずだよ、総人口は4200万人。国民のほとんどは学生で占めている国なんだよ。」
「そうだって、シファ姉。」
俺の話を聞いて姉さんは。
「そうなんだ、まあ何とかなると思うよ。」
話を聞いていたのかよくわからないが、とにかく俺達の新たな生活が始まろうとしていた。
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