隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

110話 深い穴と塩作り

 空洞音が聞こえる場所に切れ目が入った床板があるのはどう考えても不自然だ。偶然だとは考えられない。






「どうやら弱い魔物がこの床下に巣くっているってだけじゃ無さそうだね」






 そう言って僕は立ち上がり、その空洞音が返ってくる場所から離れる。






「ここを開けるからネイも少し下がって」






「わかった……けど、どうやって?」






「こうやってだよ。[魔糸]」






 ネイを下がらせた僕は[魔糸]を使う。もちろん先端部分を粘着質に性質変化させて。






「そんな細い[魔糸]でこの床板を外せるの?」






「まぁそう言わず見ててよ」






 するとネイがそんなことを言ってきた。まだまだ甘いな、ネイは。それは物理的な糸の場合の話しだ。
 この[魔糸]は当然、魔力でできている糸だ。だからイメージしながら魔力を込めれば、その分[魔糸]の強度も上がるーー






 プチ






 あ、切れた。






「切れたわよ」






「……切れちゃったね」






 ……一本の細い糸が床板を持ち上げることなんてできない、という僕の中の固定観念がイメージを崩し、糸の強度を下げたようだ。
 どうやら甘いのはネイだけでなく、僕も同じだったらしい。
 こうなったら力技でイメージを補強するしかない。






「[魔糸]!」






 僕は手のひらから大量の[魔糸]をワッサァと出す。






「うわっ! 気持ち悪!」






 それを見て後ろに飛び退きながらそう言うネイ。
 僕もそう思ったけど、実際に口にだして言われると傷つくなぁ……。まぁいいか。
 僕は[魔糸]をロープのように捻り、束ね、強度を上げる。流石にこれだけの数の[魔糸]を束ねれば嫌でも強度は上がるし、そのイメージもしやすい。
 そしてその魔糸製ロープの先端部分を粘着質に性質変化させ、床板にくっつける。






「よっと」






 試しに少しだけ力を加えてみる。すると床板が僅かに持ち上がった。
 それを確認して僕はネイに注意する。






「ネイ、何が出てきてもいいように構えていて」






「分かったわ」






 今この床板を少しだけ動かしたが、この下に存在する魔物は動いていない。それにその魔物は床板のすぐ下にいるわけではなく、もっと奥深くにいるようだ。だからといって油断するわけにはいかない。僕も気を引き締めて何が出てきても言いように集中する。






「[ライト]。じゃあ、いくよ?」






 ネイが戦闘準備をし終え、僕の言葉に頷きで返事を返したのを確認して、僕は床板をソッと上げる。そしてすぐに発現させた[ライト]をその穴の中に滑り込ませて中を照らす。そして穴の中から何も出てこないことを確認すると、ゆっくりとその中を覗く。






「これは……」






「ハシゴね」






 驚いたことにその穴の側面にはハシゴが設置されていた。絶対に何かがあると確信していたけれど、これは予想外だ。
 [ライト]をさらに穴の奥へと降ろす。






「あ、ウィックスパイダーだ」






 すると[ライト]の光に驚いたのか、ウィックスパイダーが数匹、穴の側面をよじ登ってきている。そして魔力探知の反応から察するに地下にいた魔物の魔力はウィックスパイダーのものだったみたいだ。 






「なーんだ、地下にいた魔物はこいつらだったのね」






 するとネイも僕と頭を突き合わせるようにその穴の奥を覗き込んで、呆れたようにそう言った。僕も穴の中を観察する。ウィックスパイダーはすぐに仕留めて[ストレージ]にポイだ。






「相当深いわね」






「そうだね」






 とりあえず[ライト]を穴の底まで降ろしたいのだが、その底が全然見えてこない。どれだけ深いんだよ、この穴。
 そう思いながら[ライト]を降ろし続けること約二分。とうとう[ライト]が穴の底を照らし出した……のだが。






「あれ? もしかして空間がある?」






「そうみたいね」






 どうやらこの穴はただの穴では無かったみたいだ。[ライト]の光が穴の側面を捉えていない。
 ハシゴがあるのでこの家の前の持ち主が掘ったのだろうから、この穴には何かあるかもしれないと思っていた。が、まさか地下深くに空間が広がっているとは。






「とりあえず危険は無さそうだから下に降りてみるよ」






 僕はネイに一言そう言い、ハシゴに足をかける。






「気をつけてね」






「うん」






 ネイの心配するような声にそう返事をして僕はハシゴをゆっくりと降りる。
 そうして十分に警戒してハシゴを降りること十数分。僕はハシゴの終着点に降り立った。






「おぉ……」






 僕の声が何重にも重なって反響する。
 どれだけの広さかは分からないが、そこには空間が広がっていた。[ライト]をさらに追加して暗闇を照らし出し、この空間の広さを調べる。






「ライン! 大丈夫!?」






「大丈夫!」






 すると上からネイの心配する声が聞こえてきた。上を向いてその声に返事をし、再び明かりが行き渡ったこの空間を見渡す。






「どのくらいだろ? 軽く五十メートルはあるよね……」






 僕はその中を軽く歩きながらそんな感想を零す。
 この空間は明らかに人為的に作られたものであった。壁や床、そして天井はツルツルに加工された石材でできており、さらには崖の外と繋がっている頭一つ分の大きさの空気穴がいくつも開いている。そしてその広さは小学校の運動場とは比べものにならないほど広い。






「ネイ! 降りて大丈夫だよ!」






「分かったわ!」






 一通りその空間内を歩き回って安全を確認した僕は、もう一度ハシゴがある場所へ戻りネイにそう声をかける。
 するとネイはそう返事をした後すぐに降りてきた。そして一言。






「何ここ!?」






 そう言ったきり口を開けて呆然とするネイ。そんな彼女を置いて僕は早速この地下空間をどう利用しようかと考える。せっかくの地下空間だ。利用しない手はない。
 魔道具やマジックアイテムの研究室として使うか、はたまたポーション作りのための錬金術の研究室にしようか。いや、ここはあえて鍛冶場に……流石にそれはないな。熱すぎて死んでしまう。
 そんなことを考えること十数秒。僕はこの地下空間の使い方を閃いた。






「そうだ! ネイ、この空間を利用して塩作りをしよう!」






 この海がすぐそばにある家を借りると決めた時から考えていた塩作り。始めはネイに美味しいものを食べさせるためだけに海を利用するつもりだったが、今はお金が必要なのだ。
 塩を作ってそれを売ればお金が手に入る。それに塩の作り方も海水と魔法があれば手軽にできる。
 そう考えて提案した塩作りだが、ネイは頭にハテナマークを浮かべただけだった。






「塩を作る? ここで塩が取れるの?」






「……え?」






 一瞬ネイが何を言っているのか分からなかった。そして気づく。ネイは塩がどうやって作られるのか知らないのだろうと。






「そうだよ。塩は海水からとれるんだよ」






 だから僕はネイにそう教えたのだが、彼女の顔に浮かんだ表情は困惑のみ。まるで何を言っているのか分からないといった様子をしている。






「ラインは何を言っているの? 塩は地面の中から取れるのよ?」

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