隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
108話 食料と家具と露天風呂
「これは……まさに緊急事態ね」
「そうだね」
僕らは唾液をゴクリと飲み込み、そう頷き合う。
柵を設置し終えた僕と軽く家の中を掃除し終わったネイはとあることに気づき、窮地に立たされていた。
「まず、今日の晩御飯が無いことが問題だね」
そう。まず一つ目の問題は晩御飯が無いことだ。折角オッズ商店に行ったのに食材じゃなくて木材を買うことに意識がいってしまっていたため、食料を買うのを忘れていた。このままでは今夜のご飯は抜きである。
「それもそうだけど、ベッドも含めた家具がこの家には一切無いことも問題よ」
「あ、そういえば食器も無いね」
そして二つ目の問題がそれだ。この家にはいくつもの部屋はあるものの、家具の類が一切無い。ついでに言うと食器も食材も無い。
まさに大ピンチである。
「……お金、大丈夫?」
するとネイが心配そうな顔をしてそう言ってきた。
今日の晩御飯に諸々の家具、そして食器などの日常品。それらを全て買い集めるのは相当なお金がかかることは火を見るより明らかだ。
「大丈夫、って言いたいけど、正直心許ないね。ベッドは今日寝るために必要だから買うとして、他の家具は僕が木材か石材で作ることはできるよ」
「ならとりあえず今日の晩御飯とベッドを買いましょ。他の家具は明日作れる?」
「そうだね……明日と明後日は学校が休みだから明後日までには何とか全ての家具を完成させてみせるよ」
とは言ったものの、必要な家具ってなんだ? ベッドに食器棚に……あれ、いざ必要な物を探すとなると意外に思いつかないな。
まぁ、それは明日考えることにしよう。今は目先のことを優先すべきだ。
「とりあえず僕は今からベッドと晩御飯を買ってくるよ。ネイはどうする? 一緒に来る?」
ネイが一緒に来るならご飯は食事処で済ませば良いし、どんなベッドがいいかも選んでもらうことができる。なのでできれば一緒にきてほしいのだが……。
「……そうね。あたしも一緒に行くわ」
するとネイは少しの間考えてからそう言った。それは助かる。
「なら行こうか」
そう言って僕らはすぐさま空を飛ぶ用意をして再びオッズ商店へと向かった。
そして約二時間後。
「ただいま」
「ただいまー」
安い食事処で適当な晩御飯を食べ、そして一つのベッドで二人が寝ることができる大きさのベッドを買った。こういうベッドってなんて言うんだっけ? キングベッド? まぁいいか。一人用のベッドを二つ買うよりこのキングベッドを一つ買う方が安かったので、二人で相談してこれにしたのだ。
「ベッドはどこに置く?」
「どこでもいいけど……せっかくだから二階の部屋に置きましょ。眺めがいいもの」
ということで僕はネイの指示に従い二階の、それも一番大きい窓が取り付けられている部屋にそのベッドを置く。
確かにネイの言う通り、この部屋の窓からは裏庭の緑と海の青、そして沈んでゆく夕日の赤が絶妙にマッチしていてとても幻想的な景色が見られる。
「綺麗な景色だね……」
「そうね……」
二人でベッドに座り、窓から見えるその風景をしばし楽しむ。
この景色が見れると言うだけでもこの家を借りたかいがあったな。そう思える程ここから見える景色は素晴らしい物だ。
「……それじゃあ僕はさっそく家具を作っていくとするよ」
ネイと二人でその景色を眺めていた僕は、ひとしきり満足すると彼女にそう告げて部屋を出る。そして裏庭に行き、そこで[ストレージ]からベッドを買うついでに買ってきた木材を取り出す。
まずはこれで最も重要な施設であるお風呂を作ろうと思う。家具? そんなのは後でいい。今必要なのは風呂だ。
思えば僕は『記憶』があるため風呂の無い生活というものには最初から慣れていた。だが、こうも自由な環境下に置かれるとお風呂に入りたくなってきてしまう。
そのため部屋を出たときは家具を作ろうとしていた心が段々と風呂に入りたい気持ちに浸食され、ついには風呂を作ることを実行するまでに至った。
まずは浴槽作りから。
と言ってもやることは単純。木材を魔力掌握してグニグニと変形させてやればいい。形はシンプルに升の形に。色は変えず、木材の模様をそのまま取り入れる。大きさは将来を見越して大人が余裕をもって入れる大きさで。最後に表面を魔法でピカピカにして木の針が刺さらないようにする。
そうしてできました木の浴槽。
「[ストレージ]」
それをすぐさま[ストレージ]に収納し、今度はこの裏庭に風呂用の小さな小屋を建てる……つもりだったのだが、どうせならここから見ることができるこの素敵な景色を堪能しながらゆっくりとお風呂に入りたい。よし、露天風呂にするか。
[ストレージ]から浴槽を作るために使った木材とは別の木材を取り出し、魔力掌握して形を変形させる。とりあえず外から中が見えないようにすれば良いわけだから、木材を三メートル程の高さの板にし、それをコの字形に変形させる。そしてコの字の空いている部分を海の方に向けてその板を壁として設置する。この時、風で壁が飛んでいかないようにこれを地面に深く突き刺す。
後は二階の窓からこの露天風呂の中が覗けてしまうから、[ミラージュ]を発動させる魔道具で幻影の屋根が見えるようにする。
「[風撃]」
空を飛んで露天風呂を上から覗き、きちんと魔道具が作動していることを確認する。うん。これで大丈夫だ。ちなみに上から見える幻影は木の葉を隙間無く並べた屋根に見えるようにしている。
ついでに海側からも同じようにして覗けないようにした。ただしここの魔道具には外から中を覗いた場合のみ幻影が見えるように細工をする。こうすれば例え船が通っても露天風呂を覗かれる心配はない。完璧だ。
後は露天風呂の床を正方形に変形させた石の板で敷き詰め、先程作った浴槽を設置する。そして体を洗う場所や桶など諸々の道具を作る。
最後の仕上げとして浴槽と体を洗う場所にお湯が出る魔法陣を刻み、インクがお湯で流れないようにスライムガラスのカバーをかけて防水処理を施す。
「ラインー。わ!? なにこれ!?」
これで露天風呂に必要な物は全て揃ったよな……と確認していると、外からネイの驚く声が聞こえてきた。
なるべく迅速に作っていたつもりだったのだが、もう見つかってしまったか。驚かせたかったのだが、まぁそれはそれで仕方ない。とりあえずネイを呼ぶか。
「ネイ、僕はこっちだよー」
壁に取り付けたドアを空けてネイを呼ぶ。するとネイがこちらにやってきた。
「ライン、これは何?」
するとネイは開口一番不思議そうな顔をしてそう聞いてきた。
「これはね、露天風呂だよ!」
「……ロテンブロ?」
「そう。露天風呂。説明するから中に入って。あ、靴は脱いでね」
この世界には風呂という物自体が無いため、ネイは露天風呂という言葉を聞くと首を傾げた。そのため僕はネイに風呂とは何か、そしてその素晴らしさを一から説明した。
……あ、脱衣所作るの忘れてた。
「そうだね」
僕らは唾液をゴクリと飲み込み、そう頷き合う。
柵を設置し終えた僕と軽く家の中を掃除し終わったネイはとあることに気づき、窮地に立たされていた。
「まず、今日の晩御飯が無いことが問題だね」
そう。まず一つ目の問題は晩御飯が無いことだ。折角オッズ商店に行ったのに食材じゃなくて木材を買うことに意識がいってしまっていたため、食料を買うのを忘れていた。このままでは今夜のご飯は抜きである。
「それもそうだけど、ベッドも含めた家具がこの家には一切無いことも問題よ」
「あ、そういえば食器も無いね」
そして二つ目の問題がそれだ。この家にはいくつもの部屋はあるものの、家具の類が一切無い。ついでに言うと食器も食材も無い。
まさに大ピンチである。
「……お金、大丈夫?」
するとネイが心配そうな顔をしてそう言ってきた。
今日の晩御飯に諸々の家具、そして食器などの日常品。それらを全て買い集めるのは相当なお金がかかることは火を見るより明らかだ。
「大丈夫、って言いたいけど、正直心許ないね。ベッドは今日寝るために必要だから買うとして、他の家具は僕が木材か石材で作ることはできるよ」
「ならとりあえず今日の晩御飯とベッドを買いましょ。他の家具は明日作れる?」
「そうだね……明日と明後日は学校が休みだから明後日までには何とか全ての家具を完成させてみせるよ」
とは言ったものの、必要な家具ってなんだ? ベッドに食器棚に……あれ、いざ必要な物を探すとなると意外に思いつかないな。
まぁ、それは明日考えることにしよう。今は目先のことを優先すべきだ。
「とりあえず僕は今からベッドと晩御飯を買ってくるよ。ネイはどうする? 一緒に来る?」
ネイが一緒に来るならご飯は食事処で済ませば良いし、どんなベッドがいいかも選んでもらうことができる。なのでできれば一緒にきてほしいのだが……。
「……そうね。あたしも一緒に行くわ」
するとネイは少しの間考えてからそう言った。それは助かる。
「なら行こうか」
そう言って僕らはすぐさま空を飛ぶ用意をして再びオッズ商店へと向かった。
そして約二時間後。
「ただいま」
「ただいまー」
安い食事処で適当な晩御飯を食べ、そして一つのベッドで二人が寝ることができる大きさのベッドを買った。こういうベッドってなんて言うんだっけ? キングベッド? まぁいいか。一人用のベッドを二つ買うよりこのキングベッドを一つ買う方が安かったので、二人で相談してこれにしたのだ。
「ベッドはどこに置く?」
「どこでもいいけど……せっかくだから二階の部屋に置きましょ。眺めがいいもの」
ということで僕はネイの指示に従い二階の、それも一番大きい窓が取り付けられている部屋にそのベッドを置く。
確かにネイの言う通り、この部屋の窓からは裏庭の緑と海の青、そして沈んでゆく夕日の赤が絶妙にマッチしていてとても幻想的な景色が見られる。
「綺麗な景色だね……」
「そうね……」
二人でベッドに座り、窓から見えるその風景をしばし楽しむ。
この景色が見れると言うだけでもこの家を借りたかいがあったな。そう思える程ここから見える景色は素晴らしい物だ。
「……それじゃあ僕はさっそく家具を作っていくとするよ」
ネイと二人でその景色を眺めていた僕は、ひとしきり満足すると彼女にそう告げて部屋を出る。そして裏庭に行き、そこで[ストレージ]からベッドを買うついでに買ってきた木材を取り出す。
まずはこれで最も重要な施設であるお風呂を作ろうと思う。家具? そんなのは後でいい。今必要なのは風呂だ。
思えば僕は『記憶』があるため風呂の無い生活というものには最初から慣れていた。だが、こうも自由な環境下に置かれるとお風呂に入りたくなってきてしまう。
そのため部屋を出たときは家具を作ろうとしていた心が段々と風呂に入りたい気持ちに浸食され、ついには風呂を作ることを実行するまでに至った。
まずは浴槽作りから。
と言ってもやることは単純。木材を魔力掌握してグニグニと変形させてやればいい。形はシンプルに升の形に。色は変えず、木材の模様をそのまま取り入れる。大きさは将来を見越して大人が余裕をもって入れる大きさで。最後に表面を魔法でピカピカにして木の針が刺さらないようにする。
そうしてできました木の浴槽。
「[ストレージ]」
それをすぐさま[ストレージ]に収納し、今度はこの裏庭に風呂用の小さな小屋を建てる……つもりだったのだが、どうせならここから見ることができるこの素敵な景色を堪能しながらゆっくりとお風呂に入りたい。よし、露天風呂にするか。
[ストレージ]から浴槽を作るために使った木材とは別の木材を取り出し、魔力掌握して形を変形させる。とりあえず外から中が見えないようにすれば良いわけだから、木材を三メートル程の高さの板にし、それをコの字形に変形させる。そしてコの字の空いている部分を海の方に向けてその板を壁として設置する。この時、風で壁が飛んでいかないようにこれを地面に深く突き刺す。
後は二階の窓からこの露天風呂の中が覗けてしまうから、[ミラージュ]を発動させる魔道具で幻影の屋根が見えるようにする。
「[風撃]」
空を飛んで露天風呂を上から覗き、きちんと魔道具が作動していることを確認する。うん。これで大丈夫だ。ちなみに上から見える幻影は木の葉を隙間無く並べた屋根に見えるようにしている。
ついでに海側からも同じようにして覗けないようにした。ただしここの魔道具には外から中を覗いた場合のみ幻影が見えるように細工をする。こうすれば例え船が通っても露天風呂を覗かれる心配はない。完璧だ。
後は露天風呂の床を正方形に変形させた石の板で敷き詰め、先程作った浴槽を設置する。そして体を洗う場所や桶など諸々の道具を作る。
最後の仕上げとして浴槽と体を洗う場所にお湯が出る魔法陣を刻み、インクがお湯で流れないようにスライムガラスのカバーをかけて防水処理を施す。
「ラインー。わ!? なにこれ!?」
これで露天風呂に必要な物は全て揃ったよな……と確認していると、外からネイの驚く声が聞こえてきた。
なるべく迅速に作っていたつもりだったのだが、もう見つかってしまったか。驚かせたかったのだが、まぁそれはそれで仕方ない。とりあえずネイを呼ぶか。
「ネイ、僕はこっちだよー」
壁に取り付けたドアを空けてネイを呼ぶ。するとネイがこちらにやってきた。
「ライン、これは何?」
するとネイは開口一番不思議そうな顔をしてそう聞いてきた。
「これはね、露天風呂だよ!」
「……ロテンブロ?」
「そう。露天風呂。説明するから中に入って。あ、靴は脱いでね」
この世界には風呂という物自体が無いため、ネイは露天風呂という言葉を聞くと首を傾げた。そのため僕はネイに風呂とは何か、そしてその素晴らしさを一から説明した。
……あ、脱衣所作るの忘れてた。
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