隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
106話 オッズ商店とマッチョ店員
「そうなんだ。ならさっさとその買い物を終えて早く帰りましょ。今日は新しい家に引っ越しをする日なんだから」
「そうだね」
うーむ。なかなかしっかりしているな、ネイは。これだけしっかりしている子は珍しい。いや、この世界の子供達は皆こうなのか?
何せこっちの世界の子供は向こうの世界の子供よりも過酷な環境で育っている。
自然としっかりしなければならないような環境にいれば、こうなるのかもしれないな。
そんなことを考えながら僕らはさっさと学園を出て様々な店が並ぶ商店通りと呼ばれる道にでる。
そこは美味しそうな匂いが蔓延し、色とりどりの店があり、そしてガヤガヤと他の学園の学生達で溢れかえっていた。
僕とネイは互いに離れ離れにならないように手を繋いで、目的の物が売ってそうな店を探す。
「あ、あそこならありそうだな」
しばらく商店通りを歩いていると他の店とは比べものにならないほど大きな商店が見えてきた。
その建物の入り口の上にはでかでかとオッズ商店と書かれている。
オッズ商店とは王都で最大、いやこの世界で最大の規模を誇る商店であり、この店では日常で使う小物から大型の魔道具まで様々な品物を扱っている。
ちなみに王都だけでオッズ商店の支店の数は軽く十を超える。
この学園区域にも東西南北それぞれに一店舗ずつあるらしい。
そのオッズ商店に僕らは足を踏み入れる。
「……あのオッズ商店に入るなんて始めてだわ」
するとネイはこの店の中の様子を見ながらそう零した。
まぁネイが住んでいた村には店なんて殆ど無かったらしいから、それはしょうがない。
しかししょうがなくないのは僕だ。
「……恥ずかしながら僕もオッズ商店に入ったのは始めてだよ」
「え!? お貴族様なのに!?」
「……うん」
ネイが驚いたのは当然だ。
なにせオッズ商店は貴族や王族までもが利用するほどの大商店なのだから。
もちろん僕の両親やメイド二人もノルド領にあるオッズ商店の支店を良く利用していたらしい。
現に今僕がローブの下に着ている服もオッズ商店で買った物だったりする。
話を戻して僕が何故オッズ商店に来たのが始めてかと言うと、理由は単純。
食っては寝てばかりをしたり、ずっとダイエットしたり、趣味に没頭していたからだ。
……あれ? 良く考えると僕ってノルド領にある街なんて見たことが無いな……。
今度の長期休みでノルド領に帰って街の様子を見ることにしよう。
流石に次期領主がその領地の街を知らないのはマズいだろうし。
閑話休題
オッズ商店の中の様子は一言で言うならば超巨大倉庫だ。
あるところには食材が売られており、またあるところには日常品が並べられ、そしてまたあるところには魔道具が売られている。
流石に食材などを扱っているので配置には気をつけたり、魔道具で何とかしていたりといった工夫が見られるが、前世の世界ではどこの店に行ってもまず見られない光景だろう。
そんな中を僕とネイは歩く。
「ねぇ、ラインは何を探しているの? 二手に別れて探した方が早いと思うんだけど」
するとネイがそんなことを言ってきた。
だがこの店の中はさっきの商店通りと同じくらい人で賑わっている。
「僕が探しているのは木材なんだけど、この人ごみの中で別れるのは後で会えるかどうか……あ、そっか。[念話]のリストバンドがあったんだった」
僕がネイの二手に別れる方法に難色を示していると、ネイは腕を振って手首に着けているリストバンドを見せつけてきた。
それを見て僕はその魔道具の存在を思い出す。
今まで頻繁に使ってなかったからその存在をすっかり忘れていた。
「ならネイの言う通り二手に別れようか。僕は左側から探していくからネイは右側からお願い。それで見つけたら[念話]で連絡よろしく」
「分かったわ。あ、けどここは二階もあるみたい。それはどうするの?」
僕達が早速二手に別れて木材を探し始めようとした瞬間、ネイは店の右奥にある階段を指差してそう言った。
「んー……僕が探しているのは大きな木材だから多分二階には無いと思う。だからさっき言った通り二手に別れよう。それでもし見つからないようだったら[念話]で報告しあって二階に行こう」
「わかったわ。それじゃあまた後でね」
「うん。また後で」
二人でそう取り決めて僕らはその場で別れ、木材探しを開始する。
そして体感で三十分程経った頃。
《ライン、あったわよ》
右腕に着けているリストバンドが一度大きく震え、その直後に脳内でネイの声が響いてきた。
《了解。どこらへんにあるの?》
こちらからも[念話]を飛ばす。
思った以上に見つけるまでに時間がかかったな。
店の右側、ネイがいるであろう方向に歩きながらそんな事を思っていると、再びリストバンドが振動した。
《この店の真ん中らへん……って言ったら分かるかしら》
この店の真ん中らへんね。
それなら今僕が歩いているここらへんだと思うんだけど……あ、いた。
「ネイ、ありがとう」
「まぁね!」
ネイの姿を見つけそう声をかけたら、彼女は胸を張って得意気にそう言った。
そんな姿に微笑みながら、僕はネイが見つけてくれた木材の数々を眺める。
置かれている木材は太さがバラバラで縦に長い。
それらが横に倒されて山のように積み上げられている。
うーん。奥にある木材が見にくいな。
なるべく太くて大きく、頑丈なやつがいいんだけど……こいつらでいいか。
「ネイ、店員さんを呼んで来てくれる?」
「分かったわ。少し待っててね」
僕が木材を決めるとネイはピューとこの店の受付に向かって走って行った。
その間僕は他に良さそうな木材が無いか探す。
あ、値段……うわ、高いな。
けどいまだに盗賊団のお金が残っているから、それを使えば買えない程ではない。
それに地下迷宮でとれた素材は学園側が買い取ってくれる……いや、それでも魔道具やマジックアイテムを作る事を考えたら材料費が嵩む……よし、家に帰ったら金策を考えよう。
「ライン、呼んできたわよ!」
今後のことについて色々と考えを巡らせていると、ネイが何人かのムキムキの店員さんを連れて帰ってきた。
少女がムキムキの男達を従えて走ってくる。
……なかなかにシュールな光景だな。
「ありがとう。えーっと、これとその奥にあるやつを全部ください」
ネイに礼を言い、僕はマッチョ店員さんズに目を付けていた木材を買うことを伝える。
するとマッチョ店員さんは特に驚いた様子も無くすぐに積み上げられている木材を崩す作業に入った。
「はいよ! あぶねぇから、ちょっとそこを離れてくだせぇ!」
「「はーい」」
マッチョ店員ズは積み上げられている木材を一本一本丁寧にどかし、僕が頼んだ木材を全て僕の目の前に積み上げてくれた。
「これでいいですかい?」
すると[ブースト]を使わずに、しかし汗一つかいてない笑顔を向けてマッチョ店員さんはそう言ってきた。
文句の一つも無い、完璧な対応だったな。
そんなことを思いながら首を縦に振る。
「ではこれらの木材全て合わせて……二十万六千ミラですぜ」
計算も間違い無くバッチリだ。
この世界では四則演算ができる人は多くない。
それを考えるとこのマッチョ店員さんは優秀だな。
いや、このマッチョ店員さんを雇っているオッズ商店に流石と言うべきか。
まあ、そんなことはどっちでもいいのだが。
[ストレージ]からお金を取り出してマッチョ店員さんに渡す。
[ストレージ]を見て少し驚いた様子のマッチョ店員ズだったが、この反応はもう慣れたので特に気にしない。
するとお金を受け取ったマッチョ店員さんが有り難いことを言ってくれた。
「そうだね」
うーむ。なかなかしっかりしているな、ネイは。これだけしっかりしている子は珍しい。いや、この世界の子供達は皆こうなのか?
何せこっちの世界の子供は向こうの世界の子供よりも過酷な環境で育っている。
自然としっかりしなければならないような環境にいれば、こうなるのかもしれないな。
そんなことを考えながら僕らはさっさと学園を出て様々な店が並ぶ商店通りと呼ばれる道にでる。
そこは美味しそうな匂いが蔓延し、色とりどりの店があり、そしてガヤガヤと他の学園の学生達で溢れかえっていた。
僕とネイは互いに離れ離れにならないように手を繋いで、目的の物が売ってそうな店を探す。
「あ、あそこならありそうだな」
しばらく商店通りを歩いていると他の店とは比べものにならないほど大きな商店が見えてきた。
その建物の入り口の上にはでかでかとオッズ商店と書かれている。
オッズ商店とは王都で最大、いやこの世界で最大の規模を誇る商店であり、この店では日常で使う小物から大型の魔道具まで様々な品物を扱っている。
ちなみに王都だけでオッズ商店の支店の数は軽く十を超える。
この学園区域にも東西南北それぞれに一店舗ずつあるらしい。
そのオッズ商店に僕らは足を踏み入れる。
「……あのオッズ商店に入るなんて始めてだわ」
するとネイはこの店の中の様子を見ながらそう零した。
まぁネイが住んでいた村には店なんて殆ど無かったらしいから、それはしょうがない。
しかししょうがなくないのは僕だ。
「……恥ずかしながら僕もオッズ商店に入ったのは始めてだよ」
「え!? お貴族様なのに!?」
「……うん」
ネイが驚いたのは当然だ。
なにせオッズ商店は貴族や王族までもが利用するほどの大商店なのだから。
もちろん僕の両親やメイド二人もノルド領にあるオッズ商店の支店を良く利用していたらしい。
現に今僕がローブの下に着ている服もオッズ商店で買った物だったりする。
話を戻して僕が何故オッズ商店に来たのが始めてかと言うと、理由は単純。
食っては寝てばかりをしたり、ずっとダイエットしたり、趣味に没頭していたからだ。
……あれ? 良く考えると僕ってノルド領にある街なんて見たことが無いな……。
今度の長期休みでノルド領に帰って街の様子を見ることにしよう。
流石に次期領主がその領地の街を知らないのはマズいだろうし。
閑話休題
オッズ商店の中の様子は一言で言うならば超巨大倉庫だ。
あるところには食材が売られており、またあるところには日常品が並べられ、そしてまたあるところには魔道具が売られている。
流石に食材などを扱っているので配置には気をつけたり、魔道具で何とかしていたりといった工夫が見られるが、前世の世界ではどこの店に行ってもまず見られない光景だろう。
そんな中を僕とネイは歩く。
「ねぇ、ラインは何を探しているの? 二手に別れて探した方が早いと思うんだけど」
するとネイがそんなことを言ってきた。
だがこの店の中はさっきの商店通りと同じくらい人で賑わっている。
「僕が探しているのは木材なんだけど、この人ごみの中で別れるのは後で会えるかどうか……あ、そっか。[念話]のリストバンドがあったんだった」
僕がネイの二手に別れる方法に難色を示していると、ネイは腕を振って手首に着けているリストバンドを見せつけてきた。
それを見て僕はその魔道具の存在を思い出す。
今まで頻繁に使ってなかったからその存在をすっかり忘れていた。
「ならネイの言う通り二手に別れようか。僕は左側から探していくからネイは右側からお願い。それで見つけたら[念話]で連絡よろしく」
「分かったわ。あ、けどここは二階もあるみたい。それはどうするの?」
僕達が早速二手に別れて木材を探し始めようとした瞬間、ネイは店の右奥にある階段を指差してそう言った。
「んー……僕が探しているのは大きな木材だから多分二階には無いと思う。だからさっき言った通り二手に別れよう。それでもし見つからないようだったら[念話]で報告しあって二階に行こう」
「わかったわ。それじゃあまた後でね」
「うん。また後で」
二人でそう取り決めて僕らはその場で別れ、木材探しを開始する。
そして体感で三十分程経った頃。
《ライン、あったわよ》
右腕に着けているリストバンドが一度大きく震え、その直後に脳内でネイの声が響いてきた。
《了解。どこらへんにあるの?》
こちらからも[念話]を飛ばす。
思った以上に見つけるまでに時間がかかったな。
店の右側、ネイがいるであろう方向に歩きながらそんな事を思っていると、再びリストバンドが振動した。
《この店の真ん中らへん……って言ったら分かるかしら》
この店の真ん中らへんね。
それなら今僕が歩いているここらへんだと思うんだけど……あ、いた。
「ネイ、ありがとう」
「まぁね!」
ネイの姿を見つけそう声をかけたら、彼女は胸を張って得意気にそう言った。
そんな姿に微笑みながら、僕はネイが見つけてくれた木材の数々を眺める。
置かれている木材は太さがバラバラで縦に長い。
それらが横に倒されて山のように積み上げられている。
うーん。奥にある木材が見にくいな。
なるべく太くて大きく、頑丈なやつがいいんだけど……こいつらでいいか。
「ネイ、店員さんを呼んで来てくれる?」
「分かったわ。少し待っててね」
僕が木材を決めるとネイはピューとこの店の受付に向かって走って行った。
その間僕は他に良さそうな木材が無いか探す。
あ、値段……うわ、高いな。
けどいまだに盗賊団のお金が残っているから、それを使えば買えない程ではない。
それに地下迷宮でとれた素材は学園側が買い取ってくれる……いや、それでも魔道具やマジックアイテムを作る事を考えたら材料費が嵩む……よし、家に帰ったら金策を考えよう。
「ライン、呼んできたわよ!」
今後のことについて色々と考えを巡らせていると、ネイが何人かのムキムキの店員さんを連れて帰ってきた。
少女がムキムキの男達を従えて走ってくる。
……なかなかにシュールな光景だな。
「ありがとう。えーっと、これとその奥にあるやつを全部ください」
ネイに礼を言い、僕はマッチョ店員さんズに目を付けていた木材を買うことを伝える。
するとマッチョ店員さんは特に驚いた様子も無くすぐに積み上げられている木材を崩す作業に入った。
「はいよ! あぶねぇから、ちょっとそこを離れてくだせぇ!」
「「はーい」」
マッチョ店員ズは積み上げられている木材を一本一本丁寧にどかし、僕が頼んだ木材を全て僕の目の前に積み上げてくれた。
「これでいいですかい?」
すると[ブースト]を使わずに、しかし汗一つかいてない笑顔を向けてマッチョ店員さんはそう言ってきた。
文句の一つも無い、完璧な対応だったな。
そんなことを思いながら首を縦に振る。
「ではこれらの木材全て合わせて……二十万六千ミラですぜ」
計算も間違い無くバッチリだ。
この世界では四則演算ができる人は多くない。
それを考えるとこのマッチョ店員さんは優秀だな。
いや、このマッチョ店員さんを雇っているオッズ商店に流石と言うべきか。
まあ、そんなことはどっちでもいいのだが。
[ストレージ]からお金を取り出してマッチョ店員さんに渡す。
[ストレージ]を見て少し驚いた様子のマッチョ店員ズだったが、この反応はもう慣れたので特に気にしない。
するとお金を受け取ったマッチョ店員さんが有り難いことを言ってくれた。
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