隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

101話 宴と遊び

「……お前たち、本当にこんなところに住む気か?」






 住宅の申請をするためにブレソウル先生の下に来た僕達。
 僕らは先生に冊子に載っていない場所もゴールドクラスの特権で借りることができることを確認した後、冊子に載っている学園区域の簡単な地図でその場所を指し示した。すると案の定と言うべきか、ブレソウル先生は難しい顔をしてそう言ってきた。だけど僕らの答えは変わらない。






「はい。どうしてもそこに住みたいんです」






 ブレソウル先生の目を真っ直ぐ見て僕はそう答える。すると先生は何やら諦めたように一つ溜め息をし、その家を借りることを了承してくれた。






「ただし欠席が続くといくら成績が良いお前たちでも問題児としてシルバークラス以下に落とされるからな。そこは気をつけろよ」






「「はい」」






 当たり前のことだが、成績が全てのこの学園でもやはり出席するのは最低限のルールらしい。他にもいくつかシルバークラス以下に落とされるルールがあるとは思うが、まぁ普通に学校生活を送っていれば大丈夫だろう。




 そうして僕らは先生の許可を得、僕らの家と土地になるあの場所の手続きと、ついでに迷宮探索権の手続きを済ませた。






「じゃあ、今日はもう帰ろうか。明日からはあの海沿いの家に住むことになるんだから、今日を逃すとしばらくは家族に会えなくなるからね」






 時刻はまだ昼過ぎだが今日を逃すと長期休み以外では家族に会えなくなる。僕の家族は実家に帰るし、ネイの家族もそれは同様だろう。なので僕らは一旦宿に帰って引っ越しの用意を済ませてからそれぞれの家族と一晩過ごす事にした。






「お、ラインとネイちゃんじゃないか。随分と早かったね。おかえり」






 宿に帰ると僕の父さんが声をかけてきた。どうやら父さん達もこの宿に明日まで宿泊するらしい。まぁこの宿のことを教えてくれたのは父さんと母さんなのでここに宿泊しているだろうことは半ば予想していた。なのでそれに関しては驚きは無い。
 だが、僕はその隣にいる人物を見て驚いた。






「お父さん!?」






 ネイがその人物、ネイの父親であるダヴィンさんを見てそう驚きの声をあげた。






「お父さん達も今夜はこの宿に泊まるの!?」






 どうやらネイは相当驚いているみたいだ。それは彼女の顔を見ればすぐに分かる。すると僕の父さんが近づいてきて僕に耳打ちしてくれた。






「父さん達がネイちゃんの家族にこの宿に泊まることを勧めたんだ」






 どうやら父さん達は今夜この宿の大部屋を借りて入学祝いの宴をするからと言って、ネイの家族を誘ったらしい。もちろん今はましになったとはいえ、貧乏な暮らしを送っていたネイの家族は最初は断っていたそうだ。しかし父さんは貴族という立ち位置と料金は全額父さん達が払うからという、説得に似た命令をして無理矢理ネイの家族をこの宿に泊まらせたらしい。
 そんなことを無理矢理したのだからネイの家族にとっては迷惑じゃないかと思ったが、ネイと話しているダヴィンさんの様子を見る限りそうでもなかったようだ。楽しそうにネイと話している。




 それから僕らはそれぞれの家族と夜まで過ごし、大部屋で二家族で宴をして、そしてそれぞれの家族と共に寝た。














「楽しい学園生活を送ってきなさい。いってらっしゃい」






「いってらっしゃい。体には十分に気をつけろよ」






 次の日。
 今日から本格的な学園生活がはじまる。金の校章が刺繍された黒いローブを着た僕とネイは、それぞれの家族に見送られて宿を出、サミット学園に向けて足を踏み出した。






「「いってきます!」」






 その声と共に。








 そして学園に到着した僕らは特に寄り道などすることなく真っ直ぐに教室にやってきた。






「おはよーって誰もまだ来てないのか」






「みたいね」






 また昨日のような胡散臭い目を向けられるのは嫌なので、愛想良く挨拶しながら教室に入った僕だったが、中はガランとしていた。そんなに早く来たつもりではなかったのだが、どうやら皆はまだここには来ていないらしい。
 なら皆が来るまでどうしようか……と思ったが学校に早く来たのならばやることは決まっている。






「ネイ、遊ぼうか」






 そう。子供らしく遊ぶのである。
 しかしただ遊ぶだけではつまらない。よって魔力操作の訓練にもなる遊びをする。






「いいけど、何して遊ぶの?」






「それはね……[ストレージ]。これで遊ぶんだよ」






「これは……木のブロック?」






「そうだよ」






 ネイの言った通り、僕は[ストレージ]から大小様々な、木のブロックを取り出した。
 その木のブロックは大きいものは手のひらいっぱいにのるサイズで、小さいものは親指と同じ大きさのサイズにもなる。
 とりあえず今日は初めてなのでその一番大きいブロックと一番小さいブロック、そしてその中間のサイズのブロックの三種類を使おうか。それら以外の大きさのブロックは再び[ストレージ]になおす。






「この木のブロックで何をして遊ぶの?」






 ネイは不思議そうな顔をしながらその木のブロック達を見て首を捻っている。そんな彼女に僕はこれからやる遊びのルールを教える。






「まずこれらのブロックにはポイントがある。一番大きなこのブロック達は全て一ポイント。そして中くらいのブロック達は三ポイント。最後に一番小さいブロック達は五ポイント。それらを僕は空中に次から次へと投げる。そしたらネイは僕が投げたそのブロックを魔法で当てて、僕が立っている場所から後ろにそのブロックを転がせばいい。それだけだよ」






「なるほど。簡単そうね」






 要は僕が空中に投げた大小様々な的をネイが魔法で撃つゲームだ。






「あ、でもこの木のブロックは壊しちゃダメだからね。あと火の魔法も禁止」






「分かったわ」






 このブロックは作るのはそれほど苦ではないが、だからといって壊されたのを治したり、新しく作るのはめんどくさい。だからあらかじめネイにそう釘を刺しておく。






「[魔障壁]。じゃ、早速いくよー」






 僕の後ろにある窓ガラスが割れないように[魔障壁]を張り、見えない壁を作り出す。これならネイが魔法を外したりしても窓ガラスが割れる心配はない。






「ほい!」






 まずは手始めに一番大きなブロックをゆっくりと投げる。






「[ウィンドアロー]!」






 するとネイはすぐさま風の矢を作り、発射して僕がたった今なげたブロックに当てる。流石にこれは難易度が優しすぎたか。なら次は難易度を上げて二個同時でどうだ!?






「ほれ!」






「な!? [ウィンドアロー]、[ウィンドアロー]!」






 ネイは僕のその行動に一瞬驚きはしたものの、すぐさまブロックを狙って風の矢を放つ。それら二つの矢は見事それぞれブロックに命中し、僕の後ろに転がっていった。






「なかなかやるね、ネイ。なら次からは僕も本気でやるからね!」






「受けて立つわ!」






 まだまだ僕が持っているブロックはたくさんある。これらを次から次へと投げてやる!






「ほれほれほれほれ!」






「[ウィンドアロー][ウィンドアロー][ウィンドアロー][ウィンドアロー]! あ、外しちゃった!?」






 僕が四つ連続で、それも大きさがバラバラのブロックを高低差をつけて前に放り投げてやると、ネイは四つの内惜しくも一つ外してしまった。その外した風の矢は僕が張った[魔障壁]に当たり、霧散した。やはり[魔障壁]を張っておいて正解だったな。
 そう思いつつ僕はさらにブロックを投げ続けた。






「ほれほれほれほれ!」






「……なにをやってますの?」






「あ、おはよグフッ」






 ネイが魔法を撃っている途中にフレンダさんが教室に入ってきたものだから、ネイの注意がそちらに向き、[ウィンドアロー]の狙いがズレ、それが僕の腹に突き刺さった。幸いネイもブロックを壊さないように威力を抑えてくれたから軽い打撲で済んだのは僥倖か。

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