隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

98話 実力の差と拒否

 僕らの成績と黄金マント君の成績が三倍以上の差もあると? そんなの初めて知ったんだけど。……いや、僕らは黄金マント君の成績を見ていないから知らないのは当たり前か。
 でも何故それだけの差が空いているのかぐらいは簡単に予想がつく。
 このゴールドクラスは天才達の集まりだ。だから筆記も実技も満点を取っているだろう。だから唯一それだけの差が開く試験は最終日の地下迷宮での魔物狩りしか無い。
 ということは……みんなサイクロプス狩りよりもポイント効率が良い方法を見つけた訳じゃなくて、普通に魔物を狩っていたということか。






「一応聞くけど、君達は筆記も実技も満点……いや、満点に近い点数を取ったんだよね?」






 そう言いながら僕は迷宮探索権を与えられると決まった人物は四人しかいないことを思い出した。つまりそれはこの中の半分以上は筆記はともかく実技は満点ではないということになる。なのでそう言い直したのだが、何人かは悔しそうな顔をしていた。






「当たり前だ!」






 だが黄金マント君はそう言い、フレンダさんは特に表情を変化させること無く首を縦に振った。






「なら試験最終日の地下迷宮での魔物狩りで点差が開いたんだよ」






「そんなことは百も承知だ! 俺達は七階層でオークをずっと狩っていたんだ! それなのにおまえ達は何故あれだけの点数を稼ぐことができたんだ!?」






 オークか。
 オークは危険度が青ランクで大人の一人前冒険者がソロで狩るような相手だ。
 七歳の子供が一人前冒険者と同じように狩りできるのだから、やはりこのゴールドクラスには天才が集まっているのだろう。
 そして入学試験でのオークのポイントは二十ポイントだ。他のゴブリンやコボルトといった一ポイントの魔物、普通の七歳の子供が集団で狩るような魔物と比べれば天と地の差があると言って良い。




 だから黄金マント君はオークばかりを狩り続けていれば高成績を残せると思ったのだろう。
 だが、現実は違った。
 僕とネイがオークを狩り続けていた黄金マント君を三倍以上の差もつけた成績を残したのだ。
 そう考えれば黄金マント君が、何故僕らがそれだけの点数を稼げたのか気になるのも仕方ないと言える。
 ただ、なぁ……。言っても信じてくれるかどうか分からないんだよなぁ……。まぁ、いいか。






「僕らは十階層のボス、サイクロプスを延々と狩り続けたんだ。だからオークを狩り続けていた君とは圧倒的な点差が開いたんだと思うよ。サイクロプスは一匹で百ポイント手に入るからね」






「十階層……!? それもサイクロプスだと!?」






 僕がそう言ったとたん、この小さな教室がざわめいた。目の前の黄金マント君も僕の言葉を聞き、唖然としている。
 すると今度は黄金マント君の後ろにいたフレンダさんが口を開いた。






「いえ、それはありえませんわ。サイクロプスは危険度が緑ランクの上位の魔物。一人前冒険者が束になってようやく勝てる相手ですわよ? とてもあなた方が狩れるような魔物ではありません。それに例えそのサイクロプスをあなた方が狩ることができたと仮定しても相当な時間がかかるはずですわ」






 ごもっともです。
 だけどそれが事実なんだから、そう言われてもなぁ……。
 どうしたものか……。






「普通ならフレンダさんが言った通りなんだけど、僕とネイはサイクロプスを瞬殺できるんだ。だから僕らは試験中ずっとボス部屋を出たり入ったりしてサイクロプスを狩り続けていたんだ」






 そう言った途端、教室にいた皆の視線が胡散臭い物を見るような目になった。それは目の前にいる黄金マント君やフレンダさんも同じだ。
 あー、これは皆信じてないな。
 そう思うもこれが事実なんだからこれ以上何も言うこともない。なので僕らはそこから退散することにした。






「じゃあ、僕らは先生に呼ばれてるから。また明日からよろしく」






 そう言って僕はクラスメイト達に軽く手を振りながら教室を出た。しかし彼らは僕の言葉に返事をするどころか、変わることなく胡散臭い者を見る目をしているだけだった。
 ……はぁ。今日はめでたい入学式だというのに、めんどくさいことになってしまった気がする。






「ライン、ありがとね」






 すると職員室に向かう途中、横に並んであるいていたネイが唐突にそんなことを言ってきた。






「ん? 何が?」






 ネイから礼を言われることなんて特にした覚えは無いのだが……。
 そう思っているとネイは僕の手をギュッと握ってきた。






「さっき皆の視線から庇ってくれたこと。あの時あたしは怖くて声も出なかったから……」






「あぁ、そのことか。別にそれぐらいのことで礼を言わなくても良いのに」






 そんなことを言い合いながら、僕らは職員室に向かった。






◇◆◇◆◇◆






「遅かったな」






 職員室から出てきたブレソウル先生に開口一番に僕らはそう言われた。だけどそれくらい許してほしい。






「いや、職員室の場所が分からなくて迷っていたんですよ」






 そう。僕らは手を繋いでイチャイチャとしながら職員室に向かっていたわけだが、その職員室がどこにあるのか知らないということに途中で気づいてからは校舎中を走り回った。
 最初は上級生や教員の人を見つけて道を聞けば済むだろうと軽く考えていたのだが、今日は入学式なので上級生はおらず、教員の人も全く見かけなかった。
 最終的に僕らの教室がある校舎とは全く別の校舎に行ってようやく職員室を見つけることができたのだ。






「……そういえば確かに職員室の場所は伝えてなかったな。すまん」






 そのことを詳細に説明すると先生はそう言って謝ってくれた。
 僕らとしても多少苦労はしたが、校内の見学と思えばこの経験も悪いものでは無かったので、特にそれ以上言及しなかった。






「それで僕らが呼び出された理由は何でしょうか?」






 そして本題に入る。






「あぁ、それはおまえ達が入学試験の時に狩った変異種サイクロプスと魔晶石についてだ。既におまえ達の試験監督であった男からは話を聞いている」






 あ、そのことか。本当にあの試験監督さんは学園側に話しをしてくれたんだ。ありがとうございます!






「ではそのサイクロプスと魔晶石は頂いてもよろしいのですか?」






 さっきブレソウル先生は教室で学園からの魔物の買取を拒否することはできると言っていた。だから僕らが狩った変異種サイクロプスと宝箱から出てきた魔晶石は貰えるんだろうと踏んで僕はそう言ったのだが、ブレソウル先生は眉根を寄せて苦い顔をしながら口を開いた。






「そのことなんだが、変異種の魔物と魔晶石はおまえ達も知っているだろうが稀少な物だ。だから学園側が是非とも買取りたいといっているんだが……」






「拒否します」






 僕はニッコリ笑顔でキッパリとそう言った。






「……だよな」






「はい」






 当たり前じゃないですかー。稀少だからこそ僕は学園側からの買取を拒否したんですからー。
 ブレソウル先生は下を向き、溜め息をつきながらも分かった、と一言。






「ついてこい。変異種サイクロプスと魔晶石が保管されている場所まで案内する」






 そして先生はその言葉とともに歩き出した。僕らもその背中を追う。

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