隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

95話 クラス分けと自己紹介

 第二体育館へと呼び出された僕達新入生は受験番号順に再び並ばされていた。これから何が始まるのか全く聞かされていないので、不安そうな顔をしている子や何が始まるのかワクワクしている子などがたくさんいる。そんな僕とネイはどちらかと言えば不安に襲われていた。






「……クラス分けテストとかあったら嫌だなぁ」






 ……この僕の一言がきっかけで。
 ふと思いついたことを大した考えも無く口に出したこの言葉だが、どうやらこれはネイのメンタルに大ダメージを与えたらしい。






「……そのテストで退学とかって、流石に無いわよ、ね?」






 流石にそれは無い、と言いたかったのだが、ここは学園区域一の難関校だ。前世での学校の常識など通用しないだろうし、難関校と呼ばれている分授業は非常に難しいものとなるだろう。授業に遅れた生徒の救済措置はもしかすると無いかもしれない。
 だからもしかするとクラス分けテストでいきなり退学者が出る可能性があるかもしれない。
 そんなことが頭の中でグルグルと回っていたので僕らは不安に襲われていた。






「静かに」






 パンパンと手を鳴らす音と共にそのような声が前から聞こえてきた。教頭先生だ。これから何が行われるのか、その説明が始まるのだろう。心臓をバクバクとさせながら僕は教頭先生の言葉に耳を傾ける。
 すると教頭先生の後ろにこの学園の教員と思われる人が四人出てきた。






「この四人の先生が君達初等部一年生の担任となる。これからお世話になる先生なのでしっかりと顔と名前を覚えておくように」






 そして、と教頭先生は続ける。






「これからクラス分けも同時に発表する」






 良かった。クラス分けテストなんて無かった。
 そう思ったのはネイも同じようでハァと息を吐いている。
 欲を言えばここでさらにネイと同じクラスになれば最高だ。まぁ、そんな上手いこといくとは思わないけど。
 そう思っていると教頭先生が早速一人目の教師の紹介を始めた。






「まずはゴールドクラスの担任、ブレソウル先生だ」






 教頭先生から紹介されたブレソウル先生は一歩前に出て小さく礼をした。それに対して新入生の皆がパチパチと拍手する。
 僕も周りに流されてパチパチと手を叩く。それと同時に、僕の心臓はドクン、ドクンと、大きく鼓動し始める。
 ……今、教頭先生はゴールドクラスって言った、よな? それならもしかしてクラス分けって……。






「そしてこの学園のローブに金の糸で校章が刺繍されている者はその場で立ち上がりなさい」






 やっぱりか!
 教頭先生のその言葉を聞いたと同時に僕は笑みを浮かべ、笑い声を上げそうになった。ここまで嬉しいと感じることは今まで生きてきた中で一番だ!
 僕の一つ前に座っているネイも、教頭先生のその言葉を聞いたと同時に僕の方に振り返り、笑顔を見せてくれた。どうやら思っていることは同じらしい。
 僕らは笑い合いながら教頭先生の言葉に従って立ち上がる。




 しかしここで僕の笑みは途切れた。
 一、二、三、四……八、九、十。
 教頭先生の言葉を受け、その場で立ち上がったのはたったの十人だったのだ。
 あまりにも少なすぎる。
 ここにいる新入生は十人かける十人でぴったり百人いるはずだ。そしてクラスの担任は四人。単純に考えれば一クラス二十五人のはず……。




 ネイやほかの子供達は何も違和感が無いのかただ単にその場で立っているだけだ。
 だがそれは仕方ないだろう。何せ学校生活を経験するのは今日、いや明日からなのだから。




 だが僕は前世の記憶がある。だからこそこのクラス分けの仕組みに疑問を持った。
 絶対に何かあるだろう、と。
 すると教頭先生は僕のその質問に答えてくれるように、このクラス分けの理由を説明してくれた。






「今立っているこの十人が入学試験の成績トップ10だ。そしてこの優秀者達が集まるクラスがゴールドクラスとなる。他のクラス分けも入学試験の成績順に並べた物となっている」






 教頭先生が言うにはゴールドクラスは十人、シルバークラスは二十人、カッパークラスは三十人、アイアンクラスは四十人となっており、下へ行くほど成績が悪い生徒が集まるということになっているらしい。つまり天才達が集まる学園の中でもさらに厳選された天才が、上へ行けるという仕組みになっているみたいだ。
 また、一年毎にクラス分け試験があり、そこで再び成績順でクラスを決めるそうだ。
 なるほど、うかうかしていると足下を救われるような仕組みなんだな、この学園は。これは気を抜けない学園生活を送ることになりそうだ。






「ではゴールドクラスの生徒はブレソウル先生の後をついて行きなさい」






 ……あれ? 他のクラスの先生の名前とかは聞かなくていいの? あ、いいんですね。はいはい。ついて行きますよ。
 僕とネイは二人横に並んでブレソウル先生の後ろをぴったりとついていく。後ろをチラリと見れば他のゴールドクラスのメンバーもついてきている。




 しかし……このブレソウル先生、近くで見ればなかなか厳つい顔をしていらっしゃる。体格もガッチリとしているし、さらには短く切った濃い茶色の髪と髭に水色の目をしている。
 それに昔は冒険者でもしていたのだろうか。その手は岩肌のようにゴツゴツとしていて、握手をするとそのまま手を握り潰されそうだ。
 さらにその脚はまるでプロアスリート選手のような太い脚をしている。
 この人、魔力なしでもこの世界で生きていけるんじゃないか?
 そう思ってしまうほどこの先生はムッキムキなのだ。






「ここがゴールドクラスの教室だ。入れ」






 そんな風にしてブレソウル先生の観察をしていると、彼は小さな小部屋の前で止まった。言われた通りに扉を開けて中に入ると、そこには前にある教壇から見て、横五かける縦二の形で机と椅子が並べられた空間があった。
 このゴールドクラスの総人数から予想はしていたけど、ちっさい部屋だな! まあ、文句は言わずに入りますけど。
 あ、席は自由なのかな? 特に言われていないし、適当に窓際の後ろの席を取ろう。
 するとネイが僕の隣の席に座ってきた。そして席を僕の方に移動させてくるネイ。おぉう。なんだか積極的ですな。まぁ、一番前の教壇に立った先生も、こちらをチラリと見ただけで何も言ってこないから大丈夫だろう。注意されたらその時に直せばいい。
 他のクラスメイトも各々自由に席に座る。あ、僕らと同じように机をくっつけてるカップルらしき子達がいる。
 そして全員が席に座ると、ブレソウル先生は一通り僕らを見回してから口を開いた。






「先程教頭先生から紹介されたブレソウルだ。これから一年間はお前たちの担任となる。よろしくな。それとこの学校は貴族や平民といった壁は存在しない。あるのは成績のみだ。よってこの学校では基本的に家名を呼ばないのが暗黙のルールとなっている。そこは気をつけるように」






 そう自己紹介と注意事項を簡単に終えたブレソウル先生は教室の端に立って教壇を空け、手に持っていた紙に目を落とした。






「では入学試験の成績順に前に出て自己紹介を始めてもらう。まずはライン」






「うぇ!?」






 席から落ちそうになった。成績順って下からじゃなくて上からってことだよね? ってことは僕首席ですか? 
 いきなり衝撃的な事実に混乱するも、自己紹介をするために仕方なく席を立つ。……いや、忘れかけていたけど、この学年は皆七歳なんだ。精神年齢が二桁を余裕で越えてる僕が首席じゃなかったらどうかしてるな。
 そう考えれば変な緊張が解け、気が楽になった。

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