隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
93話 合格発表とローブ
あの入学試験最終日という名のサイクロプス狩り大会を終えて早くも一週間が経った。
「……ネイ、覚悟はいい?」
「えぇ。大丈夫よ」
今日はサミット学園の入学試験の結果が張り出される日だ。
僕らは筆記、実技ともに問題ないと思っている。
だけど最終日の地下迷宮での狩り。あの時誰も十階層に来なかったのがどうも引っかかるのだ。
もしサイクロプス狩り以外の方法でそれより効率的にポイントを集める手段があったとすれば恐らく僕らは不合格になっているだろう。それは例え筆記と実技の試験が両方満点であってもあり得る話しだ。
天才達が集まると言われるサミット学園の入学試験というのは、そういうものなのだ。
だから僕は心の内に不安を抱えながらネイに覚悟ができているか訊いたのだが、彼女は既に覚悟ができているらしい。背筋をピンと伸ばし、毅然とした様子でいる。
……彼女が覚悟ができているならば、僕もクヨクヨとしていられないな。何せ七歳の女の子、それもフィアンセだ。そんな彼女に情けない姿を見せる訳にはいかない。
「行こうか」
「うん」
どんな現実であっても受け入れる。そう覚悟を決めた僕らは部屋を、そして宿を出てサミット学園へと足を向けた。
そうしてやって来ましたサミット学園。
合格者発表はこの学園の第一体育館の前で大きな紙に張り出されているらしい。
その合格者と不合格者の叫び声が二重奏となってこの学園の入り口まで聞こえてくる。主に悲嘆の叫び声が大きいのは倍率が軽く二十倍を越えているからだろう。
もう試験の結果を見終わったのか帰って行く人がちらほらといる。その中で暗い顔をしている人が、やはりと言うべきか多い。
そんな人達の流れとは反対に僕らは第一体育館へと赴く。
一歩一歩足を踏み出す度にその二重奏が大きな音として耳に入ってくる。そして遠巻きにだが、視界に大きな紙が第一体育館の壁に貼られているのを見つけた。遠すぎるせいでまだ合格者の受験番号は見えない。
[視覚強化]を使って早く結果を見たいという気持ちが心の奥底から湧き上がって来るが、それよりもネイと一緒に結果を見たいという気持ちが強い。そのため僕は視線を少し下に向けてその紙が目に入らないように我慢する。
チラリと横を見ればネイもまた僕と同じように数歩先の地面を見て歩いている。どうやら彼女も僕と同じ気持ちらしい。
そうして僕らは人々の間を縫うようにして結果発表の用紙の前まで来た。
「ネイ、せーので見ようか」
「そうね」
顔を伏せたまま僕らはそう言い、頷き合う。
そして運命の時。
「「せーの!」」
バッ! と顔を勢い良く上げる。
合格者の発表用紙には受験番号順で合格者の受験番号が書かれている。
ということは僕の受験番号は最後の方にーー
「あった!」
それを見つけた瞬間、僕はつい大声を出してしまった。
なぜならしっかりと僕の番号がその用紙の最後に書かれていたからだ。
それだけじゃない。
そこには最後の番号とその一つ手前の番号が連続して書かれていたのだ。
「あ! ホントだ!」
ネイも一歩遅れてそれを見つけたようだ。嬉しそうにその場で両拳を握りピョンピョンと跳ねている。僕もついガッツポーズを決めてしまった。
それだけ僕らはこの学園に合格することができて嬉しいのだ。
「ネイ、今日は合格祝いに何か美味しい物を食べてから帰ろう!」
「いいわね! そうしましょう!」
学園区域一の難関校に合格できた喜びは、貧乏育ち故に普段節約家の気があるネイが一切の躊躇をせずに僕のその提案に乗ってくる程大きなものみたいだ。
そして僕らは帰り際、この王都で一番の有名店で食事をしてから宿へと帰った。ちなみに料金を払う際にどちらが払うかで少しだけ揉めた。まぁこれもまた時間が経てば良い思い出になるだろう。
◇◆◇◆◇◆
前世の世界の桜に似た木々が綺麗なピンク色の花を咲かせ、普通の並木道を明るく彩る。そして下を見ればそれが散った花弁が地面を覆うように広がっている。茶色の地面の部分が全く無い。ピンクの地面だ。
まさにこの季節にピッタリの風景だな。
「ライン、どう?」
「うん。良く似合ってるよ」
「そう? そう言うラインも似合ってるわよ」
「ありがとう」
僕らは予め学園から支給された黒のローブを着てそのピンクに彩られた道を歩いていた。
すると少し前を歩いていたネイはそのローブをチョンと摘み上げ、僕の方に振り返った。
「それにしても……このローブっていくらぐらいするのかしら? ラインには分かる?」
「……うーん。金の刺繍糸なんて今まで見たことないからなぁ。分からないや」
「お貴族様のラインが見たこと無いってことは、このローブは相当高いんじゃ……」
「そうだと思うよ。まぁ学園がタダでくれたんだからそこまで気にしなくてもいいんじゃない?」
僕がそう言ってもネイはしきりに落ち着かなそうな様子をしている。そんな様子のネイを微笑みながら見ながらも、僕は自分が着ているローブをもう一度撫でた。やっぱりこの手触りは癖になるな。
学園から支給されたこのローブは黒い生地をベースに、左胸と背中の部分に金の糸で校章が刺繍されている。
この金の糸だけで恐らく相当なお金がかかっていると思われるが、このローブの高級感はそれだけではない。
先ほどから僕がこのローブを撫でているように、このローブはまるで天使の羽かと錯覚するほどふんわりとした手触りをしているのだ。
このローブは恐らく最高級の物に違いない。
さすが学園区域一の学園である。
ちなみにこれだけの物を支給するぶん授業料などが高くなると思われるのだが、どうやらこの金の刺繍が施されているローブを支給された人は授業料やその他諸々の代金がタダになるという。
学園側が何故僕らにこの金の刺繍のローブを支給してきたのかその理由は分からないが、とにかく得だと言うことであまり深く考えないことにした。
ネイが家族にこれ以上負担をかけないで済むと喜んでいたのでそれで良いだろう。
「ネイ、ちゃんと前を向いて歩きなよ」
ネイがまだローブの端を持ったりして気にしているからちょっとした注意を彼女にする。
今日はこのサミット学園の入学式なのだ。怪我でもしたら幸先が悪い。
ちなみに僕らは少し早めに宿を出て学園側に指定された集合場所に向かっているおかげで、この道には僕ら以外誰もいない。けど後数分もすればこの道は新入生でごった返すだろうな。
そうして僕らは指定された集合場所で時間になるまで待ち、その時間がやってくると受験番号順に並ばされた。どうやらこの順番で入学式が行われる講堂に入場するらしい。
その際他の新入生達のローブを見たのだが、殆どの生徒が黒い生地に灰色や赤褐色の刺繍糸で校章が縫われていた。どうやらこの刺繍糸の色には何か意味があるみたいだけど……考えても分からんな。ちなみに僕らと同じ金色の刺繍糸で校章が縫われているローブを着ている新入生は誰一人見かけなかった。ホント、どういうことなんだろうね。
「……ネイ、覚悟はいい?」
「えぇ。大丈夫よ」
今日はサミット学園の入学試験の結果が張り出される日だ。
僕らは筆記、実技ともに問題ないと思っている。
だけど最終日の地下迷宮での狩り。あの時誰も十階層に来なかったのがどうも引っかかるのだ。
もしサイクロプス狩り以外の方法でそれより効率的にポイントを集める手段があったとすれば恐らく僕らは不合格になっているだろう。それは例え筆記と実技の試験が両方満点であってもあり得る話しだ。
天才達が集まると言われるサミット学園の入学試験というのは、そういうものなのだ。
だから僕は心の内に不安を抱えながらネイに覚悟ができているか訊いたのだが、彼女は既に覚悟ができているらしい。背筋をピンと伸ばし、毅然とした様子でいる。
……彼女が覚悟ができているならば、僕もクヨクヨとしていられないな。何せ七歳の女の子、それもフィアンセだ。そんな彼女に情けない姿を見せる訳にはいかない。
「行こうか」
「うん」
どんな現実であっても受け入れる。そう覚悟を決めた僕らは部屋を、そして宿を出てサミット学園へと足を向けた。
そうしてやって来ましたサミット学園。
合格者発表はこの学園の第一体育館の前で大きな紙に張り出されているらしい。
その合格者と不合格者の叫び声が二重奏となってこの学園の入り口まで聞こえてくる。主に悲嘆の叫び声が大きいのは倍率が軽く二十倍を越えているからだろう。
もう試験の結果を見終わったのか帰って行く人がちらほらといる。その中で暗い顔をしている人が、やはりと言うべきか多い。
そんな人達の流れとは反対に僕らは第一体育館へと赴く。
一歩一歩足を踏み出す度にその二重奏が大きな音として耳に入ってくる。そして遠巻きにだが、視界に大きな紙が第一体育館の壁に貼られているのを見つけた。遠すぎるせいでまだ合格者の受験番号は見えない。
[視覚強化]を使って早く結果を見たいという気持ちが心の奥底から湧き上がって来るが、それよりもネイと一緒に結果を見たいという気持ちが強い。そのため僕は視線を少し下に向けてその紙が目に入らないように我慢する。
チラリと横を見ればネイもまた僕と同じように数歩先の地面を見て歩いている。どうやら彼女も僕と同じ気持ちらしい。
そうして僕らは人々の間を縫うようにして結果発表の用紙の前まで来た。
「ネイ、せーので見ようか」
「そうね」
顔を伏せたまま僕らはそう言い、頷き合う。
そして運命の時。
「「せーの!」」
バッ! と顔を勢い良く上げる。
合格者の発表用紙には受験番号順で合格者の受験番号が書かれている。
ということは僕の受験番号は最後の方にーー
「あった!」
それを見つけた瞬間、僕はつい大声を出してしまった。
なぜならしっかりと僕の番号がその用紙の最後に書かれていたからだ。
それだけじゃない。
そこには最後の番号とその一つ手前の番号が連続して書かれていたのだ。
「あ! ホントだ!」
ネイも一歩遅れてそれを見つけたようだ。嬉しそうにその場で両拳を握りピョンピョンと跳ねている。僕もついガッツポーズを決めてしまった。
それだけ僕らはこの学園に合格することができて嬉しいのだ。
「ネイ、今日は合格祝いに何か美味しい物を食べてから帰ろう!」
「いいわね! そうしましょう!」
学園区域一の難関校に合格できた喜びは、貧乏育ち故に普段節約家の気があるネイが一切の躊躇をせずに僕のその提案に乗ってくる程大きなものみたいだ。
そして僕らは帰り際、この王都で一番の有名店で食事をしてから宿へと帰った。ちなみに料金を払う際にどちらが払うかで少しだけ揉めた。まぁこれもまた時間が経てば良い思い出になるだろう。
◇◆◇◆◇◆
前世の世界の桜に似た木々が綺麗なピンク色の花を咲かせ、普通の並木道を明るく彩る。そして下を見ればそれが散った花弁が地面を覆うように広がっている。茶色の地面の部分が全く無い。ピンクの地面だ。
まさにこの季節にピッタリの風景だな。
「ライン、どう?」
「うん。良く似合ってるよ」
「そう? そう言うラインも似合ってるわよ」
「ありがとう」
僕らは予め学園から支給された黒のローブを着てそのピンクに彩られた道を歩いていた。
すると少し前を歩いていたネイはそのローブをチョンと摘み上げ、僕の方に振り返った。
「それにしても……このローブっていくらぐらいするのかしら? ラインには分かる?」
「……うーん。金の刺繍糸なんて今まで見たことないからなぁ。分からないや」
「お貴族様のラインが見たこと無いってことは、このローブは相当高いんじゃ……」
「そうだと思うよ。まぁ学園がタダでくれたんだからそこまで気にしなくてもいいんじゃない?」
僕がそう言ってもネイはしきりに落ち着かなそうな様子をしている。そんな様子のネイを微笑みながら見ながらも、僕は自分が着ているローブをもう一度撫でた。やっぱりこの手触りは癖になるな。
学園から支給されたこのローブは黒い生地をベースに、左胸と背中の部分に金の糸で校章が刺繍されている。
この金の糸だけで恐らく相当なお金がかかっていると思われるが、このローブの高級感はそれだけではない。
先ほどから僕がこのローブを撫でているように、このローブはまるで天使の羽かと錯覚するほどふんわりとした手触りをしているのだ。
このローブは恐らく最高級の物に違いない。
さすが学園区域一の学園である。
ちなみにこれだけの物を支給するぶん授業料などが高くなると思われるのだが、どうやらこの金の刺繍が施されているローブを支給された人は授業料やその他諸々の代金がタダになるという。
学園側が何故僕らにこの金の刺繍のローブを支給してきたのかその理由は分からないが、とにかく得だと言うことであまり深く考えないことにした。
ネイが家族にこれ以上負担をかけないで済むと喜んでいたのでそれで良いだろう。
「ネイ、ちゃんと前を向いて歩きなよ」
ネイがまだローブの端を持ったりして気にしているからちょっとした注意を彼女にする。
今日はこのサミット学園の入学式なのだ。怪我でもしたら幸先が悪い。
ちなみに僕らは少し早めに宿を出て学園側に指定された集合場所に向かっているおかげで、この道には僕ら以外誰もいない。けど後数分もすればこの道は新入生でごった返すだろうな。
そうして僕らは指定された集合場所で時間になるまで待ち、その時間がやってくると受験番号順に並ばされた。どうやらこの順番で入学式が行われる講堂に入場するらしい。
その際他の新入生達のローブを見たのだが、殆どの生徒が黒い生地に灰色や赤褐色の刺繍糸で校章が縫われていた。どうやらこの刺繍糸の色には何か意味があるみたいだけど……考えても分からんな。ちなみに僕らと同じ金色の刺繍糸で校章が縫われているローブを着ている新入生は誰一人見かけなかった。ホント、どういうことなんだろうね。
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