隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

90話 サイクロプスと魔光線

「オオオオオオオ!」






 門を開ければ部屋の奥にいた巨大な緑の怪物がこちらに向かって吠えてきた。
 目算で三メートルを超える巨体に顔の半分程の割合を占める大きな単眼。そしてその脳天には立派な一本の角が。あれがサイクロプスか。






「ネイはさっきトロールを倒したから次は僕の番ね。[魔光線]を使うからよく見ててよ」






 ドシドシとこちらに向かって来ているトロールから目を離し、ネイに向かって話しかける。






「分かったわ」






 するとネイは一つ頷いた。
 それを確認した僕は一歩前に足を踏み出す。そして右手の人差し指をサイクロプスに向ける。まずは狙いを付けやすいようにレーザーポインターをイメージしたものを魔力を使って指先から放つ。狙いは……単眼と角の間でいいか。






「[魔光線]」






 その瞬間、ドゥン……という大きな音と共にサイクロプスが前のめりになって倒れた。するとネイはすぐさまそのサイクロプスの死体に近づいて傷口を確認している。何をやっているんだろう? 
 あ、試験監督さん。口を開けて呆然としてないでサイクロプスの回収お願いします。






「ネイ、どうしたの?」






 ネイの不思議な行動に疑問を抱いて彼女に聞くと、彼女は先程僕がサイクロプスにつけた傷口を見ながら返事をしてきた。






「傷口を見てラインの[魔光線]がどんな魔法なのか考えてるの!」






「……え?」






 どんな魔法なのか考えてるって……まさかネイは今まで[魔光線]がどんな魔法なのか分かっていないで使ってたの? いや、今までと言ってもトロール戦で使った二回だけだけど。
 それでも二回目にネイが放った[魔光線]はまだまだ改善すべきところが多かったものの、見事にトロールの額を貫いていた。だから[魔光線]の仕組みを見抜いていたと思っていたんだけど……。
 一応聞いてみるか。






「ネイは僕の[魔光線]はどんな魔法だと思ったの?」






 試験監督がサイクロプスを[ストレージ]入れるのを横目で見ながら入り口に帰ってきたネイに尋ねる。すると衝撃的な答えが帰ってきた。






「え? [炎弾]を針のように細くして物凄い速さでピュン! って飛ばす魔法じゃないの?」






「いや、全然違うけど……」






「え!? 嘘!?」






「……本当だよ」






 なるほど。たしかに傷口を見れば焦げ目がついているから[炎弾]を応用したものだと勘違いするのも仕方がないかもしれない。
 でもまさかネイがそんな勘違いするとは思わなかっ……いや、待てよ。
 そもそもこの世界では物理や化学が殆ど研究されていない。研究されているのは魔法ぐらいだ。だからネイが焦げ目があるから火の魔法の類だと勘違いするのは当たり前では? ……うん。あり得るな。






「それ、実は光の魔法なんだ」






「……え? 何言ってるの?」






 あれー? なんでこの子は急に、頭大丈夫? みたいな顔をしてるんだ? っていやいや、そうじゃなくて。






「だから、[魔光線]は[ライト]とかと同じ光の魔法なんだよ」






 いや、戻ってきた試験監督さんもネイと同じような顔しなくていいから。あ、ネイ。背伸びして頭撫でてくれるのは嬉しいけど、そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だから。うん。






「ライン、本当に大丈夫? 今試験中だからお医者さんのところに行くわけには……」






「……うん。全然大丈夫だからとりあえず一旦このボス部屋を出ようか」






 しきりに僕のことを心配してくれるその気持ちは非常にありがたいのだが、何か釈然としないな。ネイにはどう説明しようか……。
 歩きながらウンウンと頭を捻ってどうやってネイに[魔光線]の仕組みを理解してもらおうか考えているとバタン! と派手な音を鳴らしてボス部屋の門が勝手に閉まった。
 あ、ボス部屋を出たら門は勝手に閉まってくれるんだね。
 そんなことを思っているとボス部屋の中から再びサイクロプスが出現したのが魔力探知で分かった。






「ネイ、とりあえず今日は[魔光線]は禁止ね」






「えぇー……」






 僕が門に手をかけているネイに向かってそう言うと、彼女は頬をプクッと膨らまして、いかにも反対です! という顔をしている。






「間違ったイメージで[魔光線]を使い続けるとそっちのイメージでしか使えなくなっちゃうかもしれないからね。また今度手取り足取り教えてあげるから今日は我慢して」






 これまでネイが真似してきた僕の固有魔法は全てどのような魔法なのか分かりやすいものだった。一番わかりにくいのは[風撃]くらいだし、それも完璧に真似できている。だからそれらについては問題ないだろう。
 しかし[魔光線]は違う。僕の固有魔法の中でも、端から見ただけではどういう仕組みなのか一番分かりにくい魔法だ。だからこれは僕が直々に教える必要があるだろう。






「むー……。分かった。絶対に教えてよね! 約束よ!」






「うん。約束ね」






 僕が諭すようにそう言うとネイは渋々とだけど頷いてくれた。聞き分けの良い子でとても助かる。
 そしてネイは門を開けてサイクロプスと対峙した。さっきは僕が狩ったので次はネイが相手をする番なのだ。






「[風撃]!」






 するとネイはサイクロプスが雄叫びを上げる前に[風撃]で倒してしまった。単眼と角の間にある傷口から推測するに、ネイが撃った[風撃]はピンポン球くらいの大きさだ。うーん……ネイも着々と[風撃]を自分の物にしているな。後は小指の先程の大きさまで空気を圧縮できるようになったらパーフェクトだ。
 あ、試験監督さん口開けて呆然としてないでサイクロプスの回収お願いします。




 そうやって僕らは試験が終わるまでサイクロプス狩りをするつもりだった……。
 しかし、サイクロプス狩りに僕らが飽きてきたころ、とんでもない事が起きた。






「何あれ!? 黄色のサイクロプス!?」






 もう何回目のサイクロプス狩りか数えるのを諦め始めた時、ボス部屋の門を開けたらそこにはこれまでのサイクロプスとは違う黄色の肌をしたサイクロプスが立っていたのだ。






「ネイ下がって! 変異種だ!」






 それを視認した瞬間、僕は驚いているネイを強引に後ろに下がらせて前に出る。そして素早く地面に手をついて魔法を発動させた。






「[アイアンウォール]!」






 黄色のサイクロプスの四方を[アイアンウォール]で囲み、一時的に動きを阻害させる。






「オオオオオオオ!」






 しかしその黄色いサイクロプスは雄叫びを上げると同時に、四方を囲む鉄壁の内の一枚を殴り飛ばしてそこから脱出した。だがそれでいい。
 狙いは鉄壁の囲みから出てきたことによって油断したその瞬間!






「[魔掌底]!」






 素早く走り寄り、黄色の横腹に掌底を繰り出すと同時に魔力を乗せた。すると魔力を伴ったことで何倍にも増幅した衝撃がそのサイクロプスの体の内部を駆け巡る。






「オオォ……」






 すると、ズゥン……という音と共にその巨体が地面に膝をついた。
 この隙を逃さずにそのデカい頭に[魔光線]を打ち込む。これで討伐完了だ。ふぅ。危なかった。






「まさかこの地下迷宮で変異種が出てくるなんて……。ライン、大丈夫?」






 するとネイが走り寄って来て、心配してくれた。






「うん。大丈夫だよ」






 どこにも怪我は無いし、事実なのでそう言っておく。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品