隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
88話 一ポイントと階層ボス
まだ試験開始時間にはなっていないが、パーティー毎に並べということなので僕らは小太りのおじさんの前にやってきた。
小太りおじさんは僕らに気づいていないのか、はたまた僕らの顔を忘れてしまったのか定かではないが、僕らが小太りのおじさんの前に来ても彼は何の反応も見せなかった。少し残念。
まぁそういうこともあるか、と気持ちを入れ替える。これから試験なのだ。こんなところでクヨクヨしていられない。
そうしてしばらくの間他の受験生達がパーティーを組み、並ぶのを待っていると、ようやく並び終えたようだ。
小太りのおじさんが再び魔力を使ってマイクのように声を大きくしながら話し出す。
「パーティー毎に並び終えたな。それでは試験監督の方々はそれぞれのパーティーに付いて下さい」
小太りのおじさんがそう言うとこの場に集まっていた大勢の大人達がそれぞれのパーティーに一人づつついた。よく見ればその大人達の腕には試験監督と書かれた腕章が。この人達が試験監督兼荷物持ちの人達か。
僕らのパーティーのところにもその腕章をつけた一人の男性がやってきた。一応目礼しておく。あ、向こうも目礼を返してくれた。
「ではパーティーを早く結成した順番に地下迷宮に入っていきなさい。入ったら即試験開始だ」
小太りのおじさんがそう言うと一番早くにパーティーを結成したらしい五人組の男女とそのパーティー担当の試験監督が地下迷宮の入り口である階段へと足を踏み出した。
地下迷宮の入り口である階段は目算で横十メートル以上もある。そのため見方によっては地面にポッカリと穴が空いているようにも見えるな。
そんなことを考えていると僕達が地下迷宮に入る番がやってきた。
「ライン、行きましょ!」
「そうだね」
合格すれば好きなだけ入ることができるとは言え、やはり特別に入ることが許された者しか足を踏み入れることができない地下迷宮に入るのはワクワクする。それはネイも同様なのか先ほどから目をキラキラとさせている。
そうしてしばらくの間、壁際に取り付けられている魔道ランプの光を頼りに階段を下っていると、僕達の行く先に光が見えてきた。
「おぉ! これが地下迷宮の第一階層か!」
暗い階段から光の下へと出ると、そこには広大な緑の草原とどこまでも続いてゆく青空が広がっていた。
地下なのに何故青空が広がっているのか、とか、どうやってこれだけの広大な敷地を掘ったのか、とか疑問を覚えたものの、それ以上にこの美しく爽やかな景色に心を打たれてしまって、そんな些細なことは気にならなくなった。
「わぁ! 気持ち良い風ね!」
ザァという草を揺らす音とその匂いを風が運んでくる。なんて爽やかな風なんだ。まるで心と体が洗われていくようだ。
深く、深く深呼吸をしてこのおいしい空気を満足いくまで味わってから、僕らはようやく先に進む。
「ねぇ、ライン。この試験はどうやって乗り切るつもりなの?」
のんびりと歩きながら適当な方向に進んでいるとネイがそんなことを聞いてきた。あ、そういえば今は試験中だった。危うく忘れるところだったよ。
しかし忘れかけていたとしても、もうこの試験の攻略法は考えてある。
「それはね……十階層のボスをひたすら狩りまくる!」
地下迷宮には十層ごとに特別な部屋があり、その中にボスと呼ばれる強力な魔物が存在している。
ボスが討伐されると、その部屋の中に人間が居なくなった瞬間、新たなボスが地面や壁から湧き出てくるらしい。
そのためその仕組みを利用して、僕らは十階層のボスを試験時間が終わるまで繰り返し討伐しようと思う。
「確かに大きい数字の階層で狩れる魔物の方がポイントが高いし、十階層のボスが三十ポイントで一番ポイントが高いみたいだから、ラインの案で決まりね」
それをネイに説明するとネイは魔物の名前とそのポイントが記されている紙を見ながら、一つ頷いてこの作戦に従うことを了承してくれた。
ちなみに十階層のボスはこの紙を見る限りではサイクロプスとある。
サイクロプスとは緑の皮膚に、単眼で脳天に一本の角が生えた魔物だ。その大きさは個体によって若干の違いはあるものの、大きさは優に三メートルを超える。
このサイクロプスの危険度はオーガと同じ緑ランクであるが、オーガは緑ランクの下位に位置する魔物で、サイクロプスは緑ランクの上位に位置する魔物だ。とはいえ緑ランクの魔物には変わりないので、僕とネイならば余裕で狩れる相手だ。
「それなら早速僕が次の階層に繋がる階段を見つけてくるよ」
「わかったわ」
ネイとそう言葉を交わした僕はその場でジャンプしてから[風撃]を使い、空を飛んだ。あ、試験監督の人が驚いてら。ま、いいか。
さーて、と。次の階層に繋がっている階段はどこかなー……あ、あれかな?
上から見ると緑の草に隠れるようにして地面にポッカリと穴が開いている場所を見つけた。一面緑の景色の中に一つだけ黒く穴が開いていたので比較的すぐにそれを見つけることができた。
地面にスタッと下りてネイにその報告をする。
「ネイ、ここからあっちの方に行けば階段があったよ」
「ならそっちに行きましょう。時間が限られてるから走るわよ!」
指で方向を指し示しながらネイにそう言うと、彼女はそう言ってすぐさま駆け出した。元気だなぁ、と思いつつ僕も走って彼女の後ろ姿を追う。
そうしてしばらくの間走っていると魔力探知で魔物が前から近づいて来ているのが分かった。
「ネイ!」
「わかってる!」
ネイに注意するよう言おうとしたのだが、彼女はすぐさまそう返してきた。どうやら彼女も既に魔力探知を使用していたらしい。彼女は前方にいる魔物に向けて魔法を放った。
「[風撃]!」
「ギャ!?」
ネイの魔力によってピンポン球のサイズにまで圧縮された空気弾がその魔物、ゴブリンの頭を貫通した。
「[ストレージ]」
すると僕らの後ろを付いてきていた試験監督が[ストレージ]にそのゴブリンの死体を入れてくれた。
「これで一ポイントゲットってわけね」
「うん」
ポイントが入ったのを記録するためか、試験監督が[ストレージ]から出したメモ用紙と思われる紙に何かを書いている。恐らく僕らが得たポイントをメモしているのだろう。
試験監督がそれらを再び[ストレージ]に仕舞ったのを確認して僕らは再び走り出す。
そんな風にして僕らは次の階層に繋がる階段を最短で探し、進行方向を塞ぐように迫ってくる魔物を倒して次々と階層を更新していった。
そして今僕らは八階層の林の中を走っている。既に空を飛んで次の九階層へと続く階段の場所は見つけたのだが、僕らはそちらへと行かず少し寄り道をすることにした。
各階層に不定期に現れる階層ボスと呼ばれる強い魔物を見つけたからだ。ただ強いとはいってもその階層の魔物達より一回り強いに過ぎない。ただし不定期に現れ、その階層より強い魔物なので得られるポイントが大きいのだ。そのため僕らはその階層ボスを倒してから九階層に行くことにした。
小太りおじさんは僕らに気づいていないのか、はたまた僕らの顔を忘れてしまったのか定かではないが、僕らが小太りのおじさんの前に来ても彼は何の反応も見せなかった。少し残念。
まぁそういうこともあるか、と気持ちを入れ替える。これから試験なのだ。こんなところでクヨクヨしていられない。
そうしてしばらくの間他の受験生達がパーティーを組み、並ぶのを待っていると、ようやく並び終えたようだ。
小太りのおじさんが再び魔力を使ってマイクのように声を大きくしながら話し出す。
「パーティー毎に並び終えたな。それでは試験監督の方々はそれぞれのパーティーに付いて下さい」
小太りのおじさんがそう言うとこの場に集まっていた大勢の大人達がそれぞれのパーティーに一人づつついた。よく見ればその大人達の腕には試験監督と書かれた腕章が。この人達が試験監督兼荷物持ちの人達か。
僕らのパーティーのところにもその腕章をつけた一人の男性がやってきた。一応目礼しておく。あ、向こうも目礼を返してくれた。
「ではパーティーを早く結成した順番に地下迷宮に入っていきなさい。入ったら即試験開始だ」
小太りのおじさんがそう言うと一番早くにパーティーを結成したらしい五人組の男女とそのパーティー担当の試験監督が地下迷宮の入り口である階段へと足を踏み出した。
地下迷宮の入り口である階段は目算で横十メートル以上もある。そのため見方によっては地面にポッカリと穴が空いているようにも見えるな。
そんなことを考えていると僕達が地下迷宮に入る番がやってきた。
「ライン、行きましょ!」
「そうだね」
合格すれば好きなだけ入ることができるとは言え、やはり特別に入ることが許された者しか足を踏み入れることができない地下迷宮に入るのはワクワクする。それはネイも同様なのか先ほどから目をキラキラとさせている。
そうしてしばらくの間、壁際に取り付けられている魔道ランプの光を頼りに階段を下っていると、僕達の行く先に光が見えてきた。
「おぉ! これが地下迷宮の第一階層か!」
暗い階段から光の下へと出ると、そこには広大な緑の草原とどこまでも続いてゆく青空が広がっていた。
地下なのに何故青空が広がっているのか、とか、どうやってこれだけの広大な敷地を掘ったのか、とか疑問を覚えたものの、それ以上にこの美しく爽やかな景色に心を打たれてしまって、そんな些細なことは気にならなくなった。
「わぁ! 気持ち良い風ね!」
ザァという草を揺らす音とその匂いを風が運んでくる。なんて爽やかな風なんだ。まるで心と体が洗われていくようだ。
深く、深く深呼吸をしてこのおいしい空気を満足いくまで味わってから、僕らはようやく先に進む。
「ねぇ、ライン。この試験はどうやって乗り切るつもりなの?」
のんびりと歩きながら適当な方向に進んでいるとネイがそんなことを聞いてきた。あ、そういえば今は試験中だった。危うく忘れるところだったよ。
しかし忘れかけていたとしても、もうこの試験の攻略法は考えてある。
「それはね……十階層のボスをひたすら狩りまくる!」
地下迷宮には十層ごとに特別な部屋があり、その中にボスと呼ばれる強力な魔物が存在している。
ボスが討伐されると、その部屋の中に人間が居なくなった瞬間、新たなボスが地面や壁から湧き出てくるらしい。
そのためその仕組みを利用して、僕らは十階層のボスを試験時間が終わるまで繰り返し討伐しようと思う。
「確かに大きい数字の階層で狩れる魔物の方がポイントが高いし、十階層のボスが三十ポイントで一番ポイントが高いみたいだから、ラインの案で決まりね」
それをネイに説明するとネイは魔物の名前とそのポイントが記されている紙を見ながら、一つ頷いてこの作戦に従うことを了承してくれた。
ちなみに十階層のボスはこの紙を見る限りではサイクロプスとある。
サイクロプスとは緑の皮膚に、単眼で脳天に一本の角が生えた魔物だ。その大きさは個体によって若干の違いはあるものの、大きさは優に三メートルを超える。
このサイクロプスの危険度はオーガと同じ緑ランクであるが、オーガは緑ランクの下位に位置する魔物で、サイクロプスは緑ランクの上位に位置する魔物だ。とはいえ緑ランクの魔物には変わりないので、僕とネイならば余裕で狩れる相手だ。
「それなら早速僕が次の階層に繋がる階段を見つけてくるよ」
「わかったわ」
ネイとそう言葉を交わした僕はその場でジャンプしてから[風撃]を使い、空を飛んだ。あ、試験監督の人が驚いてら。ま、いいか。
さーて、と。次の階層に繋がっている階段はどこかなー……あ、あれかな?
上から見ると緑の草に隠れるようにして地面にポッカリと穴が開いている場所を見つけた。一面緑の景色の中に一つだけ黒く穴が開いていたので比較的すぐにそれを見つけることができた。
地面にスタッと下りてネイにその報告をする。
「ネイ、ここからあっちの方に行けば階段があったよ」
「ならそっちに行きましょう。時間が限られてるから走るわよ!」
指で方向を指し示しながらネイにそう言うと、彼女はそう言ってすぐさま駆け出した。元気だなぁ、と思いつつ僕も走って彼女の後ろ姿を追う。
そうしてしばらくの間走っていると魔力探知で魔物が前から近づいて来ているのが分かった。
「ネイ!」
「わかってる!」
ネイに注意するよう言おうとしたのだが、彼女はすぐさまそう返してきた。どうやら彼女も既に魔力探知を使用していたらしい。彼女は前方にいる魔物に向けて魔法を放った。
「[風撃]!」
「ギャ!?」
ネイの魔力によってピンポン球のサイズにまで圧縮された空気弾がその魔物、ゴブリンの頭を貫通した。
「[ストレージ]」
すると僕らの後ろを付いてきていた試験監督が[ストレージ]にそのゴブリンの死体を入れてくれた。
「これで一ポイントゲットってわけね」
「うん」
ポイントが入ったのを記録するためか、試験監督が[ストレージ]から出したメモ用紙と思われる紙に何かを書いている。恐らく僕らが得たポイントをメモしているのだろう。
試験監督がそれらを再び[ストレージ]に仕舞ったのを確認して僕らは再び走り出す。
そんな風にして僕らは次の階層に繋がる階段を最短で探し、進行方向を塞ぐように迫ってくる魔物を倒して次々と階層を更新していった。
そして今僕らは八階層の林の中を走っている。既に空を飛んで次の九階層へと続く階段の場所は見つけたのだが、僕らはそちらへと行かず少し寄り道をすることにした。
各階層に不定期に現れる階層ボスと呼ばれる強い魔物を見つけたからだ。ただ強いとはいってもその階層の魔物達より一回り強いに過ぎない。ただし不定期に現れ、その階層より強い魔物なので得られるポイントが大きいのだ。そのため僕らはその階層ボスを倒してから九階層に行くことにした。
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