隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

83話 受験番号と受験会場

「ねぇ、まだ?」






「まだ」






 ネイがそう言ってくるも、今はまだその時じゃない。
 ほら、また一人やってきた。






「……ねぇ、もうそろそろ良いんじゃない?」






「いや、まだだよ」






 しばらくすると再びネイがそう言ってくる。半ば急かすように言ってくるのは焦っている証拠だろう。
 だけど甘い。甘いぞ、ネイ。
 まだその時じゃ無いのだ。
 僕はネイに返事をしながら建物の影から顔を少し出し、彼らの様子を探る。






「…………ねぇ、流石にもうヤバいんじゃーー」






「よし、今だネイ! 走れ!」






「あ、ちょ! もう、何よ!」






 僕はその時を逃さず、すぐさまその建物の影から出て一目散に目標に向かって走る。
 ネイも何か叫びながらも僕の後ろについて走っている。うむ。流石はネイ。僕の行動に遅れを取ることなくしっかりとついてきた。
 ネイが後ろにいることを確認して、僕は門の前で机を広げている人達に向かって大声をあげる。






「すいませーん! 僕らもそれ受けまーす!」






 するとこれからその机を撤去しようと動き出していた人達がこちらを振り返った。どうやら気づいてもらえたみたいだ。
 その人達は上げていた腰を下ろして再び受付の業務に戻る。いや、正確には僕らが無理矢理戻らせたと言った方が正しいか。
 まぁ何はともあれこうやってギリギリ間に合わせたのだ。これで僕の狙い通りになるだろう。






「はいはい。元気がいいな、君ら。ここに名前と、住所か今借りている宿の名前を書いて」






「わかりました。ネイ、先に書きなよ」






 席に戻ったその男性は慣れた様子で様々な人の名前とその連絡先が書かれたリストを差し出してきた。
 それを受け取って、ネイに渡す。
 すると彼女はプクッと頬を膨らまして怒ったような表情をした。






「むー。先に飛び出していったくせに、なんでこれはあたしに先に書かせるのよ!」






「それは僕が一番最後の受験番号を取りたいからだよ!」








 そんなことを言いあいながら、僕らはサミット学園の受験申し込み者リストの一番下の欄に名前と宿名を書く。そして書き終わったそれを受付の男性に返すと、彼は笑いながら番号が書かれた薄い木の板を差し出してきた。






「ははは。それなら君の望み通り最後の受験番号をあげよう。もう誰もこないだろうし、これで受験の申し込み受付は終わりだからね」






 そう言って受付の男性が差し出してきた木の板には四桁の数字が書いてあった。
 僕らは礼を言ってそれらを受け取る。






「だけど入学試験の日は今みたいにギリギリで来ちゃダメだぞ。もし遅れたらそれだけで失格になっちゃうからな」






「「はーい!」」






 そんなことは百も承知だが、受付の男性の言葉に対して僕らは子供らしく手を挙げてそう返事をするだけに留めた。
 最後の受験番号を狙った本当の理由は、僕らが受験生達から注目を浴びられたくないというシンプルなものだが、そんなことはいちいち言わなくても良いだろう。






◇◆◇◆◇◆






 それが二週間前の話。
 そして今日はその入学試験当日だ。




 今僕とネイはサミット学園の講堂の前に立っていた。






「おっきいわね……」






「そうだね……」






 僕らはまだ誰もいない講堂を見て呆然としながらもそんな感想を言い合う。
 この講堂は石造りの壁に木張りの床という非常にシンプルな造りをしている。しかし大きさは前世の学校のそれとは桁違いであり、電車の車庫と同じかそれ以上の大きさをしている。






「おや? もう来たのか。早いね」






 すると背後からそんな声が聞こえてきた。二人そろって振り返るとそこには小太りのおじさんが。この学校の職員の方だろうか。
 その男性はそう言うと僕らの横を通り過ぎ、カツカツと講堂の前に向かって歩いていった。






「僕らも入ろうか」






「そうね」






 小太りのおじさんに続くように、ネイと顔を見合わせて入学試験の会場であるこの講堂の中に足を踏み入れる。
 講堂の中には縦横にズラッと何列も並んでいる長机があり、その長机一つにつき二脚の椅子が両端に並べられている。
 そしてその長机の左右の両端には番号が書かれた木の板が置かれていた。これは……受験番号か。
 各々別れて自分の番号を探す。とは言っても僕らは最後に申し込みをしたから数字が大きい方に向かって歩いていけばいい。






「あ、ラインもこの机なのね」






「うん。ネイと一緒だったね」






 すると二人そろって同じ長机に着席した。
 僕らは同じタイミングで受験の申し込みをしたから連続した番号だったのである。そのため僕らは一緒の長机を共有して筆記試験に望むこととなった。
 知らない人が横に来るより気心が知れた僕が隣にいた方がネイも精神的に楽だろうから、この配置にしてくれた学園に感謝である。




 そうして僕らはのんびりとしながら話していると、僕らの声だけが響いていた講堂が時間が経つにつれ徐々に他の人の声も響くようになってきた。
 その頃になって僕らは周りを見渡す。






「うわ、凄い人だな」






「……なんかお貴族様しかいない気がするのは気のせいかしら?」






 周りを軽く見ただけで様々な髪色をした子供達がたくさんいる。前世の黒一色だった日本人とは違い、この世界には様々な髪色が存在するためだ。
 だがそれだけでなく煌びやかな服装をしている子供も何人かいた。中には黄金色のマントをファサァとたなびかせながら歩いている子も。……全然似合ってないな。
 そんな格好をした子ども達ばかりではないが、とはいえネイの言葉も一応当たってはいる。見たところ、僕らが初めて出会った頃のネイと同じような服装をしている子供は一人もいない。皆綺麗な服を着て来ている。






「まぁここは学園区域一の難関校であるサミット学園だからね。優秀な成績を残せる子供はかなり限られているんじゃないかな。それこそネイが言った通り貴族の子供とかね」






「それもそうね……」






 ネイは貧乏育ち故なのか貴族に対して恐れを抱いているところがある。そのため彼女は殆どが貴族であるこの空間で非常に辛そうにしていた。
 そんな様子のネイに向かって、僕は頭を優しく撫でながら彼女を元気づける。






「ネイ、そんなに緊張しなくても良いよ。ほら、僕なんかも貴族なんだしそんな恐がらなくても大丈夫だって」






「……うん。そうよね。これからはもっとたくさんのお貴族様と話すことになるかもしれないんだから、今から緊張していてはダメよね!」






 すると彼女の緊張が解けてきたのか、張りつめていた雰囲気がだんだんと緩んできた。うん。これならもう大丈夫だろう。きっといつもの調子で試験に臨めるはずだ。
 それから僕らは周りの人達の服装を遠目に眺めながら話しをしていた。




 そうやって時間を潰していると前の方から魔力の波動がやって来た。それに気付きそちらの方向に僕らが顔を向けた直後、パンパンと二回手をたたく音がその魔力の波動に乗って聞こえてきた。
 どうやら魔力で手をたたく音を大きくして、数多の子供がいるこの講堂中に音を届けているみたいだ。






「静かに。これから筆記試験を始める。問題用紙と解答用紙を配るからそれはまだ触らないように」






 その声の主は先程僕らに声をかけてきた小太りのおじさんだった。

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