隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

73話 空中戦と地上戦

「[風撃]!」






 自分の背後に範囲を広げた[風撃]を発動し、全力で空高くに蹴り飛ばした魔人を追う。
 ちなみに既に[万声変化]は使っているので、魔法を唱えても声でバレる心配はない。






「ま、待て!」






 すると何やら先程魔人と戦っていた冒険者ギルドのギルド職員のおじさんが僕に向かってそんなことを言ってきた。しかしそれに僕が気づいたのは既に大空を羽ばたいていた後である。何か話があるとしてももう遅い。とは言っても何かを話すつもりは端からないが。
 それにしても……この高さまでおじさんの声が聞こえるとか、あのおじさんはどういう喉をしているんだ? いや、まぁ興味はないけどさ。




 そんなこんなで僕は下にやっていた視線を前に向ける。
 するとそこには何やら必死な様子で手足をバタバタと動かしている魔人の姿が。うーん。実に滑稽な姿だ。




 ともかくこれで王都の中から魔人を引き離すことができたんだ。ひとまずは安心だな。
 それじゃあどこか適当な場所にこいつを叩き落とそう。どこかいい場所……といっても開けた場所が王都の外壁の周りにある草原しかないか。しょうがない。そこにこの魔人を叩き落とすことにするか。






「[風撃]」






 空中でさらに自分の背後に[風撃]を発動させて加速する。そして魔人の上を取った所でその腹を目掛けて思いっきりパンチをする。






「ガア!」






 だがその瞬間、ガシッ、と。
 魔人の手のひらが僕の拳が受け止めた。






「はぁ!?」






 そしてそのままグルン、と。魔人は空中で体全体を百八十度回転させ、その勢いに任せて僕を下に投げつけた。
 風切り音が普通に飛んでいた時より遥かにうるさい。どれだけ力強く投げたんだよ……!






「[風撃]!」






 その下向きの勢いを何とか[風撃]で緩和、そして自らの体を上方向へと再度発射させる。おぇ……体がフワッてなった……。
 それはともかく、僕は再び魔人の上を取る。
 ……パワードスーツを着ていたから余裕だと思っていたけど、よく考えれば相手はあの魔人だ。油断などしていると今のように一瞬で殺られるな。
 気合いを入れ直してもう一度魔人を地面に叩き落とすことを試みる。とはいっても今の魔人は体の前面が地上に向いているので油断しなければどうということはない。






「うらぁ!」






「ガァ!?」






 空中で前回りをするように縦回転をし、魔人の腰目掛けてかかと落としを喰らわせる。当然全力で。すると凄まじい勢いで魔人は地面に向かって落下していった。それを確認して僕も[風撃]を使って魔人を追う。
 風切り音を鳴らしながら落下する魔人とそれを追う僕。
 そしてズドン! という音と共に地面に叩きつけられた魔人。その魔人に続くように僕は膝を前に突き出して魔人の腰目掛け着地、もといスーパー膝蹴りを繰り出す。
 ズガァン! 
 辺り一帯に響き渡る豪快な激突音。






「グガァ!?」






 そして魔人の叫び声。
 地面は陥没し、まるで地割れのような罅が幾本も周りに入る。そして一気に巻き起こる土煙。その量は、密度は、尋常な量ではなく目の前の魔人が見えない。
 これだけを見ればどれだけの高度から魔人を叩き落とし、どれだけの破壊力を秘めた追撃を行ったか分かろうものである。
 ちなみにもちろん僕は魔人に激突する直前に[剛体]を使って防御力をグンと上げているので落下による被害や攻撃の反動による被害は特に無い。しいて言えばこれから貰うことになる目の前の魔人の素材に豪快な傷を付けてしまっただろう事か。
 そして膝蹴りを魔人に入れた体勢からその場から飛び退き、距離を取る。






「ガァ……」






 今の呻き声とザリ、という土を踏みしめるような音から、どうやら魔人が起きあがったみたいだ。土煙のせいでよく見えないが多分合っているだろう。あ、土煙は吹き飛ばせばいいのか。






「[ストーム]」






 土煙に向かって……ではなく、主に魔人に向かって僕は[ストーム]を放つ。[ゲイル]にしなかったのは特に理由は無いが、強いて言うならあれだ。魔人が相手だからだ。
 すると僕が放った風によって隠れていた魔人の姿が露わになる。あ、向こう向いてる。チャーンス。






「[ゾーン][神足][剛体・脚]!」






 [ゾーン]で全感覚を強化して[神足]のスピードに対応し、同時に[神足]による超スピードで助走をつけて[剛体・脚]で硬化した脚の蹴りを魔人の背中に叩き込む。






「グァ!?」






 それに加えてパワードスーツの効果もある。
 見事に地面をバウンドしながら吹き飛んでいった魔人。それを見てつい、おー、と口から感嘆の声が出てしまった。
 けれどそこは魔人。それだけ吹っ飛んで地面に数回バウンドしてもなお立ち上がった。






「ガァァ……」






「マジかよ……」






 まるで獣や魔物のように低く唸りながらゆっくりとこちらを振り向く魔人。僕のことをようやく見つけたようだ。
 だが僕はそんなことより、魔人の体を見て信じられないものを見たような錯覚に陥った。






「あれだけの攻撃を加えても無傷なんて……」






 僕はたしかに魔人の背中と腰にそれぞれ強烈な一撃を叩き込んだはずだ。しかしこちらを振り向く前の魔人の背中には傷一つ無かった。
 何かの間違いかと信じたく無かったが、魔人の動きを見ても不自然な所は一つもない。そのことから本当に魔人には先の二撃が効いていないのだと思い知った。
 どれだけタフなんだよ……!




 両拳を構える。
 この前の魔人戦での落とし穴のような物は無い。
 つまりここからは本格的な殴り合いだ。




 魔人も僕の出す戦意を感じ取ったのだろう。






「ガアアアアア!」






 雄叫びを上げながらこちらに向かって走り寄ってくる。それもただ走るのではなく、両の手のひらを握って。






「[ブースト]! はあああああ!」






 多量の魔力をパワードスーツごと体全体に巡らせる。
 そしてそれにタイミングを合わせ、迎え撃つ。
 魔人が全力で振りかぶり、顔へ飛ばしてきたパンチを首を捻ることによって避ける。
 その状態からさらに僕は一歩中へ踏み込み、魔人の鳩尾目掛けて拳を喰らわせる。






 ドン!






「ガハァ!?」






 そうして完璧に入ったカウンターは辺りにその衝撃音を轟かせ、魔人の体を宙に浮かせた。さっき王都の中で喰らわせたアッパーよりも強力な一撃だ。強靭なタフネスを誇る流石の魔人にも効いたと思われる。
 しかし魔人は体をくの字に曲げて宙に浮いた状態から体勢を立て直し、僕の顔目掛けて蹴りを放ってきた。






「ふっ!」






 浅く息を吐いてしゃがみ、それをギリギリで躱す。
 だが掠ったようでチリ、という音が鳴った。が、気にしない。
 僕はしゃがんだ体勢から、両手を地面につけて頭を下にする。そうして体全体を縮めませた状態から、魔人の顎を狙って全身を勢いよく伸ばす!






「ガ……」






 おっし! 綺麗に入った!
 あまり人体の構造には詳しくないが魔人の体内の構造は、この間解体した感じだと、恐らく人間とほぼ同じだ。つまり顎を強く揺らせば脳震盪を起こせるはず……!

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