隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
70話 ネイと中層
僕らはシンリョクの森の外縁部をのんびりと歩きながらリトルオークを狩っていた。
「[水刃斬撃]!」
平らで丸く、そして高速回転している水の塊が飛んでいく。その先には水刃に気づき慌てた様子のリトルオークがいた。……今はもう首と胴体が離れてしまっているが。
「どう! 上手くできたよね!?」
ネイが満面の笑みを浮かべながらそう聞いてくる。それに対して僕は若干の呆れを含ませながらも返答する。
「うん。ネイが使っているところは初めて見たけど、今の[水刃斬撃]は良かったと思うよ。ちなみにいつからその魔法を練習してたの?」
「え? これも今やってみたばっかりよ?」
「……あ、やっぱりそうなんだね」
もう今日で何度目か分からないやりとりをする。
ネイはあれから僕の[風撃]だけでなく、今のように[水刃斬撃]や[炎弾]も使って見せた。それも練習無しの一発で。流石に今の僕が使っている程綺麗な形ではないが、それでも一発で成功させた彼女の才能に僕は驚きすぎて呆れてしまった。
「これでリトルオーク五匹の討伐は済んだけど、体調はどう?」
「体調? あぁ、魔力量のことね。そっちは全然大丈夫よ。まだまだ魔法を放てるわ!」
僕はネイが魔力欠乏状態に陥らないか心配して彼女の体調を訊いたのだが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。彼女は余裕を見せて[ライト]まで使っている。
「まぁ、あまり調子に乗らないようにね」
「むー。大丈夫って言ってるのにー」
僕が[ライト]を指差してそう注意すると彼女は頬をぷくっと膨らませてそう言ってきた。その頬を見るとプスッと人差し指で刺したい気持ちが浮かんできたのでやってみると、彼女は、もー! と言いながらポカポカと僕を叩いてきた。うむ。非常に可愛らしい反応である。
いや、それは置いといて。
「それなら一回この森の中層に行ってみない?」
シンリョクの森の中層。
そこは冒険者でいうと、青ランクや緑ランクの一人前冒険者と呼ばれる人達が数人纏まってようやく攻略できる場所らしい。ミアさんがそう言っていたので間違いない。
だが今のネイの実力ならば、既に中層でも一人で攻略できると僕はみている。
僕? 僕は大丈夫だよ。昼間のシンリョクの森の中層より、夜のシンリョクの森の方が数段危険だからね。夜のシンリョクの森を経験している僕からすればシンリョクの森の中層なんてお茶の子さいさいである。……ただし油断はしない。したら死ぬかもしれないから。
閑話休題
ネイに中層に行くかどうか訊いてみると彼女は少し迷った様子を見せた後、覚悟を決めたのかキリッとした表情で首を縦に振った。
「じゃ、行こうか」
少し緊張しすぎなネイの心をほぐすために、気楽な感じでそう言う。しかしそれでも彼女の顔は緊張の色を濃く残していた。まぁそれも時間が経てばその場の雰囲気に慣れてくるだろう。
そうやって中層に入ってからしばらく歩いていると僕の魔力探知に魔物の反応が。チラリとネイを見ると彼女はいまだに緊張しているようだ。……少し彼女の緊張をほぐすか。
「ネイ、あっちにオークがいるからちょっと一人で狩ってみてよ」
「え!? そんな! ラインが手伝ってくれるのならまだしも、一人でオークの相手をするなんてあたしにはまだ無理よ!」
いやいや、ネイさんや。そうやって拒否せんでも、あなたは自分が思っているより強くなっているんやでぇ。
そんな事を思いながら僕はネイの背後に周り、その脇に手をスッと入れて持ち上げ、そのままオークの下へとシャコシャコと走る。
「いやいやいや! ちょっと待ってよ! ねぇ!」
僕はそんなネイの叫びを無視してオークがいる方へ行く。するとネイの叫び声が向こうにも聞こえたのかオークが前方の木の陰からヌッと姿を現した。
ちょうどいい距離だ。
僕はネイを前につき出して砲台の固定具役を勤める。
「よーし。ネイさんや、やってしまえぇ!」
「いやぁぁぁ! ふ、[風撃]、[風撃]、[風撃]ぃ!」
僕が号令を出すのとオークがノシノシとこちらに向かって走ってきたのは同時だった。
ネイはノシノシと近づいてくるオークに恐怖を覚えたのか、[風撃]を連発しまくる。
「あ、ちょ、まっ! やりすぎやりすぎ! やりすぎだから! ネイ、ストーップ!」
だがオーク一体に[風撃]三発はさすがにやりすぎである。本来ならば一発でも十分なのだ。
既にノシノシと近づいてきていたオークはミンチどころか赤いシミになっている。
僕は混乱するあまりそれでも[風撃]をさらに連発しているネイを地面に下ろして必死に落ち着かせる。
そうして数分後。
ようやくネイを落ち着かせることができた。
「もー! ラインのバカバカバカ! ほんっとにバカ!」
……落ち着かせることができたと思ったが、まだ落ちついて無かったらしい。バカバカと叫びながら僕の胸をポコポコと叩いてくる。
「ご、ごめんて。ネイがあまりにも緊張していた様子だったから、緊張を和らげるために、ね?」
僕がそう言って繰り返し謝ると彼女はなんとか機嫌をなおしてくれたようだ。まだ少しムスッとしているが、まぁいいか。
「でもこれでネイも中層で狩りができるね!」
中層は一人前冒険者が数人集まって攻略できる場所だ。つまりそれだけ強い魔物が集まっているわけで、それは当然数人で報酬を分配できるほど高価な魔物なわけで……といったことがネイの脳裏にちらついているのだろう。ネイの顔がだんだんと明るく、いや、目がお金になって煌めいてきている。
「ライン! 早速魔物狩りに行きましょう!」
「もうここは中層なんだけどね」
なんともまぁ分かりやすい反応だな。でもこれくらい元気でなきゃ彼女らしくない、と思うところはあるので、これでいいと思う。
彼女のそんなテンションに若干苦笑しながらも僕はズンズンと力強く前を歩くネイについて行く。
本当はここで魔道具の御披露目をやりたかったんだけど……まぁネイが楽しそうにしているから良いか。
……と僕はつい先程までそう思っていた。
「ネイ、オーガがーー」
「[水刃斬撃]!」
「ネイ、今度はオークがーー」
「[炎弾]!」
「ネイ、オーーー」
「[風撃]ぃ!」
ドサリ、と膝から崩れ落ちるオーガ。そのオーガの胸にはネイが[風撃]で開けた小さな穴が。
これがお金の力なのか?
恐るべしお金の力。
いやいや、そんなことを言っている場合じゃないぞ。
これはいよいよ不味くなってきた。僅か一日でネイに実力を抜かされるのは流石の僕でも許容できない。ここは僕もいっちょ本気を出して……
「ライン! オーガの解体終わったわ! 次は!?」
「あ、うん。あっちの方向にオーーー」
「行くわよ! ライン!」
「……うん」
ダメだ。完全に主導権を七歳の女の子に握られている。どうすればいいんや……。
「[水刃斬撃]!」
平らで丸く、そして高速回転している水の塊が飛んでいく。その先には水刃に気づき慌てた様子のリトルオークがいた。……今はもう首と胴体が離れてしまっているが。
「どう! 上手くできたよね!?」
ネイが満面の笑みを浮かべながらそう聞いてくる。それに対して僕は若干の呆れを含ませながらも返答する。
「うん。ネイが使っているところは初めて見たけど、今の[水刃斬撃]は良かったと思うよ。ちなみにいつからその魔法を練習してたの?」
「え? これも今やってみたばっかりよ?」
「……あ、やっぱりそうなんだね」
もう今日で何度目か分からないやりとりをする。
ネイはあれから僕の[風撃]だけでなく、今のように[水刃斬撃]や[炎弾]も使って見せた。それも練習無しの一発で。流石に今の僕が使っている程綺麗な形ではないが、それでも一発で成功させた彼女の才能に僕は驚きすぎて呆れてしまった。
「これでリトルオーク五匹の討伐は済んだけど、体調はどう?」
「体調? あぁ、魔力量のことね。そっちは全然大丈夫よ。まだまだ魔法を放てるわ!」
僕はネイが魔力欠乏状態に陥らないか心配して彼女の体調を訊いたのだが、どうやらその心配は杞憂だったようだ。彼女は余裕を見せて[ライト]まで使っている。
「まぁ、あまり調子に乗らないようにね」
「むー。大丈夫って言ってるのにー」
僕が[ライト]を指差してそう注意すると彼女は頬をぷくっと膨らませてそう言ってきた。その頬を見るとプスッと人差し指で刺したい気持ちが浮かんできたのでやってみると、彼女は、もー! と言いながらポカポカと僕を叩いてきた。うむ。非常に可愛らしい反応である。
いや、それは置いといて。
「それなら一回この森の中層に行ってみない?」
シンリョクの森の中層。
そこは冒険者でいうと、青ランクや緑ランクの一人前冒険者と呼ばれる人達が数人纏まってようやく攻略できる場所らしい。ミアさんがそう言っていたので間違いない。
だが今のネイの実力ならば、既に中層でも一人で攻略できると僕はみている。
僕? 僕は大丈夫だよ。昼間のシンリョクの森の中層より、夜のシンリョクの森の方が数段危険だからね。夜のシンリョクの森を経験している僕からすればシンリョクの森の中層なんてお茶の子さいさいである。……ただし油断はしない。したら死ぬかもしれないから。
閑話休題
ネイに中層に行くかどうか訊いてみると彼女は少し迷った様子を見せた後、覚悟を決めたのかキリッとした表情で首を縦に振った。
「じゃ、行こうか」
少し緊張しすぎなネイの心をほぐすために、気楽な感じでそう言う。しかしそれでも彼女の顔は緊張の色を濃く残していた。まぁそれも時間が経てばその場の雰囲気に慣れてくるだろう。
そうやって中層に入ってからしばらく歩いていると僕の魔力探知に魔物の反応が。チラリとネイを見ると彼女はいまだに緊張しているようだ。……少し彼女の緊張をほぐすか。
「ネイ、あっちにオークがいるからちょっと一人で狩ってみてよ」
「え!? そんな! ラインが手伝ってくれるのならまだしも、一人でオークの相手をするなんてあたしにはまだ無理よ!」
いやいや、ネイさんや。そうやって拒否せんでも、あなたは自分が思っているより強くなっているんやでぇ。
そんな事を思いながら僕はネイの背後に周り、その脇に手をスッと入れて持ち上げ、そのままオークの下へとシャコシャコと走る。
「いやいやいや! ちょっと待ってよ! ねぇ!」
僕はそんなネイの叫びを無視してオークがいる方へ行く。するとネイの叫び声が向こうにも聞こえたのかオークが前方の木の陰からヌッと姿を現した。
ちょうどいい距離だ。
僕はネイを前につき出して砲台の固定具役を勤める。
「よーし。ネイさんや、やってしまえぇ!」
「いやぁぁぁ! ふ、[風撃]、[風撃]、[風撃]ぃ!」
僕が号令を出すのとオークがノシノシとこちらに向かって走ってきたのは同時だった。
ネイはノシノシと近づいてくるオークに恐怖を覚えたのか、[風撃]を連発しまくる。
「あ、ちょ、まっ! やりすぎやりすぎ! やりすぎだから! ネイ、ストーップ!」
だがオーク一体に[風撃]三発はさすがにやりすぎである。本来ならば一発でも十分なのだ。
既にノシノシと近づいてきていたオークはミンチどころか赤いシミになっている。
僕は混乱するあまりそれでも[風撃]をさらに連発しているネイを地面に下ろして必死に落ち着かせる。
そうして数分後。
ようやくネイを落ち着かせることができた。
「もー! ラインのバカバカバカ! ほんっとにバカ!」
……落ち着かせることができたと思ったが、まだ落ちついて無かったらしい。バカバカと叫びながら僕の胸をポコポコと叩いてくる。
「ご、ごめんて。ネイがあまりにも緊張していた様子だったから、緊張を和らげるために、ね?」
僕がそう言って繰り返し謝ると彼女はなんとか機嫌をなおしてくれたようだ。まだ少しムスッとしているが、まぁいいか。
「でもこれでネイも中層で狩りができるね!」
中層は一人前冒険者が数人集まって攻略できる場所だ。つまりそれだけ強い魔物が集まっているわけで、それは当然数人で報酬を分配できるほど高価な魔物なわけで……といったことがネイの脳裏にちらついているのだろう。ネイの顔がだんだんと明るく、いや、目がお金になって煌めいてきている。
「ライン! 早速魔物狩りに行きましょう!」
「もうここは中層なんだけどね」
なんともまぁ分かりやすい反応だな。でもこれくらい元気でなきゃ彼女らしくない、と思うところはあるので、これでいいと思う。
彼女のそんなテンションに若干苦笑しながらも僕はズンズンと力強く前を歩くネイについて行く。
本当はここで魔道具の御披露目をやりたかったんだけど……まぁネイが楽しそうにしているから良いか。
……と僕はつい先程までそう思っていた。
「ネイ、オーガがーー」
「[水刃斬撃]!」
「ネイ、今度はオークがーー」
「[炎弾]!」
「ネイ、オーーー」
「[風撃]ぃ!」
ドサリ、と膝から崩れ落ちるオーガ。そのオーガの胸にはネイが[風撃]で開けた小さな穴が。
これがお金の力なのか?
恐るべしお金の力。
いやいや、そんなことを言っている場合じゃないぞ。
これはいよいよ不味くなってきた。僅か一日でネイに実力を抜かされるのは流石の僕でも許容できない。ここは僕もいっちょ本気を出して……
「ライン! オーガの解体終わったわ! 次は!?」
「あ、うん。あっちの方向にオーーー」
「行くわよ! ライン!」
「……うん」
ダメだ。完全に主導権を七歳の女の子に握られている。どうすればいいんや……。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
221
-
-
439
-
-
1978
-
-
4112
-
-
75
-
-
353
-
-
381
-
-
2813
-
-
549
コメント