隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

68話 風撃と天才

 ネイの[ストレージ]にホーンラビットの死体を入れ、僕達は再びシンリョクの森を探索する。すると少し進んだところでまた僕の魔力探知に魔物の反応があった。この魔力探知の反応には嫌という程見に覚えがある。ゴブリンだ。






「ん? 何かがこっちに近づいてくるわね。三匹の塊だからゴブリンかコボルトかしら?」






 そのゴブリン達の魔力をネイも魔力探知で感じ取ったのだろう。そんな呟きを洩らした。
 だが彼女は魔物がいるということは分かっても、それがどのような魔物がなのかはまだ分からないみたいだ。まぁそのレベルに達するにはもっと魔力探知を使いこなさなければならないからまだ先の話だ。
 だから僕は首を掲げているネイに答えを教える。






「これはゴブリンの反応だよ。ネイが言った通りこのゴブリン達は三匹纏まっているね」






「そうなんだ。これがゴブリンの反応ね」






 僕がネイにそう教えると、彼女は一つ頷きそう言った。
 ネイは勉強熱心で、さらにスポンジのように教えたことを片っ端から吸収していくから僕も教えがいがある。
 そんな感想を抱きながら、僕らは靴に魔力を流す。ミッドナイトオウルの革のおかげで足音を完全に消すことができるのだ。
 そしてソロソロと魔力探知に反応があったゴブリン達の下へ行く。






「ギャギャギャ」






「ギギャギャ」






「ギャギャギャギギャ」






 すると前方からゴブリン独特の話し声が聞こえてきた。ネイと目を合わせて頷きあう。そして僕らは近くの木の陰に素早く隠れた。
 そうして少しの間息を殺していると今度は話し声だけではなく足音も聞こえてくるようになってきた。もう大分近くまできているみたいだ。
 再びネイの方を見ると彼女は顔を半分出してゴブリン達が来るほうを覗いてる。すると僕の視線に気づいたようでこちらを見てきた。




 ネイは自分を自分の人差し指で指し示す。そのジェスチャーから、僕はネイが相手をするってことなんだろうな、と感づいて一つ頷く。
 僕がそう頷きを返すと彼女は再び顔を半分程木の陰から出してゴブリン達の様子を伺う。攻撃をする素振りを見せないからまだゴブリンの姿は見えないのだろう。魔力探知の反応からだいたいの距離を割り出してもまだ少し遠い。




 もうそろそろかな? 僕が魔力探知の反応からおおよその距離を割り出した限りではそのゴブリン達はここから約二十メートル程先にいる。ここが森の中だと考えると、すぐ近くまできているはずだ。だけど未だにネイは動こうとしない。
 ゴブリン達にバレる危険が高まるけど、僕も顔を半分出してゴブリン達の様子を見てみようか。
 そんな考えが頭の中に浮かび上がってきた頃、ようやくネイに動きがあった。顔を半分出している状態から、右手の手のひら部分をさらに木の陰から出した。
 それを見て僕は彼女がとうとう攻撃の体勢に入ったと感づき、彼女の体内の魔力の動きを観察する。




 ふむふむ。ネイの心臓部分にある魔力がネイの手のひらに少しだけ集まってきている。うん。ゴブリンを倒す程度なら適切な魔力量だろう。
 それで? 魔力を手のひらから少しだけ出して周りの空間に飛び散らせてるな。お? その魔力が球体のように形作られていってるぞ? なるほど。[ウィンドボール]を放とうとしているのか。でもそれだと魔力量が多すぎやしないかい? 




 ネイの魔力の動きを見ながらそんなことを考えていると、さらにネイは手のひらに集めた魔力を動かした。




 あ、さらに魔力を放出させてる。つまりは大きな[ウィンドボール]で三匹纏めて殺るのかな? それならその多すぎる魔力量も納得できる……あれ? なんでいま放出した魔力を、先に出した魔力を覆うように動かしてるんだ? [ウィンドボール]ならそんなことせずに、すぐさま発射すればいいものを……。あれ? なんかネイの魔力で作られた球体が少しずつ小さくなっているような……。あ、さらに魔力を出してその球をさらに小さくする……って、おい待て。ネイさんや、それはまさかのまさかですか? その魔法の過程は見たことある、というか僕にとってとても馴染みがある魔力の動きなんですが!?




 僕がネイの魔力の動きを見てそう驚いていると、ネイがチラリとこちらを見て笑った。
 ……この子、確信犯だな。




 するとさらにネイは魔力を出して、さらにその球体を小さく、正しく言えば、空気を圧縮している。そしてそれを手のひら大の大きさにまで圧縮した。






「[風撃]!」






 そして発射。
 ネイが放った[風撃]は恐ろしいことに、僕が隠れていた木も含めた周りの木々をなぎ倒しながら三匹のゴブリンを襲った。結果は……まぁ言うまでもない。グロテスクな血溜まり×3ができていたとだけ言っておく。






「……いつの間に僕の[風撃]を使えるようになったのさ」






「えへへ。どう? 凄いでしょ!」






 ネイは喜色満面の笑みを浮かべて僕に向かってピースをしながらそう言ってきた。
 ぐぬぬ。悔しいがちょっと可愛いと思ってしまった。……っは!? 僕はロリコンじゃないぞ! ……あれ? 同じ七歳だから関係ない……? 






「どうしたの、ライン?」






 僕が頭の中でロリコンについての定義と現実について一人押し問答していると、ネイが僕の顔を覗きこみながらそう聞いてきた。






「……正直ビックリしたよ。まさか僕の固有魔法の[風撃]を使えるようになっていたなんてね。いったいいつから練習してたのさ」






 [風撃]は一日二日で真似ができるようなちゃちな魔法ではない。それこそ何ヶ月もかけて、僕の場合は一年かけて今の[風撃]に辿り着いたのだ。その苦労はこの魔法を開発した僕が自身が一番よく知っている。
 だからネイがこの一ヶ月をかけてできるようになったと言うのなら、悔しいが、驚きだ。彼女は僕より魔法の才能があるということなのだろう。
 そう悟り、あきらめ混じりのため息を吐きながらそう聞く。すると彼女は信じられないことを言ってきた。






「え? 今初めてやってみたの。どうだった?」






「……はい? いつやったって?」






 僕は自分の耳がどうかしてしまったのだろうか。たった今挑戦してみてできました、みたいな事を言われた気がするのだが。






「だから今初めてやってみたの」






「……」






 声が出ない。
 まさか一回やってみてできましたと言われた気がするのだが。




 ……いや、現実を受け止めるんだ僕。ネイが天才かもしれないとは前から薄々と気づいていたじゃないか。そうだ。彼女は天才なんだ。だからできたんだ。受け入れるんだ、僕。




 そうやって現実を受け入れたからだろうか。思わず地面に膝をつき、両手も地面につけてうなだれる。






「ど、どうしたのライン?」






 急に僕が両手両膝を地面につき、うなだれたからだろう。ネイは僕に何が起きたと慌てているみたいだ。だけど今の僕は悪いけどネイに気を配る心の余裕がない。




 少しの間そうやっているとようやく心に余裕が出てきた。両手両膝についた土を手で払いネイに顔を向ける。






「……えっと、大丈夫?」






 そう言われて僕は、はぁ、とため息をはく。たった七歳の女の子、それも婚約者の前で情けない姿を見せてしまった自分が残念でならなかった。あまつさえ心配までかけてしまったようだ。






「うん。もう大丈夫。心配かけてごめん」






 気持ちを入れ替えるように一度パンパンと両頬を叩いてからそう言った。

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