隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~
28話 初の実戦と砂漠の洞窟
とうとう魔法陣実験の準備が整った。
この準備が全て終わるまで二カ月もかかったよ……。
なかなか大変な作業ばかりだったけれど、この実験を成功させれば自由に魔道具を作ることが出来るようになるはず! ということを考えればそれ程苦ではなかった。
「よし。ふたりとも準備できた?」
「はい」
「出来ましたよ!」
サーシャとアンナも出発の準備が出来たようだ。
二人はいつも着ているメイド服ではなく、各々動きやすい格好をしている。共に長袖長ズボンなのはやはり森に入るためかな。
そういう僕も、もちろん二人と同様に長袖長ズボンである。ただ、これから行くのは森の先にある砂漠なのでこの格好は少し心配だ。二人はこの格好でいいと言っていたけど……。確か地球では砂漠にすむ人たちは長袖だった気がするから、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
そして三人揃って身につけているのは茶色の皮鎧である。
最後に武器だが、僕とアンナは普通の剣、サーシャは短杖を持っている。杖は素手で魔法を発動する時より魔法の威力が増加される。なので僕も杖を持ちたかったのだが、アンナとサーシャに却下された。僕の場合は素手でも充分な威力の魔法を発揮出来るからだとか。
「じゃ、行こうか」
忘れ物が無いことを確認し、全ての荷物をそれぞれの[ストレージ]に入れる。そして家の戸締まりを確認し、最後にサーシャが家の周りに結界を張る。これで僕達以外、家の中には誰も入れない。……僕らが外出している間に両親が帰ってこないことを祈っておこう。
家から北東に向かって一時間程まっすぐ進むと、巨大な木々が生い茂っているのが見えてきた。あれが森か。
ここから左右を見渡しても地平線の彼方まで緑色が広がっている。どうやらこの森は相当規模が大きいようだ。
「薪小屋にある薪ってもしかしてこの森の木なの?」
「そうですよ」
ふと思ったことをアンナに聞くと、彼女はそう答えた。
家の周りは草原で、木は一本たりとも生えていなかったので、この森から木を取ってきているのではないかと思ったが、案の定ここの木だったようだ。
今後木材が必要になったら、僕もここの木を取りに来よう。
◇◆◇◆◇◆
森の中は木々が生い茂っているが意外に明るい。木々の間隔が広いせいかな? 
そんなことを考えていると、サーシャとアンナが注意するよう促してきた。
「坊ちゃま。ここからは気を引き締めて下さい。草原とは違って障害物が多いので、魔物がどこから来ているか分からないときが多々ありますから」
「まぁ坊ちゃまは魔力探知に集中していてください。私とサーシャさんで魔物の相手をしますので」
確かに二人が言う通り戦闘は任せた方がいいかもしれないな。僕はまだ魔物と直接戦ったことがないから。
けれどこの世界で暮らしていく以上、魔物との戦闘が避けられない状況に対面するかもしれない。
その時のことを考えると、二人がいる安全な時に戦闘を経験しておくのは悪いことではないはずだ。むしろチャンスだろう。
そう思い口を開く。
「いや、魔物との戦闘を経験したいから僕が戦う。二人は僕が戦う様子を後ろで見ててよ」
「……承知しました。ですが危険と判断した場合は介入させてもらいます。アンナもそれでいいわね?」
「はい。いいですよ」
「ありがとう」
サーシャは少しの間考えた後、そう言った。サーシャから質問されたアンナも即座に賛同してくれた。
こうして二人の了承を得ることができたので、僕は早速魔力探知を発動させる。
魔石を体内に持つ動物、通称魔物は生きている間、常に魔力を体外に垂れ流している。その垂れ流された魔力は時間が経つと大気と混ざり合いすぐに分からなくなる。しかし垂れ流されたばかりの魔力は、大気中の魔力とは異なるので魔力探知ですぐに見つける事ができるのだ。
「……いた、こっちだ。三匹いる」
魔物はすぐに見つかった。
普通ならば魔物との戦闘は避けてさっさと砂漠を目指すべきなのだが、今回は違う。見つけた魔物の方に向かって、足音をたてずに慎重に歩いていく。
すると、やがてその魔物の姿が見えた。
それは緑色の肌をした人型の魔物。
あれは……
「……葉緑体人間?」
「「ゴブリンです」」
あ、そうですか。
なるほど、あれがゴブリンね。初めて見たよ。
よくよく見れば牙が出ていたり、小さな角が生えている。確かに人間じゃないな。
身長は僕より高い。大人の女性の平均くらいはあるんじゃないだろうか。
そのゴブリン三匹組はまだ此方に気づいていないようだ。
ならばここは先手必勝。
右手を前に出し、周辺の空気を手のひらの前で一気に圧縮させる。そして三匹の中で一番背が高い真ん中のゴブリン、大ゴブリンを狙う。同時に魔力で作った不可視のパイプ、魔力パイプを形成。
ここまでで約二秒。
「[風撃]!」
圧縮させた空気の塊を一気に解放する。
魔力パイプがあることで圧縮された空気が一方向に流れる。
そしてその空気は、その先にある物体、大ゴブリンの頭にぶつかり、押しのけ、そして吹き飛ばす。
吹き飛んだ大ゴブリンは背後にあった大木に頭から激突し、絶命した。
……あれ、頭潰れたよね? ドパァッて音がしたもん。うわぁ、見たくないなぁ。
そんなことを頭の中で考えながらも、素早く剣を抜き、残りの二匹のゴブリンに向かって走る。
三秒。
「[ゾーン]、[ブースト]!」
[ゾーン]で感覚、[ブースト]で身体能力をそれぞれ強化する。
すると目に映る景色の全てが遅くなった。
ゴブリン達は、未だに何が起こったか理解出来ていないようで僕の存在に気がついていない。
その隙を逃さずに間を詰め、そして小ゴブリンの横を通り過ぎる。
「ふん!」
その通り過ぎざま、小ゴブリンの首を力任せに断ち切る。
四秒。
「グギャギャギャギャ!」
そこで最後の一匹、中ゴブリンがようやく僕の存在に気づいたようだ。
だけどもう遅い。
僕は左足をブレーキ兼回転軸にし、ゴブリンに向き直る。
そのまま右半身を引いた状態でいる僕は、既に次の技を出す準備を終えている。
「[ストライク]!」
突きのアーツ、[ストライク]。
中ゴブリンに放ったそれは、狙い違わずそのゴブリンの首を突き、絶命させた。
五秒。
「……ふぅ」
周りを魔力探知で調べ、他の魔物がいないことを確認してから僕は一つ溜め息をついた。思った以上に疲れたな。
パチパチパチパチパチパチ
拍手がする方を見るとサーシャとアンナがいた。そんな拍手する事でも無いだろうに。大袈裟だなぁ。
「すごいですよ、坊ちゃま! 一瞬で三匹のゴブリンを倒しちゃいましたね!」
アンナが興奮した様子でそう言ってきた。
「ゴブリン三匹に五秒ですか。六歳でそんなことが出来るのは坊ちゃまくらいでしょう」
サーシャもそう言って褒めてくる。
なんだか恥ずかしいからやめてほしい……。
「しかし……坊ちゃまの[ストーム改]もしばらく見ない間に随分と様変わりなさいましたね」
「……よく覚えてるね」
そういえば[風撃]は[ストーム]を改良しまくって攻撃魔法にしたやつだっけ。何回も改良を重ねている内にそんな名前をつけたことも忘れてたよ。
「坊ちゃま、魔石を取り出しましょうか」
「あ、うん」
そうだった。魔物は心臓部分に魔石を持っている。魔石は魔道具の燃料となるのでしっかりと取っておかないと。
「ナイフでここを縦に、ここまで切ってください」
「うん。……こう、かな?」
「そうです。上手ですね。そしたら次はここをこうやってーー」
魔石の取り出し方をアンナに教わりながらやってみる。
取り出しやすそうな中ゴブリンから解体しているのだが、これがなかなか難しい。
「ふー。やっと取れた」
「お疲れ様でした、坊ちゃま。そろそろ血の匂いにつられて他の魔物が来ると思うので、後は私に任せてください」
「もうそんなに時間が経ってたのか。そういうことなら任せるよ」
アンナにナイフを手渡し、彼女が小ゴブリンを解体している様子を見る。
「坊ちゃま」
するとサーシャから声を掛けられた。何だろう?
「どうしたの、サーシャ?」
「こちらをご覧ください」
そう言って彼女は手のひらの上に乗っている物を見せてきた。これは……
「魔石? 割れてるけど……」
「坊ちゃまの仰る通りこれは割れた魔石です。先程坊ちゃまが倒された三匹のゴブリンの内、これは一番背の高いゴブリンの魔石なのですが、そのゴブリンは頭から胸にかけて、上半身の殆どが潰れていました」
「え……」
さっき撃った[風撃]は、ゴブリンの体が潰れないように威力を大分抑えたつもりだったのだが……。それでも潰れてしまったのか。
「今回はゴブリンなので特に損失はありませんが、魔物の中には牙や目など、頭の部位が錬金術などの素材になるものもたくさんおります。なので次からはなるべく最小限の攻撃で倒すことを目標にしてください。もちろんこれは余裕がある時の話です。坊ちゃまの命に関わる時は今のようにしていただいても大丈夫です」
「わかった」
最小限の攻撃か……。もう少し威力を抑えた魔法を考えないとダメだな。
そんな事を考えながら二時間程魔力探知を使って歩いていると、ようやく森を抜けた。
そこからしばらく歩くと、やがて砂漠が見えてきた。
砂漠に近づくにつれ、段々と空気が乾燥していくのが感じられる。
日差しも強く、温度が高くなってきた。
そのせいか吹いてくる風は熱風だ。
さらにその熱風は細かい砂を一緒に運んでくるのだから質が悪い。
「ここは死の砂漠と呼ばれ、外縁部は問題ありませんが、深く立ち入った者は、例え魔物であっても容赦なく命を奪うとされています。実際に過去、何度か調査隊が入って行きましたが、その全ての隊はこの砂漠の餌食になりました」
「……そんなところで僕らは実験するのか」
こんな過酷な環境ならば、しっかりとした準備をしていないと容易に死人が出るだろう。だが、流石に何も準備せずに、この過酷な環境に足を踏み入れる程調査隊も馬鹿ではないはずだ。つまりこの砂漠で調査隊や魔物が命を落としたのは他に要因があるはず……。
「坊ちゃま、実験場所はあそこの洞窟にしましょう」
考え事に耽っているとアンナから声をかけられた。彼女が指差す先を見ると、そこには巨大な岩山が。その岩山の下にはアンナの言う通り洞窟がある。中も狭くなさそうだ。それに風の影響を受けないので、実験場所としてはピッタリだろう。
「魔物もいないみたいだしそうしようか」
魔力探知で辺りを調べ、何もいない事を確認する。
僕達はアンナが見つけた洞窟に入った。中は入り口から入り込んでくる光のおかげで、少し暗いと感じる程度に明るい。そして直射日光から逃れたせいか幾分涼しく感じる。それでも暑いことには変わりないが。
「じゃあ、ちゃちゃっと実験の用意をしようか」
この準備が全て終わるまで二カ月もかかったよ……。
なかなか大変な作業ばかりだったけれど、この実験を成功させれば自由に魔道具を作ることが出来るようになるはず! ということを考えればそれ程苦ではなかった。
「よし。ふたりとも準備できた?」
「はい」
「出来ましたよ!」
サーシャとアンナも出発の準備が出来たようだ。
二人はいつも着ているメイド服ではなく、各々動きやすい格好をしている。共に長袖長ズボンなのはやはり森に入るためかな。
そういう僕も、もちろん二人と同様に長袖長ズボンである。ただ、これから行くのは森の先にある砂漠なのでこの格好は少し心配だ。二人はこの格好でいいと言っていたけど……。確か地球では砂漠にすむ人たちは長袖だった気がするから、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
そして三人揃って身につけているのは茶色の皮鎧である。
最後に武器だが、僕とアンナは普通の剣、サーシャは短杖を持っている。杖は素手で魔法を発動する時より魔法の威力が増加される。なので僕も杖を持ちたかったのだが、アンナとサーシャに却下された。僕の場合は素手でも充分な威力の魔法を発揮出来るからだとか。
「じゃ、行こうか」
忘れ物が無いことを確認し、全ての荷物をそれぞれの[ストレージ]に入れる。そして家の戸締まりを確認し、最後にサーシャが家の周りに結界を張る。これで僕達以外、家の中には誰も入れない。……僕らが外出している間に両親が帰ってこないことを祈っておこう。
家から北東に向かって一時間程まっすぐ進むと、巨大な木々が生い茂っているのが見えてきた。あれが森か。
ここから左右を見渡しても地平線の彼方まで緑色が広がっている。どうやらこの森は相当規模が大きいようだ。
「薪小屋にある薪ってもしかしてこの森の木なの?」
「そうですよ」
ふと思ったことをアンナに聞くと、彼女はそう答えた。
家の周りは草原で、木は一本たりとも生えていなかったので、この森から木を取ってきているのではないかと思ったが、案の定ここの木だったようだ。
今後木材が必要になったら、僕もここの木を取りに来よう。
◇◆◇◆◇◆
森の中は木々が生い茂っているが意外に明るい。木々の間隔が広いせいかな? 
そんなことを考えていると、サーシャとアンナが注意するよう促してきた。
「坊ちゃま。ここからは気を引き締めて下さい。草原とは違って障害物が多いので、魔物がどこから来ているか分からないときが多々ありますから」
「まぁ坊ちゃまは魔力探知に集中していてください。私とサーシャさんで魔物の相手をしますので」
確かに二人が言う通り戦闘は任せた方がいいかもしれないな。僕はまだ魔物と直接戦ったことがないから。
けれどこの世界で暮らしていく以上、魔物との戦闘が避けられない状況に対面するかもしれない。
その時のことを考えると、二人がいる安全な時に戦闘を経験しておくのは悪いことではないはずだ。むしろチャンスだろう。
そう思い口を開く。
「いや、魔物との戦闘を経験したいから僕が戦う。二人は僕が戦う様子を後ろで見ててよ」
「……承知しました。ですが危険と判断した場合は介入させてもらいます。アンナもそれでいいわね?」
「はい。いいですよ」
「ありがとう」
サーシャは少しの間考えた後、そう言った。サーシャから質問されたアンナも即座に賛同してくれた。
こうして二人の了承を得ることができたので、僕は早速魔力探知を発動させる。
魔石を体内に持つ動物、通称魔物は生きている間、常に魔力を体外に垂れ流している。その垂れ流された魔力は時間が経つと大気と混ざり合いすぐに分からなくなる。しかし垂れ流されたばかりの魔力は、大気中の魔力とは異なるので魔力探知ですぐに見つける事ができるのだ。
「……いた、こっちだ。三匹いる」
魔物はすぐに見つかった。
普通ならば魔物との戦闘は避けてさっさと砂漠を目指すべきなのだが、今回は違う。見つけた魔物の方に向かって、足音をたてずに慎重に歩いていく。
すると、やがてその魔物の姿が見えた。
それは緑色の肌をした人型の魔物。
あれは……
「……葉緑体人間?」
「「ゴブリンです」」
あ、そうですか。
なるほど、あれがゴブリンね。初めて見たよ。
よくよく見れば牙が出ていたり、小さな角が生えている。確かに人間じゃないな。
身長は僕より高い。大人の女性の平均くらいはあるんじゃないだろうか。
そのゴブリン三匹組はまだ此方に気づいていないようだ。
ならばここは先手必勝。
右手を前に出し、周辺の空気を手のひらの前で一気に圧縮させる。そして三匹の中で一番背が高い真ん中のゴブリン、大ゴブリンを狙う。同時に魔力で作った不可視のパイプ、魔力パイプを形成。
ここまでで約二秒。
「[風撃]!」
圧縮させた空気の塊を一気に解放する。
魔力パイプがあることで圧縮された空気が一方向に流れる。
そしてその空気は、その先にある物体、大ゴブリンの頭にぶつかり、押しのけ、そして吹き飛ばす。
吹き飛んだ大ゴブリンは背後にあった大木に頭から激突し、絶命した。
……あれ、頭潰れたよね? ドパァッて音がしたもん。うわぁ、見たくないなぁ。
そんなことを頭の中で考えながらも、素早く剣を抜き、残りの二匹のゴブリンに向かって走る。
三秒。
「[ゾーン]、[ブースト]!」
[ゾーン]で感覚、[ブースト]で身体能力をそれぞれ強化する。
すると目に映る景色の全てが遅くなった。
ゴブリン達は、未だに何が起こったか理解出来ていないようで僕の存在に気がついていない。
その隙を逃さずに間を詰め、そして小ゴブリンの横を通り過ぎる。
「ふん!」
その通り過ぎざま、小ゴブリンの首を力任せに断ち切る。
四秒。
「グギャギャギャギャ!」
そこで最後の一匹、中ゴブリンがようやく僕の存在に気づいたようだ。
だけどもう遅い。
僕は左足をブレーキ兼回転軸にし、ゴブリンに向き直る。
そのまま右半身を引いた状態でいる僕は、既に次の技を出す準備を終えている。
「[ストライク]!」
突きのアーツ、[ストライク]。
中ゴブリンに放ったそれは、狙い違わずそのゴブリンの首を突き、絶命させた。
五秒。
「……ふぅ」
周りを魔力探知で調べ、他の魔物がいないことを確認してから僕は一つ溜め息をついた。思った以上に疲れたな。
パチパチパチパチパチパチ
拍手がする方を見るとサーシャとアンナがいた。そんな拍手する事でも無いだろうに。大袈裟だなぁ。
「すごいですよ、坊ちゃま! 一瞬で三匹のゴブリンを倒しちゃいましたね!」
アンナが興奮した様子でそう言ってきた。
「ゴブリン三匹に五秒ですか。六歳でそんなことが出来るのは坊ちゃまくらいでしょう」
サーシャもそう言って褒めてくる。
なんだか恥ずかしいからやめてほしい……。
「しかし……坊ちゃまの[ストーム改]もしばらく見ない間に随分と様変わりなさいましたね」
「……よく覚えてるね」
そういえば[風撃]は[ストーム]を改良しまくって攻撃魔法にしたやつだっけ。何回も改良を重ねている内にそんな名前をつけたことも忘れてたよ。
「坊ちゃま、魔石を取り出しましょうか」
「あ、うん」
そうだった。魔物は心臓部分に魔石を持っている。魔石は魔道具の燃料となるのでしっかりと取っておかないと。
「ナイフでここを縦に、ここまで切ってください」
「うん。……こう、かな?」
「そうです。上手ですね。そしたら次はここをこうやってーー」
魔石の取り出し方をアンナに教わりながらやってみる。
取り出しやすそうな中ゴブリンから解体しているのだが、これがなかなか難しい。
「ふー。やっと取れた」
「お疲れ様でした、坊ちゃま。そろそろ血の匂いにつられて他の魔物が来ると思うので、後は私に任せてください」
「もうそんなに時間が経ってたのか。そういうことなら任せるよ」
アンナにナイフを手渡し、彼女が小ゴブリンを解体している様子を見る。
「坊ちゃま」
するとサーシャから声を掛けられた。何だろう?
「どうしたの、サーシャ?」
「こちらをご覧ください」
そう言って彼女は手のひらの上に乗っている物を見せてきた。これは……
「魔石? 割れてるけど……」
「坊ちゃまの仰る通りこれは割れた魔石です。先程坊ちゃまが倒された三匹のゴブリンの内、これは一番背の高いゴブリンの魔石なのですが、そのゴブリンは頭から胸にかけて、上半身の殆どが潰れていました」
「え……」
さっき撃った[風撃]は、ゴブリンの体が潰れないように威力を大分抑えたつもりだったのだが……。それでも潰れてしまったのか。
「今回はゴブリンなので特に損失はありませんが、魔物の中には牙や目など、頭の部位が錬金術などの素材になるものもたくさんおります。なので次からはなるべく最小限の攻撃で倒すことを目標にしてください。もちろんこれは余裕がある時の話です。坊ちゃまの命に関わる時は今のようにしていただいても大丈夫です」
「わかった」
最小限の攻撃か……。もう少し威力を抑えた魔法を考えないとダメだな。
そんな事を考えながら二時間程魔力探知を使って歩いていると、ようやく森を抜けた。
そこからしばらく歩くと、やがて砂漠が見えてきた。
砂漠に近づくにつれ、段々と空気が乾燥していくのが感じられる。
日差しも強く、温度が高くなってきた。
そのせいか吹いてくる風は熱風だ。
さらにその熱風は細かい砂を一緒に運んでくるのだから質が悪い。
「ここは死の砂漠と呼ばれ、外縁部は問題ありませんが、深く立ち入った者は、例え魔物であっても容赦なく命を奪うとされています。実際に過去、何度か調査隊が入って行きましたが、その全ての隊はこの砂漠の餌食になりました」
「……そんなところで僕らは実験するのか」
こんな過酷な環境ならば、しっかりとした準備をしていないと容易に死人が出るだろう。だが、流石に何も準備せずに、この過酷な環境に足を踏み入れる程調査隊も馬鹿ではないはずだ。つまりこの砂漠で調査隊や魔物が命を落としたのは他に要因があるはず……。
「坊ちゃま、実験場所はあそこの洞窟にしましょう」
考え事に耽っているとアンナから声をかけられた。彼女が指差す先を見ると、そこには巨大な岩山が。その岩山の下にはアンナの言う通り洞窟がある。中も狭くなさそうだ。それに風の影響を受けないので、実験場所としてはピッタリだろう。
「魔物もいないみたいだしそうしようか」
魔力探知で辺りを調べ、何もいない事を確認する。
僕達はアンナが見つけた洞窟に入った。中は入り口から入り込んでくる光のおかげで、少し暗いと感じる程度に明るい。そして直射日光から逃れたせいか幾分涼しく感じる。それでも暑いことには変わりないが。
「じゃあ、ちゃちゃっと実験の用意をしようか」
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