隻眼の英雄~魔道具を作ることに成功しました~

サァモン

21話 形と説得

 「……本当ですね。確かに八つの魔法陣全てにそのマスは使われています」




 僕が書いた魔法式を見、昨日紙に書き写した魔法陣を見、そして『魔法陣集』も見て、ようやくアンナはそう言った。
 凄い念の入れようだな……。




「そこで僕はこれらの八つの[ライト]の共通点を探したんだよ。その共通点が『このマスが、発現させる魔法の何を司っているか』の答え、少なくともヒントにはなるだろうって思ってね。でもここに書かれている[ライト]の特徴を何度読み返しても見つからなかったんだ」




 アンナは僕の話を真剣に聞いてくれている。
 サーシャもそうだが、六歳の子供の言うことをここまで真剣に聞く大人は、両親を含めても他に見たことがない。




「ここで少し話が変わるんだけど、色とか大きさとか何でもいいから適当に[ライト]を使ってみてくれない?」




「……こうですか?」




 いくらアンナが放出系の魔法が苦手とは言っても、流石に[ライト]くらいはすぐに使えるか。




「そうそう。それじゃ僕も」




 毎日訓練しているおかげで、今は苦もなく[ライト]を使える。まぁ[ライト]事態も魔力消費を抑えるために改良を重ねてきたってのもあるんだけどね。
 [ライト]を一回使っただけで魔力切れを起こしていた頃が懐かしい。
 ちなみにアンナの[ライト]は[白色に輝く手のひらサイズのライト]で、僕の[ライト]は[緑に輝くボーリング球サイズのライト]だ。


 
「この二つの[ライト]を見てからもう一度、その紙に書き出した、魔法陣が発現させる魔法の特徴ってところを読んでみてよ」




「『色、オレンジ。大きさ、直径10センチ。光り方、普通』……これがどうかしたんですか?」




「あら、二人して何をしているのですか?」




 僕が言葉を発しようとした時、書庫の入り口からサーシャがやってきた。




「あ、サーシャ。いいところに……」




 来たね! って続けようとした時、体の血がサァっと引いていくのが分かった。
 やば、ここ僕の部屋じゃないの忘れてた……。




「あ、サーシャさん!  聞いて下さい! 坊ちゃまが新しい魔法陣を作って、それを起動させると言っているんです! 必死に止めるように説得しているのですが、なかなか聞いてくれなくて……」




 ……はっ! そうか! 今はアンナを説得しているんだった! そう、[ライト]を使わなければ説得出来ないと思ったから使ったんだ! これは仕方がなかったんだ!




「違う……ん……だよ!これは必要なことでしかもちゃんと理由があってだから魔法陣にアンナを起動させるためにサーシャを[ライト]で発現させようとしてたんだよ!」




 ふー。何とか言い切った……。
 今までで一番怒っているサーシャの顔を見た瞬間に恐怖に飲まれそうになったけど、なんとか勇気を出して全て言い切った。
 こう言えばサーシャも納得するだろう。




「……とりあえず坊ちゃまは落ち着いてください。それからもう一度ゆっくりと説明して下さいね? 坊ちゃま」




 なん……だと……!?
 まさか説得に失敗した?
 いやいや、もう一度説明しろと言ってるんだ。
 落ち着けば落ち着つくほど、より説得力の高い説明の仕方が出来る気がする。
 それに、これからサーシャにも手伝ってほしいことがあったんだからついでにそれも交えて話そう。




◇◆◇◆◇◆




「ここからがさっきアンナに説明しようとしたことなんだけど、サーシャも交えてもう一回[ライト]を使ってみてくれる? あ、色とか大きさとかは適当でいいからね。そっちの方が分かりやすいと思うから」




 初めは説得するつもりだったが、だんだん僕の考えや推論を並べていると、なし崩し的にサーシャも真剣に僕の話を聞いてくれるようになった。
 三人で一斉に[ライト]を浮かべる。
 僕は[水色に淡く輝くピンポン球サイズのライト]
 アンナは[オレンジ色に輝くビー玉サイズのライト]
 サーシャは[白色に輝くソフトボールサイズのライト]




「で、サーシャは昨日読んだから既に知っていると思うけど、『魔法陣集』には発現した魔法の特徴が、色、大きさ、光り方、で分けられてるんだ。けどサーシャは、魔法のイメージをする時はこの三つだけでなく、形も加えた4つを中心に考えろって言ってたよね」




「そうですね。確かにそう言いました」




「私もそれは知ってますよ! というより、これは常識なのでは?」




「え、そうなの?」




「はい。アンナの言う通りです」




 ……訓練も魔法陣の研究も大事だけど、これからは常識も学んでいこうかな。




「ま、まぁいいや。で、僕が言いたいのは[ライト]の形についてなんだ」




「[ライト]の形、ですか?」




 僕が形についてかたろうとしたら、二人は何を言ってるんだ? とでも思ってそうな顔をした。




「そう。例えばこの[ライト]の形をこんな感じにしたら?」




 そう言って、僕は自分の浮かべている[ライト]の形を正六面体に変える。




「それは[ライトキューブ]ですよ!」




「え? なんで?」




 少し調子に乗って、分かり切っていることをわざわざ答えさせる。
 するとサーシャが少し呆れたように答えてくれた。




「[ライト]は球形、[ライトキューブ]は正六面体だからですよ」




「そうだね。その思い込みが今まで謎が解けなかった原因の一つなんだよ」




 なんだかシャーロック・ホームズのような探偵になった気分だ。




「サーシャとアンナは、僕が『[ライト]を使って』って言ったら、迷わず形を球形にしたよね。そして僕が正六面体に変化させるとそれは[ライトキューブ]だといった。それを踏まえて『魔法陣集』の説明を見ると、形について書かれていない理由は、作者が書くまでもないと判断したからなんだよ。[ライト]は球形っていうのは常識だからだね」




 ふふん。僕も常識を全く知らないわけじゃないんだよ! 
 殆ど知らないの間違いだよ……。
 いかん。自分で言ったくせに悲しくなってきた。




「つまり、この八つの魔法陣に存在するこのマスは球形を司っているんだと思う。そう考えると他の三つのマスは、色、大きさ、性質、の意味を持っているはずだ」




 だけど、と更に続ける。




「ここまで自信を持って言ったけど、これはまだ予想の域を出ない。この八つの魔法陣の[ライト]の違いが、色、大きさ、性質、の三つしか違いがなかったから安直に結びつけただけなんだ。だから今度は模様の謎を解こうと思う。この魔法陣を使ってね」




 内円の中の図形や、魔法記号がマスを作っている理由などまだまだ不明な点が多い。
 だがここまで強気な姿勢で、更に化学の考え方を当てはめて説明をしてきたのは全てこの為だ。




「アンナにはさっき言ったんだけど、この魔法陣は僕の部屋にある魔道ランプの魔法陣、あの渦巻き模様を放射模様に書き換えたものなんだ。この魔法陣を起動させて、二つの[ライト]を比べれば模様の意味が分かるはずなんだよ」




 そう。僕が始めから狙っていたのは、僕が弄ったこの魔法陣を起動させ、対照実験をすることだ。
 実に簡単で、すぐに結果が分かる。少し考えれば皆が思いつくことだ。現に考察にもこの実験方法が書かれていた。
 だが……




「……やはり私は反対です! 確かにその方法ならば魔法陣の謎は解けると思います! ですが爆発しないという保証はどこにもありません!」




「理由はアンナが全て言いましたが、同じく私も反対します」




 この世界の人々は魔道具が爆発するのを恐れている、いや恐れすぎている。
 そのため有用そうな実験方法などのアイデアは考察に沢山書かれていたが、一度も実験したという記録がない。
 過去、何度も爆発し、沢山の死者を出してきたんだ。それに爆発した原因も不明で、その規模にも規則性がないから、魔道具実験刑を行うのも遠く離れた海の孤島までわざわざ船で渡って行うらしい。
 それを考えれば僕もやりたくない。
 だけど二人の協力ともう一つの過去の事実があれば少なくとも死ぬことは絶対にない。




「けどそれってさ、魔道具で実験していたから死人がでたんでしょ?  魔法陣だけ別の紙とかに書いたら大丈夫だと思うんだけど。もし爆発しても、金属でできた魔道具に比べればましだと思う。紙だけで出来てるから破片が飛んでくる心配がないからね。それに、サーシャに熱を遮断する魔法をかけてもらったり、魔法陣が起動したことを確認してから、アンナが僕を抱えて遠くまで走れば例え爆発しても余裕で生き残れるよ」




 もう一つの過去の事実とは、実験は全て魔道具を使って行われていたことだ。
 魔道具は全て金属製だ。そのため紙などの非金属に魔法陣を書き、爆発した場合の死ぬ可能性を下げるなどの工夫をして実験する。こういった考えを持っている人もいたようだが、紙一枚に一人の命を賭けるなんてことは出来ないと却下されたようだ。




 ……どうもこの国の判断がおかしい気がする。長期的に見てメリットがある考えより、すぐ結果が出る短期的メリットを選んでばかりなのだ。
 ま、そんなことはどうでもいいや。無能が国のトップにずっと君臨し続けるなんて事は無いだろうし、何かそうせざるを得ない事情があるのだろう。




 この後、まだ色々とゴネる二人を長々と説得し、何とか協力をしてくれることになった。
 ネムイ。

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