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魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

91話 買い出しその1

 バッセルの街に到着した彼らは早速とばかりに市場に向かった。
 そこはダンジョン都市に一番近い街だからか市場の規模は相当でかい。


「マールの街の市場よりも数倍はあるな」


 感心したようにそう言ってキョロキョロと見回すカズト。
 その様はまさに田舎から都会に上京してきたお上りさんであり、道行く人々が彼を見て暖かい眼差しを向ける。
 彼の隣を歩いているリディアもまたそのうちの一人だった。


「カズト君、最初は何を買うの?」
「んーそうだな……何からでもいいんだけど、とりあえず油かな」


 未だにキョロキョロと周りを見回しながらカズトはそう答える。
 それを聞いたリディアは油を売っている店に心当たりがあるのかすぐにピンと来たようだ。


「それならどこで売っているか分かる。ついてきて」
「わかったよ」


 そう言ってスタスタと歩く二人。
 市場はかなりの人で賑わっているが、二人は人と人の間を縫うようにしてスルスルと進んでいく。
 そしてやがて一軒の店の前にやってきた。


「この店は色々な種類の油を売っている。他にも油を売っている店はあるけど、ここの店がダントツで種類が豊富」
「へー、そうなんだ。それならリディアさんは少しここで待ってて。すぐに買ってくるから」
「分かった」


 そうしてカズトはその店の中に入っていき、リディアは店の入口の横で彼を待つことにした。
 しかし忘れてはならないのはリディアは誰もが振り返る程の美少女であり、この街にもナンパが好きな男が沢山いるということだ。
 現に彼女が一人になってから暫くしないうちに、いかにも遊び好きそうな男がやってきた。


「おお!? 君めっちゃ可愛いね! 名前はなんて言うの?」
「はあ……」


 リディアはまためんどくさいことに巻き込まれた、とでも言うように露骨にため息をついた。
 というのも彼女は容姿が際立っているからこそ、これまで何度もこの様な輩に絡まれた経験があるのだ。
 そしてそのような輩は総じて諦めが悪く、しつこい。
 そこからなんとしてでもお近づきになりたいという意思がヒシヒシと伝わってくるのだ。
 そしてそのような男達は皆同じような目をしているため、いつしかその考えを見抜けるようになっていた。
 ちなみに彼女に寄ってくる男の大多数はそのような考えを持って迫ってくるため、カズトと出会う前の彼女はいつしか自然と男に興味をなくしていた。
 どんな男でも落とせそうな際立った容姿をしているにも関わらず、これまで彼女に恋人が出来なかったのはこのような理由があったりする。

 そして今話しかけてきたその男もまた、これまで自分に迫ってきた輩と同じ目をしている。
 そのため露骨に嫌そうなため息を吐いたのだが、男はそんな反応を見せられてもしつこくリディアを誘っている。


「ねえねえ、これから俺と遊ばない? どうせ暇してるんでしょ? 俺と楽しいことしようぜ」
「うざい。邪魔。どっかいけ」


 あまりにもしつこいため、リディアは心の底から思っている事をそのまま口にした。
 すると美少女にそんなことを言われればさすがにダメージがあったのか、男は僅かに顔をひきつらせる。
 しかしそれでも超がつくほどの美少女をここで諦めるのは勿体ないと感じたのだろう。
 男はなおも口を開いた。


「そんなこと言わずにさ、ちょっとだけでいいから俺と遊ぼうぜ。なーにほんの三十分だけさ。美味い菓子を扱ってるカフェがあっちにあるからそこに行こうぜ」


 そう言って男は馴れ馴れしくリディアの肩に腕をまわす。
 言葉だけではリディアを誘うのは無理だと考えたらしく、男は半ば強引に彼女を連れていこうとしたのだろう。
 しかしリディアはランクB冒険者であり、身体能力も男とは比べ物にならないほど高い。
 そのため自分の肩にまわしてきた男の腕をとり、軽く捻ろうとして……できなかった。


「嫌がっているのでナンパは諦めてくれませんかね?」


 振り向くとそこにはつい先程まで油を買いに店に入っていったカズトがおり、男の手首をがっしりと掴んでいた。
 しかし男はカズトのことを偶然通りがかった男だと勘違いし、彼とリディアにはなんの関係もないと思ったのだろう。
 ナンパを邪魔されたこともあってか、ドスの効いた声でカズトに向かって口を開いた。


「はっ。お前誰だよ。今俺はこの娘と話をしているんだ。関係ないやつはすっこんでな」


 そう言って男は掴まれた手首を振り払おうとする。
 しかしカズトはこれまで魔人とランクAの魔物を数体倒したことがるため、その身体能力はリディアには敵わないものの、ゴロツキ同然の男よりも遥かに高い。
 そのため男が力を入れて振り払おうとしても、ビクとも動かせなかった。
 その意外な結果に男は目を丸くする。

 対してカズトは男の反応と行動から、ナンパを諦める気は無いと判断したらしい。
 手首を握るその手にさらに力を入れた。
 それによって男の顔が驚きから苦悶の表情に変わる。


「あ、ちょっ、まっ、ぐあっ!」


 カズトが握力をどんどん加えると、男は掴まれていないもう片方の手も使い、必死になって掴まれている腕を戻そうとする。
 しかしそうしてもカズトの手は離れない。
 男はさらに全身を使って掴まれている腕を引っ張るが、それでもピクリとも動かない。
 すると次第に男は膝をガクガクと震わせ始めた。

 一方そんなことになっている男など無視してリディアは嬉しそうにカズトに話しかけた。


「カズト君、ありがとう。助かった」


 はにかみながらリディアはカズトに礼を言う。
 その頬は少し朱に染まっている。
 たとえ自分一人でナンパに対処できたとしても、どうやら好きな人にこうして守ってもらうのは嬉しいらしい。


「い、いや、これくらいならおやすい御用だよ」


 対してカズトはそう言って顔を背けた。
 それは単純に真正面からお礼を言われたから照れたのか、はたまた頬を朱に染めてはにかんだリディアを見て恥ずかしくなったのか。
 おそらく両方だろう。
 ともかくカズトは照れ隠しに男の手首を解放して頭をかいた。
 そして顔を背けたままリディアに話しかけた。


「じゃ、じゃあ次に行こうか」
「ん。分かった。次は何を買うの?」
「鶏肉かな。出来れば部位ごとに別々で売っているところがいいんだけど、そんな店ってある? 見た感じ売ってる鶏肉はまるごと一匹でしか売ってないみたいだけど」
「それならある。ついてきて」


 そう言って二人は次の店に向かってスタスタと歩いて行った。

 一方リディアをナンパしていた男はというと、カズトに掴まれていた手首が余程痛むのか、小一時間ほど苦しみに悶えていた。
 その間道行く人に不審者として見られ、それを知った騎士達がやって来たのは言うまでもない。

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