魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
85話 サンダーグリスリーアンデット(6)
自身が持つありったけの知識を口に出し、それをイメージに昇華させて結界内の気圧を限界まで下げる。いまの状態でも準備は十分に整っているのだが、彼は魔法を発動しようとしない。
(……まだだ。まだこれだけじゃ足りない。もっと威力を上げるんだ)
そう判断したからだ。もちろん彼の中には今すぐにでもサンダーグリスリーアンデットにこの魔法を撃ち込んでリディアを助けたいという思いはある。しかしこの魔法を使うチャンスは一度きりなのだ。
ここで焦って早く魔法を発動させてしまい、その結果サンダーグリスリーアンデットを倒す所かその注意を引けなかったら目も当てられない。
そのため彼は、ここはグッと堪えて確実にサンダーグリスリーアンデットの注意をリディアから離すために魔法の威力を上げることを選んだ。
彼はこの魔法の威力をさらに上げるために詠唱を口にする。
「空気のみを閉じ込める巨大な結界を生成。そしてその結界を小さく圧縮。それをパイプ結界の口に取り付ける。ただしまだパイプ結界の中に空気は送り込まない。それに一つじゃ足りない。同じものをもっと沢山生成。そしてそれら全てを圧縮、圧縮、圧縮……」
カズトは最初に作った、圧縮した空気が入っている結界を目の前のパイプ結界の口に取り付けた。そしてその圧縮した空気を入れた結界の中に、後から作った同じような結界を入れていく。そうしてからその中に入れ終わった結界を次から次へと解除していった。
つまり何をしているかと言うと、彼は最初に空気を圧縮した結界の中に膨大な量の空気を無理矢理入れているのだ。そうすれば結界の中の気体圧力はドンドン上がる。
さらにカズトは、その結界内の気体の熱運動を促進させて温度を上げた。それによってさらに結界内の気体圧力は上がり、その圧力に耐えきれずに結界自体が変形し始める。
だがカズトは陸亀守護獣の指輪に魔力をさらに流し込んでその結界の強度を上げる。それによって結界は内部圧力に耐えきれるようになったのかそれ以上変形することは無かった。
するとその時、カズトが見ていた先でリディアがバランスを崩して屋根から地面に落下した。
「っ!?」
それを見てカズトはヒヤリとしたものの、リディアが立ち上がったのを見てホッとした。しかしその動きはとても遅い。あれではサンダーグリスリーアンデットにすぐに追いつかれるだろう。
そう予想したカズトは魔法の準備をそこで終えた。元々いつでも発動できる状態だったため、そこで終えてもなんら問題はない。
後は指を鳴らして魔法を発動させるだけ。彼はいつでも指を鳴らせるように構えた。
そして意識をサンダーグリスリーアンデットに集中させる。サンダーグリスリーアンデットはちょうどリディアの正面の建物を突き破るようにして出てきた。
そしてそいつは出てきた瞬間にリディアに雷撃を放つ。
「くそっ!」
それを見てカズトはギシッという音がなるほど力強く奥歯を噛み締める。しかしまだ魔法は発動させない。いや、発動させることができない。
「今発動させたらリディアさんに当たってしまう……!!」
そう、サンダーグリスリーアンデットはリディアを挟んでカズトと反対側にいるのだ。そのため彼女に謝って魔法を当ててしまう恐れがあるため発動することができない。
本来ならサンダーグリスリーアンデットの巨体とリディアの体では大きさがあまりにも異なるため、たとえ今のように位置取りが悪かったとしてもカズトならその巨体に魔法を命中させることができただろう。
しかしこの魔法はこれまで一度も使ったことがない魔法だ。狙いがズレてリディアに当たる可能性が十分にある。
「だけど、リディアさんがこのまま殺されてしまったら意味が無い……!!」
出てきざまの雷撃をギリギリで避けたリディア。しかしその彼女にサンダーグリスリーアンデットが襲いかかる。
カズトの中で二つの考えが生まれる。リディアを巻き込んでしまう可能性を理解した上で魔法を発動するか、その可能性が排除されるまで待ってから魔法を発動するか、という考えだ。
前者ならばすぐにリディアを助ける事ができるが、もし狙いが少しでもズレれば逆にリディアを殺しかねない。
だからといって後者ならば確実にリディアを助けることができるだろうが、そのタイミングを待っている間にリディアが殺されてしまう恐れがある。
リディアを助けたいからこそ、彼女が死ぬ可能性がどちらにもある選択肢を彼は選ぶことはできない。
だが今まさにリディアはサンダーグリスリーアンデットの攻撃を受けており、命の危機に瀕している。
このままどちらか選ばなければ彼女は死んでしまうだろう。
「っ!?」
彼の目線の先でサンダーグリスリーアンデットが振るった腕を躱したリディアが雷撃をまともに食らった。
その瞬間、カズトは激情に駆られて魔法を発動させそうになるが、彼女を巻き込んでしまう可能性があるため発動できない。
しかし悩んでいる時間は無い。
サンダーグリスリーアンデットはリディアが落下する地点に先回りし、攻撃を放つ準備をしているからだ。
カズトの構えている指は力を入れすぎて真っ白になっている。
これを鳴らせばすぐにでも魔法を発動できる。
彼の目にはサンダーグリスリーアンデットが体の捻りをつけて渾身の一撃をリディアに叩き込もうとしているのが映っている。
決断の時は今しかない。
それを瞬時に悟ったカズトは断腸の思いで選択する。
カズトは指に力を入れーー鳴らさなかった。
(リディアさんは僕より数倍体が強い。だから耐えてくれるはず)
彼はリディアの体は自分よりも遥かに頑丈だと知っている。
だから彼は彼女の頑丈さに賭けたのだ。
サンダーグリスリーアンデットの渾身の一撃が完璧なタイミングでリディアの体を捉える。
もしカズトが魔法を発動させていたらリディアを巻き込む可能性があったとはいえ、彼女にその攻撃が届く前にサンダーグリスリーアンデットに着弾していただろう。
だがそれも後の祭り。
リディアの体はサンダーグリスリーアンデットの攻撃をまともに喰らい、勢いよく宙を舞った。
その勢いで彼女の体がサンダーグリスリーアンデットから離れていく。
そしてどこかの建物の上に落下したのを確認した。
魔法を撃つならここしかない。
そう思い至ったと同時に指を鳴らす。
バチィン!!
リディアが攻撃されている間ずっと力を入れていた指は、辺り一帯に響き渡るほどの強烈な破裂音を鳴らしてみせた。
その瞬間、内部気圧が高まっている結界とパイプ結界の接続部に張られていた結界が解かれる。
すると空気は気圧が高い方から低い方に移動するため、瞬時にパイプ結界の中に空気が流れていった。
もちろんその中に入っている鉄釘はその空気の流れに逆らえずにもう片方の出口へと押し出される。
それも音速をも超える拳銃の速度を遥かに凌駕する勢いで、だ。
そうして凄まじい勢いでパイプ結界の中から飛び出した鉄釘はサンダーグリスリーアンデットに目にも止まらぬ速さで向かって行き、その頭を綺麗に吹き飛ばした。
(……まだだ。まだこれだけじゃ足りない。もっと威力を上げるんだ)
そう判断したからだ。もちろん彼の中には今すぐにでもサンダーグリスリーアンデットにこの魔法を撃ち込んでリディアを助けたいという思いはある。しかしこの魔法を使うチャンスは一度きりなのだ。
ここで焦って早く魔法を発動させてしまい、その結果サンダーグリスリーアンデットを倒す所かその注意を引けなかったら目も当てられない。
そのため彼は、ここはグッと堪えて確実にサンダーグリスリーアンデットの注意をリディアから離すために魔法の威力を上げることを選んだ。
彼はこの魔法の威力をさらに上げるために詠唱を口にする。
「空気のみを閉じ込める巨大な結界を生成。そしてその結界を小さく圧縮。それをパイプ結界の口に取り付ける。ただしまだパイプ結界の中に空気は送り込まない。それに一つじゃ足りない。同じものをもっと沢山生成。そしてそれら全てを圧縮、圧縮、圧縮……」
カズトは最初に作った、圧縮した空気が入っている結界を目の前のパイプ結界の口に取り付けた。そしてその圧縮した空気を入れた結界の中に、後から作った同じような結界を入れていく。そうしてからその中に入れ終わった結界を次から次へと解除していった。
つまり何をしているかと言うと、彼は最初に空気を圧縮した結界の中に膨大な量の空気を無理矢理入れているのだ。そうすれば結界の中の気体圧力はドンドン上がる。
さらにカズトは、その結界内の気体の熱運動を促進させて温度を上げた。それによってさらに結界内の気体圧力は上がり、その圧力に耐えきれずに結界自体が変形し始める。
だがカズトは陸亀守護獣の指輪に魔力をさらに流し込んでその結界の強度を上げる。それによって結界は内部圧力に耐えきれるようになったのかそれ以上変形することは無かった。
するとその時、カズトが見ていた先でリディアがバランスを崩して屋根から地面に落下した。
「っ!?」
それを見てカズトはヒヤリとしたものの、リディアが立ち上がったのを見てホッとした。しかしその動きはとても遅い。あれではサンダーグリスリーアンデットにすぐに追いつかれるだろう。
そう予想したカズトは魔法の準備をそこで終えた。元々いつでも発動できる状態だったため、そこで終えてもなんら問題はない。
後は指を鳴らして魔法を発動させるだけ。彼はいつでも指を鳴らせるように構えた。
そして意識をサンダーグリスリーアンデットに集中させる。サンダーグリスリーアンデットはちょうどリディアの正面の建物を突き破るようにして出てきた。
そしてそいつは出てきた瞬間にリディアに雷撃を放つ。
「くそっ!」
それを見てカズトはギシッという音がなるほど力強く奥歯を噛み締める。しかしまだ魔法は発動させない。いや、発動させることができない。
「今発動させたらリディアさんに当たってしまう……!!」
そう、サンダーグリスリーアンデットはリディアを挟んでカズトと反対側にいるのだ。そのため彼女に謝って魔法を当ててしまう恐れがあるため発動することができない。
本来ならサンダーグリスリーアンデットの巨体とリディアの体では大きさがあまりにも異なるため、たとえ今のように位置取りが悪かったとしてもカズトならその巨体に魔法を命中させることができただろう。
しかしこの魔法はこれまで一度も使ったことがない魔法だ。狙いがズレてリディアに当たる可能性が十分にある。
「だけど、リディアさんがこのまま殺されてしまったら意味が無い……!!」
出てきざまの雷撃をギリギリで避けたリディア。しかしその彼女にサンダーグリスリーアンデットが襲いかかる。
カズトの中で二つの考えが生まれる。リディアを巻き込んでしまう可能性を理解した上で魔法を発動するか、その可能性が排除されるまで待ってから魔法を発動するか、という考えだ。
前者ならばすぐにリディアを助ける事ができるが、もし狙いが少しでもズレれば逆にリディアを殺しかねない。
だからといって後者ならば確実にリディアを助けることができるだろうが、そのタイミングを待っている間にリディアが殺されてしまう恐れがある。
リディアを助けたいからこそ、彼女が死ぬ可能性がどちらにもある選択肢を彼は選ぶことはできない。
だが今まさにリディアはサンダーグリスリーアンデットの攻撃を受けており、命の危機に瀕している。
このままどちらか選ばなければ彼女は死んでしまうだろう。
「っ!?」
彼の目線の先でサンダーグリスリーアンデットが振るった腕を躱したリディアが雷撃をまともに食らった。
その瞬間、カズトは激情に駆られて魔法を発動させそうになるが、彼女を巻き込んでしまう可能性があるため発動できない。
しかし悩んでいる時間は無い。
サンダーグリスリーアンデットはリディアが落下する地点に先回りし、攻撃を放つ準備をしているからだ。
カズトの構えている指は力を入れすぎて真っ白になっている。
これを鳴らせばすぐにでも魔法を発動できる。
彼の目にはサンダーグリスリーアンデットが体の捻りをつけて渾身の一撃をリディアに叩き込もうとしているのが映っている。
決断の時は今しかない。
それを瞬時に悟ったカズトは断腸の思いで選択する。
カズトは指に力を入れーー鳴らさなかった。
(リディアさんは僕より数倍体が強い。だから耐えてくれるはず)
彼はリディアの体は自分よりも遥かに頑丈だと知っている。
だから彼は彼女の頑丈さに賭けたのだ。
サンダーグリスリーアンデットの渾身の一撃が完璧なタイミングでリディアの体を捉える。
もしカズトが魔法を発動させていたらリディアを巻き込む可能性があったとはいえ、彼女にその攻撃が届く前にサンダーグリスリーアンデットに着弾していただろう。
だがそれも後の祭り。
リディアの体はサンダーグリスリーアンデットの攻撃をまともに喰らい、勢いよく宙を舞った。
その勢いで彼女の体がサンダーグリスリーアンデットから離れていく。
そしてどこかの建物の上に落下したのを確認した。
魔法を撃つならここしかない。
そう思い至ったと同時に指を鳴らす。
バチィン!!
リディアが攻撃されている間ずっと力を入れていた指は、辺り一帯に響き渡るほどの強烈な破裂音を鳴らしてみせた。
その瞬間、内部気圧が高まっている結界とパイプ結界の接続部に張られていた結界が解かれる。
すると空気は気圧が高い方から低い方に移動するため、瞬時にパイプ結界の中に空気が流れていった。
もちろんその中に入っている鉄釘はその空気の流れに逆らえずにもう片方の出口へと押し出される。
それも音速をも超える拳銃の速度を遥かに凌駕する勢いで、だ。
そうして凄まじい勢いでパイプ結界の中から飛び出した鉄釘はサンダーグリスリーアンデットに目にも止まらぬ速さで向かって行き、その頭を綺麗に吹き飛ばした。
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