魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
82話 サンダーグリスリーアンデット(3)
走る、走る、走る。
疾駆の革靴にこれまでにないほどの魔力を注ぎながら全速力で走る。しかしそれでもサンダーグリスリーアンデットの速さには遥かに劣る。
「ギャルルルルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!」
すぐ後ろからその咆哮が彼女の鼓膜を激しく震わせる。するとその直後にリディアが数瞬前にいた場所にまたしても閃光が貫いた。先程からずっとこの調子だ。何度も何度もサンダーグリスリーアンデットが咆哮し、その度に閃光が突き抜ける。もしあの閃光に貫かれたら......。そう言った不吉な光景が彼女の頭の中を何度も過ぎる。
しかし彼女はすぐさま頭を振ってその光景を外に追い出した。そして後ろをちらりと見る。サンダーグリスリーアンデットは未だに数々の建物を突き破りながら彼女の後ろ姿を追っている。その距離はおよそ20メートルと言ったところか。
だが例えそれだけの距離が開いているとしても、少しでも油断すればすぐにサンダーグリスリーアンデットに追いつかれてしまう。そのためリディアは一切手を弛めることなく全速力で走り続ける。
だがそれでもこのままではマシンガンビートルがいる場所に到着するまでに追いつかれてしまうだろう。それほど彼女とサンダーグリスリーアンデットの速さは違う。
それは彼女も嫌という程わかっている。だがそれでも彼女は諦めない。彼女は走ながら頭も働かせて自分を奮い立たせた。
(マーレジャイアントもサンダーグリスリーもカズトくんがほとんど一人で倒してしまった。この作戦が始まってから私は何も役に立っていない。足を引っ張ってばかりだった。だけど今はちがう。頭脳明晰で魔法の腕が異常なほど良いあのカズト君でも、このアンデットとは相性が悪い。それなら今度は私がその分頑張らないといけない。これまでの失態を帳消しにするには今しかない。それに、まだカズト君とはキスしてないから、ここで死ぬ訳にはいかない!!)
そんな思いと共に彼女はさらに疾駆の革靴に魔力を流して走る。それと同時に魔力を回復させるポーションを次々と空にしていく。それでも魔力を消費するスピードの方が回復するスピードよりも早いため、彼女の顔はどんどんと青くなり、魔力欠乏症の症状が現れ始めた。
クラクラと目眩がするのか必死になって頭を振る。吐き気がするのか口元を手で抑えて我慢する。そうして必死になって走る彼女だが、まだマシンガンビートルの下には辿り着かない。
残りのマシンガンビートルとの距離は約10キロといったところか。とてつもなく遠く感じるが、それでも彼女とサンダーグリスリーアンデットの速さであれば10分もかからないだろう。
だが今の彼女の状態ではたとえ1分であったとしても、数時間に感じるほど長いものだ。その時間は、アンデットの咆哮をものともしない強い精神の持ち主であるリディアにとっても、地獄とよべるものである。
そのためその時間を少しでも短くしようとしたのか、彼女はさらに魔力を疾駆の革靴に注いだ。魔力がさらにガリガリと削られ、リディアの顔がますます青くなる。しかしその代償に彼女のスピードがさらに一段と上がった。
「ギャルルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
繰り返しサンダーグリスリーアンデットが咆哮し、その度に数瞬前にいた場所を閃光が通り抜けていく。リディアは尚も噴きでる冷や汗を後ろに流しながら走り続けた。
不安定な足場である三角の屋根を駆け抜け、建物と建物の間の真っ黒な空間を飛び越え、力一杯跳躍して一回り高い建物の屋根の上に着地する。それでいてさらに左右に不規則に移動しながら彼女はマシンガンビートルに向かって走り続ける。
「ギャルルルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!」
するとまたしてもサンダーグリスリーアンデットが吠えた。しかし依然として彼女は左右に不規則に移動しながら走っているため、雷撃を飛ばしてくる攻撃は喰らわない。
そう確信してリディアは走っていたのだが、いつになっても雷撃が飛んでこない。それを不審に思い後ろに目をやると、サンダーグリスリーアンデットとの距離が先程よりも少しだけ離れていた。
(気のせい……? いや、気のせいじゃない!)
少しの間観察するだけで、サンダーグリスリーアンデットとの距離が時間とともに少しずつ空いているのが分かる。アンデットは疲れることなどないため、リディアの速さがサンダーグリスリーアンデットを上回ったのだろう。
そのことに彼女はこの地獄の追いかけっこの難易度が少しだけ下がったような気がしたのか、顔を青くさせながらも希望に溢れた顔をした。マシンガンビートルまで残り5キロだ。
だがサンダーグリスリーアンデットだって自分の速さをリディアが上回ったことを感じている。その怒りからかサンダーグリスリーアンデットはリディアに向かって、待て! とでも言うかのように繰り返し咆哮した。
しかしリディアは前を向き、走り続ける。その顔は完全に血色の悪い青を通り越して紫色をしており、唇に至っては黒くなりかかっている。だがそれでも彼女は足を動かす。その足はサンダーグリスリーアンデットより速く、両者の距離をドンドンと離していった。
するとその事に業を煮やしたのか、サンダーグリスリーアンデットがこれまでになかった短いスパンで連続して咆哮した。
「ギャルルルアアアアアア! ギャルルルルアアアアアアアアアアアア! ギャルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「っ!?」
するとその瞬間、リディア目掛けて三本の閃光がわずかな時間差で少しずつ位置を変えて貫いた。幸いサンダーグリスリーアンデットが今放った攻撃は、リディアが右の建物から左の建物へと大きく跳躍して移動している途中だったため命中しなかった。
しかしその攻撃はこれまでで1番短いスパンで放たれていたため、もし彼女が走っている最中であれば呆気なく貫かれていただろう。たとえそれが左右どちらかに移動した直前か直後であったとしてもだ。
(あれはまずい)
それをすぐさま悟った彼女は先程の攻撃に対応するためにさらに素早く左右に移動する。するとその直後にまたしても閃光が僅かな間に連続して貫いた。いや、貫き始めたといった方が正しいか。なにせサンダーグリスリーアンデットはその後も間髪入れることなく続けざまに雷撃を撃ち続けているのだから。
そうしてさらに過酷になった追いかけっこをしていると、とうとうその終わりがやってきた。
マシンガンビートルとの距離は残り約3キロ。魔力欠乏症の症状に耐えながら、障害物競走よりもなお過酷な道を走り続け、そしてサンダーグリスリーアンデットからの雷撃を交わし続ける。
そんな精神も体力も魔力も大量に削られ続ける中で走り続けたリディアは、終わりが見えてきた希望からかとうとう集中力が途切れてしまった。建物から建物へと跳躍して着地する際、そこが三角の屋根の側面であったこともあり、足を滑らせてしまったのだ。
「っ!?」
けれどいくら疲労困憊であってもリディアはBランク冒険者で二つ名を持つほどの実力者だ。そこから一瞬で体を立て直してみせた。体を立て直すまでコンマ一秒もかからなかったと言っても過言ではない。
しかしサンダーグリスリーアンデットだってランクSに迫る程の魔物だ。その卓越した反射神経をもってすれば、リディアが見せたその僅かな隙だけで十分だった。
「ギャルルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
咆哮、そして閃光。
これまでの雷撃よりも遥かに大きく放たれたそれは、リディアが反射的に避ける間もなくその体を貫いた。
疾駆の革靴にこれまでにないほどの魔力を注ぎながら全速力で走る。しかしそれでもサンダーグリスリーアンデットの速さには遥かに劣る。
「ギャルルルルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!」
すぐ後ろからその咆哮が彼女の鼓膜を激しく震わせる。するとその直後にリディアが数瞬前にいた場所にまたしても閃光が貫いた。先程からずっとこの調子だ。何度も何度もサンダーグリスリーアンデットが咆哮し、その度に閃光が突き抜ける。もしあの閃光に貫かれたら......。そう言った不吉な光景が彼女の頭の中を何度も過ぎる。
しかし彼女はすぐさま頭を振ってその光景を外に追い出した。そして後ろをちらりと見る。サンダーグリスリーアンデットは未だに数々の建物を突き破りながら彼女の後ろ姿を追っている。その距離はおよそ20メートルと言ったところか。
だが例えそれだけの距離が開いているとしても、少しでも油断すればすぐにサンダーグリスリーアンデットに追いつかれてしまう。そのためリディアは一切手を弛めることなく全速力で走り続ける。
だがそれでもこのままではマシンガンビートルがいる場所に到着するまでに追いつかれてしまうだろう。それほど彼女とサンダーグリスリーアンデットの速さは違う。
それは彼女も嫌という程わかっている。だがそれでも彼女は諦めない。彼女は走ながら頭も働かせて自分を奮い立たせた。
(マーレジャイアントもサンダーグリスリーもカズトくんがほとんど一人で倒してしまった。この作戦が始まってから私は何も役に立っていない。足を引っ張ってばかりだった。だけど今はちがう。頭脳明晰で魔法の腕が異常なほど良いあのカズト君でも、このアンデットとは相性が悪い。それなら今度は私がその分頑張らないといけない。これまでの失態を帳消しにするには今しかない。それに、まだカズト君とはキスしてないから、ここで死ぬ訳にはいかない!!)
そんな思いと共に彼女はさらに疾駆の革靴に魔力を流して走る。それと同時に魔力を回復させるポーションを次々と空にしていく。それでも魔力を消費するスピードの方が回復するスピードよりも早いため、彼女の顔はどんどんと青くなり、魔力欠乏症の症状が現れ始めた。
クラクラと目眩がするのか必死になって頭を振る。吐き気がするのか口元を手で抑えて我慢する。そうして必死になって走る彼女だが、まだマシンガンビートルの下には辿り着かない。
残りのマシンガンビートルとの距離は約10キロといったところか。とてつもなく遠く感じるが、それでも彼女とサンダーグリスリーアンデットの速さであれば10分もかからないだろう。
だが今の彼女の状態ではたとえ1分であったとしても、数時間に感じるほど長いものだ。その時間は、アンデットの咆哮をものともしない強い精神の持ち主であるリディアにとっても、地獄とよべるものである。
そのためその時間を少しでも短くしようとしたのか、彼女はさらに魔力を疾駆の革靴に注いだ。魔力がさらにガリガリと削られ、リディアの顔がますます青くなる。しかしその代償に彼女のスピードがさらに一段と上がった。
「ギャルルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
繰り返しサンダーグリスリーアンデットが咆哮し、その度に数瞬前にいた場所を閃光が通り抜けていく。リディアは尚も噴きでる冷や汗を後ろに流しながら走り続けた。
不安定な足場である三角の屋根を駆け抜け、建物と建物の間の真っ黒な空間を飛び越え、力一杯跳躍して一回り高い建物の屋根の上に着地する。それでいてさらに左右に不規則に移動しながら彼女はマシンガンビートルに向かって走り続ける。
「ギャルルルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!」
するとまたしてもサンダーグリスリーアンデットが吠えた。しかし依然として彼女は左右に不規則に移動しながら走っているため、雷撃を飛ばしてくる攻撃は喰らわない。
そう確信してリディアは走っていたのだが、いつになっても雷撃が飛んでこない。それを不審に思い後ろに目をやると、サンダーグリスリーアンデットとの距離が先程よりも少しだけ離れていた。
(気のせい……? いや、気のせいじゃない!)
少しの間観察するだけで、サンダーグリスリーアンデットとの距離が時間とともに少しずつ空いているのが分かる。アンデットは疲れることなどないため、リディアの速さがサンダーグリスリーアンデットを上回ったのだろう。
そのことに彼女はこの地獄の追いかけっこの難易度が少しだけ下がったような気がしたのか、顔を青くさせながらも希望に溢れた顔をした。マシンガンビートルまで残り5キロだ。
だがサンダーグリスリーアンデットだって自分の速さをリディアが上回ったことを感じている。その怒りからかサンダーグリスリーアンデットはリディアに向かって、待て! とでも言うかのように繰り返し咆哮した。
しかしリディアは前を向き、走り続ける。その顔は完全に血色の悪い青を通り越して紫色をしており、唇に至っては黒くなりかかっている。だがそれでも彼女は足を動かす。その足はサンダーグリスリーアンデットより速く、両者の距離をドンドンと離していった。
するとその事に業を煮やしたのか、サンダーグリスリーアンデットがこれまでになかった短いスパンで連続して咆哮した。
「ギャルルルアアアアアア! ギャルルルルアアアアアアアアアアアア! ギャルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「っ!?」
するとその瞬間、リディア目掛けて三本の閃光がわずかな時間差で少しずつ位置を変えて貫いた。幸いサンダーグリスリーアンデットが今放った攻撃は、リディアが右の建物から左の建物へと大きく跳躍して移動している途中だったため命中しなかった。
しかしその攻撃はこれまでで1番短いスパンで放たれていたため、もし彼女が走っている最中であれば呆気なく貫かれていただろう。たとえそれが左右どちらかに移動した直前か直後であったとしてもだ。
(あれはまずい)
それをすぐさま悟った彼女は先程の攻撃に対応するためにさらに素早く左右に移動する。するとその直後にまたしても閃光が僅かな間に連続して貫いた。いや、貫き始めたといった方が正しいか。なにせサンダーグリスリーアンデットはその後も間髪入れることなく続けざまに雷撃を撃ち続けているのだから。
そうしてさらに過酷になった追いかけっこをしていると、とうとうその終わりがやってきた。
マシンガンビートルとの距離は残り約3キロ。魔力欠乏症の症状に耐えながら、障害物競走よりもなお過酷な道を走り続け、そしてサンダーグリスリーアンデットからの雷撃を交わし続ける。
そんな精神も体力も魔力も大量に削られ続ける中で走り続けたリディアは、終わりが見えてきた希望からかとうとう集中力が途切れてしまった。建物から建物へと跳躍して着地する際、そこが三角の屋根の側面であったこともあり、足を滑らせてしまったのだ。
「っ!?」
けれどいくら疲労困憊であってもリディアはBランク冒険者で二つ名を持つほどの実力者だ。そこから一瞬で体を立て直してみせた。体を立て直すまでコンマ一秒もかからなかったと言っても過言ではない。
しかしサンダーグリスリーアンデットだってランクSに迫る程の魔物だ。その卓越した反射神経をもってすれば、リディアが見せたその僅かな隙だけで十分だった。
「ギャルルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
咆哮、そして閃光。
これまでの雷撃よりも遥かに大きく放たれたそれは、リディアが反射的に避ける間もなくその体を貫いた。
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