魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
74話 アンファングアント討伐戦
翌日。
「……えっと、リディアさん?」
「おはよう、カズト君」
目が覚めたカズトはリディアが視界一杯に入っていることに驚きを通り越して困惑し、思わずそう口を開いた。
しかし彼女は彼の言葉に対して軽く笑みを浮かべながら挨拶をするだけで他に何も言わない。
それに困ったカズトは体を動かして彼女から離れようとする……が、体が動かない。
そのときになってようやく、彼はリディアに抱き枕状態にされていることに気が付いた。
そう、リディアはカズトより早くに起きてから、彼が起きるまでずっとこの状態でいたのだ。
その事に思い至ったカズトはもう一度リディアの顔をよく見る。
すると彼女は恥ずかしさからかほんのりと頬を赤く染めていた。
それだけでなく彼女があまりにも幸せそうにしているものだから、カズトは無理矢理彼女を引き剥がすわけにもいかない。
だがそれでも精神衛生上良くないため離れたいという思いが浮かんでくる。
そこで困ったカズトはもう一度リディアに質問した。
「リディアさん、これは一体?」
「離れたくないからこうしてる」
「……えっと、随分と積極的ですね?」
「カズト君に私の気持ちは知られてしまってるから、なんだか吹っ切れた」
「そ、そうなんだ……」
リディアの言葉を聞いたカズトはにやけそうになる口を気合いで抑え、普通の顔でいることを心がける。
しかしそれでも完全に抑えきることができずに微妙にひきつっているような顔になっているが。
カズトとて男であるためリディアのような美少女に好かれているということに嬉しさを感じないわけがない。
それにこれまで一緒に過ごしてきてカズトも彼女に対して好意を抱いていないわけではない。
いや、実を言うとカズトは一緒のベッドに入った時点で彼女の事を意識しまくっていたのだが。
そのためリディアに抱きつかれている今の状態は嬉しくないわけがない。
しかし彼の心には既にダイアナがいる。
なのでやはりここは引き剥がすべきなのだろうが、彼の心には迷いがある。
するとリディアがそんな彼の目を見て口を開いた。
「カズト君、私のこと好き?」
「えーっと、その……」
「それとも、他に好きな人いる?」
「うぇ!?」
その言葉にカズトの心臓が跳ね上がる。
そしてどう答えたものかとリディアから視線をはずし、辺りを彷徨わせる。
そんな彼の様子を見たリディアはどういうわけか微笑んだ。
「やっぱりいるんだ。それってダイアナさんの事だよね?」
「えーっと……」
「でも、それでもいい。二番目でも三番目でもカズト君が私を好きになってくれるならそれでいい」
「……え?」
微笑みながらそう言うリディアにカズトの頭が追いつかない。
普通想い人に他に好きな人がいると分かったならば嫉妬するだろう。
そしてなんとしてでも自分がその想い人の中で一番になろうとする、またはそのような勇気が無くても、そう思うのが当たり前であろう。
しかしリディアにはそれがない。
彼女は依然として微笑んだまま、心の底からそう言っているようなのである。
カズトはリディアの言っている言葉の意味が分からず思わず聞き返した。
「どういうこと……?」
「そのままの意味だけど……。もしかしてカズト君は私が嫌い?」
「いや! そんなことは断じてない! ただ、その、まるで僕に好きな人が複数人いてもいいって言い方だったから気になって」
「その通りだよ」
「え?」
「むしろ経済力のある男の人が複数の女性を娶るのは当たり前だと思うけど」
そう言ったリディアはさも当たり前のことを言っているといった様子である。
その様子にカズトはますます疑問を抱く……が、そこでリディアの言葉とそのまま同じ意味の、地球にもあった結婚制度のことを思い出した。
「もしかして…………この世界って一夫多妻制?」
「そうだけど……。この世界って?」
「あ、いや、なんでもない!」
あまりにも自分の中の常識とオーランドの常識が違うせいで、カズトは無意識に口を滑らせてしまった。
その事をリディアに指摘されて初めて気づいたカズトは、リディアから慌てて距離を取る。
その時リディアはカズトと話すことに気を取られていたためか、腕に力が殆ど入っておらず、カズトはそこから容易に脱出することができた。
それからカズトはさらにその失言を有耶無耶にするために、そして話題を変えるために口を開く。
「と、とにかく朝ご飯を食べよう! これから戦うんだし、他に準備しなきゃいけないこともあるしさ!」
「わかった。でも、カズト君」
「な、何?」
「私、カズト君に好きになってもらえるように頑張る」
「ソ、ソデスカ」
リディアがそう言うと、カズトは顔を赤くさせて片言になりながらそう答えた。
そして二人はその話題に触れることなく、いやカズトが意図的にその話題を避けながら朝食の準備をする。
その間カズトは頭の片隅でぼんやりと一夫多妻制について詮無き事を考えていたが、結局リディアとダイアナの二人の内どちらかを選びどちらかを捨てなければならないという事にならなくて無意識のうちにホッと安堵していた。
もっともダイアナと結ばれるには今の彼には足りない物が多々あるが。
しかし、当然カズトには日本人としての常識がある。
元々彼にハーレム願望はなかったし、生涯一人の女性を愛し続ける事が正しいと心からそう思っている。
そのためホッとする反面、彼の心の中にはどこかもやもやとした気持ちがはびこっているのだった。
それから朝食が済んだ後、カズトは魔力制御の技量を上げるためにその訓練を、リディアは二本の槍を持って軽く運動し、体の調子を整えた。
そしてリディアの様子を見にきたカルロスやブランドンに挨拶し、外に出る。
そしてリディアの姿を発見して一目散やってきたダニーを彼女が殴り飛ばした後、今日の作戦が開始される。
「それじゃあリディアさん、頑張ろうか」
「うん。サポート頼んだ」
「任せてよ」
二人でそう言い合い士気を高める。
今回の作戦の目的は確保した南区の拠点からまっすぐ北に向かって進み、ダンジョン都市の中央に鎮座するアンファングアントを討伐することだ。
そしてアンファングアントを討伐するのはカルロス率いるランクAパーティーの暴風の宴であり、その周りに三匹いるランクAのキングアントの相手をするのは、集まった全騎士達から選び抜かれた十数名の精鋭達である。
さらに暴風の宴と精鋭騎士達がそれらの魔物と当たるまでの道中は、十数名の枠には選ばれなかったものの、それでも十分な実力を持つ騎士達が先頭になって北に突き進むことになる。
その騎士達を槍の穂先とすると、西側の側面にリディアとカズトが、東側の側面にダニー率いるランクAパーティーの大地の目覚めが配置される。
そして作戦が開始されてからしばらくすると、勇ましい雄叫びや苦痛を伴った悲鳴がカズト達の下まで聞こえてきた。
「始まった」
「うん。もうそろそろ僕達の出番が来るね」
カズトは首を回し、深呼吸をして今一度リラックスし、リディアは亜空の腕輪から二本の槍を取り出して両手に持つ。
そうして彼らが臨戦態勢を整えてから僅か数分後、騎士と冒険者達の混合軍が大きく動き出した。
「……えっと、リディアさん?」
「おはよう、カズト君」
目が覚めたカズトはリディアが視界一杯に入っていることに驚きを通り越して困惑し、思わずそう口を開いた。
しかし彼女は彼の言葉に対して軽く笑みを浮かべながら挨拶をするだけで他に何も言わない。
それに困ったカズトは体を動かして彼女から離れようとする……が、体が動かない。
そのときになってようやく、彼はリディアに抱き枕状態にされていることに気が付いた。
そう、リディアはカズトより早くに起きてから、彼が起きるまでずっとこの状態でいたのだ。
その事に思い至ったカズトはもう一度リディアの顔をよく見る。
すると彼女は恥ずかしさからかほんのりと頬を赤く染めていた。
それだけでなく彼女があまりにも幸せそうにしているものだから、カズトは無理矢理彼女を引き剥がすわけにもいかない。
だがそれでも精神衛生上良くないため離れたいという思いが浮かんでくる。
そこで困ったカズトはもう一度リディアに質問した。
「リディアさん、これは一体?」
「離れたくないからこうしてる」
「……えっと、随分と積極的ですね?」
「カズト君に私の気持ちは知られてしまってるから、なんだか吹っ切れた」
「そ、そうなんだ……」
リディアの言葉を聞いたカズトはにやけそうになる口を気合いで抑え、普通の顔でいることを心がける。
しかしそれでも完全に抑えきることができずに微妙にひきつっているような顔になっているが。
カズトとて男であるためリディアのような美少女に好かれているということに嬉しさを感じないわけがない。
それにこれまで一緒に過ごしてきてカズトも彼女に対して好意を抱いていないわけではない。
いや、実を言うとカズトは一緒のベッドに入った時点で彼女の事を意識しまくっていたのだが。
そのためリディアに抱きつかれている今の状態は嬉しくないわけがない。
しかし彼の心には既にダイアナがいる。
なのでやはりここは引き剥がすべきなのだろうが、彼の心には迷いがある。
するとリディアがそんな彼の目を見て口を開いた。
「カズト君、私のこと好き?」
「えーっと、その……」
「それとも、他に好きな人いる?」
「うぇ!?」
その言葉にカズトの心臓が跳ね上がる。
そしてどう答えたものかとリディアから視線をはずし、辺りを彷徨わせる。
そんな彼の様子を見たリディアはどういうわけか微笑んだ。
「やっぱりいるんだ。それってダイアナさんの事だよね?」
「えーっと……」
「でも、それでもいい。二番目でも三番目でもカズト君が私を好きになってくれるならそれでいい」
「……え?」
微笑みながらそう言うリディアにカズトの頭が追いつかない。
普通想い人に他に好きな人がいると分かったならば嫉妬するだろう。
そしてなんとしてでも自分がその想い人の中で一番になろうとする、またはそのような勇気が無くても、そう思うのが当たり前であろう。
しかしリディアにはそれがない。
彼女は依然として微笑んだまま、心の底からそう言っているようなのである。
カズトはリディアの言っている言葉の意味が分からず思わず聞き返した。
「どういうこと……?」
「そのままの意味だけど……。もしかしてカズト君は私が嫌い?」
「いや! そんなことは断じてない! ただ、その、まるで僕に好きな人が複数人いてもいいって言い方だったから気になって」
「その通りだよ」
「え?」
「むしろ経済力のある男の人が複数の女性を娶るのは当たり前だと思うけど」
そう言ったリディアはさも当たり前のことを言っているといった様子である。
その様子にカズトはますます疑問を抱く……が、そこでリディアの言葉とそのまま同じ意味の、地球にもあった結婚制度のことを思い出した。
「もしかして…………この世界って一夫多妻制?」
「そうだけど……。この世界って?」
「あ、いや、なんでもない!」
あまりにも自分の中の常識とオーランドの常識が違うせいで、カズトは無意識に口を滑らせてしまった。
その事をリディアに指摘されて初めて気づいたカズトは、リディアから慌てて距離を取る。
その時リディアはカズトと話すことに気を取られていたためか、腕に力が殆ど入っておらず、カズトはそこから容易に脱出することができた。
それからカズトはさらにその失言を有耶無耶にするために、そして話題を変えるために口を開く。
「と、とにかく朝ご飯を食べよう! これから戦うんだし、他に準備しなきゃいけないこともあるしさ!」
「わかった。でも、カズト君」
「な、何?」
「私、カズト君に好きになってもらえるように頑張る」
「ソ、ソデスカ」
リディアがそう言うと、カズトは顔を赤くさせて片言になりながらそう答えた。
そして二人はその話題に触れることなく、いやカズトが意図的にその話題を避けながら朝食の準備をする。
その間カズトは頭の片隅でぼんやりと一夫多妻制について詮無き事を考えていたが、結局リディアとダイアナの二人の内どちらかを選びどちらかを捨てなければならないという事にならなくて無意識のうちにホッと安堵していた。
もっともダイアナと結ばれるには今の彼には足りない物が多々あるが。
しかし、当然カズトには日本人としての常識がある。
元々彼にハーレム願望はなかったし、生涯一人の女性を愛し続ける事が正しいと心からそう思っている。
そのためホッとする反面、彼の心の中にはどこかもやもやとした気持ちがはびこっているのだった。
それから朝食が済んだ後、カズトは魔力制御の技量を上げるためにその訓練を、リディアは二本の槍を持って軽く運動し、体の調子を整えた。
そしてリディアの様子を見にきたカルロスやブランドンに挨拶し、外に出る。
そしてリディアの姿を発見して一目散やってきたダニーを彼女が殴り飛ばした後、今日の作戦が開始される。
「それじゃあリディアさん、頑張ろうか」
「うん。サポート頼んだ」
「任せてよ」
二人でそう言い合い士気を高める。
今回の作戦の目的は確保した南区の拠点からまっすぐ北に向かって進み、ダンジョン都市の中央に鎮座するアンファングアントを討伐することだ。
そしてアンファングアントを討伐するのはカルロス率いるランクAパーティーの暴風の宴であり、その周りに三匹いるランクAのキングアントの相手をするのは、集まった全騎士達から選び抜かれた十数名の精鋭達である。
さらに暴風の宴と精鋭騎士達がそれらの魔物と当たるまでの道中は、十数名の枠には選ばれなかったものの、それでも十分な実力を持つ騎士達が先頭になって北に突き進むことになる。
その騎士達を槍の穂先とすると、西側の側面にリディアとカズトが、東側の側面にダニー率いるランクAパーティーの大地の目覚めが配置される。
そして作戦が開始されてからしばらくすると、勇ましい雄叫びや苦痛を伴った悲鳴がカズト達の下まで聞こえてきた。
「始まった」
「うん。もうそろそろ僕達の出番が来るね」
カズトは首を回し、深呼吸をして今一度リラックスし、リディアは亜空の腕輪から二本の槍を取り出して両手に持つ。
そうして彼らが臨戦態勢を整えてから僅か数分後、騎士と冒険者達の混合軍が大きく動き出した。
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