魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
71話 帝国と魔人
「他にもカズトに関する噂は色々あるぜ。魔法士のくせに異質な強さを持っているとか、爆音を鳴らして威嚇行為をしながらバッセルの街に来たとかな。ああ、雷霊がカズトを串刺しにして殺そうとしたって噂もあるぜ」
「うっ」
「それは……」
カルロスが言った噂に身に覚えがありすぎる二人は気まずそうに言葉を濁した。彼らにとってそれらの話は、あまり触れてほしくない話である。そのためカズトはすぐに話題を逸らそうとした。
「ぼ、僕の噂の他に何かないの?」
「あるぜ。それも飛びっきりのがな」
「それなら最初から僕の話じゃなくて、そっちの話をしてよ」
カルロスの言葉にむくれた表情でそう言ったカズトだが、カルロスはその抗議を無視した。そしてその飛びっきりの話とやらを話しだす。
「これは今日の朝にバッセルの冒険者ギルドに届いた知らせらしいんだがよ、どうやらスーリア王国がヴァーム帝国の手に落ちたらしい」
「そうなんだ。時間の問題だと思っていたけど、とうとうヴァーム帝国に負けたんだ」
「ああ。デーメイル鉱国は帝国と繋がっているらしいから、これでエイベル大河から向こうにはヴァーム帝国の敵はいねえ」
「となると次攻めてくるとしたら次はエイベル大河からこっち側にある国」
「そうだ。その中で最初に攻められる国は恐らくここかルフ獣国かヴェルダ王国のどれかだろうな」
「えーっと……?」
謎の単語、というより国の名前のような知らない言葉がたくさん出てきてカズトは酷く困惑している。するとそんな様子の彼にリディアが気づいた。
「カズト君、もしかしてヴァーム帝国を知らないの?」
「うん」
「おいおい、マジかよ。ヴァーム帝国なんて冒険者じゃなくても常識だろ」
「うっ……」
「ヴァーム帝国っていうのはこの国の北に面しているエイベル大河を超えた先にある大国。色々と謎が多い国だけど、噂では世界征服を目的にしていると言われている。その証拠にたった今話にでていたスーリア王国のような、エイベル大河の向こうにあった国々の殆どは帝国に飲み込まれた」
「そうなんだ。物騒な国なんだね」
「まあ、物騒って言葉だけで終わればいいんだがな」
「どういうこと?」
カルロスのその言葉に対してカズトはそう疑問を口にする。すると質問をされた彼は眉を顰めて答えた。
「帝国にはな、魔人を作って配下にしているって噂があるんだよ」
「魔人を作る!?」
カズトはそれを聞いて目を見開いて驚いた。なにせ彼はマーレの街にいた時にダイアナ達と一緒に魔人を倒した経験があるからだ。
そしてその魔人はリディアと同じ程度の実力を持つダイアナと、そのレベルには達していないがそれでも実力のあるセリオとメイベルを纏めて相手にして圧倒していたのだ。
幸いその魔人との相性がカズトとは良かったためにそいつを倒すことはできたが、それだけの力がある魔人を作って配下にしているとなれば、ヴァーム帝国は相当な戦力を持っているということになる。しかしカルロスが口にしたのはそれだけではなかった。
「ああ、そうらしい。それに加えてそいつらを世界中に送り出して、各国の国力を削いでいるらしいぞ」
「うそっ!?」
「嘘じゃない。多分本当の話。現にこの国でも魔人の目撃証言が冒険者ギルドにたくさん集まってる。今までもそういう情報はあったけど、最近になって急増している」
「そうそう。それに魔人討伐の為の人手が足りなさ過ぎて、精鋭騎士や俺達みたいな高ランク冒険者が次々と駆り出されてる。噂じゃ氷姫と名高い第二王女殿下まで魔人を倒し回っているらしいぜ」
カルロスとリディアのそれらの話を聞いてカズトは絶句する。彼の頭の中にあるのはダイアナのことと彼女と一緒に倒した魔人のことだ。
魔人は魔物の巨大個体を作り出していた。その目的は結局のところ不明なままだったのだが、カルロスとリディアの言う通り、この国の国力を削ぐためにそれを行っていたとしたら納得できる。なにせカズトが戦ったアームホーンゴリラの巨大個体は他の普通の個体よりも相当手ごわかったのだから。
「だがまあ魔人は所詮ランクB程度の魔物と変わらねえからな。相性とか運とか諸々の要素で勝負は別れることはあるが、よっぽどの事が無い限り問題ないだろ」
「そう思うのははカルロスだけ。魔人だって中にはランクAの魔物と同じくらい強い奴はいる」
「それならそれで戦ってみてえんだがな。生憎俺はそれだけ強い魔人に会った事がねえ」
カルロスはそう言ってやや不満そうな顔をした。
いや、実際に不満なのだろう。
彼は戦闘狂とまではいかないが、戦う事が好きな性分なのだろうということは、その口振りとランクSの魔物を相手に出来ると知ったときに喜んでいた様子から分かる。
現に今回の作戦を伝えられたときにマーレジャイアントの相手をカズト達がすると言われたときは、骨のある相手を横取りされたような顔をしていたし、今話題に出たランクAの魔物と同じくらい強い魔人に出会えないことに不満を持っている。
もっとも今回の作戦に関しては、カルロス達のパーティーはランクSという人生で一度出会う事ができるかどうかという強大な魔物を相手にする事ができるため、その不満は消えているようだが。
そうしてカルロスとリディアが話している中、カズトは彼らの話しを聞いているようで全く聞いていなかった。その顔には明らかな不安が現れており、魔人の話を聞いてから終始落ち着きがない。
するとカルロスとリディアはチラリとそんなカズトの様子を見て、取り直したように口を開いた。
「……ま、最近魔人の目撃証言が多くなっているからといって、そんな頻繁に会うことはねぇよ。現にギルドから俺達にやってくる魔人討伐の依頼なんて一年に一回あるかないかと言ったところだ」
「カルロスの言う通り。だからカズト君、そんな怯えなくていい」
「あ、ああ。うん。そうだね」
彼らの言葉にカズトはぎこちない笑顔を浮かべながらも頷いた。どうやら彼らはカズトが魔人の話を聞いて、それに怯えていると勘違いしたらしい。だがカズトは一切魔人に怯えておらず、むしろひたすら心配していた。もちろん心配している相手はダイアナの事だ。
(たしかによく考えてみれば一国の王女様がわざわざ危険を冒して魔人討伐を行うなんておかしい。ダイアナはそこらへんのことは詳しく言ってなかったけど、カルロスさんとリディアさんの言う通り、本当に魔人討伐の為の手が足りてないからダイアナがマールの街に来たのかもしれない)
カルロスとリディアの言葉とダイアナが魔人討伐に出向いていた事実から、それらの考えが正しい可能性は非常に高い。
(だとしたら、ダイアナが今やっているって言ってた仕事って、もしかして魔人討伐……?)
そこに思い至った時、カズトの中でダイアナを心配する気持ちが膨れ上がった。しかしカズトが王家の紋章を持っている事ならともかく、ダイアナと対話の腕輪を使ってお互いに依頼や仕事がない日は毎夜話し合っているという事は隠してほしいと彼女に言われている。
そのため今すぐダイアナに対話の腕輪で彼女の無事を確認しようとも、ここにはカルロスとリディアがいるためそれができない。
なのでカズトはどうしようもなくダイアナの事が不安で、心配で、彼女が無事かどうか焦っているのだ。
「うっ」
「それは……」
カルロスが言った噂に身に覚えがありすぎる二人は気まずそうに言葉を濁した。彼らにとってそれらの話は、あまり触れてほしくない話である。そのためカズトはすぐに話題を逸らそうとした。
「ぼ、僕の噂の他に何かないの?」
「あるぜ。それも飛びっきりのがな」
「それなら最初から僕の話じゃなくて、そっちの話をしてよ」
カルロスの言葉にむくれた表情でそう言ったカズトだが、カルロスはその抗議を無視した。そしてその飛びっきりの話とやらを話しだす。
「これは今日の朝にバッセルの冒険者ギルドに届いた知らせらしいんだがよ、どうやらスーリア王国がヴァーム帝国の手に落ちたらしい」
「そうなんだ。時間の問題だと思っていたけど、とうとうヴァーム帝国に負けたんだ」
「ああ。デーメイル鉱国は帝国と繋がっているらしいから、これでエイベル大河から向こうにはヴァーム帝国の敵はいねえ」
「となると次攻めてくるとしたら次はエイベル大河からこっち側にある国」
「そうだ。その中で最初に攻められる国は恐らくここかルフ獣国かヴェルダ王国のどれかだろうな」
「えーっと……?」
謎の単語、というより国の名前のような知らない言葉がたくさん出てきてカズトは酷く困惑している。するとそんな様子の彼にリディアが気づいた。
「カズト君、もしかしてヴァーム帝国を知らないの?」
「うん」
「おいおい、マジかよ。ヴァーム帝国なんて冒険者じゃなくても常識だろ」
「うっ……」
「ヴァーム帝国っていうのはこの国の北に面しているエイベル大河を超えた先にある大国。色々と謎が多い国だけど、噂では世界征服を目的にしていると言われている。その証拠にたった今話にでていたスーリア王国のような、エイベル大河の向こうにあった国々の殆どは帝国に飲み込まれた」
「そうなんだ。物騒な国なんだね」
「まあ、物騒って言葉だけで終わればいいんだがな」
「どういうこと?」
カルロスのその言葉に対してカズトはそう疑問を口にする。すると質問をされた彼は眉を顰めて答えた。
「帝国にはな、魔人を作って配下にしているって噂があるんだよ」
「魔人を作る!?」
カズトはそれを聞いて目を見開いて驚いた。なにせ彼はマーレの街にいた時にダイアナ達と一緒に魔人を倒した経験があるからだ。
そしてその魔人はリディアと同じ程度の実力を持つダイアナと、そのレベルには達していないがそれでも実力のあるセリオとメイベルを纏めて相手にして圧倒していたのだ。
幸いその魔人との相性がカズトとは良かったためにそいつを倒すことはできたが、それだけの力がある魔人を作って配下にしているとなれば、ヴァーム帝国は相当な戦力を持っているということになる。しかしカルロスが口にしたのはそれだけではなかった。
「ああ、そうらしい。それに加えてそいつらを世界中に送り出して、各国の国力を削いでいるらしいぞ」
「うそっ!?」
「嘘じゃない。多分本当の話。現にこの国でも魔人の目撃証言が冒険者ギルドにたくさん集まってる。今までもそういう情報はあったけど、最近になって急増している」
「そうそう。それに魔人討伐の為の人手が足りなさ過ぎて、精鋭騎士や俺達みたいな高ランク冒険者が次々と駆り出されてる。噂じゃ氷姫と名高い第二王女殿下まで魔人を倒し回っているらしいぜ」
カルロスとリディアのそれらの話を聞いてカズトは絶句する。彼の頭の中にあるのはダイアナのことと彼女と一緒に倒した魔人のことだ。
魔人は魔物の巨大個体を作り出していた。その目的は結局のところ不明なままだったのだが、カルロスとリディアの言う通り、この国の国力を削ぐためにそれを行っていたとしたら納得できる。なにせカズトが戦ったアームホーンゴリラの巨大個体は他の普通の個体よりも相当手ごわかったのだから。
「だがまあ魔人は所詮ランクB程度の魔物と変わらねえからな。相性とか運とか諸々の要素で勝負は別れることはあるが、よっぽどの事が無い限り問題ないだろ」
「そう思うのははカルロスだけ。魔人だって中にはランクAの魔物と同じくらい強い奴はいる」
「それならそれで戦ってみてえんだがな。生憎俺はそれだけ強い魔人に会った事がねえ」
カルロスはそう言ってやや不満そうな顔をした。
いや、実際に不満なのだろう。
彼は戦闘狂とまではいかないが、戦う事が好きな性分なのだろうということは、その口振りとランクSの魔物を相手に出来ると知ったときに喜んでいた様子から分かる。
現に今回の作戦を伝えられたときにマーレジャイアントの相手をカズト達がすると言われたときは、骨のある相手を横取りされたような顔をしていたし、今話題に出たランクAの魔物と同じくらい強い魔人に出会えないことに不満を持っている。
もっとも今回の作戦に関しては、カルロス達のパーティーはランクSという人生で一度出会う事ができるかどうかという強大な魔物を相手にする事ができるため、その不満は消えているようだが。
そうしてカルロスとリディアが話している中、カズトは彼らの話しを聞いているようで全く聞いていなかった。その顔には明らかな不安が現れており、魔人の話を聞いてから終始落ち着きがない。
するとカルロスとリディアはチラリとそんなカズトの様子を見て、取り直したように口を開いた。
「……ま、最近魔人の目撃証言が多くなっているからといって、そんな頻繁に会うことはねぇよ。現にギルドから俺達にやってくる魔人討伐の依頼なんて一年に一回あるかないかと言ったところだ」
「カルロスの言う通り。だからカズト君、そんな怯えなくていい」
「あ、ああ。うん。そうだね」
彼らの言葉にカズトはぎこちない笑顔を浮かべながらも頷いた。どうやら彼らはカズトが魔人の話を聞いて、それに怯えていると勘違いしたらしい。だがカズトは一切魔人に怯えておらず、むしろひたすら心配していた。もちろん心配している相手はダイアナの事だ。
(たしかによく考えてみれば一国の王女様がわざわざ危険を冒して魔人討伐を行うなんておかしい。ダイアナはそこらへんのことは詳しく言ってなかったけど、カルロスさんとリディアさんの言う通り、本当に魔人討伐の為の手が足りてないからダイアナがマールの街に来たのかもしれない)
カルロスとリディアの言葉とダイアナが魔人討伐に出向いていた事実から、それらの考えが正しい可能性は非常に高い。
(だとしたら、ダイアナが今やっているって言ってた仕事って、もしかして魔人討伐……?)
そこに思い至った時、カズトの中でダイアナを心配する気持ちが膨れ上がった。しかしカズトが王家の紋章を持っている事ならともかく、ダイアナと対話の腕輪を使ってお互いに依頼や仕事がない日は毎夜話し合っているという事は隠してほしいと彼女に言われている。
そのため今すぐダイアナに対話の腕輪で彼女の無事を確認しようとも、ここにはカルロスとリディアがいるためそれができない。
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