魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
59話 カルロスという男
「ダニーの後半の意見はともかく、二人が言いたいことは分かっている。俺も最初はそう考えていたからな。だがもしそうした場合、他はどうなる?」
「他、ですかい?」
ブランドンの問いにカルロスとダニーは首を傾げた。
するとブランドン自身がその問いに答える。
「他とはおまえ達以外の者達の事だ。彼らはお前たちほど強くはない。だが魔物の中にはランクAではなくともランクBの魔物もわんさかといるんだぞ。そこでお前たちがマーレジャイアント一匹に集中していたら、他の者達が戦っている場所から崩されかねん。そのためにお前たちにはそのカバーをしてもらいたいんだ」
ちなみにこれはブランドン達が出発前のカズトとリディアの会話を聞き、それに対する対策を取り入れたことによる作戦だったりする。
「なるほど。だがそれなら別に人数の少ない雷霊じゃなくても良いはずですぜ。それに雷霊のパーティーのその男はまだランクEってのはここにいる奴らなら全員知っているはずですが?」
高ランク冒険者についての情報はある程度周りの人間に知られるのが普通である。
そしてその冒険者のパーティーメンバーもまた噂になるのも普通である。
そのためカルロスはカズトの事をある程度周りの者達は知っていると思いそう言った。
ちなみにカズトが王家の紋章が彫られた懐中時計を持っている事は、カズトの頼みによりブランドン達が早急に箝口令をひいたため、それを知っているのは全体でごくわずかな冒険者と騎士のみである。
しかしカルロスの予想を裏切ってカズトのことをランクE冒険者だと知らない人間がここにいた。
「ええ!? カルロスそれは本当なのかい!? それならなんでこんなところに、いや、何故ランクBのリディアちゃんと一緒にパーティーを組んでいるんだ!? ねぇリディアちゃん! そんな男じゃなくて僕と一緒にーー」
「うるさい」
「ーーぼげぇ!?」
(わぁ、綺麗に入ったな。痛そう)
今は重要な場であるためか、リディアは暴走し始めたダニーを物理的に黙らせた。
それは端から見てもとても重いパンチであることがわり、カルロスを含めた高ランク冒険者達が思わず顔をしかめる程であった。
しかしブランドンはそんなことを気にもとめずカルロスの質問に答える。
「カルロスの言いたいことは分かる。だが雷霊のパーティーメンバーである彼の実力はランクB冒険者に匹敵するほどだ。それは冒険者ギルドも認めている。そして我々は戦力としては彼らだけでもマーレジャイアントを倒せると判断した」
カルロスがその言葉に対してほう、と小さく口にした。
ブランドンはそのまま続けて喋る。
「マーレジャイアントは水の操る能力を持っている。だから雷を放てる雷霊とは相性が良い。そのため我々は彼女にマーレジャイアントの討伐を任せることにしたわけだ」
「……なるほど。ま、そういうことなら分かりやした」
ブランドンの説明を聞いたカルロスはまだカズトの事を少し疑っていたが、今はそんなことをしている場合ではないと判断したのか素直に引き下がった。
しかしカルロスがカズトの事を疑っても仕方がない。
何故なら例え低ランク冒険者でも実力があるものならば、それだけで噂になるからだ。
そして大抵の噂ならば高ランク冒険者であるカルロス達の耳に入ってくる。
だが彼らはカズトに関しての噂を聞いたことが無かったため、カズトの事を訝しげに思ったのだ。
そうして説明し終わった後、ブランドンは話を戻した。
「雷霊達がマーレジャイアントを討伐した後、南区を占拠仕返すというところまで説明したな。そして占拠した場所はマジックアイテムで土壁を作って魔物の侵入を防ぐ。そうして新たな拠点とするわけだ。ここまでで一日かかるだろう」
そこでブランドン一旦話しを止め、質問が無いか皆を見回す。
ダニーは未だにリディアから殴られた場所を抑えてうずくまっているが、彼のパーティーメンバーが後で説明するから放っておいても大丈夫だろう。
そう判断してブランドンは話しを進める。
「そして二日目だが、手にいれた拠点を中心に次は街の中心部に居座っているアンファングアントを潰す。これには暴風の宴とゾニア率いる騎士団の精鋭達に任せる。ちなみにランクAのキングアントは複数いるだろうから、それは騎士団が。そしてアンファングアントは暴風の宴が相手をしてくれ」
「ほぅ。俺らがランクSの魔物の相手をさせてもらえるんですかい。そいつは嬉しいですぜ」
ブランドンの言葉を聞き、カルロスは獲物を見つけた猛獣のような好戦的な笑みを浮かべる。
そしてブランドンの配下である騎士団長のゾニアは恭しく了解の礼をした。
「ああ、頼んだぞ。そしてその際大地の目覚めと雷霊達は周りの者達の補助を頼んだ。ここまでで恐らく二日はかかるだろうが、ここまで来たら今回の作戦は成功と言ってもいい。その後は大地の目覚めがアングリースパイダー、雷霊達がサンダーグリスリー、最後に暴風の宴がマシンガルビートル、という順に一日事に討伐していくことになる。分かったな?」
『はい』
「ならこれで解散だ。お前たちはこの作戦の要だから見張りは免除する。たっぷりと英気を養って戦いに備えてくれ」
そういうとブランドンは席を立ってテントから出て行った。
ここにいる皆もまたそれに続いて次から次へと外に出て行く。
するとリディアも席を立った。
「カズト君、行こう」
「えっと、ダニーさんはほっといていいの?」
「いい。いつものことだから」
「そ、そうなんだ」
そう言ってリディアはさっさとテントから出て行ってしまう。
対してカズトは言葉では納得したものの、未だにうずくまっているダニーを見て少し心配そうな様子を見せる。
すると彼の背後からカルロスが話しかけた。
「気にすんな。あれぐらいじゃ死なねえからよ。それより俺はカルロスってんだ。カズトだっけ? よろしくな」
「あ、どうも。カズトです。よろしくお願いします」
「堅ぇなぁ。ただでさえお前ぇは細ぇのに、そんなんじゃ他の冒険者に舐められるぞ? 貴族様相手ならそれでいいが、冒険者同士なら砕けて話すってのが常識だぜ?」
「そうなんですか……。それなら言われた通りそうするよ」
「そうそう。まあ、んなことも知らねえのは大抵冒険者になった奴らばっかだけどな」
「その通り僕はまだ冒険者になったばかりだからね。教えてくれて感謝するよ」
「なんだ、そうだったのかよ。それなら実力があるのにまだランクEってのには納得するぜ。ま、お前さんの実力はどの程度なのかまだ知らんがな」
そう言って一人納得する様子を見せるカルロス。
すると彼は今度は真剣な顔をして口を開いた。
「それよりお前さん、死ぬなよ? 今言ったようにお前ぇの実力はまだ知らねえが相手はランクAの魔物だ。いくら雷霊がいるからって、少しでも油断すればお前ぇも雷霊も一瞬で死ぬぞ。足を引っ張るなんて言語道断だ」
「わかった。忠告はありがたく受け取っておくよ」
「おう、そうしとけ。じゃあまた明日な。しっかり休めよ」
「うん。カルロスさんもね。また明日」
そう言って二人は軽く手を上げてテントを出、それぞれ別の方向を目指して歩いて行く。
(カルロスさん。失礼ながら顔は厳ついし大柄だったから少し怖いと思ってたんだけどな。凄く良い人だった。人は見かけによらないってのはまさにこのことだ)
カズトがそんなことを考えながら歩いていると、大分前を歩いているリディアが彼が遅れている事に気づいた。
彼女はカズトの下まで戻り、横に並んで一緒に歩く。
「遅い。どうしたの?」
「ちょっとカルロスさんと話してたんだ」
「そうなんだ。カルロスは好戦的すぎるけどとても良い人。私がいないときに何か困ったら彼に相談するといい」
「へぇ、そうなんだ。ちなみにダニーさんは?」
「あれはゴミ。普段は優男の皮を被ってるけど中身は女のことしか考えてない。しかも会う度に軟派してくる厄介なゴミ。関わらない方が良い」
「し、辛辣だね」
「普通」
「そ、そうなんだ」
そんな話しをしながら、二人はブランドンから割り当てられた野営する場所に向かった。
「他、ですかい?」
ブランドンの問いにカルロスとダニーは首を傾げた。
するとブランドン自身がその問いに答える。
「他とはおまえ達以外の者達の事だ。彼らはお前たちほど強くはない。だが魔物の中にはランクAではなくともランクBの魔物もわんさかといるんだぞ。そこでお前たちがマーレジャイアント一匹に集中していたら、他の者達が戦っている場所から崩されかねん。そのためにお前たちにはそのカバーをしてもらいたいんだ」
ちなみにこれはブランドン達が出発前のカズトとリディアの会話を聞き、それに対する対策を取り入れたことによる作戦だったりする。
「なるほど。だがそれなら別に人数の少ない雷霊じゃなくても良いはずですぜ。それに雷霊のパーティーのその男はまだランクEってのはここにいる奴らなら全員知っているはずですが?」
高ランク冒険者についての情報はある程度周りの人間に知られるのが普通である。
そしてその冒険者のパーティーメンバーもまた噂になるのも普通である。
そのためカルロスはカズトの事をある程度周りの者達は知っていると思いそう言った。
ちなみにカズトが王家の紋章が彫られた懐中時計を持っている事は、カズトの頼みによりブランドン達が早急に箝口令をひいたため、それを知っているのは全体でごくわずかな冒険者と騎士のみである。
しかしカルロスの予想を裏切ってカズトのことをランクE冒険者だと知らない人間がここにいた。
「ええ!? カルロスそれは本当なのかい!? それならなんでこんなところに、いや、何故ランクBのリディアちゃんと一緒にパーティーを組んでいるんだ!? ねぇリディアちゃん! そんな男じゃなくて僕と一緒にーー」
「うるさい」
「ーーぼげぇ!?」
(わぁ、綺麗に入ったな。痛そう)
今は重要な場であるためか、リディアは暴走し始めたダニーを物理的に黙らせた。
それは端から見てもとても重いパンチであることがわり、カルロスを含めた高ランク冒険者達が思わず顔をしかめる程であった。
しかしブランドンはそんなことを気にもとめずカルロスの質問に答える。
「カルロスの言いたいことは分かる。だが雷霊のパーティーメンバーである彼の実力はランクB冒険者に匹敵するほどだ。それは冒険者ギルドも認めている。そして我々は戦力としては彼らだけでもマーレジャイアントを倒せると判断した」
カルロスがその言葉に対してほう、と小さく口にした。
ブランドンはそのまま続けて喋る。
「マーレジャイアントは水の操る能力を持っている。だから雷を放てる雷霊とは相性が良い。そのため我々は彼女にマーレジャイアントの討伐を任せることにしたわけだ」
「……なるほど。ま、そういうことなら分かりやした」
ブランドンの説明を聞いたカルロスはまだカズトの事を少し疑っていたが、今はそんなことをしている場合ではないと判断したのか素直に引き下がった。
しかしカルロスがカズトの事を疑っても仕方がない。
何故なら例え低ランク冒険者でも実力があるものならば、それだけで噂になるからだ。
そして大抵の噂ならば高ランク冒険者であるカルロス達の耳に入ってくる。
だが彼らはカズトに関しての噂を聞いたことが無かったため、カズトの事を訝しげに思ったのだ。
そうして説明し終わった後、ブランドンは話を戻した。
「雷霊達がマーレジャイアントを討伐した後、南区を占拠仕返すというところまで説明したな。そして占拠した場所はマジックアイテムで土壁を作って魔物の侵入を防ぐ。そうして新たな拠点とするわけだ。ここまでで一日かかるだろう」
そこでブランドン一旦話しを止め、質問が無いか皆を見回す。
ダニーは未だにリディアから殴られた場所を抑えてうずくまっているが、彼のパーティーメンバーが後で説明するから放っておいても大丈夫だろう。
そう判断してブランドンは話しを進める。
「そして二日目だが、手にいれた拠点を中心に次は街の中心部に居座っているアンファングアントを潰す。これには暴風の宴とゾニア率いる騎士団の精鋭達に任せる。ちなみにランクAのキングアントは複数いるだろうから、それは騎士団が。そしてアンファングアントは暴風の宴が相手をしてくれ」
「ほぅ。俺らがランクSの魔物の相手をさせてもらえるんですかい。そいつは嬉しいですぜ」
ブランドンの言葉を聞き、カルロスは獲物を見つけた猛獣のような好戦的な笑みを浮かべる。
そしてブランドンの配下である騎士団長のゾニアは恭しく了解の礼をした。
「ああ、頼んだぞ。そしてその際大地の目覚めと雷霊達は周りの者達の補助を頼んだ。ここまでで恐らく二日はかかるだろうが、ここまで来たら今回の作戦は成功と言ってもいい。その後は大地の目覚めがアングリースパイダー、雷霊達がサンダーグリスリー、最後に暴風の宴がマシンガルビートル、という順に一日事に討伐していくことになる。分かったな?」
『はい』
「ならこれで解散だ。お前たちはこの作戦の要だから見張りは免除する。たっぷりと英気を養って戦いに備えてくれ」
そういうとブランドンは席を立ってテントから出て行った。
ここにいる皆もまたそれに続いて次から次へと外に出て行く。
するとリディアも席を立った。
「カズト君、行こう」
「えっと、ダニーさんはほっといていいの?」
「いい。いつものことだから」
「そ、そうなんだ」
そう言ってリディアはさっさとテントから出て行ってしまう。
対してカズトは言葉では納得したものの、未だにうずくまっているダニーを見て少し心配そうな様子を見せる。
すると彼の背後からカルロスが話しかけた。
「気にすんな。あれぐらいじゃ死なねえからよ。それより俺はカルロスってんだ。カズトだっけ? よろしくな」
「あ、どうも。カズトです。よろしくお願いします」
「堅ぇなぁ。ただでさえお前ぇは細ぇのに、そんなんじゃ他の冒険者に舐められるぞ? 貴族様相手ならそれでいいが、冒険者同士なら砕けて話すってのが常識だぜ?」
「そうなんですか……。それなら言われた通りそうするよ」
「そうそう。まあ、んなことも知らねえのは大抵冒険者になった奴らばっかだけどな」
「その通り僕はまだ冒険者になったばかりだからね。教えてくれて感謝するよ」
「なんだ、そうだったのかよ。それなら実力があるのにまだランクEってのには納得するぜ。ま、お前さんの実力はどの程度なのかまだ知らんがな」
そう言って一人納得する様子を見せるカルロス。
すると彼は今度は真剣な顔をして口を開いた。
「それよりお前さん、死ぬなよ? 今言ったようにお前ぇの実力はまだ知らねえが相手はランクAの魔物だ。いくら雷霊がいるからって、少しでも油断すればお前ぇも雷霊も一瞬で死ぬぞ。足を引っ張るなんて言語道断だ」
「わかった。忠告はありがたく受け取っておくよ」
「おう、そうしとけ。じゃあまた明日な。しっかり休めよ」
「うん。カルロスさんもね。また明日」
そう言って二人は軽く手を上げてテントを出、それぞれ別の方向を目指して歩いて行く。
(カルロスさん。失礼ながら顔は厳ついし大柄だったから少し怖いと思ってたんだけどな。凄く良い人だった。人は見かけによらないってのはまさにこのことだ)
カズトがそんなことを考えながら歩いていると、大分前を歩いているリディアが彼が遅れている事に気づいた。
彼女はカズトの下まで戻り、横に並んで一緒に歩く。
「遅い。どうしたの?」
「ちょっとカルロスさんと話してたんだ」
「そうなんだ。カルロスは好戦的すぎるけどとても良い人。私がいないときに何か困ったら彼に相談するといい」
「へぇ、そうなんだ。ちなみにダニーさんは?」
「あれはゴミ。普段は優男の皮を被ってるけど中身は女のことしか考えてない。しかも会う度に軟派してくる厄介なゴミ。関わらない方が良い」
「し、辛辣だね」
「普通」
「そ、そうなんだ」
そんな話しをしながら、二人はブランドンから割り当てられた野営する場所に向かった。
コメント