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魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

57ダンジョン都市奪還作戦当日

 それから一週間、カズトとリディアは簡単な依頼を受けてそれぞれの動きを確認した。
 そうすることによって彼らの連携は互いに足を引っ張り合わないといった程度まで高めることができた。
 それだけでなくカズトはこれから戦う魔物について調べ上げ、それをリディアと共有した。
 リディアは情報の価値を知らないためそれらのことについて最初はやる意味を感じていなかったようだが、どの魔物相手にどのような対処をすればいいかとカズトと話し合う内にその重要性を理解するようになった。
 そうした一週間を経てカズトとリディアは今、バッセルの街の外にいる。
 そこには今日これから行われるダンジョン都市奪還作戦に参加するすべての冒険者と騎士達が集まっていた。


「うわぁ。すごい数だね」
「一つの都市を奪還するんだからこれぐらいいるのは当たり前。むしろ少ないと言っても良い」
「え? そうなの?」
「うん」


 カズトはその言葉を聞いてもう一度辺りを見回す。
 そこにはこの一週間で近くの街から可能な限り集められた冒険者と騎士達、合わせて約三万人がいる。


「これで少ないぐらいってちょっと信じられないよ」
「こんなに人が集まるのはめったに無いからそう思うのも仕方がない。けど少ないのは本当」
「それって、アンファングアントがいるから?」
「そう。アンファングアントは体内で次々にアリの魔物を生み出すから、時間が経てば経つほどダンジョン都市の奪還が困難になる。だからそいつらが増える前にできるだけ早く倒さなければならない。でも、難しいのは作戦を実行するのが早すぎても戦力がたりなくなる恐れがあること」
「ん? それならリディアさんが数が少ないって言ったのは、今はまだ作戦を実行するのは早いということ?」
「それは分からない。ここに集まっている人達の内、一人で何十人分の戦力に匹敵する人もいるだろうから」
「なるほど。数は少ないけど戦力はあるってことか」


 そう言ってカズトはリディアの言葉に納得した。
 しかし次の瞬間には頭の中で何か引っかかったのか考え込んだ様子を見せる。


「どうしたの?」
「……いや、それでもきついんじゃない? って思ってさ。アンファングアントはアリの軍隊を持ってるようなもんだよ? 質が良くても数が少ないなら、他の場所から切り崩されるよね。やっぱりキツいと思うんだけど」
「……たしかにそれは言えてる。でも量より質って言うし」
「質より量の間違いじゃない? 数の暴力って言葉もあるし」
「……むぅ。カズト君頭良い。でも領主様達は幼い頃か軍事についての勉強もなさっているはず。だから何か考えがあるんだと思う」
「たしかにそうだね。リディアさんの言う通りだよ。こういうのはその道のプロに任せるのが一番だもんね」


 そんな話しをしているカズトとリディアは、ここに集まっている者達の中で一番前にいる。
 そしてこの集団を集めたブランドン達は、当然集まっている者達全員が見えるように、集団の前に少し高く積まれた土の上に立っている。
 つまりそれはカズト達の会話が丸々聞こえていたと言うわけだ。
 ブランドンはその会話を聞いてカズトの意見に感心しつつも焦っていた。


(な、なるほど。たしかにカズト様の言う通り質が良くても数が少なければ脆いところから崩されかねん。ダンジョン都市が魔物に占拠された時間から考えて、戦力がある程度揃った今が好機だと思っていたが、これは考え直さなければならんな。この後すぐに当初立てていた作戦を早急に見直さなければならんな)


 この世界での戦闘では量より質だという考え方が普通とされている。
 それは数々の魔物を倒して鍛えられた人間は普通の人間よりも身体能力が高く、一人で数十人分の戦力となるからだ。
 そのためカズトが指摘した意見は新鮮であり、その考えの欠点を突くものであった。
 もっともカズトはそんなことは知らないため、地球の常識に当てはめて考えただけだったのだが。
 しかしブランドンにとってみればその指摘をしたカズトは常識に捕らわれない人間ということになる。


(さすがは王家の紋章を持つ方だ。眼の付け所が我々とは一味も二味も違う)


 そんなことを考えたのはブランドンだけでなく、カズト達の会話を聞いていた皆がそう思ったみたいだ。

 ちなみに王家の紋章を持つカズトが今回の作戦に参加することは最初ブランドン達が猛反対したが、リディアがカズトの実力を認めていることと彼自身が冒険者として参加したいと言った事によって認められた。

 そしてダンジョン都市奪還作戦に参加する者達への激励の言葉を述べ終えたブランドン達は、馬車に乗ってすぐさま作戦の見直しを始めた。
 一方激励をされた冒険者と騎士達は間にブランドン達が乗っている馬車を挟んで前後二つの列に分かれ、意気揚々とダンジョン都市へと向かう。
 カズト達がいるのはブランドン達が乗っている馬車のすぐ後ろだ。
 本当ならカズト達は列の先頭辺りを歩くつもりだったのだが、ブランドン達の指示によりその場所を歩くことになった。


「ふあぁー……。暇だねぇ」
「うん。暇」


 カズトとリディアは互いに欠伸を移し合いながら、魔物の生息域である街の外とは思えない程のんびりとした会話をしている。


「どうせなら先頭を歩きたかった。それなら弱い魔物を適当に倒せるから退屈せずに済むのに」
「まあまあ。リディアさんみたいな最高戦力の人に万が一があったら事だからね。それにブランドンさん達からすれば、まだ無駄に体力を消耗させたくないんだと思うし」
「それはわかる。私達をランクAの魔物達とランクSのアンファングアントにぶつけるつもりだからでしょ?」
「多分ね。でもそいつらの対策はしっかりしてきたし大丈夫だと思うよ」
「うん。カズト君がしっかり対策を建ててくれたからその点は安心してる。でもだからこそ暇」
「そう言われると嬉しい気がするけど……。まあ僕も実際緊張なんか感じずに暇だしねぇ」


 そう言ってカズトは再び欠伸をする。
 するとリディアが暗い顔で下を向いて口を開いた。


「カズト君、ごめん」
「ん? 急にどうしたの?」
「私とパーティーを組んだせいで危険な魔物を相手にする事になったこと。パーティーを組んだときはこんな事になるとは思ってなかったから……。カズト君、やっぱり今からでもパーティー解散しよう。いくらカズト君が強くても危険すぎる」


 リディアはカズトの顔を見てそう言ったが、対するカズトは呆れた顔をした。


「もー、だから気にしなくていいって何度も言ってるじゃん。危険なのは承知の上だし、何よりここで解散してしまったらリディアさんの命が今の状況よりさらに危なくなるよ。それにせっかくこの一週間共に過ごしてきたのに、ここでリディアさんとパーティーを解散して離れるなんてのは嫌だよ」


 カズトの言葉を聞くと、リディアは最初申し訳なさそうな顔をしていたが、彼の最後の言葉を聞いて顔を赤らめた。


「は、離れたくないなんて……。そんなにカズト君は、私とパーティー組みたいの?」
「もちろんだよ。僕一人でいるよりリディアさんと一緒にいたほうが何倍も良いからね」
「はぅ……」


 カズトは純粋にリディアと一緒にいたほうが一人でいるより安全だと言いたかったのだが、その言葉を別の意味で捉えたのか、リディアはさらに顔を赤らめた。

 それから二人の間に再び沈黙が訪れる。
 するとあまりにも退屈だからか、カズトは腕を組んでそれを紛らわせるために何かできないか考え始めた。


「うーん……」
「どうしたの?」
「何か退屈を紛らわせるのはないかなと思ってさ。……そうだ。しりとりでもしようか」
「しりとり? なにそれ」
「あれ? 知らないの?」
「初めて聞いた」
「そ、そうなんだ」


(この世界ではしりとりは無いのかな?)


 カズトはリディアがしりとりを知らないことに驚くが、彼が思った通りこの世界にはしりとりという遊びは存在しない。
 というよりこの世界の人間の殆どは生きることに精一杯なため、今の彼らのように暇になることがほとんどない。
 そのため娯楽は殆ど無く、あっても貴族や王族が嗜む程度である。
 カズトはリディアにしりとりの説明をする。


「しりとりって言うのは相手が言った単語の一番最後の文字を最初に持ってきて、その文字から始まる単語をお互いに言っていくゲームなんだ。ただし一度言った単語は二度と使えない。それで最後に”ん"がつく単語を言ったら負けっていうゲームなんだよ」
「ふーん」
「あれ、興味なさそうだね」


 しりとりの説明を聞いたリディアは心なしかさらに退屈そうな顔をしている。
 だけどカズトはそんなことを気にせずに始める事にした。


「ま、いいや。どうせ暇なんだし一回やってみよう。それじゃあ、ウマ。はい、次は"ま"から始まる単語だよ、リディアさん」
「まき」


 やはりリディアは退屈なのか表情を変えないまま素っ気なくそう返した。
 しかししりとりの本当の面白さは後半になるにつれて分かっていくというもの。
 カズトはリディアの表情が時間とともにどのような変化をしていくのか楽しみにしながら、単語を返した。

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