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魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

52話 リディアと再開

 カズトが手に持っているのは大銀貨が数枚と大銅貨や銅貨が僅かにあるばかり。
 一応屋台で朝ご飯を食べることはできるが、宿を取ることは難しいだろう。


「依頼、受けるか」


 そう呟き、カズトはクルリと後ろを向いて再度冒険者ギルドの扉を開ける。
 するとその中は依頼板だけでなく受付まで混んでいた。


「……先に朝ご飯食べるか」


 そう呟き、カズトはまたもやクルリと後ろを向いて冒険者ギルドを後にした。

 そして朝ご飯に屋台で売っていたサンドイッチを五つほど買い食いしたカズトは再び冒険者ギルドにやってきた。


「おお、さっきとは全然違う。広く感じるな」


 冒険者ギルドの中はカズトが先程やってきた時とは違い、冒険者は殆どいない。
 どうやら先程中にいた冒険者達は皆、依頼を受けて出て行ったようだ。
 カズトは改めてこの街の冒険者ギルドの中をじっくりと眺める。
 すると見覚えのある髪色をした少女が驚いたような顔でカズトを見ている事に気がついた。


「あ、リディアさん。おはようございます」
「か、カズト様、おはよう、ございます。あの、お体のほうは、大丈夫なのですか?」


 カズトが挨拶をすると、敬語が苦手なのかリディアは途切れ途切れにそう返してきた。
 するとその様子を見ていた周りの冒険者やギルド職員がヒソヒソと噂をしだす。


「おい、雷霊が敬語で話してるぞ。しかも様付けで呼んでる」
「うそだろ? 騎士相手にでも態度を変えない雷霊が? てことはあの男は貴族か?」
「いや、貴族が冒険者なんてやるわけねぇだろ」


 リディアはランクB冒険者で、しかも雷霊の二つ名持ち、さらに美人だ。
 そのため彼女には自然と注目が集まる。
 そんな彼女が敬語を使って話している相手がいれば余計に注目が集まるのは当然だろう。
 そして周りから注目されている事に気づいたカズトは慌ててリディアに小声で話しかける。


「リディアさん! 頼みますから様付けで呼んだり敬語で話したりしないで下さい! 周りから変に注目されてますから!」
「わ、わかった」


 あまりにもカズトが必死な顔でそう言うものだから、リディアは思わずコクコクと首を縦に振って頷いた。


「でも、それならカズトさ……君も敬語で話したりしないでほしい。居心地悪い」
「わかったよ。それじゃあお互い普通に話すってことで」
「うん」


 そんな風にして二人が普通に話しだすと、先程のように周りからはヒソヒソとした声は殆ど聞こえなくなった。
 とはいえ急にリディアが態度を変えたものだから訝しがる者は多いが。
 しかし先程より明らかにヒソヒソ声が減ったのでカズトとしては願ったりである。


「それで、カズト君は大丈夫なの? 体」
「うん。完全に治ったよ」
「さすがこの街一番の治癒士。仕事が早い」


 リディアはこの街の人間ではないし、グレッグに世話になったこともないので彼の治癒魔法がどれほどの実力があるのかは知らない。
 加えて治癒魔法に詳しいわけでもない。
 けれども彼がこの街一番の治癒士というのは知っていたため、その優れた手腕によりすぐに仕事を終えたのだろうと勝手に推測してリディアは一人関心した。
 そして彼女おもむろにカズトの体に手のひらでペタペタと触れる。


「うわぁ! ど、どうしたの!?」
「……本当に治ってるみたい。良かった」


 どうやらリディアはカズトの体の心配をして触診をしたらしい。
 とはいっても素人の触診なので大してあてにはできないのだが、リディアはそれで安心したようだ。
 対してカズトは無造作に女の子に体を触られたのだから驚いて思わず緊張してしまったのだが、リディアはそれに気づくことなく触診を終えた。
 しかし彼女はカズトの顔を見て彼の様子がおかしいことには気づいたようだ。
 首を少し傾げながら彼女は訊ねる。


「どうしたの?」
「い、いや、なんでもないよ」


 カズトは恥ずかしくなったのか、顔を背けてそう言った。
 しかしリディアはふーん、と言って、そんな様子のカズトに特に関心を向けることはなかった。


「どうしてここに来たの? 依頼?」
「うん。そういうリディアさんは?」
「暇だったから。それよりカズト君、手伝っていい? あなたの依頼」
「え? それは嬉しいけど、なんでまた?」
「カズト君を傷つけたお詫び。私は殺しかけたのにただ許してもらっただけだと気が済まない」


 リディアはカズトの目を正面から見てそう言った。
 その眼は非常に力強かったが、先程無造作に体を触られたカズトはまだ恥ずかしさが残っていたのか、わざと視線を外した。


「わ、わかったよ。それなら一緒に依頼を受けようか」
「……うん」


 リディアはカズトが何故自分から視線を外したのか気になったが、彼がそう言ってさっさと依頼板の方に歩いていったため、それを聞くタイミングはなかった。

 そして依頼板の前に着いた二人は何か手頃な依頼がないかを探す。
 すると一つの依頼がカズトの目に止まった。


「ダンジョン都市奪還作戦の参加者募集?」
「それは一昨日スタンビートでダンジョン都市が魔物に占拠されたから、それを取り返すための作戦」
「へぇー、冒険者からも募集しているんだね。作戦は一週間後かあ。僕も参加しようかな」
「止めておいた方がいい。昨日知ったけどカズト君は魔法士でランクEでしょ。 危険だと思う」
「けどダンジョン都市が魔物に占拠されてるとは言っても、ゴブリンとか弱いアリの魔物とかもいたから、僕でも倒せる思う」
「ダンジョン都市に行ったの?」
「うん。昨日行ってきた。まさかダンジョン都市が魔物に占拠されてるとは思わなくてここに来たんだ」
「そうだったんだ。でもやっぱり止めた方がいい。一匹、二匹は倒せても数が多いから」
「確かにそうだけど……でも報酬が魅力的なんだよなぁ」


 しきりにリディアがダンジョン都市奪還作戦に参加することを反対するが、カズトは今金欠である。
 そのため高額報酬であるこの依頼にはどうしても参加したかった。
 そしてやがてカズトが参加することを止めそうに無いことを察したリディアはしょうがないといった風に口を開いた。


「それなら私が今日カズト君の実力を見る。それで大丈夫そうなら参加するってことは?」
「おお、それなら助かるよ! ランクB冒険者のリディアさんに見てもらえるなら確実だしね」
「私も人間だからそこまで完璧じゃない。けど見るからには厳しくする。じゃないとカズト君が死んでしまったら……」


 そこでリディアは言葉を切り、顔を青くした。
 そのことに違和感を覚えたカズトは続きを促すように訊いてみる。


「死んでしまったら?」
「……王族の方々から罰せられるかもしれない」
「いや、それはないと思うけど」


 冒険者は基本的に自己責任だ。
 そのため例えリディアがカズトの実力を認めて彼がこの依頼に参加し、それで死んだとしても彼女が罰を受ける事はない。
 しかしリディアからしてみれば王家とは天上の存在なのだ。
 そのため気まぐれで罰せられるかもしれないという恐怖が彼女にある。
 本当はそんなことはないのだが。
 なのでリディアからしてみれば何が何でもカズトの実力を正確に見抜いて、奪還作戦に参加させて生き残れるかどうかを測らなければならないのだ。
 それを今一度確認したリディアは依頼板から眼をはずしてカズトの目を見、こう言った。


「決めた。カズト君、今日は依頼じゃなくてダンジョンに行こう」

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