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魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

50話 目覚めと謝罪

「う、うぅん……」


 闇に落ちていたカズトの意識が浮上する。
 そして完全に覚醒すると天井、壁、床、全てが見たことのないものだった。
 彼は自分が全く知らない部屋にいる。


(あれ? ここはどこだ?)


 記憶を掘り起こしながらゆっくりと上体を起こす。
 するとその瞬間、身体中に痛みが走った。
 思わず上体を起こすのを止め、再びベッドに体を預ける。


「いてて……。何がどうなってるんだ?」


 痛みに顔をしかめながらも、混乱する頭の中を整理する。
 すると徐々に意識を失う前の記憶が戻ってきた。


「そうだ。確か槍で刺されて、それからなんか空が見えたと思ったら衝撃が来て、それからそれから体の中からスタンガンを当てられたような感じがして……」
「お、おお! カズト様! お目覚めになられましたかね!」
「……え?」


 カズトが意識を失う前の記憶を鮮明に思い出しつつある時、部屋の扉がガチャリと開かれ、グレッグが嬉しそうな顔をして入ってきた。
 しかしカズトはそんな彼を見て固まった。
 カズトの頭の中ではその瞬間、誰? とか何で様呼び? といった疑問があったものの、そのような疑問を吹き飛ばしてお星様にしてしまうくらいの疑問がドカンと湧き出てきた。


「え? え!? み、耳!? それに尻尾!?」

 
 カズトはグレッグに生えている熊の耳と尻尾を見て度肝を抜かれたのだ。
 なにせ彼はファンタジーに疎い。
 そのため動物の耳と尻尾を持つ獣人という種族を知らなかった。


「おや? カズト様は獣人を見るのは初めてですかな?」
「獣、人?」
「はい。私のように獣の耳と尻尾を持つ人間ですな」
「はぁ……そんな人達がいるのですか。初めて知りました」


 そんなことを話しながらも、カズトは耳と尻尾を交互に見ては首を傾げ、交互に見ては首を傾げといったことを繰り返している。
 どうやらカズトの中では獣人とはよほど不思議な存在らしい。


「ほほほ。そんなに見られると照れますな」
「あ、すいません……」
「いえいえ。獣人を初めて見たのですから当然の反応と言えましょう。それよりお体はどうですかな?」
「え? あ、はい。体ですか? 体は……痛いです。少し動かしただけでも激痛が走ります」
「そうでしょうな。しばらくはそのまま安静にしておいて下さいな。そうすれば必ず治りますのでな」


 カズトは未だに気になるのか、チラチラと視線をグレッグの耳や尻尾に向ける。
 しかしグレッグはその事に対して特に何も言うことなく、別のことを思い出したのか口を開いた。


「そういえば自己紹介がまだでしたな。自分は治癒士のグレッグと申します。よろしくお願いします、カズト様」
「あ、これはどうも。こちらこそよろしくお願いします」


 お互いにぺこりと頭を下げる二人。
 ちなみにグレッグがカズトの名前を知っているのは、身元を確認するために彼のギルドカードを見たからである。
 そうしてグレッグがさらにカズトの体調や気分についての質問を二、三個程すると、特に問題ないと判断したらしい。


「それではカズト様と話したいという人がいるので呼んできますな。少し待っていて下さいな」
「僕と? わかりました」


 グレッグはそう告げるとカズトに一礼をしてから部屋を出て行った。


(結局何で様呼びなのか聞けなかったな。それに僕と話したい人って誰だろう? この世界に知り合いなんて数えるほどしかいないんだけどな。とりあえず治癒魔法をかけて怪我を早く治すか)


 カズトは全身に治癒魔法をかけて骨折や内出血、内臓の修復に脇腹の穴を塞ぐといった事を行っていく。
 しかし治癒範囲が全身で、さらに治癒する場所がたくさんあるせいで治癒は依然として進まない。


(これは完全に回復するまで結構時間がかかりそうだな)


 治癒魔法を使いつつ、木張りの天井を見ながらそうぼんやりと考える。
 そうしてしばらくの間時間を消費していると部屋の扉がノックされた。


「どうぞ」
「失礼します」


 そう言って部屋に入ってきたのは大柄な体格をしている、いかにも武人といった雰囲気を纏っている男と細い体つきをしておりメガネをかけている男、そしてその二人の男を足して二で割ったような体つきをした男に銀髪で緑の眼をした少女だ。
 カズトはそれらの人物を一通り見た後、少女を見て目を留めた。


(あれ? あの子はたしかーー)


「カズト様、この度は大怪我を負わせてしまい大変申し訳御座いませんでした」


 すると部屋に入ってきた者達の内、細い体つきをした男、このバッセルの街の領主であるエリセオが頭を下げた。
 それに続けていかにも武人といった雰囲気を纏った男、ブランドンとエリセオと彼を足して二で割ったような体つきをしているドロテオ、そして銀髪の少女であるリディアも頭を下げる。
 カズトはそれを見て慌てて頭を上げさせた。


「え、えっと、とりあえず頭を上げてください。いきなりそんな事を言われても何がなんだか分からないので、一から説明していただけませんか?」
「分かりました。それでは自分が説明致しましょう」


 そう言って四人は軽く自己紹介をし、代表としてエリセオが説明を始めた。
 曰く、巨大な魔物の咆哮のような音が連続して街の外から聞こえてきたため、門の前に騎士と冒険者が集まり迎撃準備をした。
 曰く、途中で人間だと気づいたが爆音を鳴らしながら街に近づいてきていたため、危害を加える意図があると判断し攻撃した。
 曰く、カズトが王家の紋章を持つものだと知ったのは意識を奪って拘束してからだったため、気づくのが遅れた。
 それらの説明を聞いていくうちに、カズトは王家の紋章が彫られた懐中時計を持っているから様付けで呼ばれていたのだと理解した。
 それと同時に彼の頭から血がサーッと引いていき、カズトは血の気を失ったような青い顔をしながら口を開いた。


「申し訳ありませんでした!」
「……え?」


 横になっている状態のためカズトは頭を下げることさえできなかったが、それでも精一杯の気持ちを込めてそう言った。
 対してそれを聞いたエリセオ達は呆気にとられている。
 それはそうだ。何せ王家がバックについている程の者が、それをちらつかせて脅すどころか謝ってきたのだから。
 しかしカズトからしてみれば今回の騒動は明らかに自分が悪い。
 そのため謝るのは当然だ。


「僕は魔法で爆音が聞こえないようにしていたのですっかり忘れていましたが、たしかにあの音を聞いたら威嚇行為をしていると判断されても仕方ありませんでした。今回は自分が原因です。本当に申し訳ありませんでした」


 そう言って無理矢理上体を起こして頭を下げようとするカズト。
 少し動いただけでも激痛を感じ、エリセオ達が慌ててその行為を止めさせようとしたが、それでもカズトは頭を下げなければ気が済まない。
 いや、それをしてもまだカズトの気は済まない。
 なにせ無自覚とはいえそれなりに大きな騒動を起こして多大な迷惑をかけてしまい、さらにはこうして何も悪くない相手に頭を下げさせてしまったのだから。


「何か自分にできることはありませんか? 今回皆さんに迷惑をかけたお詫びに自分にできることならなんでもします。どうかやらせてください」
「いえ、その必要はありません。それよりカズト様はまだ数ヶ月は動いてはならない体だと先生から聞いております。なのでそれ以上は無理をなさらないでください」


 そう言ってエリセオ達はなんとかカズトをベッドに寝かせようとする。
 彼らにとってはカズトが謝り、さらにできることをするという申し出は都合の良いものだったが、それ以上に王家との強い繋がりを持つ彼の体を心配する気持ちの方が強かった。

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