魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
45話 第三波来襲
「スタンビートが起こったのが昼過ぎだったから事前に明かりの類はたくさん用意させているが、それでも夜に第三波の魔物達と戦うのは厳しいな」
「そうですね。既に刹那の文書を使って近くの街には応援を呼んでいますが、王都からも応援を呼びますか?」
刹那の文書とは簡単に言えばメール機能が備わっているマジックアイテムだ。
主要な都市の冒険者ギルドにはこれが配備しており、今回のような緊急時の連絡用として使われている。
「いや、それはいいだろう。そもそも王都からここまでは相当な距離があるからな。事後報告になってしまうが後から俺の方から報告しておくさ」
「そうですか。わかりました」
それからしばらくの間、二人の間に会話はなく夜を迎えた。
夜。
ブランドンとゾアルとドロテオは対策本部として建てられたテントの前で戦線を睨みながら第三波の魔物達がやってくるのを待ちかまえていた。
既に第二波の魔物の殆どは駆逐されており、いつでも迎え撃てる体制だ。
すると地面から洞窟がはえているような形をしたダンジョンの入り口の奥から複数の足音が聞こえてきた。
それらの足音は人間が響かせる軽やかな物ではなく、一歩一歩の音が荒々しい物だ。
それが何十にも重なり合い、まるでダンジョンが吠えているような錯覚さえする。
「第三波がやってくるぞ! 構えろ!」
騎士団長であるゾアルが部下の騎士達に向かってそう指示を出す。
するとその直後、ダンジョンの入り口から魔物が溢れるようにして外に出てきた。
魔物達はそれぞれ思い思いの方向へ進み、やがて騎士達と戦い始める。
『オオオオオオオオオオ!』
再びあちこちから雄叫びが上がる。
しかしその雄叫びは第二波を迎え撃ったときよりも遥かに雄々しいものだ。
それは騎士達もまたブランドン程ではなくとも第三波の脅威がどれほどなのか薄々と感じているからである。
しかし一方でブランドンはと言うと。
「おい、これは、どういうことだ……!」
夜闇の中、騎士達が設置した光源に照らされて姿を現した魔物達は、全てがランクF上位の魔物やランクEの魔物ばかりだった。
彼がいくら目を凝らしてもランクAの魔物どころかランクBやランクC、ランクDの魔物すらいない。
明らかに第三波の魔物達にしては弱すぎる。
つまり、これは……。
「第四波が来る、だと!?」
前代未聞の第四波が来る。
そして可能性が非常に高いことに思い至ったとき、ブランドンはすぐさまゾアルに命令を下した。
「ゾアル! ここには最低限の騎士達だけを残し、残りの騎士達は住民の護衛と街に残っている全ての馬車の回収に分けさせろ! そして馬車には速く走れない者を乗せてすぐさま全ての住民をこの街から追い出すんだ!」
「ぶ、ブランドン様、それはつまり……」
「ああ! この街を放棄する!」
ブランドンがそう言った途端、ドロテオが驚いたように声を上げた。
「ブランドン殿!? 街を捨てるとは正気ですか!?」
「お前も分かっているだろう!? ランクS冒険者がいた五百年前でも街が7割も壊滅したんだ! それなのにランクS冒険者がいない今の状況で何ができる! 最悪の場合、ランクSの魔物が外に出てくるかもしれないんだぞ!」
この街のダンジョンは約千年前に発見されてからまだ一度も最深層まで攻略されていない。
そのため前代未聞の第四波で、どれだけ強力な魔物が出てくるかはわからないのだ。
そしてランクSの魔物が出てきた場合、今のブランドン達の戦力では鎧袖一触にされてしまうだろう。
ドロテオもそれは分かっていたのか、ブランドンの言葉を聞いてすぐに口を噤んだ。
そして彼は頭を切り替えて再び口を開く。
「……ではブランドン殿。住民達はどうするのですか?」
「南西にあるバッセルの街に避難させる。あそこの領主とは常にこのような状況が起こった時のことを考えて、この街の住民がいつでも避難できるように体制を整えてくれているはずだ」
「わかりました。ではランクF以下の冒険者達にも住民の護衛をさせましょう」
そう言ってドロテオはすぐさま冒険者達に指示を出し始めた。
その背中に静かに感謝の言葉を送ったブランドンもまた、騎士達に矢継ぎ早に指示を出していく。
「住民を街の外に出したら北門、西門、東門を閉じろ。そして我々も第三波の魔物を倒しながら南門から脱出し、バッセルの街へ避難する!」
夜の闇が少しずつ薄らぎ、そして太陽が顔を出す。
東の空はオレンジ色に染まり、徐々に黒だった景色が色づいていく。
そのおかげで遠くまで見渡せるようになったのはブランドン達にとって都合がよかった。
彼は今ドロテオとゾアル、そして数十人の騎士と冒険者達と共に人数分の馬をそばに置いて南門に立っている。
「本当に第四波の魔物達が来るまでここに残るつもりですか?」
「ああ。即座に街を放棄したことを選んだとしても、一応領主だからな。住民達より先に逃げるわけにはいかないさ」
ブランドンは横にいるドロテオの言葉に対して、自虐的に笑いながらそう返した。
だがドロテオは自分がブランドンの立場にいたなら同じ判断を下しただろうと思ったため、笑って返すことなどできない。
そんなドロテオを横目に見ながら、ブランドンはここから目の前の大通りの先に見えるダンジョンの入り口を睨みつける。
「それにこの目で第四波の魔物達はどんなものなのか見たいからな」
自分の判断は間違っていなかったのか、本当にこれでよかったのか、もしかしたら今回のスタンビートは例外的に規模が極端に小さいものだったのではないか。
そんな思いがブランドンの頭の中をグルグルと回っているのだ。
するとその時、遠く離れたダンジョンの入り口からこれまで誰も聞いたことがないほどの雄叫びが聞こえてきた。
そしてそこから続々と魔物達が走り出てくる。
「……どういうことだ?」
しかしここでブランドン達の誰もが予想していなかった魔物達が最初に出てきた。
なんとそれらの魔物はゴブリンやコボルト、ホーンボアといったランクHやランクGの魔物ばかりだったのだ。
とてもではないが脅威の第四波に見合う強さの魔物達ではない。
だがそれを見てドロテオが声を震わせながら呟いた。
「ま、まさか、第五波もあるなんてことも……」
「いや、それはないようですね」
「ああ、そのようだな」
ドロテオの言葉をゾアルとブランドンが冷静にそう返した。
彼らの目の前には低ランクの魔物達がダンジョンから無数に出てきているが、時間が経つにつれてそのランクが徐々に上がっていく。
そしてその数もこれまでの波の魔物達とは比べ物にならないほど多い。
ダンジョンの入り口を中心に人ごみならぬ魔物ごみが街全体に広がっていく様は一周回って感心してしまう光景だった。
そんな中とうとうランクC、ランクBの魔物が出終わり、ランクAの魔物がダンジョンの中から出てくる。
「そうですね。既に刹那の文書を使って近くの街には応援を呼んでいますが、王都からも応援を呼びますか?」
刹那の文書とは簡単に言えばメール機能が備わっているマジックアイテムだ。
主要な都市の冒険者ギルドにはこれが配備しており、今回のような緊急時の連絡用として使われている。
「いや、それはいいだろう。そもそも王都からここまでは相当な距離があるからな。事後報告になってしまうが後から俺の方から報告しておくさ」
「そうですか。わかりました」
それからしばらくの間、二人の間に会話はなく夜を迎えた。
夜。
ブランドンとゾアルとドロテオは対策本部として建てられたテントの前で戦線を睨みながら第三波の魔物達がやってくるのを待ちかまえていた。
既に第二波の魔物の殆どは駆逐されており、いつでも迎え撃てる体制だ。
すると地面から洞窟がはえているような形をしたダンジョンの入り口の奥から複数の足音が聞こえてきた。
それらの足音は人間が響かせる軽やかな物ではなく、一歩一歩の音が荒々しい物だ。
それが何十にも重なり合い、まるでダンジョンが吠えているような錯覚さえする。
「第三波がやってくるぞ! 構えろ!」
騎士団長であるゾアルが部下の騎士達に向かってそう指示を出す。
するとその直後、ダンジョンの入り口から魔物が溢れるようにして外に出てきた。
魔物達はそれぞれ思い思いの方向へ進み、やがて騎士達と戦い始める。
『オオオオオオオオオオ!』
再びあちこちから雄叫びが上がる。
しかしその雄叫びは第二波を迎え撃ったときよりも遥かに雄々しいものだ。
それは騎士達もまたブランドン程ではなくとも第三波の脅威がどれほどなのか薄々と感じているからである。
しかし一方でブランドンはと言うと。
「おい、これは、どういうことだ……!」
夜闇の中、騎士達が設置した光源に照らされて姿を現した魔物達は、全てがランクF上位の魔物やランクEの魔物ばかりだった。
彼がいくら目を凝らしてもランクAの魔物どころかランクBやランクC、ランクDの魔物すらいない。
明らかに第三波の魔物達にしては弱すぎる。
つまり、これは……。
「第四波が来る、だと!?」
前代未聞の第四波が来る。
そして可能性が非常に高いことに思い至ったとき、ブランドンはすぐさまゾアルに命令を下した。
「ゾアル! ここには最低限の騎士達だけを残し、残りの騎士達は住民の護衛と街に残っている全ての馬車の回収に分けさせろ! そして馬車には速く走れない者を乗せてすぐさま全ての住民をこの街から追い出すんだ!」
「ぶ、ブランドン様、それはつまり……」
「ああ! この街を放棄する!」
ブランドンがそう言った途端、ドロテオが驚いたように声を上げた。
「ブランドン殿!? 街を捨てるとは正気ですか!?」
「お前も分かっているだろう!? ランクS冒険者がいた五百年前でも街が7割も壊滅したんだ! それなのにランクS冒険者がいない今の状況で何ができる! 最悪の場合、ランクSの魔物が外に出てくるかもしれないんだぞ!」
この街のダンジョンは約千年前に発見されてからまだ一度も最深層まで攻略されていない。
そのため前代未聞の第四波で、どれだけ強力な魔物が出てくるかはわからないのだ。
そしてランクSの魔物が出てきた場合、今のブランドン達の戦力では鎧袖一触にされてしまうだろう。
ドロテオもそれは分かっていたのか、ブランドンの言葉を聞いてすぐに口を噤んだ。
そして彼は頭を切り替えて再び口を開く。
「……ではブランドン殿。住民達はどうするのですか?」
「南西にあるバッセルの街に避難させる。あそこの領主とは常にこのような状況が起こった時のことを考えて、この街の住民がいつでも避難できるように体制を整えてくれているはずだ」
「わかりました。ではランクF以下の冒険者達にも住民の護衛をさせましょう」
そう言ってドロテオはすぐさま冒険者達に指示を出し始めた。
その背中に静かに感謝の言葉を送ったブランドンもまた、騎士達に矢継ぎ早に指示を出していく。
「住民を街の外に出したら北門、西門、東門を閉じろ。そして我々も第三波の魔物を倒しながら南門から脱出し、バッセルの街へ避難する!」
夜の闇が少しずつ薄らぎ、そして太陽が顔を出す。
東の空はオレンジ色に染まり、徐々に黒だった景色が色づいていく。
そのおかげで遠くまで見渡せるようになったのはブランドン達にとって都合がよかった。
彼は今ドロテオとゾアル、そして数十人の騎士と冒険者達と共に人数分の馬をそばに置いて南門に立っている。
「本当に第四波の魔物達が来るまでここに残るつもりですか?」
「ああ。即座に街を放棄したことを選んだとしても、一応領主だからな。住民達より先に逃げるわけにはいかないさ」
ブランドンは横にいるドロテオの言葉に対して、自虐的に笑いながらそう返した。
だがドロテオは自分がブランドンの立場にいたなら同じ判断を下しただろうと思ったため、笑って返すことなどできない。
そんなドロテオを横目に見ながら、ブランドンはここから目の前の大通りの先に見えるダンジョンの入り口を睨みつける。
「それにこの目で第四波の魔物達はどんなものなのか見たいからな」
自分の判断は間違っていなかったのか、本当にこれでよかったのか、もしかしたら今回のスタンビートは例外的に規模が極端に小さいものだったのではないか。
そんな思いがブランドンの頭の中をグルグルと回っているのだ。
するとその時、遠く離れたダンジョンの入り口からこれまで誰も聞いたことがないほどの雄叫びが聞こえてきた。
そしてそこから続々と魔物達が走り出てくる。
「……どういうことだ?」
しかしここでブランドン達の誰もが予想していなかった魔物達が最初に出てきた。
なんとそれらの魔物はゴブリンやコボルト、ホーンボアといったランクHやランクGの魔物ばかりだったのだ。
とてもではないが脅威の第四波に見合う強さの魔物達ではない。
だがそれを見てドロテオが声を震わせながら呟いた。
「ま、まさか、第五波もあるなんてことも……」
「いや、それはないようですね」
「ああ、そのようだな」
ドロテオの言葉をゾアルとブランドンが冷静にそう返した。
彼らの目の前には低ランクの魔物達がダンジョンから無数に出てきているが、時間が経つにつれてそのランクが徐々に上がっていく。
そしてその数もこれまでの波の魔物達とは比べ物にならないほど多い。
ダンジョンの入り口を中心に人ごみならぬ魔物ごみが街全体に広がっていく様は一周回って感心してしまう光景だった。
そんな中とうとうランクC、ランクBの魔物が出終わり、ランクAの魔物がダンジョンの中から出てくる。
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