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魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

29話 魔人戦(6)

 ダイアナは生まれつき剣の天才であった。
 三歳の時に剣を振るい始め、十歳に成る頃には彼女に剣の師事をしていた男を打ち倒した。
 その時点で彼女の剣の腕は彼女を守るための親衛隊の誰よりも強くなっていた。
 そして十五になると世界でも有数の実力者と称えられるようになった。


 そんな彼女だからこそ、親衛隊と共に魔物狩りをしていても守られる側ではなく常に守る側に立っていた。
 だが彼女は守る側に立っているのになんら不満を持ったことはない。
 なぜなら彼女は何度も読んだ物語に出てくるお姫様ではなく、そのお姫様を守る騎士に憧れていたからだ。
 そのため彼女にとって守る側に立つというのは、それだけで嬉しいと思えたのだ。


 だが今、自分の置かれている状況は今までとは全く異なる。
 目の前にカズトがいて、自分を守るように立っているのだ。
 自分より遥かに弱いであろうカズトが、だ。




(このままではカズトが私の代わりに死ぬ!)




 自分は王女なのだから、本来守られる側にあることは理解している。
 だけどそれでも代わりに誰かが死ぬということだけは、常に守る側に立ってきた自分には許すことができない。


 思わずその肩に手を伸ばして、カズトを後ろに下がらせようとする。
 だが、その手は途中で止まった。
 カズトの横顔を見てしまったからだ。
 その顔は先程まで恐怖に震えていたとは思えない程凛々しい、覚悟を決めた男の顔だった。


 そのような顔は何度も見てきた。
 強大な魔物を相手に親衛隊と一緒に戦ったとき、騎士達は皆このような顔をしていた。
 自分もまた同じように何度もこのような顔をしてきた。
 今日だってそうだ。
 魔人相手に死ぬ覚悟で立ち向かったし、ついさっきもカズトを守るために改めて死を覚悟して彼の前に立った。
 そう、そのような顔は何度も見てきたはずだったのだ。
 なのにーー。




(ーーなのに、どうしてこんなにもカズトが格好良く見えるんだ!?)




 これまで一度たりともカズトのことを格好良いと思ったことは無かった。
 せいぜい家族以外で自分に見惚れない初めての男だというだけだ。
 それにそもそもダイアナは若く、自分より強い男がタイプなのだ。
 カズトは強くないから決してそれに当てはまらない。


 にも関わらずカズトを格好良いと思ってしまった。




 パチン!




 その時、カズトが指を鳴らす音が鳴り響く。
 すると目の前まで迫っていた炎が一瞬にして消え去った。




「マジック……キャンセル……!?」




 ダイアナの口から驚愕と信じられないという思いがない交ぜになった声がでる。
 なにせマジックキャンセルは超高等技術なのだ。
 ただのFランク冒険者であるカズトが使えるなんて思いもよらなかった。
 だがダイアナはそこで自分はカズトをかなり低く見ていたことに気がついた。
 そしてカズトが思っていた以上に遥かに強い事にも。


 そうしてカズトに守られて、初めて理解した。




(ああ、そうか。物語に出てくる騎士に守られるお姫様は、こんなに幸せなものなのか)




 これまで守る側に立っていたからこそ感じられなかったことを、生まれて初めて守られる側に立ってわかった。
 頼りになる背中は安心感を与えてくれ、守られているのは幸福感を感じさせてくれる。
 その背は大きく、自分の命すら全てを任せても良いと思えるものだった。
 そしてこの立場で見るその大きな背中は、その凛々しい横顔は、今まで見たどんな人間よりも格好良い。




(初めてこの立場に立ったからこんなことを初めて知ったのは当たり前なのだが、格好良いと誰かに思ったのは生まれて初めてだな)




 そう思ったとき安心感からか幸福感からか、はたまたどちらともなのか、ダイアナの体から力がフッと抜けた。














 目の前に炎の球が迫り来る。




(今、これを止めなければ後ろの王女さま諸共死ぬな)




 カズトは頭の端でそんなことを思いながらも冷静に頭を働かせ、イメージを構築していく。




(熱運動を減速させて温度を低下させる。そして半透明の板を改良した、空気中の分子を固定させる膜、分子固定結界で炎を覆って酸素の供給を断ち切る。さらに分子固定結界は一瞬だけなら断熱性があるから、それを拡大して体積を一気に増やしてやれば気体分子の持つ熱エネルギーを奪うことができる)




 カズトは熱運動、酸素の特性、断熱膨張の三つの知識をイメージに昇華させ、魔人が放った炎の球を消火させる魔法を発動させる。




 パチン!




 するとその瞬間、カズトとダイアナの目の前まで迫っていた炎の球が一瞬にして消えた。
 そこにはカズトが温度を低下させたことによって、炎の球の名残である高温の空気ですらも存在しない。




(よし! 上手くいった! やっぱりイメージ次第で攻撃を打ち消すことができたか!)




 カズトは内心ホッと安堵するとともに、魔人の魔法を打ち消す事ができて歓喜した。
 するとカズトの後ろに立っていたダイアナが口を開いた。




「マジック……キャンセル……!?」




 そう。ダイアナが口にしたようにカズトが今行ったのは、無詠唱よりも難しいと言われているマジックキャンセルだ。
 だがカズトはそのような技術は知らず、彼にとってみればただ単に魔人が放った炎を消火しただけである。
 そのためカズトはダイアナにマジックキャンセルとは何なのか質問した。




「王女さま、マジックキャンセーーっと! 王女さま!? 大丈夫ですか!?」




 しかしカズトが質問を口にすると、ダイアナが突然力が抜けたように剣を落として倒れ始めた。
 慌ててダイアナの肩を左腕で抱くようにして支えるカズト。
 しかしカズトがダイアナに話しかけても、彼女は一切反応しない。
 その代わり彼女の顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていき、意味のない言葉を発する。




「あわわわわわわわ」




「えっと、王女さま? 大丈夫ですか?」




「だ、だだだ、大丈夫!」




 全く大丈夫でなさそうである。
 それもそのはず、ダイアナはこれまで一切恋をしたことがない乙女なのだから。
 初めて恋に落ちた相手に支えられているだけでなく、すぐ近くにその顔がある。
 加えて心配されているということもあり、彼女は今までで一番嬉しくて幸せで、頭がオーバーヒートしているのである。


 一方カズトからしてみれば、急に倒れたダイアナが今度は顔を真っ赤に染めて意味不明な言語を発し始めたのだ。
 彼女に何かあったのかと考えを巡らせる。




(顔が赤いから熱に当てられたのか? でも消火に関しては熱い空気が残らないように温度も低下させたし、アフターフォローは万全だったはずだ。なら何がいけなかっーー)




「俺の魔法をマジックキャンセルしやがっただと!? ありえねえ! 死にやがれぇ!」




 カズトがダイアナの様子を見ながら考えを巡らせていると、マジックキャンセルされてからずっと驚きで固まっていた魔人が我に返り、火柱を放ってきた。
 カズトはすぐにそちらに目を向け、ダイアナを左腕で抱えたまま先程と同じように火柱をマジックキャンセルする。




 パチン!




 すると魔人の火柱が消え去った。




「くそ! 何故だ!? 何故俺の魔法を消すことができるんだ!?」




 魔法に特化している魔人にしてみれば、自分の得意とする魔法をマジックキャンセルされることは屈辱であった。
 そのため地団駄を踏んでイライラした様子で一人喚く。


 だがここからが魔人にとって、最悪の幕開けとなるのであった。

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