魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
25話 魔人戦(5)
「な、なぜお前は平然としているんだ!?」
魔人はカズトのことを治癒魔法以外使えない治癒士だと思いこんでいた。
それは最初に魔人がカズトに挑発しても、彼が乗ってこなかったことだったり、戦闘に関わってこなかったり、メイベルがピンチになっても治癒以外しなかったからだ。
そのためカズトは先程の熱風には耐えられないだろうと思っていた。
しかしその予想に反してカズトは生きている。
それどころか真剣な表情でダイアナに治癒魔法を使っている。
魔人がカズトの姿を見て驚愕したのも無理はない。
そのカズトはといえば、魔人の声を無視しつつも自分の腕の未熟さを悔やんでいた。
(くそっ。治癒スピードが遅すぎる。致命傷ではないから死にはしないと思うけど、これならやっと動ける程度といったところだ)
もし自分の腕が良かったら、魔人に声をかけられる前に回復できただろう。
そう思うが、魔人に声をかけられた以上治癒ばかりに集中してはいられない。
カズトは立ち上がりダイアナを守るようにして魔人と対峙する。
すると動揺していた魔人が今度はポカンと口を開けた。
その顔にはカズトがどういうつもりなのか分からないと、ありありと書いてある。
そしてカズトのその行動の意味を悟ったのか、高笑いをし始めた。
「はははははは! まさか貴様、治癒を止めたということは俺と戦うつもりか!?」
どうやって熱風を生き抜いたのかは知らないが、魔人からすればカズトの脅威は致命傷でも治してしまう治癒魔法の腕だ。
だからどんなにダイアナ達を瀕死に追い込んだところでカズトが生きていれば回復されてしまう。
だが、カズトは治癒魔法を止めて自分と対峙した。
つまり治癒魔法以外何の脅威もない脆弱な人間が自分と戦うつもりなのだ。
弱者を嬲り殺すことが好きなこの魔人にとって、その行動は愉快以外の何物でもなかった。
対してカズトは高笑いした後ニヤニヤと不気味に笑う魔人を前にして、全身を震わせながらも頭を働かせる。
(大丈夫。魔人の攻撃を防ぐのは不可能じゃない。全てはイメージ次第だ)
震える手を握りしめながら、自己暗示のようにカズトは自分にそう思い込ませる。
いくらカズトが魔人の熱風攻撃を自身の魔法で防ぐことができても、相手は自分より遥かに強いダイアナ達を纏めて戦闘不能にした程の強者だ。
戦闘の素人であるカズトが恐怖を抱くのは自然なこと。
だがそれでも、今は自分以外に戦える者はいない。
一瞬カズトの頭に逃げるという選択肢が浮かぶが、それをしてしまってはダイアナ達を見捨てる事になってしまう。
(落ち着け。今の僕なら勝てる可能性は十分にある。魔人の分析をして情報はありあまるほど持っているんだ。対して向こうは僕が治癒魔法を使えることくらいしか知らないはず。情報のアドバンテージは僕にある)
現代日本で育ったカズトは、文明が地球程発達していないオーランドの人間とは違い、情報がどれだけ大切なのか嫌というほど分かっている。
そして今の自分の状況は情報をたくさん持っている分、有利に立ち回れるだろうということも理解している。
だがそれが頭で分かっていても恐怖心を抑えることはできない。
呼吸が荒くなり無意識に震える手で胸元をぎゅっと掴む。
先程頭に浮かんだ逃げるという選択肢に嫌になるほど意識が向く。
今の魔人なら逃げてもダイアナ達を殺すことを優先して追いかけて来ないだろう。
どうしようか。
本当に逃げてしまおうか。
怖い。
逃げたい。
そのような思考で頭が塗りつぶされそうになったとき、カズトの肩に優しくポン、と手が乗せられた。
「安心しろ、カズト。私が守ってやる」
弱々しい、されど凛とした声が耳に入ってきた。
ダイアナだ。
彼女はボロボロの体にも関わらず、剣を地面に突き刺し杖の代わりにしてなんとか立っている。
「王女さま!? そんな体でなんで……!」
「ふっ。民を守るのは王族として当然の勤めだ。カズト、私が時間を稼ぐ。その間に君は逃げろ」
その言葉を聞いたカズトは驚愕の眼差しでダイアナを見る。
それに対してダイアナは優しくふんわりと笑いかけ、カズトの前に歩み出た。
彼女はフラフラとしながらも地面から剣を抜き、正面に構える。
「さあ! カズト、逃げるんだ!」
「ぶひゃひゃひゃひゃ! いいねぇ、そういうのいいよ! 嬲りがいがあるぜ!」
二人のやりとりをニヤニヤとしながら黙って聞いていた魔人が堪えきれなくなったように笑い声をあげる。
対してカズトは一歩後ろに下がり……踏みとどまった。
その時、カズトの中に一つの問いが浮かぶ。
(本当にこれでいいのか?)
再度、その問いを繰り返す。
(王女さま達をここで見捨てて、僕は逃げてしまって本当にいいのか?)
そして、その答えが出る。
(いや、ダメだろう。いくら王女さま達に良い感情を抱いていなくても、それが見捨てて良い理由になんてならない)
干し肉だけのご飯にペラペラの寝袋といったストレスになったことがカズトの頭の中でいくつも思いだされる。
だがそれらはカズトが思ったように、彼にとってはダイアナ達を見捨てていい理由にはならない。
(それにーー)
「せっかくだから女の方から嬲り殺してやるよぉ!」
魔人がダイアナに向かって炎の球を放った。
(それに、何よりーー)
これまでカズトから見たダイアナという人物は自分の扱いこそ酷いものの、その背中は王女であり、剣士であり、強者であった。
その頼りになる大きな背中を今までは見続けてきたのだ。
しかし。
今のダイアナの背中は弱々しく、華奢で細い、一人の女の子の背中に見えた。
そんな女の子が自分を守るために身を犠牲にする覚悟を持って、自分の目の前に立っているのだ。
(それに、何より女の子にここまでカッコ良く守られるだなんて、僕のちっぽけな男のプライドが許さない!)
カズトの中に勇気という名の火が灯る。
その燃える意志に従い大きく一歩を踏み出し、ダイアナを庇うように前に出る。
「お、おい? カズト!?」
彼は後ろからダイアナの声を耳にしつつも、迫り来る炎の球に対して冷静に指を鳴らす。
パチン!
直後。
カズトとダイアナの目の前まで迫ってきていた炎の球は、まるで直前までそこに無かったかのように消え去った。
魔人はカズトのことを治癒魔法以外使えない治癒士だと思いこんでいた。
それは最初に魔人がカズトに挑発しても、彼が乗ってこなかったことだったり、戦闘に関わってこなかったり、メイベルがピンチになっても治癒以外しなかったからだ。
そのためカズトは先程の熱風には耐えられないだろうと思っていた。
しかしその予想に反してカズトは生きている。
それどころか真剣な表情でダイアナに治癒魔法を使っている。
魔人がカズトの姿を見て驚愕したのも無理はない。
そのカズトはといえば、魔人の声を無視しつつも自分の腕の未熟さを悔やんでいた。
(くそっ。治癒スピードが遅すぎる。致命傷ではないから死にはしないと思うけど、これならやっと動ける程度といったところだ)
もし自分の腕が良かったら、魔人に声をかけられる前に回復できただろう。
そう思うが、魔人に声をかけられた以上治癒ばかりに集中してはいられない。
カズトは立ち上がりダイアナを守るようにして魔人と対峙する。
すると動揺していた魔人が今度はポカンと口を開けた。
その顔にはカズトがどういうつもりなのか分からないと、ありありと書いてある。
そしてカズトのその行動の意味を悟ったのか、高笑いをし始めた。
「はははははは! まさか貴様、治癒を止めたということは俺と戦うつもりか!?」
どうやって熱風を生き抜いたのかは知らないが、魔人からすればカズトの脅威は致命傷でも治してしまう治癒魔法の腕だ。
だからどんなにダイアナ達を瀕死に追い込んだところでカズトが生きていれば回復されてしまう。
だが、カズトは治癒魔法を止めて自分と対峙した。
つまり治癒魔法以外何の脅威もない脆弱な人間が自分と戦うつもりなのだ。
弱者を嬲り殺すことが好きなこの魔人にとって、その行動は愉快以外の何物でもなかった。
対してカズトは高笑いした後ニヤニヤと不気味に笑う魔人を前にして、全身を震わせながらも頭を働かせる。
(大丈夫。魔人の攻撃を防ぐのは不可能じゃない。全てはイメージ次第だ)
震える手を握りしめながら、自己暗示のようにカズトは自分にそう思い込ませる。
いくらカズトが魔人の熱風攻撃を自身の魔法で防ぐことができても、相手は自分より遥かに強いダイアナ達を纏めて戦闘不能にした程の強者だ。
戦闘の素人であるカズトが恐怖を抱くのは自然なこと。
だがそれでも、今は自分以外に戦える者はいない。
一瞬カズトの頭に逃げるという選択肢が浮かぶが、それをしてしまってはダイアナ達を見捨てる事になってしまう。
(落ち着け。今の僕なら勝てる可能性は十分にある。魔人の分析をして情報はありあまるほど持っているんだ。対して向こうは僕が治癒魔法を使えることくらいしか知らないはず。情報のアドバンテージは僕にある)
現代日本で育ったカズトは、文明が地球程発達していないオーランドの人間とは違い、情報がどれだけ大切なのか嫌というほど分かっている。
そして今の自分の状況は情報をたくさん持っている分、有利に立ち回れるだろうということも理解している。
だがそれが頭で分かっていても恐怖心を抑えることはできない。
呼吸が荒くなり無意識に震える手で胸元をぎゅっと掴む。
先程頭に浮かんだ逃げるという選択肢に嫌になるほど意識が向く。
今の魔人なら逃げてもダイアナ達を殺すことを優先して追いかけて来ないだろう。
どうしようか。
本当に逃げてしまおうか。
怖い。
逃げたい。
そのような思考で頭が塗りつぶされそうになったとき、カズトの肩に優しくポン、と手が乗せられた。
「安心しろ、カズト。私が守ってやる」
弱々しい、されど凛とした声が耳に入ってきた。
ダイアナだ。
彼女はボロボロの体にも関わらず、剣を地面に突き刺し杖の代わりにしてなんとか立っている。
「王女さま!? そんな体でなんで……!」
「ふっ。民を守るのは王族として当然の勤めだ。カズト、私が時間を稼ぐ。その間に君は逃げろ」
その言葉を聞いたカズトは驚愕の眼差しでダイアナを見る。
それに対してダイアナは優しくふんわりと笑いかけ、カズトの前に歩み出た。
彼女はフラフラとしながらも地面から剣を抜き、正面に構える。
「さあ! カズト、逃げるんだ!」
「ぶひゃひゃひゃひゃ! いいねぇ、そういうのいいよ! 嬲りがいがあるぜ!」
二人のやりとりをニヤニヤとしながら黙って聞いていた魔人が堪えきれなくなったように笑い声をあげる。
対してカズトは一歩後ろに下がり……踏みとどまった。
その時、カズトの中に一つの問いが浮かぶ。
(本当にこれでいいのか?)
再度、その問いを繰り返す。
(王女さま達をここで見捨てて、僕は逃げてしまって本当にいいのか?)
そして、その答えが出る。
(いや、ダメだろう。いくら王女さま達に良い感情を抱いていなくても、それが見捨てて良い理由になんてならない)
干し肉だけのご飯にペラペラの寝袋といったストレスになったことがカズトの頭の中でいくつも思いだされる。
だがそれらはカズトが思ったように、彼にとってはダイアナ達を見捨てていい理由にはならない。
(それにーー)
「せっかくだから女の方から嬲り殺してやるよぉ!」
魔人がダイアナに向かって炎の球を放った。
(それに、何よりーー)
これまでカズトから見たダイアナという人物は自分の扱いこそ酷いものの、その背中は王女であり、剣士であり、強者であった。
その頼りになる大きな背中を今までは見続けてきたのだ。
しかし。
今のダイアナの背中は弱々しく、華奢で細い、一人の女の子の背中に見えた。
そんな女の子が自分を守るために身を犠牲にする覚悟を持って、自分の目の前に立っているのだ。
(それに、何より女の子にここまでカッコ良く守られるだなんて、僕のちっぽけな男のプライドが許さない!)
カズトの中に勇気という名の火が灯る。
その燃える意志に従い大きく一歩を踏み出し、ダイアナを庇うように前に出る。
「お、おい? カズト!?」
彼は後ろからダイアナの声を耳にしつつも、迫り来る炎の球に対して冷静に指を鳴らす。
パチン!
直後。
カズトとダイアナの目の前まで迫ってきていた炎の球は、まるで直前までそこに無かったかのように消え去った。
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