魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
27話 魔人戦(4)
「……ん」
カズトがダイアナとセリオが大蛇の形をした炎に先回りされている様子を見て魔人の分析を続けていると、自分の前に寝転がしているメイベルの口からそんな声が聞こえた。
その声は治癒が進んでいるだけあって女性らしくない濁った声ではなく、元のメイベルの声だ。
一旦ダイアナ達から目を放し、メイベルの方に視線を向ける。
すると丁度その時大火傷の治癒が終了し、同時にメイベルが完全に目を覚ました。
「これは……一体何を……!? 声が出る!? 喉が治っている!」
目覚めたメイベルは最初自分が何をされているのか分からないようすだったが、すぐさま自分が魔人の攻撃を食らったことを思い出した。
彼女は焼き尽くされたと思っていた自身の喉を触る。
(火傷が、ない? おかしい、あれはどう考えても助からないはずだった)
喉がなんともないことに混乱していると、彼女は寝ころんでいる自分の横にカズトがいることに気がついた。
「えっと、これはどういうこと……?」
「僕が治癒魔法でメイベルさんの喉を治したんです」
メイベルは今の状況を教えてくれそうなカズトにそう聞くと、彼は端的にそう答え視線を別の方向に移した。
信じられない事を言った彼の言葉を頭の中で咀嚼しながら、その視線の先をメイベルも追う。
するとそこではダイアナとセリオが狼の形をした炎を切り裂いたことによって、その爆発を受けたところだった。
「!? 殿下!」
それを見たメイベルは現状の確認をしっかりとする前に、反射的にダイアナを助けようとすぐさま立ち上がる。
そして二人を助けるために走り出そうとすると、その直前にカズトに腕を掴まれた。
「待ってください」
身体能力ではカズトよりもメイベルの方が遥かに高いため、彼女はその声を無視して掴まれた手を振り切ることも可能だった。
だがメイベルは、カズトは助からないと思っていた自分のことを助けてくれた恩人であるらしい事を思い出し、その行動にでるのを踏みとどまる。
ちなみにらしい、というのは彼女がまだ本当に自分のことを救ってくれたのがカズトであるのかどうか信じきれていないためだ。
「なに?」
メイベルはカズトに顔を向け、その用件を聞き出す。
するとカズトはダイアナ達の状況とメイベルの心境を推測し、早口でまくし立てるように口を開いた。
「あの魔人はどうやら攻撃と防御を同時に行えないみたいです。なので奴の周りを囲って、常にドーム状の防御魔法を発動させるよう四方八方から攻撃を加え続けてください。そしたらいずれ酸欠に陥らせることができる思うので、そこまでいったら必ず勝てます」
「……分かった」
メイベルはカズトが言った事の内後半について一部理解できないことがあったが、今はそれについて説明を求めている時間は無いためひとまず頷く。
そして今度こそ彼女はダイアナ達を助けるために走り出した。
カズトがメイベルに言ったことは当てずっぽうなどではない。
これまで彼が魔人の動きなどを分析した結果だ。
そしてその結果から魔人を倒すためにはどうすれば良いのかを考えた作戦が、魔人を自らの防御魔法の中に閉じ込めて酸欠、酸素欠乏状態にするというものだった。
ダイアナとセリオ、そしてカズトの手によって復活したメイベルが魔人を囲みながら次々と攻撃する。
魔人は攻撃を受けないようにドーム状の半透明の板を展開させ続けており、三人の武器がそれに当たる度に甲高い音がその広間に鳴り響く。
「ふむ。カズトの言う通りたしかにこいつは攻撃と防御を同時にできないようだ、な!」
「たしかにそのようですね。ですが、このままではこちらが体力を消費するばかりです!」
「でも、カズトが言うにはこのままいけばサンケツなるものにできるらしい」
話しながらも攻撃を繰り返す三人は既にこの状態を十分も続けていた。
だがカズトの狙いである魔人が酸欠になることはなく、セリオが行ったとおりただただ三人の体力が削れていくだけだ。
魔人は相変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべてその様を眺めていた。
しかしそんな様子の魔人だが、内心では非常に焦っていた。
(まずいな。このままだと息ができなくなっちまう。だがこいつらが絶え間なく攻撃してくるから防御魔法は解けない。それに奴らはサンケツとやらに俺を陥れさせようとしているみたいだ。今すぐどうにかしなければならない)
ニヤニヤとした笑みを浮かべているものの、それは焦っていることをバレないようにするためのブラフであった。
そして魔人が焦っている理由は今の状況を長引かせすぎると息ができなくなることを経験として知っているからだ。
奇しくもそれはカズトが狙っている酸欠なのだが、その言葉を知らない魔人には酸欠がなにやらカズト達が狙っている見えない罠のように思えた。
(賭けになっちまうしあまり使いたくないが、あれを使うしかないか)
魔人はリスク覚悟で唯一この状況を突破できる奥の手の魔法を使うことにした。
防御魔法を解除する。
「!? 今だ!」
魔人が防御魔法を解いた瞬間、ダイアナが口を開き、それと同時に三人が一斉に攻撃をしかける。
ダイアナ達にしてみれば、魔人が防御魔法を解いたのは攻撃してくるためだと分かっていた。
だが逆に考えれば、攻撃してくる前に攻撃すれば良い。
そして今はそれができる距離にいる。
そのためダイアナは防御ではなく攻撃の指示をだしたのだ。
ダイアナの狙い通り三人の刃が魔人に届き、肉をブチブチと断っていく。
だが魔人はその痛みに耐えて奥の手の魔法を発動させた。
「死ねえ!」
魔人に刃が食い込んでいく感覚を感じて三人が魔人を打ち取ったと確信した直後、魔人の体全体を包むように炎が吹き上がった。
その炎は今までの赤い炎とは違い、白い炎であった。
見るからにこれまでの攻撃とは段違いのエネルギーを秘めている。
そしてその炎は一瞬で魔人の周りの温度と圧力を上昇させ、外側に向かって凄まじい勢いの熱風を吹かせた。
「なにっ!?」
「ぐあ!?」
「あつっ!」
その熱風はすぐ近くにいた三人をまるで紙屑のように容易く吹き飛ばし、壁に勢いよく打ちつける。
するとその直後に熱風が収まり、三人の体は地面にドサリと落ちた。
三人とも意識はなく、ピクリとも動かない。
その様子を見ながら魔人はその場で膝をつき、息苦しそうに荒い呼吸を繰り返した。
「ぜはぁぜはぁぜはぁ」
(ちっ。分かっていたことだが、これを使うと息苦しくて仕方ねぇ。それよりカズトとか呼ばれてた黒髪はどこだ? あいつは瀕死の女騎士を復活させるほどの腕を持つ治癒士だ。まずあいつから片付けねぇと)
ターゲットをカズトに絞り、魔人は辺りを見回す。
身体能力が高いダイアナ達が耐えきれずに吹き飛ぶ程の熱風だ。
戦闘を殆どしない治癒士のカズトなら奴らと同じように吹き飛んで、壁際辺りで野垂れ死んでいるだろう。
だが万が一生きていたとしたら、あの腕だ。
当然自分に治癒魔法を使って生き延びようとしているだろう。
それを防ぐために確実にその体を焼いておかなければならない。
魔人は辺りを見回してカズトの姿を探し、そして見つけた。
しかしその姿を見て魔人はこれまでにないほど動揺した。
なぜならカズトはどこも火傷どころか怪我をした様子もなく、地面に横たわっているダイアナに治癒魔法を使っていたのだから。
カズトがダイアナとセリオが大蛇の形をした炎に先回りされている様子を見て魔人の分析を続けていると、自分の前に寝転がしているメイベルの口からそんな声が聞こえた。
その声は治癒が進んでいるだけあって女性らしくない濁った声ではなく、元のメイベルの声だ。
一旦ダイアナ達から目を放し、メイベルの方に視線を向ける。
すると丁度その時大火傷の治癒が終了し、同時にメイベルが完全に目を覚ました。
「これは……一体何を……!? 声が出る!? 喉が治っている!」
目覚めたメイベルは最初自分が何をされているのか分からないようすだったが、すぐさま自分が魔人の攻撃を食らったことを思い出した。
彼女は焼き尽くされたと思っていた自身の喉を触る。
(火傷が、ない? おかしい、あれはどう考えても助からないはずだった)
喉がなんともないことに混乱していると、彼女は寝ころんでいる自分の横にカズトがいることに気がついた。
「えっと、これはどういうこと……?」
「僕が治癒魔法でメイベルさんの喉を治したんです」
メイベルは今の状況を教えてくれそうなカズトにそう聞くと、彼は端的にそう答え視線を別の方向に移した。
信じられない事を言った彼の言葉を頭の中で咀嚼しながら、その視線の先をメイベルも追う。
するとそこではダイアナとセリオが狼の形をした炎を切り裂いたことによって、その爆発を受けたところだった。
「!? 殿下!」
それを見たメイベルは現状の確認をしっかりとする前に、反射的にダイアナを助けようとすぐさま立ち上がる。
そして二人を助けるために走り出そうとすると、その直前にカズトに腕を掴まれた。
「待ってください」
身体能力ではカズトよりもメイベルの方が遥かに高いため、彼女はその声を無視して掴まれた手を振り切ることも可能だった。
だがメイベルは、カズトは助からないと思っていた自分のことを助けてくれた恩人であるらしい事を思い出し、その行動にでるのを踏みとどまる。
ちなみにらしい、というのは彼女がまだ本当に自分のことを救ってくれたのがカズトであるのかどうか信じきれていないためだ。
「なに?」
メイベルはカズトに顔を向け、その用件を聞き出す。
するとカズトはダイアナ達の状況とメイベルの心境を推測し、早口でまくし立てるように口を開いた。
「あの魔人はどうやら攻撃と防御を同時に行えないみたいです。なので奴の周りを囲って、常にドーム状の防御魔法を発動させるよう四方八方から攻撃を加え続けてください。そしたらいずれ酸欠に陥らせることができる思うので、そこまでいったら必ず勝てます」
「……分かった」
メイベルはカズトが言った事の内後半について一部理解できないことがあったが、今はそれについて説明を求めている時間は無いためひとまず頷く。
そして今度こそ彼女はダイアナ達を助けるために走り出した。
カズトがメイベルに言ったことは当てずっぽうなどではない。
これまで彼が魔人の動きなどを分析した結果だ。
そしてその結果から魔人を倒すためにはどうすれば良いのかを考えた作戦が、魔人を自らの防御魔法の中に閉じ込めて酸欠、酸素欠乏状態にするというものだった。
ダイアナとセリオ、そしてカズトの手によって復活したメイベルが魔人を囲みながら次々と攻撃する。
魔人は攻撃を受けないようにドーム状の半透明の板を展開させ続けており、三人の武器がそれに当たる度に甲高い音がその広間に鳴り響く。
「ふむ。カズトの言う通りたしかにこいつは攻撃と防御を同時にできないようだ、な!」
「たしかにそのようですね。ですが、このままではこちらが体力を消費するばかりです!」
「でも、カズトが言うにはこのままいけばサンケツなるものにできるらしい」
話しながらも攻撃を繰り返す三人は既にこの状態を十分も続けていた。
だがカズトの狙いである魔人が酸欠になることはなく、セリオが行ったとおりただただ三人の体力が削れていくだけだ。
魔人は相変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべてその様を眺めていた。
しかしそんな様子の魔人だが、内心では非常に焦っていた。
(まずいな。このままだと息ができなくなっちまう。だがこいつらが絶え間なく攻撃してくるから防御魔法は解けない。それに奴らはサンケツとやらに俺を陥れさせようとしているみたいだ。今すぐどうにかしなければならない)
ニヤニヤとした笑みを浮かべているものの、それは焦っていることをバレないようにするためのブラフであった。
そして魔人が焦っている理由は今の状況を長引かせすぎると息ができなくなることを経験として知っているからだ。
奇しくもそれはカズトが狙っている酸欠なのだが、その言葉を知らない魔人には酸欠がなにやらカズト達が狙っている見えない罠のように思えた。
(賭けになっちまうしあまり使いたくないが、あれを使うしかないか)
魔人はリスク覚悟で唯一この状況を突破できる奥の手の魔法を使うことにした。
防御魔法を解除する。
「!? 今だ!」
魔人が防御魔法を解いた瞬間、ダイアナが口を開き、それと同時に三人が一斉に攻撃をしかける。
ダイアナ達にしてみれば、魔人が防御魔法を解いたのは攻撃してくるためだと分かっていた。
だが逆に考えれば、攻撃してくる前に攻撃すれば良い。
そして今はそれができる距離にいる。
そのためダイアナは防御ではなく攻撃の指示をだしたのだ。
ダイアナの狙い通り三人の刃が魔人に届き、肉をブチブチと断っていく。
だが魔人はその痛みに耐えて奥の手の魔法を発動させた。
「死ねえ!」
魔人に刃が食い込んでいく感覚を感じて三人が魔人を打ち取ったと確信した直後、魔人の体全体を包むように炎が吹き上がった。
その炎は今までの赤い炎とは違い、白い炎であった。
見るからにこれまでの攻撃とは段違いのエネルギーを秘めている。
そしてその炎は一瞬で魔人の周りの温度と圧力を上昇させ、外側に向かって凄まじい勢いの熱風を吹かせた。
「なにっ!?」
「ぐあ!?」
「あつっ!」
その熱風はすぐ近くにいた三人をまるで紙屑のように容易く吹き飛ばし、壁に勢いよく打ちつける。
するとその直後に熱風が収まり、三人の体は地面にドサリと落ちた。
三人とも意識はなく、ピクリとも動かない。
その様子を見ながら魔人はその場で膝をつき、息苦しそうに荒い呼吸を繰り返した。
「ぜはぁぜはぁぜはぁ」
(ちっ。分かっていたことだが、これを使うと息苦しくて仕方ねぇ。それよりカズトとか呼ばれてた黒髪はどこだ? あいつは瀕死の女騎士を復活させるほどの腕を持つ治癒士だ。まずあいつから片付けねぇと)
ターゲットをカズトに絞り、魔人は辺りを見回す。
身体能力が高いダイアナ達が耐えきれずに吹き飛ぶ程の熱風だ。
戦闘を殆どしない治癒士のカズトなら奴らと同じように吹き飛んで、壁際辺りで野垂れ死んでいるだろう。
だが万が一生きていたとしたら、あの腕だ。
当然自分に治癒魔法を使って生き延びようとしているだろう。
それを防ぐために確実にその体を焼いておかなければならない。
魔人は辺りを見回してカズトの姿を探し、そして見つけた。
しかしその姿を見て魔人はこれまでにないほど動揺した。
なぜならカズトはどこも火傷どころか怪我をした様子もなく、地面に横たわっているダイアナに治癒魔法を使っていたのだから。
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