魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
23話 遭遇
調査は魔物の襲撃が多々あったことに目をつむれば順調に進んだ。
ただ、出てくる全ての魔物がEランク以上の魔物やその巨大個体であったため、ダイアナの配慮もあり、カズトが戦う場面は全くなかった。
これについて内心ダイアナはカズトが戦うところを見られないのが残念でならなかったが、今は調査中であるため渋々諦めざるを得なかった。
(今は調査中だから余計な手間をかけるわけにはいかないが、調査が終われば話しは別だ。その時にカズトの戦いぶりと固有魔法をたっぷりと見せてもらおう)
ただそれはあくまで一時的に諦めたのであって、彼女は全てを諦めていないのだが。
そうして順調に進んだ調査は佳境に差し掛かる。
「殿下、魔力の痕跡はこの中に続いております」
「そうか。なら、十中八九ここが巨大個体の発生原因であるダンジョンだろう」
魔力の指針を見ていたセリオが顔を上げ、やや緊張した声でダイアナにそう報告する。
それを聞いたダイアナは重々しく頷いた。
彼らの目の前にあるのは山肌にぽっかりと口を開けた洞窟だ。
だがダンジョンとは一見なんともない洞窟と同じような見た目をしているものなのだ。
(これがダンジョンか。初めて見たけどただの洞窟にしか見えないんだな)
そんな感想を抱いたカズトだが、彼はダイアナ達の緊張した様子を見て自分も気を引き締め直す。
(そうだ。ダンジョンには魔物がうじゃうじゃいるだけじゃなくて、罠もたくさんあるんだった。いくら王女さま達に殆どを任せているからといって、気を抜いていい理由にはならないぞ)
するとカズトがそう思ったタイミングでダイアナが全員に声をかける。
「この中に魔人がいる可能性は高い。だから絶対に気を抜くな」
『はい』
(そういえば王女さまが調査に来た理由ってこの件に魔人が関わっている可能性が高いからだっけ。たしかに王女さま達の実力であれば魔人なんか驚異じゃないだろうな。でもこの中で一番弱いのは僕だから最低でも足を引っ張らないようにしないと)
魔人という言葉を聞いてカズトはさらに気を引き締める。
そしてダイアナがそれぞれの顔を見て油断しているようすが無いことを見ると、一つ頷いて出発の言葉を発した。
「よし。準備はいいようだな。いくぞ」
ダイアナ達はダンジョンの中で出てくる罠を発見、解除することができるメイベルを先頭にして歩き出す。
ダンジョン内の壁には定期的に火のついた松明があり、そのおかげもあって探索は順調に進んだ。
時々巨大個体の魔物が出てくるがそれはEランク程度の強さでしかないため、ダイアナ達の敵ではなくバッタバッタと切り倒されていく。
だが奥に進むに連れて、ダンジョンの内部がどのようになっているのか詳しく知らないカズトでさえも感じる違和感をここにいる全員が感じ始めた。
(神様の説明ではダンジョンとは魔物が住んでいる迷宮という話しだったよな。なのに魔物はともかく入り口からここまでずっと一本道だ。どう考えてもおかしい)
そう。カズト達が進んできた道は途中で枝分かれせず、ただひたすらにまっすぐに続く道だったのだ。
これでは迷宮ですらない。
すると同じような違和感を感じていたのか、ダイアナ達三人が口を開いた。
「ここはおそらくダンジョンではないな」
「やはり殿下もそう思いますか。ここまで奥深く潜っても、一つも分かれ道が存在しませんものね」
「それだけじゃありません。先程から罠が一つも見当たりません。ダンジョンならもう既に一つや二つ出てきてもいいはずです」
「そうだな。それにこれだけ奥に進んでも魔物の強さが全く変わらん。普通なら奥に進めば進むほど魔物の強さも強くなっていくというのにな」
(やっぱりそうか。ダンジョンには罠があるとか進むにつれて魔物が強くなっていくとかは知らなかったけど、迷宮ではないことは確かだもんな)
そこで四人は一度そこで立ち止まり、魔物の襲撃を警戒しながらも話し合う。
「殿下、ここがダンジョンではないとすると、やはり……」
「ああ。この先に魔人がいるのは確定と言っても良いだろうな」
そう言って通路の奥に顔を向けるダイアナ。
しかしこの洞窟は一本道だが緩やかにカーブしているため、つきあたりまでは見通す事ができない。
「隊列を変える。ここからは盾で防御ができるセリオを先頭に、私、メイベル、そしてカズトの順番で探索を行うことにする。異論はあるか?」
ダイアナは全員の顔を一人一人見て異論は無いようだと判断する。
「では、行こうか。もう一度言うが、気を抜くなよ」
『はい』
そうして再び洞窟の調査が再開される。
だが、調査が再会された後は一匹も魔物と遭遇することはなかった。
しかしその代わり、彼らは魔物でも人間でもないものと遭遇することとなった。
「魔人……!」
そう。それは肌の色が茶色で白目が黒、黒目が金という違いがあるものの、他は人間と瓜二つの容姿をしている。
そしてこの魔人は髪をオールバックにし、キツネのように細い目をしている。
さらにその口元はニタニタとした不気味な笑みを浮かべており、どこか嫌悪感のようなものを感じさせる。
それが洞窟の最奥、野球ドームのように大きい広間となっているところに寝転がっていたのだ。
(ほっそりとしているが、長身の魔人。あれは魔法特化型魔人か!)
初めて魔人を見たカズトはその人間と似たような容姿に驚くものの、冷静にそいつの分析を始めた。
その傍らでダイアナ達は既に武器を構え、警戒している。
するとダイアナが口を開いた。
「一つ聞こう。お前が魔物の巨大個体を作り出していたのか?」
「ああ、そうさ」
(しゃ、喋った!?)
魔人はダイアナの言葉に対して、そのニタニタした笑みを保ったままそう答えた。
そのことに対してカズトは内心驚愕したものの、なんとかその声を飲み込んで二人の会話の行く末を見守る。
すると今度は魔人の方からダイアナ達に質問を投げかけた。
「ここにくるまでに何匹か魔物どもがいたはずだが、それはどうした?」
「ここに私達がいる時点でそれは明白だろう?」
「それもそうだな」
そう言うと魔人はゆっくりと立ち上がる。
その瞬間、ダイアナが動いた。
「悪いが即刻叩き斬らせてもらう!」
振り下ろされる青の剣。
それは吸い込まれるように魔人の首へと襲いかかる。
しかし。
ガキィン!
「なに!?」
その剣が魔人の首に届く直前、半透明の板のような物がその間に出現し、剣を防いだ。
攻撃を止められたと見るや、ダイアナはすぐさま反撃を警戒して距離をとる。
すると今度は彼女の左右から同時にセリオとメイベルが前に出る。
そしてセリオは剣を突き出し心臓を狙い、クルクルとハルバードを回転させながら接近したメイベルはその勢いを利用して魔人を腰から真っ二つにするのを狙った。
だが、この攻撃もまた防がれる。
ガキガキィン!
ダイアナの攻撃を防いだ時と同じように半透明の板がそれぞれの武器の前に現れ防いだのだ。
声には出さないものの悔しさを滲ませながらセリオとメイベルはダイアナの横まで後退する。
そして彼女らが魔人の様子を窺っていると、魔人は退屈そうに口を開いた。
「あ? たった三人だけか? どうせならその後ろで突っ立ってる黒髪もかかってこいよ」
ただ、出てくる全ての魔物がEランク以上の魔物やその巨大個体であったため、ダイアナの配慮もあり、カズトが戦う場面は全くなかった。
これについて内心ダイアナはカズトが戦うところを見られないのが残念でならなかったが、今は調査中であるため渋々諦めざるを得なかった。
(今は調査中だから余計な手間をかけるわけにはいかないが、調査が終われば話しは別だ。その時にカズトの戦いぶりと固有魔法をたっぷりと見せてもらおう)
ただそれはあくまで一時的に諦めたのであって、彼女は全てを諦めていないのだが。
そうして順調に進んだ調査は佳境に差し掛かる。
「殿下、魔力の痕跡はこの中に続いております」
「そうか。なら、十中八九ここが巨大個体の発生原因であるダンジョンだろう」
魔力の指針を見ていたセリオが顔を上げ、やや緊張した声でダイアナにそう報告する。
それを聞いたダイアナは重々しく頷いた。
彼らの目の前にあるのは山肌にぽっかりと口を開けた洞窟だ。
だがダンジョンとは一見なんともない洞窟と同じような見た目をしているものなのだ。
(これがダンジョンか。初めて見たけどただの洞窟にしか見えないんだな)
そんな感想を抱いたカズトだが、彼はダイアナ達の緊張した様子を見て自分も気を引き締め直す。
(そうだ。ダンジョンには魔物がうじゃうじゃいるだけじゃなくて、罠もたくさんあるんだった。いくら王女さま達に殆どを任せているからといって、気を抜いていい理由にはならないぞ)
するとカズトがそう思ったタイミングでダイアナが全員に声をかける。
「この中に魔人がいる可能性は高い。だから絶対に気を抜くな」
『はい』
(そういえば王女さまが調査に来た理由ってこの件に魔人が関わっている可能性が高いからだっけ。たしかに王女さま達の実力であれば魔人なんか驚異じゃないだろうな。でもこの中で一番弱いのは僕だから最低でも足を引っ張らないようにしないと)
魔人という言葉を聞いてカズトはさらに気を引き締める。
そしてダイアナがそれぞれの顔を見て油断しているようすが無いことを見ると、一つ頷いて出発の言葉を発した。
「よし。準備はいいようだな。いくぞ」
ダイアナ達はダンジョンの中で出てくる罠を発見、解除することができるメイベルを先頭にして歩き出す。
ダンジョン内の壁には定期的に火のついた松明があり、そのおかげもあって探索は順調に進んだ。
時々巨大個体の魔物が出てくるがそれはEランク程度の強さでしかないため、ダイアナ達の敵ではなくバッタバッタと切り倒されていく。
だが奥に進むに連れて、ダンジョンの内部がどのようになっているのか詳しく知らないカズトでさえも感じる違和感をここにいる全員が感じ始めた。
(神様の説明ではダンジョンとは魔物が住んでいる迷宮という話しだったよな。なのに魔物はともかく入り口からここまでずっと一本道だ。どう考えてもおかしい)
そう。カズト達が進んできた道は途中で枝分かれせず、ただひたすらにまっすぐに続く道だったのだ。
これでは迷宮ですらない。
すると同じような違和感を感じていたのか、ダイアナ達三人が口を開いた。
「ここはおそらくダンジョンではないな」
「やはり殿下もそう思いますか。ここまで奥深く潜っても、一つも分かれ道が存在しませんものね」
「それだけじゃありません。先程から罠が一つも見当たりません。ダンジョンならもう既に一つや二つ出てきてもいいはずです」
「そうだな。それにこれだけ奥に進んでも魔物の強さが全く変わらん。普通なら奥に進めば進むほど魔物の強さも強くなっていくというのにな」
(やっぱりそうか。ダンジョンには罠があるとか進むにつれて魔物が強くなっていくとかは知らなかったけど、迷宮ではないことは確かだもんな)
そこで四人は一度そこで立ち止まり、魔物の襲撃を警戒しながらも話し合う。
「殿下、ここがダンジョンではないとすると、やはり……」
「ああ。この先に魔人がいるのは確定と言っても良いだろうな」
そう言って通路の奥に顔を向けるダイアナ。
しかしこの洞窟は一本道だが緩やかにカーブしているため、つきあたりまでは見通す事ができない。
「隊列を変える。ここからは盾で防御ができるセリオを先頭に、私、メイベル、そしてカズトの順番で探索を行うことにする。異論はあるか?」
ダイアナは全員の顔を一人一人見て異論は無いようだと判断する。
「では、行こうか。もう一度言うが、気を抜くなよ」
『はい』
そうして再び洞窟の調査が再開される。
だが、調査が再会された後は一匹も魔物と遭遇することはなかった。
しかしその代わり、彼らは魔物でも人間でもないものと遭遇することとなった。
「魔人……!」
そう。それは肌の色が茶色で白目が黒、黒目が金という違いがあるものの、他は人間と瓜二つの容姿をしている。
そしてこの魔人は髪をオールバックにし、キツネのように細い目をしている。
さらにその口元はニタニタとした不気味な笑みを浮かべており、どこか嫌悪感のようなものを感じさせる。
それが洞窟の最奥、野球ドームのように大きい広間となっているところに寝転がっていたのだ。
(ほっそりとしているが、長身の魔人。あれは魔法特化型魔人か!)
初めて魔人を見たカズトはその人間と似たような容姿に驚くものの、冷静にそいつの分析を始めた。
その傍らでダイアナ達は既に武器を構え、警戒している。
するとダイアナが口を開いた。
「一つ聞こう。お前が魔物の巨大個体を作り出していたのか?」
「ああ、そうさ」
(しゃ、喋った!?)
魔人はダイアナの言葉に対して、そのニタニタした笑みを保ったままそう答えた。
そのことに対してカズトは内心驚愕したものの、なんとかその声を飲み込んで二人の会話の行く末を見守る。
すると今度は魔人の方からダイアナ達に質問を投げかけた。
「ここにくるまでに何匹か魔物どもがいたはずだが、それはどうした?」
「ここに私達がいる時点でそれは明白だろう?」
「それもそうだな」
そう言うと魔人はゆっくりと立ち上がる。
その瞬間、ダイアナが動いた。
「悪いが即刻叩き斬らせてもらう!」
振り下ろされる青の剣。
それは吸い込まれるように魔人の首へと襲いかかる。
しかし。
ガキィン!
「なに!?」
その剣が魔人の首に届く直前、半透明の板のような物がその間に出現し、剣を防いだ。
攻撃を止められたと見るや、ダイアナはすぐさま反撃を警戒して距離をとる。
すると今度は彼女の左右から同時にセリオとメイベルが前に出る。
そしてセリオは剣を突き出し心臓を狙い、クルクルとハルバードを回転させながら接近したメイベルはその勢いを利用して魔人を腰から真っ二つにするのを狙った。
だが、この攻撃もまた防がれる。
ガキガキィン!
ダイアナの攻撃を防いだ時と同じように半透明の板がそれぞれの武器の前に現れ防いだのだ。
声には出さないものの悔しさを滲ませながらセリオとメイベルはダイアナの横まで後退する。
そして彼女らが魔人の様子を窺っていると、魔人は退屈そうに口を開いた。
「あ? たった三人だけか? どうせならその後ろで突っ立ってる黒髪もかかってこいよ」
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