魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
22話 ダイアナの実力
夜中。
見張り交代の為に起こされたカズトはセリオと二人でその役割を忠実にこなしていた。
(いてて……。肩とか腰とかバキバキだ……)
寝袋の寝心地は当然良いものではなかった。
予想通り地面の上で寝ているのと何ら変わる事無く、彼はなかなか寝付くことができなかった。
そしてようやく眠ることができたと思ったら見張りの交代をするためメイベルに起こされたのだ。
寝不足故に何度も欠伸が出てしまう。
するとそんな様子のカズトを見かねたセリオがダイアナ達に配慮して小声で怒鳴った。
「おい、貴様! さっきから欠伸ばっかりして、どういうことだ! まだ寝足りんのか!」
「すいません。気をつけます」
正直に、はいそうですと答えたいが、そうするとセリオが更に怒ることは目に見えているので、カズトは素直に謝った。
そしてそれからは欠伸をすることを我慢し、魔力制御の練習を始める。
(ああ、貴族とか王族って嫌な人達ばっかりだなぁ)
カズトの中で貴族や王族といった人間の株が急激に下がっていった。
そして朝。
ダイアナとメイベルが起き、ダイアナが亜空の腕輪から次々とテーブルや椅子を出して朝食の準備に入る。
ダイアナ達の朝食は目玉焼き、パン、ソーセージといったシンプルな物だ。
対してカズトの朝食は昨日の晩御飯と同じ干し肉である。
しかしそれを予想していたカズトは昨日程不満や嫉妬といった感情を持つことはなかった。
ただ、寝不足で体がだるく食欲が無かっただけなのだが。
(ダメだダメだ! このままだと下手したら魔物に殺されるぞ!)
カズトはダイアナ達から離れて焚き火の下へ行き、昨日と同じ干し肉スープを手早く作る。
そしてそれを平らげた後、鉄鍋を綺麗に洗ってその中に水を入れる。
そしてさらに魔法で水の温度を氷点下ギリギリまで下げ、それで顔を洗う。
その瞬間、体中に電気が走ったかのような錯覚がした。
「つめった! けど、目が覚めた!」
まだ体のだるさは若干残っているものの、先ほどまでと比べたら大違いだ。
ブルブルと首を振って水気を飛ばす。
水に濡れているため、顔に当たる空気がひんやりとして気持ちがいい。
これによってカズトの頭も体も完全に覚醒した。
「王女さま達は……まだ朝食中か」
ダイアナ達の方を見ると、彼女達は未だに朝食を食べている。
しかし完全に覚醒したからか、パンを優雅に食べながら談笑しているダイアナ達の様子を見ると、カズトの胸の内にあの暗い感情がゴポゴポとわきあがってくる。
それに気づいたカズトはすぐさまそこから視線を切り、昨日と同じように薬草などの素材を集め始めた。
「さて、準備はできたな。行くぞ」
『はい』
野宿の用意をダイアナが装備している亜空の腕輪の中に全て仕舞った一行は、魔力の指針を持っているセリオを先頭にして歩き出す。
その際、ダイアナとメイベルが周辺の警戒をしているが、カズトはそのような技能は二人に遠く及ばないため、すぐ近くにある薬草などをせっせと採取しながら移動する。
そうやって一行はアームホーンゴリラの巨大個体の魔力の痕跡を辿りながら進む。
どんどん山の奥深くに入っていき、周辺の木々の色も変わってきた。
その色は麓の木々よりもとても暗い色をしており、太陽光を殆ど通さない。
そのため幹の根元にいく程暗くなっており、カズト達の視界は既に薄暗闇に覆われていた。
そんな中、一行の右前方から暗がりに隠れるようにして一匹の魔物が現れる。
それは全身が黒い毛皮に覆われている猫だ。
ただしその大きさは、普通の個体ならば大人の人間のお腹辺りまでしか無いはずなのに、その猫はカズト達よりも遥かに大きい。
「……シュヴァルツキャット、それも巨大個体か」
ダイアナがポツリと呟く。
シュヴァルツキャット。
それはEランクの魔物であり、見た目こそただの赤目の黒猫に見えるが、その動きはとても俊敏である。
また反射神経が抜群に高く、その俊敏さも相まって非常に攻撃を当てにくい厄介な魔物として知られている。
ちなみに反射神経はそのランクの魔物に相応しくない程良い。
それはダイアナ達にとっても無視できないほどのものだ。
彼女たちはこれまで何度も普通のシュヴァルツキャットと戦ったことがあるが、討伐できたのは片手で数えるほどしかない。
他は全て攻撃を躱され、逃げられたのだ。
ただ、そんな驚異の反射神経を持つシュヴァルツキャットがEランク魔物として登録されている理由は、攻撃手段が前足の爪の振り下ろしという単調な攻撃しかないからだ。
なので戦闘に慣れている者ならば容易にその攻撃を躱す事ができる。
(カズトに戦わせてその様子を見てみたかったが、さすがにこいつが相手では手に負えるか)
しかしダイアナから見ればカズトの実力は未知数であるものの、彼はまだFランク冒険者。
しかも戦闘に向かない魔法士だ。
そのためいくらカズトの魔法士としての実力が高く固有魔法を持っているとはいえ、シュヴァルツキャット相手には手も足もでないだろう。
ダイアナは瞬時にそう判断し、指示を出す。
「お前たちは下がっておけ。私がやる」
「承知しました」
ダイアナがそう言って前に出る。
そして亜空の腕輪から青く透き通る剣を取り出し、それを構える。
(魔力の痕跡がどこまで続いているか分からないから、あまり時間をかけたくない。いきなりだがここはあれを使わせてもらうぞ!)
ダイアナは剣を正面に構え、魔法の詠唱を始める。
「我が刃は全ての物を凍てつくす。そこに距離は無く、時も無い。ただ一瞬のうちに止まるのみ。この一振りですべてが終わる。安心して眠れーー」
剣をゆっくりと頭上に掲げ、そしてシュヴァルツキャットに向かって勢い良く振り下ろす。
「ーーアイスライン!」
その瞬間、ダイアナが振るった剣の延長線上にある全ての物が凍った。
それは草も木も、そしてシュヴァルツキャットも全てだ。
「ふぅ。シュヴァルツキャット相手にこれを使ったのは初めてだったが、避けられずに済んだようだな」
ダイアナが緊張を解きながら、凍ったシュヴァルツキャットを見てそう呟く。
そしてそれを見たセリオとメイベルがダイアナに賞賛の拍手を送る。
一方カズトはダイアナが放った魔法を見て愕然としていた。
(今まで王女さまは魔法を使っていなかったからその実力は分からなかったけど、明らかに僕より魔法の実力があるよね……)
ダイアナが放ったその魔法を見て、カズトは彼女の方が自分よりも魔力制御の実力が遥かに高いことを見抜いたのだ。
魔法士である自分が剣士であるダイアナより身体能力でも魔力制御でも劣っている。
いくらカズトがまだオーランドに来たばかりだとはいえ、その事実は彼の中の魔法士としての小さなプライドを傷つけた。
「さて、それでは進むか」
しかしそんな彼の心境を知らないダイアナ達はそう言って魔力の痕跡を再び追い始めた。
カズトも黙ってそれについて行く。
見張り交代の為に起こされたカズトはセリオと二人でその役割を忠実にこなしていた。
(いてて……。肩とか腰とかバキバキだ……)
寝袋の寝心地は当然良いものではなかった。
予想通り地面の上で寝ているのと何ら変わる事無く、彼はなかなか寝付くことができなかった。
そしてようやく眠ることができたと思ったら見張りの交代をするためメイベルに起こされたのだ。
寝不足故に何度も欠伸が出てしまう。
するとそんな様子のカズトを見かねたセリオがダイアナ達に配慮して小声で怒鳴った。
「おい、貴様! さっきから欠伸ばっかりして、どういうことだ! まだ寝足りんのか!」
「すいません。気をつけます」
正直に、はいそうですと答えたいが、そうするとセリオが更に怒ることは目に見えているので、カズトは素直に謝った。
そしてそれからは欠伸をすることを我慢し、魔力制御の練習を始める。
(ああ、貴族とか王族って嫌な人達ばっかりだなぁ)
カズトの中で貴族や王族といった人間の株が急激に下がっていった。
そして朝。
ダイアナとメイベルが起き、ダイアナが亜空の腕輪から次々とテーブルや椅子を出して朝食の準備に入る。
ダイアナ達の朝食は目玉焼き、パン、ソーセージといったシンプルな物だ。
対してカズトの朝食は昨日の晩御飯と同じ干し肉である。
しかしそれを予想していたカズトは昨日程不満や嫉妬といった感情を持つことはなかった。
ただ、寝不足で体がだるく食欲が無かっただけなのだが。
(ダメだダメだ! このままだと下手したら魔物に殺されるぞ!)
カズトはダイアナ達から離れて焚き火の下へ行き、昨日と同じ干し肉スープを手早く作る。
そしてそれを平らげた後、鉄鍋を綺麗に洗ってその中に水を入れる。
そしてさらに魔法で水の温度を氷点下ギリギリまで下げ、それで顔を洗う。
その瞬間、体中に電気が走ったかのような錯覚がした。
「つめった! けど、目が覚めた!」
まだ体のだるさは若干残っているものの、先ほどまでと比べたら大違いだ。
ブルブルと首を振って水気を飛ばす。
水に濡れているため、顔に当たる空気がひんやりとして気持ちがいい。
これによってカズトの頭も体も完全に覚醒した。
「王女さま達は……まだ朝食中か」
ダイアナ達の方を見ると、彼女達は未だに朝食を食べている。
しかし完全に覚醒したからか、パンを優雅に食べながら談笑しているダイアナ達の様子を見ると、カズトの胸の内にあの暗い感情がゴポゴポとわきあがってくる。
それに気づいたカズトはすぐさまそこから視線を切り、昨日と同じように薬草などの素材を集め始めた。
「さて、準備はできたな。行くぞ」
『はい』
野宿の用意をダイアナが装備している亜空の腕輪の中に全て仕舞った一行は、魔力の指針を持っているセリオを先頭にして歩き出す。
その際、ダイアナとメイベルが周辺の警戒をしているが、カズトはそのような技能は二人に遠く及ばないため、すぐ近くにある薬草などをせっせと採取しながら移動する。
そうやって一行はアームホーンゴリラの巨大個体の魔力の痕跡を辿りながら進む。
どんどん山の奥深くに入っていき、周辺の木々の色も変わってきた。
その色は麓の木々よりもとても暗い色をしており、太陽光を殆ど通さない。
そのため幹の根元にいく程暗くなっており、カズト達の視界は既に薄暗闇に覆われていた。
そんな中、一行の右前方から暗がりに隠れるようにして一匹の魔物が現れる。
それは全身が黒い毛皮に覆われている猫だ。
ただしその大きさは、普通の個体ならば大人の人間のお腹辺りまでしか無いはずなのに、その猫はカズト達よりも遥かに大きい。
「……シュヴァルツキャット、それも巨大個体か」
ダイアナがポツリと呟く。
シュヴァルツキャット。
それはEランクの魔物であり、見た目こそただの赤目の黒猫に見えるが、その動きはとても俊敏である。
また反射神経が抜群に高く、その俊敏さも相まって非常に攻撃を当てにくい厄介な魔物として知られている。
ちなみに反射神経はそのランクの魔物に相応しくない程良い。
それはダイアナ達にとっても無視できないほどのものだ。
彼女たちはこれまで何度も普通のシュヴァルツキャットと戦ったことがあるが、討伐できたのは片手で数えるほどしかない。
他は全て攻撃を躱され、逃げられたのだ。
ただ、そんな驚異の反射神経を持つシュヴァルツキャットがEランク魔物として登録されている理由は、攻撃手段が前足の爪の振り下ろしという単調な攻撃しかないからだ。
なので戦闘に慣れている者ならば容易にその攻撃を躱す事ができる。
(カズトに戦わせてその様子を見てみたかったが、さすがにこいつが相手では手に負えるか)
しかしダイアナから見ればカズトの実力は未知数であるものの、彼はまだFランク冒険者。
しかも戦闘に向かない魔法士だ。
そのためいくらカズトの魔法士としての実力が高く固有魔法を持っているとはいえ、シュヴァルツキャット相手には手も足もでないだろう。
ダイアナは瞬時にそう判断し、指示を出す。
「お前たちは下がっておけ。私がやる」
「承知しました」
ダイアナがそう言って前に出る。
そして亜空の腕輪から青く透き通る剣を取り出し、それを構える。
(魔力の痕跡がどこまで続いているか分からないから、あまり時間をかけたくない。いきなりだがここはあれを使わせてもらうぞ!)
ダイアナは剣を正面に構え、魔法の詠唱を始める。
「我が刃は全ての物を凍てつくす。そこに距離は無く、時も無い。ただ一瞬のうちに止まるのみ。この一振りですべてが終わる。安心して眠れーー」
剣をゆっくりと頭上に掲げ、そしてシュヴァルツキャットに向かって勢い良く振り下ろす。
「ーーアイスライン!」
その瞬間、ダイアナが振るった剣の延長線上にある全ての物が凍った。
それは草も木も、そしてシュヴァルツキャットも全てだ。
「ふぅ。シュヴァルツキャット相手にこれを使ったのは初めてだったが、避けられずに済んだようだな」
ダイアナが緊張を解きながら、凍ったシュヴァルツキャットを見てそう呟く。
そしてそれを見たセリオとメイベルがダイアナに賞賛の拍手を送る。
一方カズトはダイアナが放った魔法を見て愕然としていた。
(今まで王女さまは魔法を使っていなかったからその実力は分からなかったけど、明らかに僕より魔法の実力があるよね……)
ダイアナが放ったその魔法を見て、カズトは彼女の方が自分よりも魔力制御の実力が遥かに高いことを見抜いたのだ。
魔法士である自分が剣士であるダイアナより身体能力でも魔力制御でも劣っている。
いくらカズトがまだオーランドに来たばかりだとはいえ、その事実は彼の中の魔法士としての小さなプライドを傷つけた。
「さて、それでは進むか」
しかしそんな彼の心境を知らないダイアナ達はそう言って魔力の痕跡を再び追い始めた。
カズトも黙ってそれについて行く。
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