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魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

19話 身分差を思い知らされる

 ダイアナに頼まれたカズトは魔法でアームホーンゴリラの死体の下にある砂をその上に覆い被せるように移動させる。
 すると僅か五分ほどでその死体を完全に地中に埋め終えた。
 その様子を見たダイアナが感心したような声を上げる。




「ほう。無詠唱か」




(そういや魔法士って詠唱を行うのが普通なんだっけ)




 ダイアナの感心したような声を聞き、カズトはぼんやりとそんなことを考えた。
 一方ダイアナはカズトの背中を見ながら、ついさっきまで観察していたアームホーンゴリラの巨大個体の死体にできていた傷に関して考えを巡らせる。




(剣で斬った跡のような深い切り傷に槍で突いたような刺し傷、そして皮膚が爛れる程の火傷に内部から破裂したような謎の傷。他にも傷がたくさんあったが、それらは全てカズトがつけた傷だよな? 一体どれだけ魔法を打ち込めばあんなに傷をつけられるんだ?)




 ダイアナはカズトが魔法士だと知った当初は彼がアームホーンゴリラの巨大個体を倒しただなんて到底信じられなかった。
 だが実際にその死体を目にし、カズトが目の前で無詠唱で魔法を使っていることから、その認識は改められつつある。


 ちなみに戦いには向かない魔法士だが、この世界の医者である治癒士など、魔法士はそれ以外の分野で広く活躍している。
 そのため魔法士を志す者は多いのだが、彼らがはじめに習うことがイメージを固めやすくするための詠唱だ。
 そして無詠唱は詠唱、その次の段階である高速詠唱、さらに次の段階の省略詠唱、そしてその先にある高等技術として知られている。
 そのためダイアナから見ればそれだけの高等技術を扱えるカズトはイメージ力が卓越しており、魔法士としてかなりの実力があるように見えるのだ。


 実際にはカズトはこの世界の人間が知り得ない知識を活用して、より多角的なイメージを可能としているからこそ、無詠唱でも魔法が使えているのだが。
 それがなければ彼は普通の魔法士と同じ実力しか持っていない。


 もちろんダイアナはそんなことを知るよしもない。




(ともかく一度、カズトの実力をこの目で確かめた方がいいな。だが……)




 そこで一度ダイアナは空を見上げる。
 すると空はすでにオレンジ色に染まってきており、後ほんの数時間で夜になることをつげていた。




(今日のところは時間がありそうにない。明日にするか)




 そう判断したダイアナは、他の三人に声をかける。




「今日の調査はここまでとする。ここから少し移動した場所で野宿することにするぞ。ここは血の臭いが濃いからな」




 ダイアナが言った通り、ここはつい先ほどまで魔物の死体で溢れかえっていた場所のため、血の臭いが凄まじく濃い。
 現に死体の処理をしている間、何度かその臭いにつられて魔物がやってきたぐらいだ。
 そのためダイアナの意見には誰も反対することはなく、自ら率先して歩き出した彼女に皆がついていった。












 そうして一向はそこから三十分ほど歩いた場所にある大樹の根元にやってきた。
 そこでダイアナが亜空の腕輪から人数分の食事を取り出し始める。
 それらの料理は亜空の腕輪という持ち運べる倉庫があるため保存食のような物ではなく、とても豪華な物だ。




(急な依頼だからって寝食に関しては向こうが負担してくれるのは本当に助かるな。おかげで荷物が少なくてすむ。それに王族が食べる料理を口にすることができるんだ! 楽しみだな!)




 ワクワクとした気持ちを抱きながらカズトは焚き火用の枯れ枝や枯れ草を拾い集める。
 そしてそれらを十分に集め終えると、今度は大樹からそれほど離れていない地面が剥き出しの場所へ移動する。
 そこでそれらをキャンプファイアーの要領で組み上げる。
 そして発火。




 パチン!




 水分が殆ど無い枯れ枝や枯れ草はみるみるうちに燃え上がり、あっという間に大きな火が立ち上った。




「よし。これでいいかな」




 それを満足そうに見るカズト。
 するとそこでダイアナから声がかかった。




「カズト、食事の用意ができた! 取りに来てくれ!」




「はい! わかりました!」




(おお! やっと王族が食べる料理が食べられるぞ!)




 カズトはウキウキとした気分を抱きながらダイアナ達の下へ行く。
 するとそこには丸テーブルと椅子が用意されており、遠目からでも豪華な料理とわかる皿がいくつも並んでいる。
 だが、そこでカズトはハタと気づいた。




(椅子の数が三つだけ?)




 今この場にいるのはダイアナ、セリオ、メイベル、カズトの四人だけ。
 しかし用意されている椅子は三つ。
 ついでに言えば丸テーブルの大きさも四人が囲める程大きい物ではない。
 どういうことだと思いながらカズトがダイアナの下にやってくると、彼女はいくつかの干し肉を彼に差し出した。




「カズトの分はこれだ」




「……え?」




 それを見て固まるカズト。
 それもそのはず、彼はつい今し方まで城で食べられるような豪華な食事を期待していたのだから。
 まさに今テーブルの上に乗っているような。
 そこでハタと気づいた。




(そういや、この世界は身分っていう厄介な物があるんだった……)




 そう、この世界には王族、貴族、平民と明確な身分差があるのだ。
 そのため例え野宿であっても貴族と平民が同じテーブルを囲むことはないし、同じ料理を食べることもない。
 つまりテーブルの上に置いてある豪華な料理はダイアナ達が食べる物。
 差し出された干し肉は自分が食べる物、だ。




(身分差って嫌だなぁ……)




 豪華な料理が食べられると大きく期待していた分、その絶望は大きい。
 だがカズトはその絶望を少しでも紛らわせるために無理矢理にでもポジティブに考えることにした。




(そもそも今回の調査では王女さまが僕の分の寝食を負担してくれているんだ。それに今日の僕は調査に殆ど貢献していない。むしろガサガサと足音をたてて迷惑をかけていたぐらいだ。それなのにこうして食料をもらい、これから寝袋も貸してくれる。感謝こそすれ文句を言う筋合いは僕にないな)




 そう考えると不思議なもので、干し肉をくれたのがありがたく感じてしまう。
 しかしやはり当初大きく期待していた分、絶望もまた大きかったのか、カズトの心の内では紛らわせきれない絶望が存在する。
 ただ、それくらいの絶望なら表情に出ることはない。
 そのためカズトは笑顔こそ浮かべる余裕がないものの、普通の表情で干し肉を受け取る事ができた。




「ありがとうございます」




「……ああ」




 干し肉を受け取ったカズトはダイアナに背を向け、普通の足取りで焚き火の方へと戻る。
 しかし表情の下にある感情を読むことができるダイアナはカズトが絶望していることを見抜き、そして何に絶望しているのかも見当がついた。
 そのため彼女はカズトの肩に手を伸ばすが、横から声がかかる。




「殿下。殿下のお優しいお気持ちは素晴らしいものです。ですが、平民と同じ食卓を囲むべきではありません」




 セリオがダイアナに対してやや強くそう言った。
 彼の言っていることはオーランドの貴族社会では常識であり、何も間違ったことは言っていない。
 カズトの分の椅子を用意しなかったのも、彼の食事を自分達のものとは明らかに劣る干し肉にしたのも、全てセリオの言葉によるものだ。
 ただ、彼は何もカズトのことが嫌いだからそうするようにダイアナに言ったのではない。
 彼は良くも悪くも真面目であるからこそ、そういった行いには厳しいのだ。

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