魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

17話 馬車での道中

(これは騙されたか? いや、ギルドがそんなことをするはずがない。私を敵に回すということは、国そのものを敵に回すということだ。それは奴らも望んでいないはず。ではなぜたかが魔法士が巨大個体を倒せたのだ? 偶然が重なって倒せた、というのが合っていそうだが……。いや、これから行動をともにするんだ。その時になぜ魔法士であるカズトが巨大個体を倒せたのかを分析させてもらおう)




 ダイアナがそう心の中で決めると、そこでガラガラという馬車を引く音と共に男騎士達がやってきた。
 しかしその馬車は昨日カズトが見た装飾がある馬車とは違い、この世界で一般的に使われている装飾の一切ない幌馬車だ。
 何故ダイアナの物である装飾がある馬車ではなく普通の幌馬車を男騎士達に持ってこさせたかというと、装飾がある馬車の中は快適に過ごせるようになっているが、大人数乗せることができないためである。
 そのためダイアナは男騎士達に命じ、全員が乗るのに適している普通の幌馬車を持って来させたのだ。
 幌馬車が近くに止まると、大柄な騎士がすぐさまダイアナの前に跪く。




「殿下、お待たせしました。用意は全て整いました」




「ご苦労。それでは出発しようか」




「はっ」




 ダイアナはそう言うとすぐに馬車に乗り込んだ。
 それに続くようにして騎士達もすぐさま乗り込む。
 当然カズトも馬車の荷台に乗り込もうと彼らに続いて荷台に足をのせる。
 するとそこでセリオがカズトに厳しい言葉を投げかけた。




「おい、カズト。貴様は平民でしかも冒険者だろう。ここにお前が座る場所などない。御者台に乗れ」




「なぜ……いえ、わかりました」




 カズトはセリオの言葉に対して反射的に何故荷台ではだめなのかを問おうとしたが、王族や貴族と自分のような平民には明確な身分差があることを思い出して納得した。
 しかし納得はしたが、高圧的に命令されたのは釈然としない。




(もう少し言い方というものがあるだろ。まあ、その間魔力制御の練習に集中できるからよしとするけど)




 心の内に生まれたもやもやとした嫌な感情を、魔力制御の練習に集中できるからという理由でごまかしたカズトは御者台に向かう。


 御者はどこからか雇ったのか戦いとは無縁そうな普通の一般人だった。
 そんな彼にカズトはもやもやとした嫌な感情を表に出さないように挨拶をする。




「今日はよろしくお願いします」




「これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします」




 そうして言葉を交わした後、カズトは御者の横に腰を下ろした。
 それを確認した御者が馬車を出発させる。
 直後、ゴトゴトと馬車のタイヤが荒れた土の道を走る反動が返ってきた。




「おお。おお!?」




 僅かな間進んだだけでも下からやってくる数々の衝撃は、たとえ一回一回が小さなものであったとしてもカズトに恐怖を与えた。
 彼は間違っても振動によって御者台から転げ落ちないように限界まで深く腰掛け、御者台の端を力強く握る。
 そんな彼の様子を見た御者は朗らかに笑った。




「はっはっはっ。もしかして馬車に乗るのは初めてですかな?」




「は、はい。これってかなり揺れるんですね」




「馬車とはこのようなものですぞ。まあ、その内慣れると思いますわい」




 御者はそう言って引き続き朗らかに笑う。
 そしてそれは事実であった。
 五分ほど走っていると、カズトもその揺れにようやく慣れてきたのだ。
 今では風を感じ、周りの景色を見る余裕すらある。
 だがその余裕がでてきた当初はよかったものの、これまた時間が経つとその景色にも慣れてきてしまった。




(変化がない景色っていうのもなぁ……。さすがに同じような景色ばかりだと飽きてきちゃったし。よし、魔力制御の練習をするか)




 カズトは時間が空いているときはいつもする魔力制御の練習を始めたのだった。












 それからしばらくすると馬車はゆっくりと速度を落としていき、やがて止まった。
 それに気づいたカズトは魔力制御の練習を止め、顔を上げる。
 すると彼の視界には五十メートル程先に山肌に沿って木々が乱立している様子が映った。




「さすが馬車ですね。思っていた以上に早かったですよ。ありがとうございました」




「いえいえ。それでは自分は明後日までここで待っていますので、お仕事頑張って来てください」




「はい!」




 カズトは御者とそのような言葉を交わして御者台を降りる。
 そして後ろを見ればダイアナ達もまた馬車を降りていた。
 その中でダイアナ、セリオ、女騎士と他の三人の男騎士達に別れる。
 ダイアナ達は調査に赴き、他の三人はダイアナ達が帰ってくるまで馬車の護衛のためにここに残るのだ。
 ちなみに今回の調査は三日かけて行われる予定だ。
 もしこの三日間で原因であろう未発見のダンジョンを発見することができれば、それを攻略、叉は場所を確認した後に引き返して攻略の準備を行う。
 逆に何も手がかりを得ることができなければ近い内に日を改めて調査することになっている。


 ダイアナと騎士達は一言二言お互いに言葉を交わし、やがて別れた。
 それを見届けてからカズトはダイアナ達のグループに合流する。




「では、行こうか」




『はい』




 そしてダイアナのその声をきっかけに、彼女らは山へと足を向けた。












 一行は最大限に警戒しながら山の中を静かに歩く。
 当然魔物に気づかれないように足音はたてない。
 ……ただしカズトを除いて。




「おい、貴様。もっと静かに歩けんのか」




「すいません。これが限界です」




 セリオがイライラしたような声でカズトにそう言って当たる。
 ダイアナを含めた騎士達は、山だけでなく森や林といった見通しが悪いところで魔物を狩る訓練を頻繁に行っている。
 そのため足音などの気配を消す技術は自然とできるようになっているのだが、カズトはオーランドに来てからまだ数日しか経っていない。
 まだまだそこらへんは未熟であった。


 そうしてカズトのせいで見つかり、襲いかかってきた魔物をダイアナ達が片っ端から返り討ちにして進んでいると、昨日カズトが五頭のアームホーンゴリラを倒した場所までやってきた。
 しかしそこにはゴブリンやフォレストウルフといった数多の小型の魔物達がアームホーンゴリラ達の死体を貪っていた。
 そして辺りには濃密な血の臭いが漂っている。




「うぇぇ……。グロいし、酷い臭いだ……」




「貴様、まさか倒した魔物の後始末をしなかったのか!?」




「いや、正確には時間が無かったのでできなかったんですよ……。反省してます。すいませんでした」




「むぅ。そうか。それなら仕方ない」




 セリオが信じられないといった様子で小声でカズトを問い詰めたが、彼の言葉と心の底から反省しているといった態度を見てその矛先を収めた。
 すると今度はダイアナが口を開く。




「とりあえずあの魔物達が邪魔でこのままでは魔力の指針が使えん。セリオ、メイベル、全ての魔物を早急に駆除するぞ」




『はっ』




「あ、あれ? 僕は? 僕はどうすればいいのですか?」




「カズトはそこで待機だ」




「ええ!?」

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