魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
12話 思いもよらないランクアップ
「わかりました。えっとたしか……この辺りですね」
「そうですか。わかりました」
ニーナさんが机の下から取り出した手書きの略地図の中で、僕がアームホーンゴリラと遭遇した大体の場所を指し示す。
するとそこにニーナさんは赤いインクがついているペンで丸をつけ、その横に今日の日付を書き足した。
「報告ありがとうございます。このことは私の方からギルドマスターに報告し、後に調査隊の方々や全冒険者ギルド支部を統括しているグランドマスターに報告されることになります。よろしいですね?」
「ええ、構いませんよ」
調査隊の人やグランドマスターとやらにこの情報が伝わっても特に問題はないだろう。
それにここで断る理由もない。
僕は即座に首を縦に振った。
「ありがとうございます。それでは次に素材の買い取りの話しに移らせていただきますが……アームホーンゴリラの毛皮はありますか? あればこれらの素材と一緒に買い取りますが」
「すいません。毛皮の方は解体する時間がなかったので取ってこれませんでした。それに解体というものをしたことが無いので上手く剥ぎ取ることもできませんし」
「そうでしたか。時間がなかったのならば仕方ありませんね。しかし魔物の解体は覚えていたほうが良いですよ。稼ぎが良くなるのもそうですし、解体しなければ得られない素材なんてのもたくさんありますから」
「そうですね。わかりました」
これからしばらくの間は冒険者として生計をたてていくつもりなので、ニーナさんの言う通り解体はできた方が良いだろう。
それに解体の大雑把な手順は資料室で知った。
だから次から時間があるときは積極的に解体をして経験を稼ぐことにしよう。
するとニーナさんは素材の状態などを鑑定し始め、それが終わると口を開いた。
「どれも状態がいいですね。角の方は一本1000ノア、その中でも大きいこの角は1500ノアで。そして魔石の方は一個200ノアで、大きな魔石は300ノアになります。合計で6600ノアですね。どうぞ」
「ありがとうございます」
ニーナさんから6600ノアである大銀貨6枚と銀貨6枚が入った袋を受け取り、それをバッグの中に仕舞う。
そして次に僕は採取してきた薬草や毒草といった植物の素材をバッグから取り出す。
「ニーナさん、これらの素材の買い取りもお願いします」
「わかりました。少々お待ちください」
ニーナさんはそう言うと慣れた手つきで次から次へと手早く植物を鑑定していく。
そして五分ほど経った頃に鑑定を終えた。
「採取をしてから時間が経ってしまって劣化しているのは仕方がないですが、それを除けば完璧と言っても良いくらいですね」
お、褒められた。
数々の素材を鑑定してきたであろうニーナさんにそう言われると嬉しいな。
欲を言えば全て完璧だと言って欲しかったが、時間の問題についてはどうしようもないので諦める。
するとニーナさんが質問してきた。
「採取の経験があるのですか?」
「いえ、ありません。採取の仕方などは全てここの資料室で学びました」
「そうなんですか! 実はあの資料室にある資料は全てギルド職員の手作りなんですよ! でも冒険者になられたばかりの方々や腕っ節に自信がある方々の多くは資料室を利用されることが殆ど無いので徒労に終わることも多いのです。でも実際に使っている人がいて良かったです! 私達のあの努力は無駄じゃ無かったと思ったのは初めてですよー」
おお、真面目なイメージがあったニーナさんが前のめりになって、しかも言葉を挟む余地がないくらい喋ってる。
そういえば僕が資料室を利用した日は誰も入ってこなかったし、本当にあそこを利用する冒険者はすくないのだろう。
「それで、読んだ感じはどうでしたか? 感想をお聞かせください!」
「す、すごくわかりやすかったですよ。絵は大きく、そして細かい部分もしっかり書かれていましたし、説明も短く簡潔に纏められていたのですんなりと頭に入ってきました」
ニーナさんが勢いのままにそう聞いてきたので、思わず背をのけぞらせてそう答える。
するとニーナさんはうんうんと頷きながら嬉しそうな顔をした。
こだわりポイントを分かってくれたので嬉しいらしい。
なんでもあの資料の内、魔物の資料の殆どはニーナさんが作ったのだとか。
そりゃあ自分が作ったものを褒められると嬉しくなるよね。
それからしばらくニーナさんの苦労話に付き合った後、お金を受け取った。
そしてこれで話しは終わりだと思い、次に並んでいる人に受付を開けようとすると、ニーナさんから声がかかった。
「あ、カズトさん、少し待ってください」
「ん? まだ何かあるんですか?」
「はい。カズトさんの冒険者ランクに関してです」
「僕の冒険者ランクについてですか?」
たしか冒険者ランクは依頼をこなしてどれだけ冒険者ギルドに貢献したかによって上下するという話しだったはずだ。
だから初めての依頼を失敗した僕は、ランクが上がるなんて事は絶対にない。
だけど逆に今の僕は最低ランクであるHランクなので、これ以上ランクが下がることもない。
そのため僕のランクに関して話すことなんて何もないと思うんだけど……。
「そうです。カズトさんはFランク魔物であるアームホーンゴリラを複数倒すことができる実力を持っているようなので、冒険者ランクをHランクからFランクに昇格させることができます。いかがいたしますか?」
「え? 依頼を失敗したのに冒険者ランクを上げることができるんですか?」
「はい。魔物の数は多いですし、その被害は毎日どこかで起こっています。そのため実力がある冒険者をいつまでもくすぶらせている余裕なんてありませんからね。そんなことをしてしまうと魔物から人々を守ることはできませんし」
「なるほど。そんなことができたのですか」
「ええ。とは言ってもこのような昇格措置は特例です。それにこの特例では最高Eランクまでしか昇格できません。Dランクから上の冒険者ランクは貴族様方からの依頼を受けることも多くなりますので、ギルドへの貢献度とは別にその人の人となりも重視されますから」
うーむ。そうだったのか。
てっきり冒険者ランクはニーナさんが言う貢献度だけで判断されるものだと思っていた。
でもここで冒険者ランクを上げることを断る意味はないよね?
冒険者ランクが上がれば報酬の高い依頼を受けることができるし。
その代わりに危険度と違約金は上がるけど、そこは油断せずに安全マージンをしっかり取れば大丈夫だろう。
「わかりました。それでは昇格させてください」
「承知しました。それでは少しの間、ギルドカードを預からせていただけますか?」
ニーナさんにそう言われたので茶色のギルドカードを取り出して彼女に渡す。
するとニーナさんはそれを持って受付の奥に引っ込んでいった。
そして待つこと約五分。
ニーナさんが戻ってきた。
「これで昇格手続きは完了いたしました。これが新しいカズトさんのギルドカードです」
「ありがとうございます」
そう言って渡されたのは黄色のギルドカードだった。
前の地味な茶色のギルドカードと比べたら、なんだか少しだけ豪華になった気がする。
それにギルドカードの表にはわかりやすくFの文字が目立つようにデカデカと書かれている。
嬉しいな。
自然と口角が上がり、笑みがこぼれた。
そして思わぬランクアップを果たしてから次の日。
昨日の疲れもあって少し寝坊してしまった僕は、朝から冒険者ギルドに向かう。
すると冒険者ギルドの前には装飾がつけられた馬車が止まっていた。
「おお。本物だ」
馬も馬車も初めて見たから、軽く感動してしまった。
そんな馬と馬車を物珍しげにジロジロと見ながら冒険者ギルドの扉を開ける。
すると扉を開けた直後、中から大声が聞こえてきた。
「この方は第二王女、ダイアナ殿下である!」
「帰るか」
すぐさま扉を閉めて宿に帰った。
「そうですか。わかりました」
ニーナさんが机の下から取り出した手書きの略地図の中で、僕がアームホーンゴリラと遭遇した大体の場所を指し示す。
するとそこにニーナさんは赤いインクがついているペンで丸をつけ、その横に今日の日付を書き足した。
「報告ありがとうございます。このことは私の方からギルドマスターに報告し、後に調査隊の方々や全冒険者ギルド支部を統括しているグランドマスターに報告されることになります。よろしいですね?」
「ええ、構いませんよ」
調査隊の人やグランドマスターとやらにこの情報が伝わっても特に問題はないだろう。
それにここで断る理由もない。
僕は即座に首を縦に振った。
「ありがとうございます。それでは次に素材の買い取りの話しに移らせていただきますが……アームホーンゴリラの毛皮はありますか? あればこれらの素材と一緒に買い取りますが」
「すいません。毛皮の方は解体する時間がなかったので取ってこれませんでした。それに解体というものをしたことが無いので上手く剥ぎ取ることもできませんし」
「そうでしたか。時間がなかったのならば仕方ありませんね。しかし魔物の解体は覚えていたほうが良いですよ。稼ぎが良くなるのもそうですし、解体しなければ得られない素材なんてのもたくさんありますから」
「そうですね。わかりました」
これからしばらくの間は冒険者として生計をたてていくつもりなので、ニーナさんの言う通り解体はできた方が良いだろう。
それに解体の大雑把な手順は資料室で知った。
だから次から時間があるときは積極的に解体をして経験を稼ぐことにしよう。
するとニーナさんは素材の状態などを鑑定し始め、それが終わると口を開いた。
「どれも状態がいいですね。角の方は一本1000ノア、その中でも大きいこの角は1500ノアで。そして魔石の方は一個200ノアで、大きな魔石は300ノアになります。合計で6600ノアですね。どうぞ」
「ありがとうございます」
ニーナさんから6600ノアである大銀貨6枚と銀貨6枚が入った袋を受け取り、それをバッグの中に仕舞う。
そして次に僕は採取してきた薬草や毒草といった植物の素材をバッグから取り出す。
「ニーナさん、これらの素材の買い取りもお願いします」
「わかりました。少々お待ちください」
ニーナさんはそう言うと慣れた手つきで次から次へと手早く植物を鑑定していく。
そして五分ほど経った頃に鑑定を終えた。
「採取をしてから時間が経ってしまって劣化しているのは仕方がないですが、それを除けば完璧と言っても良いくらいですね」
お、褒められた。
数々の素材を鑑定してきたであろうニーナさんにそう言われると嬉しいな。
欲を言えば全て完璧だと言って欲しかったが、時間の問題についてはどうしようもないので諦める。
するとニーナさんが質問してきた。
「採取の経験があるのですか?」
「いえ、ありません。採取の仕方などは全てここの資料室で学びました」
「そうなんですか! 実はあの資料室にある資料は全てギルド職員の手作りなんですよ! でも冒険者になられたばかりの方々や腕っ節に自信がある方々の多くは資料室を利用されることが殆ど無いので徒労に終わることも多いのです。でも実際に使っている人がいて良かったです! 私達のあの努力は無駄じゃ無かったと思ったのは初めてですよー」
おお、真面目なイメージがあったニーナさんが前のめりになって、しかも言葉を挟む余地がないくらい喋ってる。
そういえば僕が資料室を利用した日は誰も入ってこなかったし、本当にあそこを利用する冒険者はすくないのだろう。
「それで、読んだ感じはどうでしたか? 感想をお聞かせください!」
「す、すごくわかりやすかったですよ。絵は大きく、そして細かい部分もしっかり書かれていましたし、説明も短く簡潔に纏められていたのですんなりと頭に入ってきました」
ニーナさんが勢いのままにそう聞いてきたので、思わず背をのけぞらせてそう答える。
するとニーナさんはうんうんと頷きながら嬉しそうな顔をした。
こだわりポイントを分かってくれたので嬉しいらしい。
なんでもあの資料の内、魔物の資料の殆どはニーナさんが作ったのだとか。
そりゃあ自分が作ったものを褒められると嬉しくなるよね。
それからしばらくニーナさんの苦労話に付き合った後、お金を受け取った。
そしてこれで話しは終わりだと思い、次に並んでいる人に受付を開けようとすると、ニーナさんから声がかかった。
「あ、カズトさん、少し待ってください」
「ん? まだ何かあるんですか?」
「はい。カズトさんの冒険者ランクに関してです」
「僕の冒険者ランクについてですか?」
たしか冒険者ランクは依頼をこなしてどれだけ冒険者ギルドに貢献したかによって上下するという話しだったはずだ。
だから初めての依頼を失敗した僕は、ランクが上がるなんて事は絶対にない。
だけど逆に今の僕は最低ランクであるHランクなので、これ以上ランクが下がることもない。
そのため僕のランクに関して話すことなんて何もないと思うんだけど……。
「そうです。カズトさんはFランク魔物であるアームホーンゴリラを複数倒すことができる実力を持っているようなので、冒険者ランクをHランクからFランクに昇格させることができます。いかがいたしますか?」
「え? 依頼を失敗したのに冒険者ランクを上げることができるんですか?」
「はい。魔物の数は多いですし、その被害は毎日どこかで起こっています。そのため実力がある冒険者をいつまでもくすぶらせている余裕なんてありませんからね。そんなことをしてしまうと魔物から人々を守ることはできませんし」
「なるほど。そんなことができたのですか」
「ええ。とは言ってもこのような昇格措置は特例です。それにこの特例では最高Eランクまでしか昇格できません。Dランクから上の冒険者ランクは貴族様方からの依頼を受けることも多くなりますので、ギルドへの貢献度とは別にその人の人となりも重視されますから」
うーむ。そうだったのか。
てっきり冒険者ランクはニーナさんが言う貢献度だけで判断されるものだと思っていた。
でもここで冒険者ランクを上げることを断る意味はないよね?
冒険者ランクが上がれば報酬の高い依頼を受けることができるし。
その代わりに危険度と違約金は上がるけど、そこは油断せずに安全マージンをしっかり取れば大丈夫だろう。
「わかりました。それでは昇格させてください」
「承知しました。それでは少しの間、ギルドカードを預からせていただけますか?」
ニーナさんにそう言われたので茶色のギルドカードを取り出して彼女に渡す。
するとニーナさんはそれを持って受付の奥に引っ込んでいった。
そして待つこと約五分。
ニーナさんが戻ってきた。
「これで昇格手続きは完了いたしました。これが新しいカズトさんのギルドカードです」
「ありがとうございます」
そう言って渡されたのは黄色のギルドカードだった。
前の地味な茶色のギルドカードと比べたら、なんだか少しだけ豪華になった気がする。
それにギルドカードの表にはわかりやすくFの文字が目立つようにデカデカと書かれている。
嬉しいな。
自然と口角が上がり、笑みがこぼれた。
そして思わぬランクアップを果たしてから次の日。
昨日の疲れもあって少し寝坊してしまった僕は、朝から冒険者ギルドに向かう。
すると冒険者ギルドの前には装飾がつけられた馬車が止まっていた。
「おお。本物だ」
馬も馬車も初めて見たから、軽く感動してしまった。
そんな馬と馬車を物珍しげにジロジロと見ながら冒険者ギルドの扉を開ける。
すると扉を開けた直後、中から大声が聞こえてきた。
「この方は第二王女、ダイアナ殿下である!」
「帰るか」
すぐさま扉を閉めて宿に帰った。
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