魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります
11話 失敗報告
「えっと、成功ではなくて失敗ですか?」
「はい」
「たしかフォレストウルフの討伐依頼でしたよね?」
「そうですよ」
ニーナさんは困惑した様子を見せながらそう言った。
おっと、笑顔のまま失敗したなんていったら、そりゃあ困惑するか。
失敗した経緯を軽く説明する。
「実はーー」
「おいおい! 一昨日俺達相手に一人ずつ相手になるなんて啖呵切ったやつが、まさかフォレストウルフの討伐依頼ごときを失敗したのかよ!」
「はっ! 笑えるぜ! やっぱり所詮は魔法士だな! ゾンゲに勝ったのも小細工をしてたにちげぇねぇ!」
ニーナさんに説明しようと口を開いた途端、酒場の方から一際大きな声でそんな言葉が聞こえてきた。
そちらに振り向かなくても誰が言っているのか分かる。
ゾンゲと一緒に酒を飲んでいる冒険者達だ。
だけどそれは無視する。
いくらあいつらがピーピー騒いだところで僕が弱くなるわけではあるまい。
あ、ニーナさんの隣の席に座っているベラも冒険者の相手をしながら嘲るような表情をこっちに向けてきている。
どうせこいつもしょうもないことを考えているのだろう。
無視だ無視。
それよりニーナさんに説明する機会がなくなってしまったが……まぁ、いいか。
するとニーナさんも僕と同じように周りの騒ぎを無視して口を開いた。
「フォレストウルフなら初心者でも狩れる魔物ですので、カズトさんなら問題なく依頼を遂行できると思いましたが……何かあったんですか?」
心配してくれているのだろうか?
今の周りの環境がそれほどよくないからニーナさんの優しさに心が救われる。
それにしてもまさか彼女の方から失敗した理由を聞かれるなんて思わなかった。
隠すことでもないので正直に説明する。
「実はフォレストウルフを探している途中にアームホーンゴリラに遭遇しまして。そいつを倒すのに時間がかかって、山を探索する時間がなかったんですよ」
「アームホーンゴリラですか!?」
「はい、そうなんです」
「おいおい! 嘘も大概にしやがれ! アームホーンゴリラは俺達みたいなFランク冒険者が倒す魔物だぜ!」
「魔法士で、しかも小細工でしか勝てねぇHランク冒険者のお前が勝てるはずもねぇ! どうせ遭遇してすぐに逃げてきたんだろ!」
「ま、例えまぐれで倒せたとしても一匹狩るのに時間がかかりすぎだな! どのみち雑魚なのは変わりねぇぜ!」
『ギャハハハハ!』
僕がアームホーンゴリラと遭遇したと話すと、ニーナさんは酷く驚いた顔をした。
そして周りの雑音を無視して話しを続ける。
「それは不運でしたね。アームホーンゴリラは同じFランクの魔物の中でも一番力が強い魔物ですから。ですがどのような理由であれ規則ですので、フォレストウルフ討伐依頼の違約金である大銀貨三枚、3000ノアを支払ってもらいます」
「わかりました」
「ギャハハハハ! 見ろよ! あいつ、フォレストウルフごときの討伐に失敗して違約金を払ってやがるぜ! だせぇ!」
「そう言ってやるなよ。やつは所詮、小細工でしか勝てない雑魚なんだからな!」
冒険者ギルドの依頼は一部を除き、ランクなどの条件を満たせばどの冒険者でもそれを受注することができる。
だけどその依頼に失敗した場合、今回のように違約金を支払わなければならない規則があるのだ。
それはここに冒険者登録をしに来た時に説明された事なので、特に驚くこともなく大銀貨三枚を支払った。
「はい。たしかに3000ノアをいただきました。でも依頼を失敗したとはいえ、ここにいるということはアームホーンゴリラを討伐してきたということですか?」
「はい。なんとか無事に討伐することができましたよ」
「それはよかったです。では素材などがあれば買取をいたしますが、いかがなさいますか?」
「お願いします」
バッグの中から先ほど手に入れたアームホーンゴリラの角五本と魔石を五個取り出してカウンターの上に並べる。
「え? えっと、カズトさん? アームホーンゴリラの角と魔石が五個ずつあるのですが、これって……」
「あ、はい。五匹出てきたので五匹とも倒してきました」
「ええええええええ!?」
僕がアームホーンゴリラの素材を取り出りだすと、それを見たニーナさんは両目をいっぱいに見開いて先ほどよりも驚いた。
あれ、何匹と戦ったか言ってなかったっけ?
ま、いっか。
そんなことを思っていると、さっきまで下品な笑い声を上げていた連中の声が途絶えた。
大方僕がアームホーンゴリラを五匹も狩ってきたことを予想しておらず、ニーナさんと同じように驚いているのだろう。
そいつらの反応が少し気になりチラリとそちらに視線を向けると、奴らは怯え、慌てた様子でギルドから出て行った。
賑やかな連中だなぁ。
いっそイライラを通り越して面白いとすら思ってしまう。
ベラはベラでこちらに視線を一切向けずに業務を淡々とこなしている。
するとニーナさんはカウンターに並べたアームホーンゴリラの角と魔石の内、一際でかいそれらを手に取った。
「か、カズトさん? アームホーンゴリラを五匹も倒してきたことにも驚きですけれど、その中でもこの角と魔石が異常に大きいのですがこれって……」
「あーそれですか。実は戦ったアームホーンゴリラ達の中に一匹だけ巨大な個体がいたんですよ。それらはそいつの角と魔石ですね」
「巨大な個体……」
するとニーナさんは途端に手に持っている角と魔石を見てなにやら考え込み始めた。
たしかに普通よりも巨大な個体が現れれば脅威となるため、冒険者ギルドとしてもその情報は捨て置けないだろう。
だけどそれはその魔物が討伐されていない場合の話しだ。
今回のアームホーンゴリラに関しては既に僕が倒しているから、特に問題はないだろう。
それに人間だって身長の大小にしろ、目の色にしろ、個体差というものはある。
それは魔物だって同じだろうし、やはりそこまで考え込む理由が見当たらない。
そんな考えがあったため、ニーナさんの考え込む様子を見て少々疑問を覚えた僕は、どうしたのか聞いてみる。
「どうかされたんですか?」
「……実は今年に入ってから、たった今カズトさんが報告されたような普通よりも巨大な魔物の発見報告が増えているんです。このアームホーンゴリラの例で十七件目ですね」
「十七件ですか」
たしかこの世界の一年は360日で、1ヶ月は30日だ。
そして今は3月だから、大体一月で5匹か6匹発見されているわけか。
それが多いか少ないかはわからないが、ニーナさんの険しい表情を見るに、おそらく多いということなんだろう。
「しかしこの件については王都から調査隊が派遣されることになっているので、カズトさんは気になさらないでください。調査の結果はギルドで発表することになりますので」
「わかりました」
ま、こういう不可解なことは僕がどうこうできるとは思えないから、調査隊の人達に任せるとしよう。
ちなみに魔物の調査とはどのようなことを調査するのか聞いてみると、色々あると言われた。
だけど今回の調査はこれらの魔物がどこから来たのかを調べるとのこと。
なんでもダンジョンから出てきた可能性が高いためらしい。
するとニーナさんは机の下からこの街の周りの簡単な手書きの略地図を取り出した。
「では、カズトさん。その巨大なアームホーンゴリラと遭遇した場所を教えていただけますか?」
「はい」
「たしかフォレストウルフの討伐依頼でしたよね?」
「そうですよ」
ニーナさんは困惑した様子を見せながらそう言った。
おっと、笑顔のまま失敗したなんていったら、そりゃあ困惑するか。
失敗した経緯を軽く説明する。
「実はーー」
「おいおい! 一昨日俺達相手に一人ずつ相手になるなんて啖呵切ったやつが、まさかフォレストウルフの討伐依頼ごときを失敗したのかよ!」
「はっ! 笑えるぜ! やっぱり所詮は魔法士だな! ゾンゲに勝ったのも小細工をしてたにちげぇねぇ!」
ニーナさんに説明しようと口を開いた途端、酒場の方から一際大きな声でそんな言葉が聞こえてきた。
そちらに振り向かなくても誰が言っているのか分かる。
ゾンゲと一緒に酒を飲んでいる冒険者達だ。
だけどそれは無視する。
いくらあいつらがピーピー騒いだところで僕が弱くなるわけではあるまい。
あ、ニーナさんの隣の席に座っているベラも冒険者の相手をしながら嘲るような表情をこっちに向けてきている。
どうせこいつもしょうもないことを考えているのだろう。
無視だ無視。
それよりニーナさんに説明する機会がなくなってしまったが……まぁ、いいか。
するとニーナさんも僕と同じように周りの騒ぎを無視して口を開いた。
「フォレストウルフなら初心者でも狩れる魔物ですので、カズトさんなら問題なく依頼を遂行できると思いましたが……何かあったんですか?」
心配してくれているのだろうか?
今の周りの環境がそれほどよくないからニーナさんの優しさに心が救われる。
それにしてもまさか彼女の方から失敗した理由を聞かれるなんて思わなかった。
隠すことでもないので正直に説明する。
「実はフォレストウルフを探している途中にアームホーンゴリラに遭遇しまして。そいつを倒すのに時間がかかって、山を探索する時間がなかったんですよ」
「アームホーンゴリラですか!?」
「はい、そうなんです」
「おいおい! 嘘も大概にしやがれ! アームホーンゴリラは俺達みたいなFランク冒険者が倒す魔物だぜ!」
「魔法士で、しかも小細工でしか勝てねぇHランク冒険者のお前が勝てるはずもねぇ! どうせ遭遇してすぐに逃げてきたんだろ!」
「ま、例えまぐれで倒せたとしても一匹狩るのに時間がかかりすぎだな! どのみち雑魚なのは変わりねぇぜ!」
『ギャハハハハ!』
僕がアームホーンゴリラと遭遇したと話すと、ニーナさんは酷く驚いた顔をした。
そして周りの雑音を無視して話しを続ける。
「それは不運でしたね。アームホーンゴリラは同じFランクの魔物の中でも一番力が強い魔物ですから。ですがどのような理由であれ規則ですので、フォレストウルフ討伐依頼の違約金である大銀貨三枚、3000ノアを支払ってもらいます」
「わかりました」
「ギャハハハハ! 見ろよ! あいつ、フォレストウルフごときの討伐に失敗して違約金を払ってやがるぜ! だせぇ!」
「そう言ってやるなよ。やつは所詮、小細工でしか勝てない雑魚なんだからな!」
冒険者ギルドの依頼は一部を除き、ランクなどの条件を満たせばどの冒険者でもそれを受注することができる。
だけどその依頼に失敗した場合、今回のように違約金を支払わなければならない規則があるのだ。
それはここに冒険者登録をしに来た時に説明された事なので、特に驚くこともなく大銀貨三枚を支払った。
「はい。たしかに3000ノアをいただきました。でも依頼を失敗したとはいえ、ここにいるということはアームホーンゴリラを討伐してきたということですか?」
「はい。なんとか無事に討伐することができましたよ」
「それはよかったです。では素材などがあれば買取をいたしますが、いかがなさいますか?」
「お願いします」
バッグの中から先ほど手に入れたアームホーンゴリラの角五本と魔石を五個取り出してカウンターの上に並べる。
「え? えっと、カズトさん? アームホーンゴリラの角と魔石が五個ずつあるのですが、これって……」
「あ、はい。五匹出てきたので五匹とも倒してきました」
「ええええええええ!?」
僕がアームホーンゴリラの素材を取り出りだすと、それを見たニーナさんは両目をいっぱいに見開いて先ほどよりも驚いた。
あれ、何匹と戦ったか言ってなかったっけ?
ま、いっか。
そんなことを思っていると、さっきまで下品な笑い声を上げていた連中の声が途絶えた。
大方僕がアームホーンゴリラを五匹も狩ってきたことを予想しておらず、ニーナさんと同じように驚いているのだろう。
そいつらの反応が少し気になりチラリとそちらに視線を向けると、奴らは怯え、慌てた様子でギルドから出て行った。
賑やかな連中だなぁ。
いっそイライラを通り越して面白いとすら思ってしまう。
ベラはベラでこちらに視線を一切向けずに業務を淡々とこなしている。
するとニーナさんはカウンターに並べたアームホーンゴリラの角と魔石の内、一際でかいそれらを手に取った。
「か、カズトさん? アームホーンゴリラを五匹も倒してきたことにも驚きですけれど、その中でもこの角と魔石が異常に大きいのですがこれって……」
「あーそれですか。実は戦ったアームホーンゴリラ達の中に一匹だけ巨大な個体がいたんですよ。それらはそいつの角と魔石ですね」
「巨大な個体……」
するとニーナさんは途端に手に持っている角と魔石を見てなにやら考え込み始めた。
たしかに普通よりも巨大な個体が現れれば脅威となるため、冒険者ギルドとしてもその情報は捨て置けないだろう。
だけどそれはその魔物が討伐されていない場合の話しだ。
今回のアームホーンゴリラに関しては既に僕が倒しているから、特に問題はないだろう。
それに人間だって身長の大小にしろ、目の色にしろ、個体差というものはある。
それは魔物だって同じだろうし、やはりそこまで考え込む理由が見当たらない。
そんな考えがあったため、ニーナさんの考え込む様子を見て少々疑問を覚えた僕は、どうしたのか聞いてみる。
「どうかされたんですか?」
「……実は今年に入ってから、たった今カズトさんが報告されたような普通よりも巨大な魔物の発見報告が増えているんです。このアームホーンゴリラの例で十七件目ですね」
「十七件ですか」
たしかこの世界の一年は360日で、1ヶ月は30日だ。
そして今は3月だから、大体一月で5匹か6匹発見されているわけか。
それが多いか少ないかはわからないが、ニーナさんの険しい表情を見るに、おそらく多いということなんだろう。
「しかしこの件については王都から調査隊が派遣されることになっているので、カズトさんは気になさらないでください。調査の結果はギルドで発表することになりますので」
「わかりました」
ま、こういう不可解なことは僕がどうこうできるとは思えないから、調査隊の人達に任せるとしよう。
ちなみに魔物の調査とはどのようなことを調査するのか聞いてみると、色々あると言われた。
だけど今回の調査はこれらの魔物がどこから来たのかを調べるとのこと。
なんでもダンジョンから出てきた可能性が高いためらしい。
するとニーナさんは机の下からこの街の周りの簡単な手書きの略地図を取り出した。
「では、カズトさん。その巨大なアームホーンゴリラと遭遇した場所を教えていただけますか?」
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