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魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

10話 アームホーンゴリラ(4)

 右足だけを地中に沈めた今の状態では、左足を支えにして引き抜かれかねない。
 なので左足も同様に地中に沈める。




 パチン!




「ブ、ブモォ!?」




 顔は見えないが、その声からアームホーンゴリラは焦っているのだろう。
 だがそれだけではこちらの攻撃は終わらない。




 パチン!




「ブモ!?」




 今度は地中に埋まったアームホーンゴリラの足の周りの泥から水分を抜き、動けないようにガッチリと固める。
 すると今度はアームホーンゴリラは地面に両手をついて、両足を地面から無理やり抜こうとし始めた。
 そんなこと、させるわけがない。




 パチン! パチン!




「ブモ、ブモォ!?」




 両手もまた両足と同じように地中に沈め、即座に固める。
 これで完全にアームホーンゴリラの身動きを封じることができた。
 こうなれば、ほとんど勝ちは確定したようなものだ。
 穴から出てアームホーンゴリラの様子を見上げる。
 アームホーンゴリラは見事に両肘両膝まで地中に埋まっている。
 体を揺すって必死にもがいているも、一向に地面から解放されそうにない。
 これならしばらくの間は一方的に攻撃できるな。
 それに腕を封じているからドラミングで仲間を呼ばれる心配もない。




(待て……ドラミング? 仲間?)




「やば! 忘れてた!」




 急いで視線を動かし、一番はじめに遭遇したアームホーンゴリラを探す。
 やつには足を負傷させたが、仲間を呼ばれた後はそのまま放置していた。
 そのまま今まで存在を忘れていたのだが……。




「なんだ、死んでたのか」




 そのアームホーンゴリラを見つけたが、そいつは地面に倒れてピクリとも動かない。
 未だに足の傷口から血が流れ出ていることから、どうやら氷の剣は相当深く刺さっていたみたいだ。
 そのことに安心し、目の前の巨大なアームホーンゴリラを再び見上げる。




「さて、こいつには実験体になってもらうとするか」




 それからは戦いとは呼べない一方的な虐殺が始まった。
 魔法が炸裂する度にアームホーンゴリラは叫び声をあげ、その場からなんとか逃げようともがいていた。
 その様子を見てさすがに心が痛んだが、これは僕にとっても必要な事なのだ。
 なにせこれからしばらくの間は冒険者として生活するつもりなのだから、魔物と戦うのは必然だ。
 その時に攻撃手段は多い方がいいし、今の攻撃よりもっと威力の高い攻撃をたくさん編み出したい。
 この世界で安全安心に生きていくには強くなる必要があるのだ。
 それに今僕が制御できるギリギリの魔力量もしりたい。
 いざというときに制御できる以上の魔力を使ってしまい、魔法を暴発させてしまったら取り返しのつかないことになるかもしれないからだ。
 だから僕は心を鬼にして、動けないアームホーンゴリラに次々と魔法を放った。












 ズズゥン……。とアームホーンゴリラの巨体が地面に倒れ伏す。
 たった今アームホーンゴリラが事切れたところだ。
 だけど初めてスライムと戦ったときのように、最後の最後で思わぬ攻撃をしてくるかもしれない。
 なので油断せず、少しの間警戒する。




「……強かったな」




 アームホーンゴリラが本当に死んだことを確認して肩の力を抜き、思わずポツリと呟く。
 実際に戦って、こいつらからまともに攻撃を受けてなんていない。
 だけどアームホーンゴリラ達のパワーは嫌と言うほど感じたし、この巨大なアームホーンゴリラに関してはタフさが半端なかった。
 まあ、そのおかげで十分満足がいくほど実験できたのだが。




「これが、Fランク冒険者が狩る魔物か……」




 アームホーンゴリラは主にFランク冒険者が狩る魔物である。
 だけど冒険者ギルドのランクではSランクまであるらしい。
 Sランク……いったいどれだけの化け物だというのか。
 そんな化け物みたいな人間がこの世界では生まれるのか?
 ……いや、そうじゃないな。
 たしか神様はこの世界の人間は強い魔物を倒せば倒すほど、身体能力がどんどん上がり強くなると言っていたはずだ。
 ということはSランク冒険者は数多の強力な魔物を屠ってきた冒険者ということか。
 なんという壮絶な人生なんだ。




「って、こうやって考えに耽っている場合じゃないな」




 回収できる素材を早く回収してこの場から離れないと。
 血のにおいに釣られてアームホーンゴリラよりも強力な魔物が来てしまったら死んでしまう。
 たしかアームホーンゴリラの素材で売れるのは皮と魔石、それから角だったはずだ。
 解体なんてやったことがないから時間がかかりそうな皮と魔石は諦めて、角だけ回収することにしよう。
 あ、でも魔石は魔物の心臓の中にあるんだっけ?
 それなら心臓の位置は分かるから、魔石も回収することにしよう。
 ちなみに解体ナイフは昨日昼食を屋台で食べるついでに買っておいたのでぬかりはない。












 それからアームホーンゴリラ五匹分の角と魔石を回収した僕は、死体をそのままにして山の麓へ向かう。
 本来なら倒した魔物の死体はゾンビやスケルトンといったアンデットの魔物にならないように地面に埋めたりするらしい。
 だけど穴を掘っていたら日暮れまでに街に帰れそうになかったし、まだ依頼であるフォレストウルフの討伐が残っているため、その作業をするのは止めた。
 もしあの死体達がアンデット魔物となって他の冒険者を襲ってしまったら申し訳ない。
 でも、準備もしないで街の外で夜を過ごすなんて危険きわまりないことはしたくないので許してほしい。
 そんなわけで山の麓に向かいながらフォレストウルフを探す。
 ついでに売れる薬草や毒草などの素材も採取していく。












 空が赤くなり、太陽が沈み始めた頃。
 僕は街に戻り、冒険者ギルドにやってきた。
 中は冒険者達で溢れかえっており、特に受付に並ぶ冒険者達と酒場にいる冒険者達の人口密度が凄い。
 受付に並んでいる冒険者達は皆依頼報告をするためだろう。
 そして酒場にいるのは打ち上げみたいなものかな?
 その中に一昨日戦ったゾンゲとギャラリーにいた他数人の冒険者の姿もある。
 向こうもこちらに気づいたみたいで強く睨んできた。
 僕のせいもあるけど、ゾンゲはお金なかったと思うんだけど。
 いや、よく見たら防具がグレードの低い防具に変わってる。
 もしかしたら前着けていた防具を売り払ったのだろうか。
 まぁ、そんなことは無視だ無視。
 僕も依頼報告のためにニーナさんの受付の列に並ぶ。
 そしてニーナさんが座る受付の列を並んでいると、やがて僕の番が来た。




「カズトさん、お疲れさまです。初めての依頼はどうでした?」




 僕が受付の前に立つと、ニーナさんは微笑みながらそう声をかけてくれた。
 どうやら彼女は僕が初めての依頼を受けたことを覚えていてくれたようだ。
 今このギルドの中にいる冒険者だけでもたくさんいるのにと関わらず、僕のことを覚えているとはさすが受付嬢だ。
 内心驚きながらも、覚えていてくれたことに若干嬉しさを感じてしまう。
 だからだろう。
 自然と頬が緩んで笑顔になってしまう。
 僕はそんなほっこりとした気持ちを胸に抱きつつ、ニーナさんの質問に笑顔で応えた。




「失敗しました」

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