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魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

4話 初めての対人戦

 互いの距離は二十メートル程離れている。
 これだけの距離があるなら十分だ。
 いつでも魔法を発動できるように頭の中でイメージを組み立てる。
 こちらの準備は万端だ。
 そしてそれは向こうも同じようだ。
 徐々にギャラリーの声が小さくなっていく。
 そしてこの場にいる全員が黙った瞬間、拳を体の前に構えていたゾンゲがこちらに向かって走り出す。
 だが二十メートルもの間はそう簡単に埋められるものではない。




「うらあ!」




 距離を詰めてきたゾンゲが拳を振り上げる。
 その速さは見事なもので、二、三秒あればこの距離を食い尽くすことになるだろう。
 だけどそれでもーー。




「遅い」




 パチン!




 指を鳴らすのに一秒も必要ない。
 それと同時に魔法を発動する。
 発動した魔法はただの火を生み出す魔法だ。
 だがその狙いはゾンゲの顔前。
 顔そのものに狙いをつけても良かったが、さすがにそれをすればゾンゲを殺しかねないから止めた。
 だけどゾンゲがこちらに走り寄ってきている最中に顔の前ギリギリに火を発生させたものだから、彼は自分から火に顔を突っ込んだ。




「うがあああああ! 熱い! 熱いいいいいいい!」




 ゾンゲは火に突っ込んだと理解したのか反射的にすぐさま後ろに飛び退く。
 今の機敏な動きを見れば彼がそれなりに戦闘経験があるのだと素人の僕でも分かったが、彼は顔を両手で抑えてパニックになっている。
 僕はゾンゲの前に火を発生させただけだ。
 それに彼は自ら突っ込んだのだ。
 自業自得だよね。うん。
 そんな彼の様子を見ながらもう一度指を鳴らす。




 パチン!




 するとゾンゲの周囲を囲むように数本の火柱が立ち上がる。
 これは火を生み出す魔法のイメージを少し変えただけのものなので、それほど難しくない。
 ……とはいってもぶっつけ本番だったので成功して良かった。
 普通なら戦っている最中にぶっつけ本番で新しい魔法に挑戦するなんてことはしたくないのだが、今はゾンゲがパニックになっているため余裕をもって魔法を発動させることができた。




「うわ! うわあああああ!」




 そしてゾンゲは突如発生した火柱を見て、半ば発狂している。
 まあ、火に顔を突っ込んだ直後に火に囲まれたら誰でも発狂するか。
 だがそんなことは気にしない。
 今は自由に動けない、そして攻撃しても構わない人間が目の前にいることが重要だ。
 そう、今なら対人魔法をあみ出せるチャンスなのだ。
 どのような魔法が良いかを考える。
 ……うん、これにしよう。
 これならイメージしやすいし、詠唱なしでも使えるだろう。


 適当な範囲内の空気を圧縮させる。
 こうすることで体積が減少したため、ボイルシャルルの法則により内部圧力は一気に上昇する。
 そして圧縮した空気を一方向にだけ解放させて指向性を持たせてやればーー。




 パチン!




「がは!」




 手を使わずに殴ったような衝撃を与えることが可能になる。
 それをゾンゲの腹に食らわせてやった。
 思った通り詠唱なしでも使えたな。
 だけど威力が弱い。
 理想は一撃で意識を刈り取れる威力がいい。
 そしたら盗賊に襲われても殺さなくて済む。
 進んで人殺しなんてしたくないならね。
 でも、込めた魔力が少ないのか、それとも圧縮が甘かったのか、ゾンゲはまだ意識を保っている。
 魔力をもっと込めて威力を上げるか?
 いや、魔力をこれ以上込めれば制御しきれずに暴走させてしまう可能性がある。
 魔力を暴走させてしまったら爆発するらしいから、できれば魔力を今より多く込めるのは避けたい。
 それならもっと広範囲の空気を圧縮して威力を上げるのがベストだろう。
 かといって今できる最大範囲の空気を圧縮した場合、もしかしたらゾンゲを死なせてしまうかもしれない。
 なにせ火を生み出す魔法だけでも、魔物を殺せる威力を出せるのだから。
 なら少しずつ圧縮範囲を広げていって、ゾンゲの反応を見てみよう。




 パチン!




「ぐはぁ!」




 パチン!




「がふぅ!」




 パチン!




「ごばぁ!」




 ……なかなか意識が刈り取れないな。
 もうこうなったらいっそ最大範囲を圧縮して……いやいや、それはさすがに危険だろう。
 どうしたものか……。




「お、おい……あいつ、さっきから無詠唱で魔法を使っていないか?」




「それだけじゃねぇ。あれだけポンポン魔法を放っておきながら、疲れた表情の一つも見せてねえ」




「しかもあの威力だ。あの魔法士、普通じゃないぞ……」




「あのゾンゲがああも簡単に手玉にとられるなんて……」




 ギャラリーがうるさいな。
 こっちはどうすれば一撃で意識を刈り取れるかを考えてるのに集中できないじゃないか。
 そうして引き続きパチン! パチン! と魔法を放ちながら考えを巡らせていると、ゾンゲが地面にうずくまりながら何やら呻きだした。




「……う……だ」




「え?」




 あまりにも小さな声なので聞こえない。
 というかギャラリー、もう少し静かにして。
 そんな思いと共にそちらを一睨みすると、見事に皆黙ってくれた。




「えーっと、ゾンゲだっけ? 今何か言った?」




「こ……う……さん……だ」




「それはつまり君の全財産は僕の物になるけど、それでいいんだね?」




 僕がそう確認すると、ゾンゲは微かに首を縦に動かした。
 火柱を消してやる。
 するとゾンゲはジャラジャラと硬貨同士が当たる音がする麻袋を取り出して、こちらに放り投げた。
 それを拾って中身を確認すると、予想通り硬貨が入っていた。
 ざっと見た感じ金貨は無く、大銀貨と銀貨、それに大銅貨が数枚あるだけ。
 それを僕は遠慮なく自分のバッグに放り込む。




「で、他には?」




 僕がそういうと、ゾンゲは訳がわからないとばかりにこちらを見返してきた。
 はぁ、こいつは本当にそんな覚悟でこの勝負を受けたのか。
 仕方ないから全財産について懇切丁寧に教えることにする。




「全財産ってのは、何もお金だけじゃないんだよ。金銭的に価値のあるもの全てを指すんだ。例えば君が使っている武器や防具も全て財産に入る。ああ、でも服と防具はいらないから、それだけは見逃すよ」




 こんなむさ苦しい男の服と防具なんていらない。
 汗まみれで汚れてそうだし。
 僕がそんな思いとともにそう言うと、ゾンゲはみるみるうちに顔を青くさせ始めた。
 そして少しは回復したのか、立ち上がり文句を言ってくる。




「ふ、ふざけるな! 武器を取られたら俺はこれからどうやって仕事をすればいいって言うんだ!」




「何言ってんの? 冒険者ギルドは武器や防具を買えない人の為に、格安で貸し出ししてくれる制度があるよね? それを利用して貸してもらえばいいじゃん」




 そう。冒険者ギルドには誰でも登録できるからこそ、お金のない人のために貸し出し制度がある。
 それらの道具は総じて武器屋から格安で買った中古の物らしいが、使えないことはないらしい。
 そしてその制度を利用できるのは初心者だけに当てはまらず、普通の冒険者にも当てはまる。
 極端な例を言うと、盗賊に全てを奪われ、そして見逃された冒険者などだ。
 だからゾンゲもその制度を利用すれば問題ない。
 それを理解したのか、ゾンゲはくそ! と言って剣の柄を持ちーーそれを抜いて切りかかってきた。

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