魔法士は不遇らしい。それでも生活のために成り上がります

サァモン

2話 初戦闘

 最初に生み出した火はろうそくの火と同じくらいの大きさだった。
 だけど火に関する異なるイメージを二つ足しただけで、僕の顔と同じくらいの火を生み出すことに成功した。
 当然消費した魔力は変わらない。
 神様の言う通り、いかに多角的なイメージが大切かが分かるな。


 さて、火を生み出す魔法は成功したから次はーー。




「ギュッ!」




「んお!?」




 次はどんな魔法を練習しようかと考えていると、突然そんな音と共に水色の丸い物体が飛んできた。
 それを思わずドッチボールの要領で避ける。
 そしてその物体に目を凝らしてみれば、それは見たことがない物体だった。
 いや、不気味に蠢いているから、生き物か?
 こんな生物見たことがない……ってことは、これが魔物か。
 でも神様は魔物は全て赤い眼を持っていると言っていたが……。
 そう冷静に分析していると、その魔物がこちらを向いた。
 そこには真っ赤に染まった単眼が。
 間違いない。こいつは魔物だ。
 どうする? いきなり戦闘は厳しいから逃げるか?
 するとまたもや魔物が飛んできた。




「ギュイ!」




「よっと」




 これまたドッチボールの要領で躱す。
 だけど今の攻防で分かった。
 こいつは僕より速い。
 ただでさえ普通の人が投げたボール程度の速さで飛んでくるのだ。
 逃げてもその速さで追いかけてこられたら、必ず追いつかれる。
 でもどうやって倒すかだけど……今の僕には魔法しかないな。
 それも火を生み出す魔法しかない。
 新しい魔法をぶっつけ本番でやってみるってのもあるけど、今のように襲われている局面でそんなことをする度胸はない。




「ギュゥ!」




 再び飛んできたので無言で躱す。
 よしよし。魔物の速さに眼が追いついてきたおかげで余裕を持って避けられるようになったぞ。
 そして魔物が着地したと同時に、その地点に向かって魔法を放つ!




 パチン!




「ギュアアア!?」




「おおう。予想以上に効いてる感じがする」




 狙い通りの場所に先程と同じ大きさの火が生成され、魔物を包み込んだ。まさしく火達磨状態だ。
 その火の中で魔物は叫びながらグネグネと蠢いている。
 声と動きの感じから魔法が効いてるとみて間違い無さそうだ。
 これは僕の勝ちだな。
 そう思ってフッと全身の力を抜き気楽に構えていると、魔物が動きを止めた。
 お、終わったかな?
 その瞬間ーー。




「ギュア!」




「なっ!? がふっ」




 動きを止めた筈の魔物が、先程までとは比べ物にならないほど勢いよく飛んできた。
 完全に油断していた僕は、その攻撃に対応しきれず胸に食らってしまう。
 その衝撃は見た目に似合わず重く、肺の中の空気が強制的に一気に外へと吐き出された。




「ーー!?」




 それだけでなく、火達磨になっていた魔物の攻撃を胸に受けたため、服が燃え肌を焼く。
 攻撃の衝撃で地面に倒れ込んだ僕はすぐさま胸の上に乗っている魔物をどかし、その場をゴロゴロと転がる。
 そうしてなんとか火を消化することに成功した。




「げほっ! げほっ!」




 そして吐き出された空気を吸い込もうとしたらむせる。
 だがその瞬間、魔物の姿が視界に入った。
 慌てて立ち上がり、警戒する。
 しかし魔物は相変わらず火達磨状態になったまま、ピクリとも動かない。




「……死んでるのか?」




 先程のように攻撃されてはたまらないので、やや離れたところから地面に落ちている石を投げる。
 スカッ。スカッ。ポス。
 あ、やっと当たった。
 でも魔物はピクリとも動かない。
 やはり死んだのだろうか。
 そう思っていると、魔物を燃やしていた火が鎮火した。
 それでも動かないので、やはり死んでいるようだ。
 近づいて魔物の死体をよく見てみる。




「なんだこれ?」




 魔物の死体は先程までの水色の球体だった姿からは想像できないほどぺちゃんこになっており、地面には小さな水溜まりができていた。
 体内の全ての水分が抜け出たのかな?
 それにしても水分が多すぎるような……。
 いや、ここは地球じゃないんだから、そんなこと気にしても無駄か。
 ともかくこの水分が火を鎮火させたのだろう。
 それはともかく、たしか魔物の体内には魔石とかいう物があるって神様から聞いたんだけど……。




「お、あったあった。これだな」




 黒色の球体。
 神様に教えて貰った通りの見た目をしている。
 これを冒険者ギルドに持って行くと売れるらしい。
 ちなみに神様から聞いた話しによると、冒険者ギルドとは冒険者という職に着いている人に仕事を斡旋してくれる場所らしい。
 そして冒険者になるには冒険者ギルドのメンバーになればいいだけとのこと。
 当然規則は存在するが、僕のような人間にはなんともまあありがたい組織である。
 そうして魔石を採集した僕は、それをバッグに放り込む。
 そして草原に燃え移った火を魔法で水をだして消化して、再び街を目指す。
 だけど今度は全力で走る。
 もう街はすぐそこまでの距離だし、なにより攻撃手段が一つしかない今の状態でこれ以上魔物と戦いたくない。
 やるならもっと攻撃手段と防御手段を増やして、しっかりと準備してからだ。












 そしてようやく城門の前に到着した。
 早速街に入りたいが、残念ながら門前審査を行っているようだ。
 犯罪者を街の中に入れないようにするためだろう。
 まずはそれを受けなければ。
 門前審査を行っている場所にいる門兵に話しかける。
 すると門兵は愛想良く応対してくれた。




「すいません。街に入りたいんですけど」




「ようこそ、マールの街へ。それならこちらの石盤に手をかざしてください」




「これにですか? 分かりました」




 門兵が手をかざすように言ってきたのは魔法陣が刻まれた黒い石板。
 何故こんな物に手をかざさなければならないのかは分からないが、とにかく言われた通りにする。
 するとその瞬間、石盤に刻まれている魔法陣が白く輝いた。
 おお、なんだこれ!?




「なんですか、これは!?」




「こ、これは罪の石盤というマジックアイテムでして、手をかざした人間が犯罪者かどうかを判断してくれるものなんです」




 おもわず勢い込んで門兵に聞くと、門兵はやや引き気味にそう答えてくれた。
 罪の石盤、とても便利な道具だな。
 これが地球にあれば、もっと治安が良くなっただろうに。
 まあ、僕にはもう関係ないけど。
 それにしてもマジックアイテム、か。
 初めて聞く言葉だな。
 もう一度門兵に尋ねてみる。




「マジックアイテムってなんですか?」




「マジックアイテムというのはダンジョンの宝箱から得ることができる道具のことですよ」




 ダンジョン。
 たしか数多の魔物が巣くう迷宮のことだっって神様が言ってたっけ。




「それより身分証はありますか? なければ大銅貨一枚で仮身分証をお渡しすることになりますが」




「あー、持ってないので大銅貨一枚ですね。どうぞ」




 悲報。なけなしのお金が無くなりました。
 これで完全なる無一文です。
 だけどよく考えてみると、神様はこのために大銅貨一枚を支給してくれたのかもしれない。
 これがなければ街に入れないみたいだし。
 すると門兵が仮身分証について説明してくれた。

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