エデン・ガーデン ~終わりのない願い~
6
悲鳴が聞こえた場所へ駆け付けると、そこには複数の男に取り押さえられるエヴィと、青い顔でへたり込むメイド、そして真っ赤な池に沈む兵士がいた。
「なっ……」
壮絶な光景に三人は言葉を呑む。
「犯人を確保、これより牢獄へ収監する!」
声を失くした三人をよそに、事態は進んでいく。
取り押さえられたエヴィは兵士達によって無理矢理立ち上がらせると、引きずられるようにして歩き始めた。
歩く方向にあるのは、囚人達を閉じ込める牢屋。
「待て、これは何事だ!」
それにティエルは我に返る。そうすると同時にそう叫んだ。
「失礼いたします」
兵士達は一度足を止めた。しかし、周りを囲んでいた数人がまるで道を遮るように三人の前に立つだけで足を止めることはない。
「何をしている。彼女は賓客だぞ!」
ティエルは身を乗り出すと、一人に掴みかかった。
「彼女は現在この城内で無礼を働きました。お分かりください」
掴みかかられた兵は冷静な声でそう言う。
「無礼? 彼女が何をしたと?」
興奮気味にティエルが返すと、兵は少し苦しげに眉を顰めながら
「我が軍の兵一人が彼女によって殺害されました。これは、世界に対する冒涜です。その罪により、彼女を拘束します。どうか許可を」
殺害、犯人、投獄。エヴィと無縁そうな言葉がぐるぐると頭を巡り、ティエルは思わず手を離した。
何歩か後退った後、はっと顔を上げる。
すると、泣きそうな顔のエヴィと目が合った。
彼女はティエルをじっと見ながら口を微かに動かす。それは『ごめんなさい』と言っているように見えた。
呆然と立ち尽くすティエル。その横から
「どういうことだ。説明しろ」
とケーイが声を上げた。
「はっ」
ケーイに促されて兵士達は事件について話始める。
その話をティエルはぼんやりと夢を見ているような気分で聞いた。
五分ほど前、慌てた様子のメイドが駐在所に来て、エヴィが兵士に襲い掛かっていると通報。それ聞きつけた兵士達が現場に戻ると、胸を穿たれて倒れる兵士と返り血を浴びて地面に座り込むエヴィがいた。両者の間には真っ赤に染まった剣が落ちており、状況から判断するにエヴィが兵士を剣で刺した疑いがあるため、容疑者として確保、現在に至るということだった。
「わかった。彼女を速やかに牢へ。これより私の指揮の元、事件の解明を急ぐ」
それを聞き終えたケーイは雰囲気を一変させると鋭い声でそう言った。
「ケーイ!?」
いまだ状況を受け入れられないでいるティエルが叫ぶ。
「まずは死体を地下へ。剣は厳重に保存しろ」
それが聞こえていないようにケーイは兵達に指示を出す。
「はっ」
道を遮っていた兵士達はその言葉に敬礼をすると、打ち合わせでもしていたかのように一斉に持ち場に付いた。
「急げ、ティエル」
それを見届けた後、ケーイは突然、困惑したような表情を浮かべて言った。その目は倒れる兵を凝視している。
「どういうことだよ、ケーイ。何が起きてるんだ!」
考えがまとまらない。ティエルはずきずきと痛む頭を押さえた。
「ティエルにわからないものを私がわかるわけないだろ!」
叫ぶティエルに答えるようにケーイも叫ぶ。
「ティエル、エヴィさんをまだ信じてるか?」
真剣みを帯びた声が言った。
「当たり前だろ!」
その質問にティエルは叫んだ。どんなに混乱していても、それだけは譲れない。
「なら急げ」
それにケーイは努めて冷静に応じた。
それから矢継ぎ早に
「これはたぶん、革命の続きだ。でも私達がどちらも城から離れるわけにはいかない」
と言う。
「だから、ここは私がやるから、早くここから離れろ。彼女を助けるための証拠を、犯人を探すんだ」
「そんなの、どうやって……」
「いるだろォ。協力者が」
そう言ってケーイはちらと後ろを見た。
そして勝気な笑みを浮かべる。
「行け、ティエル。『俺は革命が正しいとは思わない』んだろォ?」
そうしてケーイはさっきティエルが言いかけた言葉を言う。。
それにティエルの口にも自然と笑みが零れた。
「……ほんと、お前には隠し事出来そうにないな」
「それくらいわかる。何年一緒だと思ってるんだ?」
もう一度だけ、ケーイはふっと笑う。そして、表情を一変させて言った。
「エヴィさんは任せろ。ここで、待ってるから」
そう言われると同時に、ティエルは後ろを向いて走り出した。
「なっ……」
壮絶な光景に三人は言葉を呑む。
「犯人を確保、これより牢獄へ収監する!」
声を失くした三人をよそに、事態は進んでいく。
取り押さえられたエヴィは兵士達によって無理矢理立ち上がらせると、引きずられるようにして歩き始めた。
歩く方向にあるのは、囚人達を閉じ込める牢屋。
「待て、これは何事だ!」
それにティエルは我に返る。そうすると同時にそう叫んだ。
「失礼いたします」
兵士達は一度足を止めた。しかし、周りを囲んでいた数人がまるで道を遮るように三人の前に立つだけで足を止めることはない。
「何をしている。彼女は賓客だぞ!」
ティエルは身を乗り出すと、一人に掴みかかった。
「彼女は現在この城内で無礼を働きました。お分かりください」
掴みかかられた兵は冷静な声でそう言う。
「無礼? 彼女が何をしたと?」
興奮気味にティエルが返すと、兵は少し苦しげに眉を顰めながら
「我が軍の兵一人が彼女によって殺害されました。これは、世界に対する冒涜です。その罪により、彼女を拘束します。どうか許可を」
殺害、犯人、投獄。エヴィと無縁そうな言葉がぐるぐると頭を巡り、ティエルは思わず手を離した。
何歩か後退った後、はっと顔を上げる。
すると、泣きそうな顔のエヴィと目が合った。
彼女はティエルをじっと見ながら口を微かに動かす。それは『ごめんなさい』と言っているように見えた。
呆然と立ち尽くすティエル。その横から
「どういうことだ。説明しろ」
とケーイが声を上げた。
「はっ」
ケーイに促されて兵士達は事件について話始める。
その話をティエルはぼんやりと夢を見ているような気分で聞いた。
五分ほど前、慌てた様子のメイドが駐在所に来て、エヴィが兵士に襲い掛かっていると通報。それ聞きつけた兵士達が現場に戻ると、胸を穿たれて倒れる兵士と返り血を浴びて地面に座り込むエヴィがいた。両者の間には真っ赤に染まった剣が落ちており、状況から判断するにエヴィが兵士を剣で刺した疑いがあるため、容疑者として確保、現在に至るということだった。
「わかった。彼女を速やかに牢へ。これより私の指揮の元、事件の解明を急ぐ」
それを聞き終えたケーイは雰囲気を一変させると鋭い声でそう言った。
「ケーイ!?」
いまだ状況を受け入れられないでいるティエルが叫ぶ。
「まずは死体を地下へ。剣は厳重に保存しろ」
それが聞こえていないようにケーイは兵達に指示を出す。
「はっ」
道を遮っていた兵士達はその言葉に敬礼をすると、打ち合わせでもしていたかのように一斉に持ち場に付いた。
「急げ、ティエル」
それを見届けた後、ケーイは突然、困惑したような表情を浮かべて言った。その目は倒れる兵を凝視している。
「どういうことだよ、ケーイ。何が起きてるんだ!」
考えがまとまらない。ティエルはずきずきと痛む頭を押さえた。
「ティエルにわからないものを私がわかるわけないだろ!」
叫ぶティエルに答えるようにケーイも叫ぶ。
「ティエル、エヴィさんをまだ信じてるか?」
真剣みを帯びた声が言った。
「当たり前だろ!」
その質問にティエルは叫んだ。どんなに混乱していても、それだけは譲れない。
「なら急げ」
それにケーイは努めて冷静に応じた。
それから矢継ぎ早に
「これはたぶん、革命の続きだ。でも私達がどちらも城から離れるわけにはいかない」
と言う。
「だから、ここは私がやるから、早くここから離れろ。彼女を助けるための証拠を、犯人を探すんだ」
「そんなの、どうやって……」
「いるだろォ。協力者が」
そう言ってケーイはちらと後ろを見た。
そして勝気な笑みを浮かべる。
「行け、ティエル。『俺は革命が正しいとは思わない』んだろォ?」
そうしてケーイはさっきティエルが言いかけた言葉を言う。。
それにティエルの口にも自然と笑みが零れた。
「……ほんと、お前には隠し事出来そうにないな」
「それくらいわかる。何年一緒だと思ってるんだ?」
もう一度だけ、ケーイはふっと笑う。そして、表情を一変させて言った。
「エヴィさんは任せろ。ここで、待ってるから」
そう言われると同時に、ティエルは後ろを向いて走り出した。
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