エデン・ガーデン ~終わりのない願い~
8
城に戻ると三人は真っ先に王の元へ向かった。
「よく戻った」
部屋に入った三人にアルフェルドが厳かな声で告げる。
ティエルとケーイは同時に敬礼をした。
「報告します」
ティエルが一歩前に進み出る。
「遠征部隊、負傷者が出ることなく全員無事に帰還しました。周辺住民への被害もありません。
対策としてケーイ・A・ヴィオ副隊長が『風凉の巫女』の『風の護り』を展開しました。これによりセントラル地帯の食料不足も多少は改善され、被害も押さえられると予想されます」
「そうか、ご苦労だった」
報告を終えるとアルフェルドは再び労いの言葉を言う。
「今日はもう下がって良い。報告書を後日提出するように……」
それを遮って
「隊長、もう一つ、至急ご報告しなければならないことがあります」
ティエルは言った。
「本日未明、ケーイ副隊長率いる突入班と私の援護班で分かれた際、援護班が竜と遭遇しました」
その途端、険しい顔がさらに皺を増やす。
「しかし、先程も述べました通り、本日の部隊に負傷者はいません。竜は争うつもりはないと言い、警告を残して去っていきました」
ティエルはそれだけ言って口を閉じた。
「竜はなんと言っていた?」
「『兄弟には気をつけろ』と」
言葉を続ける。
「真意はわかりません。わからない以上は警戒をしておく必要があるかと」
報告を全て聞いたアルフェルドは微かに唸った。
ケーイが口添えをする。
「現状では矢面に出てきた竜が一番の問題ではないでしょうか」
ティエルが横目で、アルフェルドはしっかりとケーイに視線を向けた。
「好戦的な雰囲気ではなかったと聞きます。今すぐに脅威になることはないと思われますが、少し用心しておいた方がよろしいと思います」
アルフェルドは冷静に、そして落ち着いた様子でティエル達のさらに後ろ、エヴィよりも後ろにいる人物に視線を向けた。
「貴殿はどう見る? 我等よりも地上を知る者の意見が聞きたい」
彼女、三人よりも早くこの部屋にいた人物は一つに結い上げた燃えるように赤い髪を揺らして、動じた風もなく、つり上がった宿命の炎が宿る瞳で真っ直ぐアルフェルドを見返した。
「これは私の経験則になってしまいますが、今まで竜が積極的に我々の行動に干渉してきたことはほとんどありません。かの図書館の主と同様です。むしろ彼は関わり過ぎている方でしょう。
今回のティエル様と竜の接触は異常事態と言わざるを得ません。あくまで想像の域を出ませんが、今すぐにでも接触しなければならない事情があったのではないでしょうか」
彼女、トラスト王国姫君、リン・トラストは見た目に反しない強い口調でそう断言した。
的を得た鋭い指摘。それにティエルは内心で舌を巻く。
「竜は他に何か仰って居ましたか?」
リンは鋭い眼差しでティエルを見据える。
「報告した以上のことは何も」
それにティエルは肩を竦めてみせる。
リンは納得がいかないのか、僅かに眉間に皺を寄せた。しかし、深く追求することもなく「そうですか」と口を閉じた。
「承った。竜も争う姿勢は見せなかったというのであれば、こちらも迂闊に手を出すわけにもいかないだろう。この件は様子を窺いながら対策していく他あるまい」
アルフェルドがそう短くまとめた。その姿は平静そのものだが、その内では様々な思惑や考えが渦巻いて居るのだろう。
「は」
それに口を出すことは出来ない、ティエルとケーイは短くそう返す。
「下がれ。竜の件も含め報告書を提出。数日後に話し合いの場を設ける」
「了解しました」
二人は同時に敬礼をすると「失礼します」と言って踵を返した。
エヴィを促して一緒に扉の前で歩いていく。
途中、リンが
「私も失礼します」
と言って三人に合流。
全員が無言、無音だった。
それが、どうしてかティエルには嵐の前に静けさのように思えた。
「よく戻った」
部屋に入った三人にアルフェルドが厳かな声で告げる。
ティエルとケーイは同時に敬礼をした。
「報告します」
ティエルが一歩前に進み出る。
「遠征部隊、負傷者が出ることなく全員無事に帰還しました。周辺住民への被害もありません。
対策としてケーイ・A・ヴィオ副隊長が『風凉の巫女』の『風の護り』を展開しました。これによりセントラル地帯の食料不足も多少は改善され、被害も押さえられると予想されます」
「そうか、ご苦労だった」
報告を終えるとアルフェルドは再び労いの言葉を言う。
「今日はもう下がって良い。報告書を後日提出するように……」
それを遮って
「隊長、もう一つ、至急ご報告しなければならないことがあります」
ティエルは言った。
「本日未明、ケーイ副隊長率いる突入班と私の援護班で分かれた際、援護班が竜と遭遇しました」
その途端、険しい顔がさらに皺を増やす。
「しかし、先程も述べました通り、本日の部隊に負傷者はいません。竜は争うつもりはないと言い、警告を残して去っていきました」
ティエルはそれだけ言って口を閉じた。
「竜はなんと言っていた?」
「『兄弟には気をつけろ』と」
言葉を続ける。
「真意はわかりません。わからない以上は警戒をしておく必要があるかと」
報告を全て聞いたアルフェルドは微かに唸った。
ケーイが口添えをする。
「現状では矢面に出てきた竜が一番の問題ではないでしょうか」
ティエルが横目で、アルフェルドはしっかりとケーイに視線を向けた。
「好戦的な雰囲気ではなかったと聞きます。今すぐに脅威になることはないと思われますが、少し用心しておいた方がよろしいと思います」
アルフェルドは冷静に、そして落ち着いた様子でティエル達のさらに後ろ、エヴィよりも後ろにいる人物に視線を向けた。
「貴殿はどう見る? 我等よりも地上を知る者の意見が聞きたい」
彼女、三人よりも早くこの部屋にいた人物は一つに結い上げた燃えるように赤い髪を揺らして、動じた風もなく、つり上がった宿命の炎が宿る瞳で真っ直ぐアルフェルドを見返した。
「これは私の経験則になってしまいますが、今まで竜が積極的に我々の行動に干渉してきたことはほとんどありません。かの図書館の主と同様です。むしろ彼は関わり過ぎている方でしょう。
今回のティエル様と竜の接触は異常事態と言わざるを得ません。あくまで想像の域を出ませんが、今すぐにでも接触しなければならない事情があったのではないでしょうか」
彼女、トラスト王国姫君、リン・トラストは見た目に反しない強い口調でそう断言した。
的を得た鋭い指摘。それにティエルは内心で舌を巻く。
「竜は他に何か仰って居ましたか?」
リンは鋭い眼差しでティエルを見据える。
「報告した以上のことは何も」
それにティエルは肩を竦めてみせる。
リンは納得がいかないのか、僅かに眉間に皺を寄せた。しかし、深く追求することもなく「そうですか」と口を閉じた。
「承った。竜も争う姿勢は見せなかったというのであれば、こちらも迂闊に手を出すわけにもいかないだろう。この件は様子を窺いながら対策していく他あるまい」
アルフェルドがそう短くまとめた。その姿は平静そのものだが、その内では様々な思惑や考えが渦巻いて居るのだろう。
「は」
それに口を出すことは出来ない、ティエルとケーイは短くそう返す。
「下がれ。竜の件も含め報告書を提出。数日後に話し合いの場を設ける」
「了解しました」
二人は同時に敬礼をすると「失礼します」と言って踵を返した。
エヴィを促して一緒に扉の前で歩いていく。
途中、リンが
「私も失礼します」
と言って三人に合流。
全員が無言、無音だった。
それが、どうしてかティエルには嵐の前に静けさのように思えた。
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